病気物件をなおしたい   作:くまさん in the night

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 実はこれまでも数々のネタを忍ばせていましたが、これからはハーメルン民特有のいn……ゲフンゲフン!!

 つまり様々なネタを仕込めるようになったため、メジャーなネタを禁止して縛りプレイに興じるよりも書きやすくなったってことですね。
 ネタってただでさえ語呂が良かったりするので、元ネタを知らない人の前でも結構気軽に使いやすいですしおすし(受け入れられるとは言っていない)。


三位 幽霊の傾向と対策

「あ、やっぱり待ってくれ!!」

 

 俺が一〇二号室の前から去ろうとすると、ジャージ姿のキリン、じゃなくて筋肉先輩に引き留められた。

 

「なんですか」

「残った札は使わないだろ? だったら私に譲ってくれないか。お礼にプロテインあげるからさ!!」

「え? 食料!?」

 

 欲しがっていたのは冗談じゃなかったのか。

 

「ところで先輩はなんでそんなにこのお札を欲しがるんですか?」

 

 メモ用紙が足りないとか?

 

「そうだな、まず札は消耗品だから、私も部屋に貼ってある札をそろそろ交換しなきゃいけないだろ。私にとって筋肉の増強は生きがいだからな」

「支離滅裂じゃねぇか」

 

 意味がわからないぞ。主に後半が。

 っていうかほぼ後半だけが。

 

 言ってることが色々と破綻しているけど、それに気づいているのかいないのか、先輩は虎視眈々と俺のお札を狙ってきた。

 

「どういうことですか?」

「わからないか? 言い換えると筋トレのためだ」

「わからないのは『筋肉の増強』の意味じゃねぇよ! 今は俺のために説明して!」

 

 ……筋トレ……? お札の交換で……?

 もしや貼るために天井まで跳躍する……のか?

 

 だけどこの時の俺は、さきほど筋肉先輩に「おばけ怖くない。先輩ウソツカナイ」というようなことを刷り込まれたおかげもあり、幽霊に対してあまり恐怖を感じなくなっていた。だから必然的に、お札への執着心も数分前までよりはずっと薄くなっていた。

 そんなこともあり、今の俺は多少の安心感をくれたことへの感謝も込めて、先輩に数枚のお札を譲るくらいは別に良いかなと思い始めていた。

 

 確かにさきほどの筋肉先輩が発言した内容を振り返ると、そのお札っぽい物は気休めのメモだったんじゃないのか? 有用な効果は特に存在しない、ただの紙だったんじゃないのか? それなのに先輩はお札を有効活用する気しかないですよね? と指摘したくなる。

 それでも俺には、なんとなくだけど先輩はお札を欲しがる理由すら隠そうとしているように見えたので、仕方なく真相の究明は諦めた。

 わざわざ隠したがっている秘密を追求するのはかわいそうだ。

 

「それで、何枚くらい必要なんですか」

「くれるのか?」

「はい。先輩がこれを欲しがる理由はいまいちわかりませんけど」

「良いのか?」

「俺が幽霊に今までほど恐怖を感じなくなったことへの、せめてもの感謝です」

 

 お札なんて余分に持ってても使わないし。カウンセリングでも受けたと思えば安いもんだろ。それ以前にお札は弥柳先輩からの引っ越し祝いだから、俺が払った金額は〇円だけど。

 

「それによく考えたら、正体不明の悪霊よりも冬の公園の方がずっと身体に悪いじゃないですか。先輩のおかげで、これからは雨と風と死霊の心配をせずに暮らせそうです。いくつも事故ってる部屋だけど俺にはこれで十分ですよ」

 

 先輩の顔はまるでアホを前にしたような表情へと変わっていった。おい、なんでだ。

 

「……そうか、ありがとう。それと自称霊能力者に気をつけろよ」

「ちょっと意味がわかんないです」

 

 もしやなにかの筋肉ジョークかな? それなら常人に理解できないのも納得だ。

 

「君は暗示にかかりやすいタイプだろ? だからこそ騙されやすい。言い換えれば、詐欺師にとっては良いカモだ」

 

 あ、そういう意味ですか。やっぱりこの先輩は頭のネジが飛んでいるなあとか思ってたら、実は色々とよく見ている人だった。

 だけど、筋肉先輩は大切なことを忘れている。

 

「ありがとうございます。それはそうと俺ほどの貧乏人を狙う詐欺師なんていませんよ? それで、何枚必要ですか?」

「念のために気をつけても損はない。あと、札は五枚もあれば十分だ」

「わかりました。ええと、五枚ですね」

 

 奇妙なことに、俺が気休めとしてリュックなどに詰めたのは三枚。先輩が欲しがったのは五枚。足したら八枚。

 弥柳先輩から手渡されたのも、ちょうど八枚。

 

「先輩、俺がお札を残り何枚持ってるか知ってますか?」

「知るわけないだろ。見た感じ九枚くら……いや、まさか五枚か?」

 

 俺はまとめて折り畳んでいたお札の束を、先輩の目の前に広げた。

 

「……正解です」

 

 これは単なる偶然だろうか?

 だけど何かがおかしい。それが具体的にどこなのか訊かれると困るけど、それでも確実に何かがおかしい。

 

「……やはりな」

「『やはり』? 何か知ってるんですか?」

 

 俺の言葉に反応して、先輩の目が一瞬だけ空中を泳いだ。

 

「……まあ、うん。そのうちな」

「…………」

 

 筋肉先輩とは出会ってから十数分しか経っていないけど、俺はこの先輩がはっきりとものを言う性格だとわかっているつもりだ。

 名前が話題にのぼった時だって、最後は羞恥心と戦いながらもしっかりと発言していた。

 だからなんとなくだけど、言葉を濁すのはこの人らしくないように思える。この人が本当に隠そうとしているものはなんだろう?

 

「そうだな……ここでの生活に慣れてきたらロリコ……弥柳にでも教えてもらうと良い」

「…………」

「……あ、そうだ。プロテイン!!」

 

 先輩は思い出したように叫ぶと、部屋の奥からお札の対価を持ってきた。

 今、何が起きたのか分かりますか? あなたの声が大きいので俺の耳がキーンとしましたよ先輩。

 

「ほらよ、お礼だ!」

「え、これ……プロテイン……!?」

「プロテインはタンパク質のことなんだから間違ってないだろ?」

「はあ、とりあえずありがとうございます」

 

 ……ま、いっか。気になることはあるけど住めば都って言うし。変な人がいたり変な現象が起こったりしても、たぶん何とかなるだろ!

 

「それじゃあ俺はそろそろ入居の手続きをしてきますね」

「またな!」

 

 それだけ言うと先輩はノブが壊れないように、慎重な手つきでドアを閉めた。

 十本ほどの大豆バーを受け取った俺は、いまだにアパートから離れた場所に佇む生きたオッサンの方へ振り替えると、自分の気が変わらないうちに急いで一歩を踏み出した。

 

 ……そうだ、今日はこのプロテインを夕食にしよう。

 

 

 契約を終え帰宅してから、このボロアパートについて理解したことが二つほどある。一つはたぶん良いニュースと呼べるけど、もう一つは確実に悪いニュースだ。

 

 おそらく良いニュース。

 このアパートの住人達は妙に優しい。

 

 彼らがガムテープと段ボールをくれたおかげで、俺は窓だった四角い穴を塞げた。これでそれほど寒くはならないだろう。

 風が吹き込まないってすごく良いね! だけど俺が来るずっと前に復旧作業が終わっていたらもっと良いと思うぞ!

 

 また、引っ越し祝いに耳栓をプレゼントしてくれた人もいた。

 彼は、「俺にはしばらく必要の無い物だ。貴方に譲ろう。……おやおや、どうやら不審がっているようだが? 安心したまえ、これは新品だ。使い古しなどではない」と言いつつ、大量に買い置きした真新しい耳栓を俺に見せつけてきた。

 耳栓に首ったけかよ。耳を塞ぐ器具のどこに魅力を感じたんだよ。

 

 そんな中で一番助かったのは一日に三食も食べられるらしいことだ。

 住人のうち数人は、バイト先から消費期限切れの食料を多くもらってくる。これを山分けすることで、このアパートでは食費をほとんど掛けずに食料を確保できるらしい。

 ボロアパートに常識とエンゲル係数は通じねぇ! ってことですね。なるほどわからん。

 

 何はともあれパンの耳とプロテイン以外の食事をとれるのは久しぶりだ。これだけでも素直に嬉しい。しかも今日からは今まで払っていた三百円分の食費まで抑えられると思うと、もう笑いが止まらなくなりそうだ。

 アハハハハ! アーッハッハッハッ!! アヒャヒャヒャヒャッ!!!

 

 はぁ~、腹いてぇ……。

 

 それに対して悪いニュース。

 地縛霊のオッサンが想像以上に厄介。

 

 まずアイツとは初歩的な会話すら成り立たないことがある。なにせ契約後に初めて二〇四号室のドアを開けた瞬間、あのオッサンが発した第一声は『騒ぐなよ。平穏に暮らしていたおじさんの日常を壊すなら、誰であろうと容赦なく呪うぞ』だった。

 

 その数分後、ヤツは歓迎会と称して一人で大声コンテストを始めた。お前が黙れ。

 誰であろうと呪われるなら最初の餌食はお前だ。容赦すんじゃねぇぞ。

 その後もオッサンは基本的にうるさい上に邪魔だったので、俺はこの事故物件に住んでしまったことを早くも後悔し始めた。

 

 初日からさっそく耳栓が役立ったことは言うまでもない。

 

 

 この部屋に入居してから一週間が過ぎた。あのオッサンのせいで、俺の精神と体力は日々削られている。

 

 例えばこのアパートでは俺の部屋だけ朝が早い。

 

 最大の原因は、夜が明ける数時間前になるとオッサンが二〇四号室の天井や壁を軋ませ、いわゆるラップ音を鳴らすことだ。

 朝日が上るまでの間、奴はずっと『ギギィー……』とか『ミシミシィー!』とか『ドンドンドンカーン!!』といった騒音を部屋中に響かせやがる。

 最後のは何の音だ。

 

 アパートのすぐ横を通過する電車の音くらいなら、実は高級な耳栓でも装備すればさほど気にはならない。

 しかしオッサンのラップ音はなぜか直接頭の中で響いているように感じるので、耳栓の意味はほとんど無いと言っても過言では無い。

 

 奴はなぜラップ音を鳴らすのか。昨日まではずっと謎だった。だが幸か不幸か、さきほどラップ音が止まった直後に、オッサンが『貴様らニワトリに敗北する私ではない。コケーッ!』とほざいているのを俺は聞いてしまった。

 近所に一羽もいないニワトリを敵視し、朝を競い会うのは辞めていただきたい。

 ニワトリの声がしないのはお前に負けたからじゃない。存在しないからだ。むしろお前がニワトリだ。

 

 ところで話は変わるけど、今俺が住んでいる二〇四号室に誰も暮らしていない時期は、毎朝別の部屋でこの爆音が響くらしい。

 月々の家賃がワンコインになった背景を垣間見た気がする。

 

 起床後、野宿時代から使っていた寝袋や最近手に入れた耳栓を仕舞うと、俺は弥柳先輩の住む二〇五号室に向かう。

 そこにはこのアパート内では貴重な、常に稼働している冷蔵庫が設置してあり、その中にはお弁当やおにぎりといった消費期限切れの食料が詰め込まれている。

 二〇五号室と一〇三号室、正常に動く冷蔵庫が合わせて二台もあるとか素敵。

 

 朝食用のお弁当をもらい受けると、俺はすぐに自室へと引き返す。あの部屋に誰もいなくなると、数分後にオッサンが徘徊を始めることがあるらしいからだ。

 住人の皆さんはあんなのといると食欲を無くしたり、時には生きる気力を失ったりするらしいので、食事の間はオッサンをあの部屋に引き留めておかなければいけない。

 それが超格安で住む者の責任ともいえるだろう。

 

 そんなわけで、俺がオッサンを前にして白米を噛みしめていた時のこと。

 『んん? ごま塩が足りませんな!』という胡散臭い一言と共に、お弁当のご飯めがけて奴の鼻から小さくて茶色い塊が二~五発ほど連続で噴射された。

 オッサンはこの弾丸みたいな物を人魂と言い張ったけど、色、形、ツヤ、そして弾力のどれをとっても、あれは鼻クソ以外ありえない。それとせめてごま塩と言い張れ。

 効果は抜群。当然のように俺も食欲を無くす以外ありえない。

 

 住人達の食事さえ終われば、俺はこの苦役から解放される。

 自由を手に入れた俺はオッサンのいる空間から一秒でも早く離れるために天国、じゃなくて地縛霊のオッサンが来られない大学へと出掛ける。

 あ、天国で正しかったわ。色んな意味で。

 

 ところで大学は中学や高校と比べたら授業の開始時刻がずっと遅い。

 また、他の住人達がオッサンのいない朝食を確実にとれる時刻は朝の七時まで、それ以降はもし二〇四号室に誰もいないせいでオッサンが徘徊しても、五百円部屋の住人には責任がない。というルールがすでに決まっていたおかげもあり、七時に出発した俺にはアパート以外で使える時間が、今日は午前中に四時間近く生まれている。

 

 捻り出した大切な四時間をいかにして過ごすか?

 アパートでは熟睡できないから、もちろん寝るに決まっている! ……と言いたいところだけど、睡眠時間は後で作れるため、今は課題の計算問題に集中しよう。

 

 なぜならオッサンの生態は夜行性かつ昼行性かつ不可解であるため、あの部屋では常に俺の集中力が削がれる。そのせいで俺が作業に没頭することなど不可能に近い。

 だからこそ外出中の時間は、最低限必要な睡眠を取るだけではなく、大学で出された課題をこなすためにも使いたい。

 

 さて、そんなわけで本日はここ、大学の大教室にて楽しい楽しい数学スタート!

 

 

 夢中になって数学と向き合っている時って感情が消え失せる感覚があるよね。それなのになぜ数学はあれほど面白いのかな? そうか、美しいからだ!

 

 暗算を絡めて一気に問題を終わらせると、ついつい興奮で目が冴えてしまった。

 これじゃ野宿慣れしている俺でも簡単には眠れなさそうだぜ……。

 

 だが幸いなことに、俺以外の人間がまだ誰も来ていない大教室は静寂に包まれている!

 そのうえ俺には住人の一人に教わった、一瞬で眠りに落ちるかもしれなくもない秘術がある!!

 

 つまり、残りの三時間を有効活用するなど造作もない!!! 

 

 さっそく身体を横に倒して目を閉じ、穏やかで広い海を想像する。

 

 ……ところでこんな暗示にかかるヤツなんているのかね? どんだけ単純な人間なんだよ。

 おっと、雑念は放っておいて、秘術を信じないと!!

 浜辺に寄せては返す波をイメージ! そして海辺を柔らかに吹きわたる潮風の様子もイメ……。

 

 

「おい矢車! 起きろ!」

「……?」

 

 同級生の一人に肩を揺すられて目が覚めた。

 ……あれ、俺ってなんで寝てたんだっけ?

 ……あ、そうだ。そこに睡眠時間があったからだ。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか肩を揺する勢いが激しくなってきた。

 

「お願いだ! 起きてくれ矢車!! 目を……開けてくれ……!!」

「お前が目を開けろ」

「……なんだよ起きてたのかよー、ツマンねぇー」

 

 この男はなぜ俺が死んだみたいな茶番を繰り広げていたのでしょうか?

 変人だからでしょうか?

 アパートの住人もそうだけど、俺の周囲にいる人間のほとんどが癖の強い性格をしているのはなんでだろう。

 貧困の影響とか?

 

「……なあ、今思ったんだけどさ。なんで俺の周りには変な奴しかいないんだろうな?」

「類はホ、じゃなくて友を呼ぶって言うだろ。だからお前が元凶なんじゃね?」

「……俺が変人であるかのようなデマは止めろ」

「不思議なことだが、変人と変人は惹かれ合うんだ」

「俺が変人であるかのようなデマは止めろ!」

「いや、あのな? マジで冗談とかじゃなくて、お前が断トツでおかしいと思うんだよ。俺は」

 

 まるで俺が諸悪の根源であるかのように考えるのは止めてくれ。ひどい事実誤認だ。

 

「そんなことより講義が始まるぞ」

「だから俺が一番の変人みたいに……ん? そういやそうだったな」

 

 俺の目の前にいる人間が正しいとは限らないけど、大教室の前方にある時計は正しい。

 

「あ、そうだ。言い忘れてたけど起こしてくれてありがとうな」

「貸し114514な」

「インフレって怖いよね」

 

 俺はリュックから筆記用具やら資料やらを取り出すと、これから始まる最高に楽しい授業へと意識を切り替えた。

 さあ!! ロックンロールの始まりだ!!

 

 

 ああ、楽しかった。

 最近は生きる楽しみが教室の中にしか無いような気もするけど、これから俺が足を踏み入れるあの地獄と比べたら、きっと他の空間はどこだって天国に思えることだろう。

 

 さて、帰って昼食にするか……。

 

 あーあ、消費期限の問題すら無ければ、アパートにある食料を大学まで持って来れたのになあ。

 っていうか外気と冷蔵庫の温度ってそんな変わらなくね? お弁当の一つくらい持ち出しても良くね?

 

 憂鬱で足が重くなるのを感じながら、俺は幽霊のオッサンが待つアパートへと歩き始めた。

 

 

 昼食中、俺はオッサンのせいで食欲と精神力が削れた。つまりいつも通りだ。

 食後にアパートを脱出した時はとてもすがすがしい気分だったが、これは冬の空気が冷たいおかげだけではないだろう。

 午後の授業開始時刻までは、まだしばらくの余裕がある。

 今度も昼寝をしようと思えばできるけど、今回は図書館のパソコンを借りてオッサンを除霊させる方法でも検索しよう。

 

 最近はバイトに加えて事故物件探しをしていたので特に忙しかった。そして物件を見つけた後の俺は、物件探しで遅れ気味だった課題の消化に追われていた。

 だから幽霊のオッサンを殲滅するための時間を作ろうとしても、それはなかなかに難しかった。

 そのため今は除霊方法の調査に割ける最初の自由時間と言える。

 

 ただでさえオッサンのことは一刻も早く対処したい。

 それにもし時間と心の余裕がある今のうちに対策を立てなければ、ヤツのことはいつか取り返しがつかなくなるだろう。健康被害を舐めてはいけない。

 

 そんなわけで授業が始まるまでの俺に与えられた猶予を、地縛霊対策のために捧げるのは当然といえよう。

 せっかく受験と除霊にはフライングが無いんだし、どうせなら思いっきりフライングしてやろうじゃないか。

 

 

 次の授業開始まで俺に残された時間は約五十分。

 大切なことは三つ。

 調査は高速、俊敏、迅速でなくてはいけない。

 あ、実質一つだった。

 

 とにかく調べものは早く終われば良い。早く終われば授業に間に合う。当たり前だ。

 

 そのためには一瞬で解答へとたどり着ける検索ワードを入力しなくてはいけない。

 とりあえず「地縛霊 除霊 殺り方」、おっと本音が。

 「やり方」に変えて検索!

 

 まずは色々と詳しそうなこのサイト、君に決めた!!

 

 えっと、「確実な除霊を行うには特別な才能や厳しい訓練、専門的な知識や特殊な道具などが必要不可欠です。そのため素人が無闇に手を出すと最悪の場合悪霊が凶暴化し、その結果不幸を撒き散らすこともあります。」……って、マジかよ……。

 

 いや、もしかしたらこのサイトが間違ってるかもしれない! ネットだし!

 次だ! 次のサイトだ!

 

 次はこっちのサイトにしよう!

 「低級霊はこちらで販売している霊装を用いれば初心者でも祓えます。」、よし! これを待っていた!

 どこだ! どこで買える?

 

 「商品の詳細を知りたい方はこちらをクリック」……あった!! クリックするに決まってるだろ!!

 

 …………高い。無理、買えない。

 次だ!

 

 えーっと……「もし簡単に除霊できたのであれば、それは大した力を持たない霊だったということです。放っておいても別に被害はないので、除霊する必要はなかったということですね。」。……あ、そっか。

 

 つ、次だ……!

 

 「地縛霊を対処するやり方はふたつあります! ひとつは除霊、そしてもうひとつは浄霊です!」。ん? ……浄霊?

 なんだろう? 除霊とはどこが違うんだろう?

 

 「除霊は力ずくで霊を倒すかんじなのでとても難しいです! 私たち初心者にはなかなか手が出せないので、専門家の方に任せちゃいましょう! それに対して浄霊は、霊を説得して自発的に成仏してもらう方法らしいです! 初心者でも比較的安全にできるようなので、ここからば誰でもできる浄霊の方法を詳しく書きたいと思いますね!」。

 これだ!!!

 

 ついに、これでついに俺はあの悪魔を葬れる!!

 待ってろオッサン! 今夜が貴様の命日となるのだ!!

 

 

 ……あ、幽霊だから命日は死んだ日か。それってたぶん今日じゃないよね。

 じゃあ今日は成仏した日だ!

 

 

 

 この後、俺は時間も忘れて浄霊の調査に没頭した。

 うっかり授業に遅れかけて単位を落としそうになったのは言うまでもない。

 




 今回は痛みと共に素晴らしい教訓を得ました。

 それは投稿直前に行った推敲でのことです。
 変更する箇所を洗い出した後、そういえば投稿フォームの設定をいじれば一気に文章を修正出来るじゃないかと思い至りました。
 さっそく九千文字ごとに区切りを変更し、よっしゃ書くぞ! となったところまでは良かったのですが、思えばここが最後の砦でした。

 保存をタッチすると、3DSでは容量の関係なのか多少のエラーが発生しました。気がつくと第三話のうち、序盤を除く五千文字ほどが吹き飛んでいました。

 ファッ!?

 意外と苦労して書いた、矢車君によるガバガバ推理のシーンやらなんやらが消え去り、そして残ったのは第二話のおまけみたいなやつだけでした。

 しかも私はこの物語を執筆するにあたって、一日に五百文字以上書くことを最低限の目標に定めていました。この文字数を基準にすると、実に十日分くらいの労力が無に帰したということですね。

 もしこの事件が次回作で起こっていたなら。そしてそれがもし文字数の多いエピソードだったら……。
 下手をすると百日分くらいの労力が消し飛んでいたかもしれません。
 そういう意味では、傷の浅いうちに経験出来て良かったと思っています。















 え? 独自にバックアップしとけ?
 便利な機能ですよね。バックアップって、















 え、ガバガバの推理シーン?
 よく考えたらいらなかったので消しましたよ? 探偵役は一人だけで手一杯なのもありますが、探偵小説じゃないから推理要素は添えるだけでいいかな……と感じたんですよね。(ちなみに探偵役は筋肉の秋野己倫先輩じゃないです)

 その代わりといってはなんですが、プロットに手を加えて大学でのシーンを増やしました。
 具体的には、物語の終盤までとっておこうと思っていた人物を当時させて、オリ主の個性をチラ見せしなくもないあの場面がそれです。
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