病気物件をなおしたい   作:くまさん in the night

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 この小説を完成させるにあたり、なんだかんだで3DSによる執筆をしています。
 なぜならiPadの画面の手触りが気に入らないからです。

 なので文章に支離滅裂なところがあったら原因の半分近くは3DSを使ってるせいです。残りの半分超はただの実力不足です。


二位 幽霊より怖いのは人間

 事故物件には大きく分けて2種類ある。

 

 ひとつは心理的な瑕疵(かし)のせいで、あまり快適に住めない物件。

 かつてその場所で火事や殺人事件が起こったりすると、この心理的瑕疵がある物件に分類されてしまう。

 また、物件の近くに嫌悪施設(文字通り近くに住んでいる人が嫌悪感を抱く施設。刑務所や火葬場、時には子供の声がうるさいという理由から小学校など)がある場合、これも心理的に瑕疵のある物件の一種になってしまう。

 あとは特に事件が起こったわけじゃなくても、変な噂のせいで気分良く暮らせなくなった物件もこのタイプに属している。例えば長年ヤクザが住んでいたらしい、とかね。

 

 もうひとつは物理的な瑕疵のせいで、あまり快適に住めない物件。

 床が傾いているとか、部屋が常に日陰で洗濯物が乾かないとかがこの条件に当てはまる。

 

 これを踏まえた上で、このボロアパートが事故ってるところを挙げてみる。

 

 まず、1人が亡くなっているのは心理的な瑕疵だ。

 次に失踪事件がいくつも発生しているらしいけど、噂か事実かは別にしてこれも心理的な瑕疵になりうる。

 

 ここからは不動産屋の店舗で知った情報。

 どうやらアパートの裏には墓地があるようだ。これも心理的な方。

 ついでに加えると、アパートのすぐ横に線路があって電車の騒音がひどいのも心理の方だ。

 

 それらに対して、階段や耐震強度がアレなのは物理的な瑕疵だ。

 アパートが全体的にボロクソなので、おそらく多少のすきま風や雨漏りもあるだろう。こっちも物理的な瑕疵だ。

 あとは……先ほど俺がとっさの判断で玄関の扉を閉めた時に、ドアノブから『メリッ』と音が聴こえた。ごめんなさい大家さん。

 確かに俺も慌てて閉じたのは良くなかったと思う。だけどこれは物理的な瑕疵と呼んで差し支えないレベルの脆さだろう。

 

 

 さて、と。これだけ事故物件の条件が多ければ、当然のように格安で借りられる部屋となることだろう。

 だから……だから幽霊なんかいなくたって、ワンコインになるハズなんだ!

 それと、さっきのはアレだよアレ、目の錯覚! そう、目の錯覚!!

 部屋の中にいたオッサンの全身が、なんとなく透けてたのも目の錯覚! おい、どんな錯覚だ。

 そのオッサンが下着を上半身しか着けてなかったのも錯覚!! だからどんな錯覚だよ。

 

 ここまで来ちゃうと、もうこれは幻覚だよね! 俺はバイトのしすぎで疲れてるのかな? そうに違いない!! バイトは肉体労働じゃないから、きっと脳がやられたんだ!

 ていうか、そうだとしてもどんな幻影だよ! なんで女装の途中みたいな映像を生み出すんだよ、俺の脳は!!

 せめてもっとまともなヤツを見せろよ!!

 

 

 

 おっと待て、焦りは禁物。落ち着け、落ち着くんだ俺……!

 

 …………よし……つまり認めたくないけど、俺の脳は半透明でギリ半裸のオッサンをご所望のようだ。二度と所望すんな。

 俺が二十年近く生きて来て、やっと明かされた驚愕の事実だ。ずっと闇に葬られてろ。

 

「お客様ぁー?、どうかされましたかぁー?」

 

 あ、そうか。角度の関係で、後方のオッサンからは室内のオッサンが見えないのか。

 

「いえ、ほんの少し興味深い物があっただけですよ」

 

 嘘はついていない。

 

「えーっと…………窓が割れていることでしょうか?」

 

 またかよ物理的な瑕疵!

 すいうっかり半裸のオッサンに目を奪われて気がつかなかった。だから目を奪われるなよさっきの俺!!

 

 ここ数分は色んな意味で本格的に危ないな。物件も俺も。

 しょうがない、ちょっと怖いけど確かめようか。要はあの幻覚が疲労から来るものだと分かれば良いんだ。

 

「そういえばこの部屋って、いわゆる……出るんですか?」

 

 せめて俺が原因であってくれ!

 諸悪の根源は俺! それで良いんだ!!

 

「………………そうですね。二〇四号室は今までに住んだ方が、色々と見ています」

 

 生きているオッサンの顔が、覚悟を決めた様に引き締まった。

 

 それにしてもどうしよう。

 やっぱりこれって心理的なアレ……だよね?

 

 いや、まだだ。幻覚の種類だ! 今までの住人が見てきた幽霊と、さっきの俺が見た幻覚の種類が完全に別物であれば、まだチャンスはあるはずだ!!

 

「ち、ちなみに、どんな幻覚を見てるんですか?」

「幻覚……? ああ、そうですね……いくつか例を挙げますと、半分透けている中年男性が着替えたり、それから半分透けている中年男性がフリースタイルでラップ音を刻む……などですかね。あとは服だけ全部透けている中年男性の報告もあります」

 

 …………あれ? たぶん俺が見たのと同一人物だよね……。

 

 あ、いや、『たぶん』だから大丈夫! たぶん大丈夫!

 よし、もう一度ドアの向こう側を確認してみよう!

 もしかしたら全然違うかもしれないし!!

 

 

 

 よし、開けドア!!

 

 ガチャリ

 

 

『ようこそ我が城へ!』←スーツ着用

 

 ドン!!! メリメリィィッ!!

 

 

 

 

 ふう……やっぱりドアとドア枠の激突音はやかましいな。耳に悪いよね。もっと静かに開閉できる製品が開発されないかな。

 

 ……それよりもあの中年、着替えてやがる……!

 こいつはクロだ、本当にどうしよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そうだ、お札!

 

 お札を使いこなせれば余裕で近づけるはずだ!!

 

 そうと分かれば、えーっと……一〇二号室、だっけ?

 

 俺はすぐに動き出し、急いで二階から脚立を経由して下に降りる。

 目指すは一〇二号室! 探るはお札の使用法!

 

 

 

「お~きゃ~く~さ~ま~?」

 

 駆け出そうとした俺は、声を掛けられてすぐに止まった。なんか知らないけど、生きてる方のオッサンが顔にビキビキと青筋を立てている。

 

「どうかしたんですか?」

「ドアノブを!! タダで済むと! 壊してタダで!!」

 

 まるで要領を得ないオッサンって怖いよね。

 え~っと、ドアノブ? かなり軋んでたけど、あの取っ手はまだ壊れては…………あれ?

 

 二〇四号室の方を見上げたら、扉にノブは付いてない。まさか……。

 俺が恐る恐る左手に向けて目を下ろすと……。

 

 

「あ"」

 

 そこには根こそぎいかれたノブの塊があった。

 さきほどなぜかメリメリと怪音が聴こえた気がしてたけど、音源はこれだったのか。俺はてっきり、あまりの貧しさでクリスマスの幻聴でも聞こえ始めたのかと思ってたぞ。なにその切ない幻。

 

 って、おい! そんな場合じゃないだろ!!

 

「……弁償、高く、付きますよ」

「…………え、あの、つい……! 取れやすいから取れただけで! えっと、その……貧相なノブにも少なからず責任が!」

「で、お客様は、いったい、何を、おっしゃりたいのでしょうか?」

「申し訳ありませんでしたァァァァァ!!! あと修理代を払うだけの余裕はありませんすみませんでしたァァァァ!!」

 

 気がつくと俺の身体は土下座してた。

 

「顔を上げてください」

「はい……」

 

 顔を上げると冷徹で何の表情もない顔面が目に入る。やっぱりホラーって苦手だ。

 

「…………そうですか。ところで部屋を借用した者は、出居の際にはその部屋を借用前の状態へと戻さなくてはなりません」

「ん?」

 

 まったく話が見えない。

 もしやオッサン(生)の思考回路が怒りで殺られたとか?

 

「言い代えれば、出居時に部屋の状態を回復できるのであれば、部屋を借りている間はその一部を多少汚したり壊したりしても、弊社はそれを見逃すことが可能、といえます」

 

 おかしいな、なぜか嫌な汗が止まらないぞ!

 

「つまり、お客様がこの二〇四号室にお住まいになっている間でしたら、こちらとしても修理費用の支払いをしばらく待てる、ということです」

 

 

「…………あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の入居が確定しました。

 

 

 さて、このボロアパートに住むのは決定事項としても、俺はお札の使い方を覚えなければいけない。

 オッサンの冷えきった視線が背中へと突き刺さるのを感じながら、俺は優しく一〇二号室の扉をノックした。

 

 すると部屋の中からジャージ姿の若い女性が出てきた。

 こんなセキュリティがガバガバなアパートに住んでいて危なくないのかな。と思ったのもつかの間、俺はドアに掛けられた腕の筋肉がめちゃくちゃ鍛えられていることに気がついた。筋肉は袖口からやや覗いているだけなのに、まがまがしい威圧感すら感じる。

 お札の知識といいキレてる筋肉といい、このアパートでもっとも身の安全が確保されているのは、おそらくこの人だろう。

 

「はいはい、新聞なら後輩のメガネを脅してスマホを借りられるから要らないです。っと、なにこれノブ……の残骸? なんでこんなもん持ってんの? 鈍器?」

「違います」

 

 筋肉さんの疑問をほとんど受け流しながら、俺はリュックに仕舞っていたお札を取り出した。

 

「ここに新しく引っ越す矢車です。弥柳先輩に言われて来たのですが、これの使い方を教えてください」

「……え? 私が?」

「はい」

「君に?」

「はい」

「使い方を?」

「はい」

「誰が?」

「なんでだ」

 

 言ったことをすぐ忘れんなよこのアパートは住人の頭も事故ってるのか?

 

「冗談もこれくらいにして、これの使い方だろ? ちょっと貸してみろ、むしろくれ!」

 

 俺は束の中から一枚だけ引き抜いて、筋肉さんへと手渡した

 

「はい、どうぞ。でもあげませんよ。これは俺が入居祝いにもらったんです」

「チッ、ケチくせぇな。……えーっと確かここに……あったあった」

 

 筋肉さんは玄関の壁にいくつも掛けられた巾着袋のひとつからボールペンを取り出すと、さっそくお札を裏返して何かを書こうと

「ちょっと!! せっかくのお札に何してるんですか!!」

 

 予想をはるかに下回る無法地帯だ。

 

「お札? 君こそ何を言っているんだ? メモ用紙だろ?」

「えっ?」

「逆になんだと思ってたんだ?」

 

 なんということでしょう。

 この紙には何の霊力もありません。

 

「って、そんなわけ無いじゃないですか! 弥柳先輩はいつ来るか分からない入居者のために、こんなわけのわからないイタズラを仕掛けたって言うんですか」

「いいや。アイツはそこまで無駄なことをあまりしない」

 

 たまにするのかよ。

 

 それにしてもお札に書いてある文字が本格的すぎるせいか、とてもイタズラには見えない。

 

「そうだな……ご利益は皆無だろうが、それでも気休めくらいにはなるんじゃないか。……おい、聞いているのか?」

 

 これは住人達による手の込んだイタズラなのか?

 それともこの人が使用法どころかお札であることすら忘れたのか?

 そういえば中島敦の『名人伝』にもそんな人が出てきた。弓を極めすぎて、最後には「弓」という概念すら忘れてしまった弓の名人。 もしかしたらこの人もその名人と同じ……?

 

「おい」

「ひえっ!! ……なんですか?」

 

 なぜかはわからないけど、一瞬で背筋が凍りそうになった。

 筋肉さんの肉体から放たれる圧力が、爆発的な増加をしたのと何かの関係があるのだろうか?

 

「ところで君の貴重品はどれだ?」

「え? ……今背負ってるリュックにあるのが全部ですけど……」

「そうか。それなら……三枚もあれば十分だろう」

「何がですか?」

 

 俺が思案を巡らせているうちに話が進んでいるようだ。

 筋肉さんはお札っぽいメモを掴んでいる手を持ち上げた。

 

「『何』って、こいつを肌身離さず身に付けとけ。リュックに二枚、ポケットに一枚だ」

「メモをですか?」

「おいおい、これは札なんだろ? 気休めでも良いから持っといたらどうだ?」

 

 枚数が謎だ。除霊対策が雑すぎないか?

 

「それより『気休めでも』とか言わないでください。為す術もなく祟られそうで怖いじゃないですか」

 

 お札を使うならせめて「効く!!」って思い込みたいし。

 

「んんん? あれあれ~? もしかしてもしかすると、君はもう大学生なのにまだまだおばけが怖いのかな~? へぇ~! なるほど~! ふ~ん」

「ち、違いますよニヤニヤしないでください!! 疾走は好きでも失踪は嫌なだけで、ってなんで俺が大学生ってバレてるんですか!? まだ言ってないのに!!」

 

 嘘だろ!? やっぱり神通力か……?

 

「ん? だって君はさっきロリコンのことを『先輩』と呼んだだろう? すなわち君はアイツの後輩だ」

「えっ?」

 

 まさか筋肉さんが覚えていたとは。それと弥柳先輩のあだ名がひどすぎるぞ、ただのヘンタイじゃねえか。

 

「それだけなら中高生や社会人の線も捨て切れないが、あとはなんとなく勘で大学生かな、と思ったまでだ」

 

 この人の記憶力は壊滅的じゃなかつた。出会いがしらのあれは本当に冗談だったのか。

 

「まあ、でも心配すんなよ! 地縛霊といえどアレは大したもんじゃないから!」

「え!?」

 

 どういう……こと……だ……?

 

「ポルターガイストとかラップ音はかなり迷惑だけど、別に祟られるわけじゃないし」

「え……でも、行方不明者が続出してますよね……?」

「それはあの部屋に住むヤツの大半が美大生だからだ」

「すみません、よくわかりません」

 

 この人は何を言い出すか予測できない。

 

「え? 美大生って卒業後は連絡が着かなくなるもんじゃないのか!?」

「すみません、よくわかりません」

「Siriかよ」

「すみません、それも含めてマジでわかりません」

「そうか、それは辛かったな。私が全面的に悪かった」

 

 筋肉さんが優しい眼差しを俺に向けて来た。

 この人の思考回路は本当にわからない。

 

「あ、そうだ! そういえばまだ正式な自己紹介をしていなかったな!」

 

 唐突に話をすり替えるところといい、すごく自由な個性の持ち主なのだろう。それだけはわかる気がする。というよりもそれしかわかる気がしない。

 

「言われてみればそうですね。俺は経済学部一年の矢車です。矢を放つ車って書きます」

「ププッ、戦車みたいな名字なのに幽……おっと、私は教育学部三年の秋野だ」

 

 一瞬バカにされたような気がする。

 この先輩ならありうる話だ。

 

 ……って、あれ? そういえばこのアパートの住人ってどうして名字しか名乗らないんだろう?

 俺も弥柳先輩に釣られて名字しか名乗ってないけど、普通はフルネームだよね?

 

「ところで、ここの住人には自己紹介のときに名字だけしか名乗らないルールでもあるんですか?」

「あるわけないだろ」

「……ですよね。それで秋野先輩の名前って何ですか?」

 

 やっぱり勘違いだったようだ。

 

「……貴様は『名を名乗るときはまず自分から』と教わらなかったか?」

「え、いきなりどうしたんですか!?」

 

 わけがわからないけど、この先輩に逆らうのは怖いので俺は自分の名前を口にした。

 

「普通だな」

「ほっといてください」

「いや、誉めているぞ。普通って最高だな。至高と言い換えても良い」

「それで、秋野先輩の名前はなんて言うんでしょうか?」

 

 なぜか先輩は遠い目をしている。なんで?

 

「名は体を表す? ナンダソレハ? 別に名が何であろうと、私は私だろ。……そうか、そうだったのか! それで良いんだ!!」

「それで、先輩の名前はなんですか?」

「………………なんだ君か」

 

 自分の殻には閉じこもり、代わりに悟りを開きそうだった先輩は、俺が言葉を掛けたらこちらの世界へと帰って来た。

 先輩はまるで素晴らしい夢から覚めたかのように、とても残念そうな顔をしている。

 

「………………自己紹介の『己』と、倫理委員会の、『倫』だ」

「『コリン』ですか。 外国人みたいな名前ですね」

「……違う……それは男性に付けられる名前だ……」

「へえ、じゃあなんて読むんですか?」

 

 先輩の首から上が、なぜかだんだんと赤くなっていった。どんな名前だよ。

 

「………………き、ききき、きりん……だ」

「予想外です」

 

 「きりん」はボディビルダーみたいな人の名前っぽくない。

 もっと幼い感じの女の子か、さもなくば納豆を混ぜるお婆さんの名前だ。

 コリンもコリンで変だけど。

 

 むしろコリンの方が変だけど。

 

「なんていうか……聞いちゃってすみませんでした」

「だから言いたくなかったんだ!!」

 

 秋野己倫先輩はうずくまると頭を抱えてプルプルと震え始めた。

 そんなに嫌なの!?

 コリンよりも!?

 

「しくしく、しくしく」

「あの……知らなかったとはいえ本当にすみませんでした。それと、わざとらしい泣き真似は止めてください」

「しくしくッ!!」

 

 先輩はしゃがんだままキッと睨んできたけど全然怖くない。

 なんだ? 慰めて欲しかったのか? 小学生が拗ねているようにすら見えないぞ?

 

「事情を知らなかった俺が悪かったですから、せめて日本語で話してください」

「歯を食いしばれ」

「ぐぁッ!! 理不尽!!」

「演技を見破るなッッ!!!」

 

 いきなり腹パンを食らった。体罰か?

 「歯を食いしばれ」って言うなよ! せめて顔を殴れよ!

 前言撤回、俺はここまで悪くはない!!

 

「いいか? 私が怒っているのは演技を見破られたのが悔しいからだ!! 名乗るのが嫌なのとはまた別の問題だ!! おばけが怖いくせに勘違いすんな!!!」

「おばけ関係無いだろ」

 

 めちゃくちゃだ。この人。

 皮肉なことに、教育者を目指す人間が、最も教育者に向いていない。

 

「名乗りたくないからって殴るわけないだろ!! 何度でも言ってやる、貴様からこんな屈辱を受けたのが悔しいだけだ!!」

 

 まるで「先輩は何もひどくない」みたいに言わないでよ!

 それに殴りはしなくても、名前の話題は嫌がってましたよね?

 

「いいか? 名前のことは誰にも言うんじゃないぞ! 絶対だ!」

 

 やっぱり名前じゃん!! 見破られたことより名前じゃん!!

 

「……コホン。で、気を取り直して本題に戻るけど」

 

 取り直すなよ。

 

「やべぇよ……この人やべぇよ」

「なにか言ったか?」

「いえ、なにも」

 

 ゴォッ!! と、再び先輩の圧力が増した。

 

「それで本題に戻るけど、実はあの部屋って別に怖くないんだ」

「へー、そうなんですか」

「だって幽霊なんて人間の残りカスみたいなもんだろ? うるさいのと驚かすのと物を動かすのは迷惑だけど、それ以外には大したことなんてひとつもできないんだから」

「ふーん、そうなんですね」

「肉体を失った者に、鍛え上げられた筋肉が打ち砕かれるなど、あまりに論理が破綻しているだろ?」

 

 俺は先輩の理論が理解できないや。

 だけどそう言われたら、ノブを壊した直後ほどは幽霊が怖くなくなっていた。

 残りカスか……。

 

「そっか……そうですよね! よく考えたら幽霊なんて楽勝ですよね!」

「そうだ、筋肉は裏切らない、嘘をつかない。だが札は忘れるなよ。リュックの側面に左右それぞれ一つずつポケットがあるだろ? そこに一枚ずつ入れておけば良いんじゃないか?」

「えっ、なにそれ怖い」

「あくまで念のためだ」

「そ、そうですよね!」

 

 言われて俺は三枚のお札を折り、そのうち二枚をリュックに、残りの一枚を服のポケットに詰めた。

 

「色々とお互いに言いたいことはあるだろうが、とにかくようこそ『呪われそう』へ!」

「『乃路我荘』って呼んでください!!」

 

 あ~あ、このオンボロアパートの名前は不吉だから呼びたくなかったのに。

 

「あれあれ~? もしかしてもしかすると」

「ところで先輩の名前って」

「私が全面的に悪かった!!」

 

 今ので秋野先輩の扱い方がなんとなくわかった気がする。

 

 それにしても……アパート名がすでに呪われてるとか、ここの大家さんは祟られたいのか?

 




 筋肉先輩のセリフは恐らく『冗談も(筋肉での威圧も)これくらいにして』って意味だろうなあ。

 小説を書いていて、ボケを全部拾っていたら会話のテンポが悪くなってしまうと感じました。異状を前にして矢車君のスルーが多いのはそのためです。
 この小ボケ無視は、すぐに気がつけないような細かいボケが多かったのも原因の一つでした。しかしそれでも半分以上流してたのは良くなかったです。反省。

 偶然にも今回は7777文字で書き終われました。しかしボケをひとつ残らずツッコんでいたら114514文字くらいになってたかもしれません。
 矢車君の分かりにくい小ボケにも一通りツッコまなきゃいけないし。


 というわけでこの先のストーリーを進ませるためには、速く書くことだけでなく、余計な文章を減らして短くまとめることも必要になってくると思います。

 だからこれからは悪ふざけの渋滞を起こさないよう、特に次回は弾数の抑制を意識しながら書こうと思います。

 今回はモブキャラの筋肉さんに良いことを教わりました。今後もまるで消しカスの山を積もらせるかのようにゴミをたくさん作って、試行錯誤を重ねていこうと決意しました。
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