王子様も同郷からの転生者と知り、急に会いに行った少し気安げな男に対する反応のお話。
因みに、チートってどうして成立すると思いますか?
現地語は「 」で表現しています。
「『なあ、俺はお前と同じ日本から来た転生者なんだ』」
ああ、懐かしいな。
うん、目の前にいる彼は前世で同じ国にいたらしい。……で、だから何?
僕は国民に愛される有能な王子様のクールフェイスを張り付けたまま、心底消え去って欲しい『元』同郷の人間を見据えていた。
黙って固まったままの僕に言いたいことが伝わらなかったと思ったのか、再度彼は同じ事を言った。
ああ、彼が言った言葉も、その言葉に含まれた願望もよ~~~く理解できている。
この国の後継者たる僕の理解者である友の立ち位置に取り立てて欲しい。
そしてあわよくば、いや、是非とも美しい令嬢や贅沢に囲まれた暮らしをしてみたい。それ位は彼の目を見れば解る。
伊達にこの権謀術数が犇めき、魑魅魍魎が蠢く貴族社会で、
表面上だけでも国民皆に愛されている有能な後継者という名声を構築してはいない。
悪評で僕を失脚させつつ弟達に取り入って、自分達の一族の未来に貢献したいという貴族達に勝利し続けた実績は伊達じゃないんだ。
二度言っても、望むような反応を見せない僕に業を煮やしたのか、どんどんと距離を詰めてくる
このまま放って置けば、警護の者に捕らえられるか斬られるだろう。それが解っていて僕は相手にしない。
「『なあ、もう沢山なんだよ。転生したのにチートもハイスペックにもならない。嫌になる人生だ。
でも、俺はアンタの友達になれる。だってアンタと同じ国で前世を過ごしのは、俺だけなんだ。役に立つぞ?』」
そう言いながら、僕の背後にいる婚約者候補たちの方をじろりと見る。
お裾分けはあると思うか? 残念だ。既に全員僕のモノだ――――身も心もな。
ただ、役に立つというからには、いきなりその可能性を完全に切り捨てるのは早計だろう。
だから僕も昔使っていた日本語で彼に返事する。
「『役に立つといったな。何が出来る?』」
僕から彼へ送る最初の言葉だったが、もうこれが最後の言葉になりそうだ。無駄な会話はしたくない。
彼は急に反応できなかったのか、暫く無言になった後、どもりながらちぐはぐな意味の無い内容を語り始めた。
そもそもだ、彼が本当に有能な存在なら僕に謁見する前に、名が売れていておかしくない。
この世界に僕がまだ反映させていない発明なら幾らでもある。それを利用して、僕が作った基盤の上でそれを発表するだけでいい。
だが、そうで無かった時点でお察しだ。
勿論、敢えて名前を隠してきた可能性もあるが、有能な人間と無能な人間を見分けられない程、僕は目が不自由では無い。
それにこの状況は、売り込みにやって来たのに、売り込む商品の説明が出来ないという無能ぶりを如実に表している。
それは商品の知識が無いか、その必要性も思い浮かばなかったか、その商品に良い所が無いかのどれかという事だ。
僕はこの異世界に転生者として産声を上げてから、速やかにこの国の言葉の法則を理解して、周囲の会話から自分と国家の状況を把握し、
前世の記憶から、法整備や、経済システムから農業、工業の革新に至るまで、
あらゆる仕組みをこの国の現状に照らし合わせて修正したものを、基本基礎の部分から周囲の人間を適切に使って確立した。
以前の世界には無い、この世界独自の法則である魔法を利用して、
個人特定を裏の目的とした、身分証明書とクレジットカードを一緒にしたステイタスカードというシステムを構築した。
これの最大の利点は、国家お抱えのステイタスカードの管理部門を使えば、所持者の財政状況から現在の地点情報や犯罪歴なども理解できることだ。
そして、現金を徐々に廃止していく事で、管理部門を超える程の知識と魔力が無い者には金銭詐欺が出来なくなったし、
あらゆる経済の首根っこを押さえられた。
この国の、僕の支配下に在る管理部門を通さずには一切の金銭の流動は行えない。我が手を逃れ得る者など一人もいない。
それに脱税も以前とは比べ物にならない程減った。何せ全ての履歴が残っているのだから。
僕は第一王子という肩書以外にも、将軍の肩書も持っている。王国軍の形式上のNo2であるだけでなく、実質上のNo1だ。
因みに、形式上のトップは父上なので覚え目出度い僕にとっては問題は何もない。
少なくとも三国志と、戦国時代の日本の戦略の知識はその発動状況から問題点まで理解した上で、
更に魔法等を利用した新戦略も生み出して、この国の地理や、兵士の能力や文化、そして農作物の刈り込み時期や、その時間までも計算しながら軍団を指揮して、
周辺国を併合してきた。勿論、全ての国を併合はしていない。敢えてガス抜きと団結と平和ボケ防止の為に吸収しない国家も残してある。
弟や妹達は僕には到底勝てないと心の底から理解しているからこそ、従順だ。
貴族達も、時折必要に応じて褒美や粛清を齎してあげている事と、
最早この国には僕がいなくては成り立たない事が理解できているからこそ、逆らう様子は無い。
国民も戦争に勝って平和を齎して、経済発展とそれによる快適さ、そして治安を取り締まる僕には感謝しかないだろう。
娯楽も用意した。
魔法を利用して、映画館も作ったし、遊園地も作った。放射能の出ないクリーンな核爆弾さえ制作した。
確かにそれらの僕の業績を知る者は、僕のやり方が極めて現代日本の人々が馴染みがある物が多い事から、
僕が転生者と知ることは容易だろう。
だが、スマートフォンを触る大半の者が、その基本となるプログラムやプロトコルを全て知り尽くして、構成部品の仕組みや、材質を把握していない様に、
ただの転生者では現代日本の栄華を再現する事は出来ない。
教授であり、発明家であり、コンサルタントであり、企業家であり、弁護士でもあり、低級プログラマーなど歯牙にもかけない天才ハッカーであった僕だからこそ、
前世で十分以上に才能豊かだった僕だからこそ再現できた繁栄だ。
前世が日本人というだけで、この世界では何も為し得ない人間よりは、
前世の偉人以上にこの世界の生まれの優秀な人材を僕は選ぶよ。
そして彼が言うところのチートを超えるチートだからこそ、僕は今
この意味が解るだろうか? つまりこの僕が、世界で一番偉いって事だよ。
「彼が何を言っているかわからない。調べて特に問題が無いようなら解放してあげると良い。
もし、異国のスパイの様な問題がある人間なら、言わなくても判ると思うけど敢えて言おう―――――――殺せ。いいね?」
僕は彼をこれ以上視界に映す事無く、この世界の生まれである才能と美しさの塊である婚約者たちへと振り返って、城へと翻した。
感想や評価など頂ければ幸いです。