ヲ級と話した後、俺は出撃の準備を整えていた
出撃といっても敵地の偵察くらいだが近辺の敵勢力がどれ程のものか確かめておく必要がある
ティアマトに頼み、古い黒い布を被る事にした、武器は持たずマントの中にヲ級を隠すような形で海上に上がる
深海から海上近辺に上がるにつれて徐々に光が海の中を照らしている
太陽ほどではない優しく淡い光の見える場所を目指して上昇し、海上に出た時、淡く月が光を放っていた
ヲ級「………凄ク、綺麗……」
ヲ級はマントの中で月に照される海面や波を見ながらそう呟いた
忠敬「……ヲ級、離れるなよ……」
そう言うとマントの中で俺の服をぎゅっと握ってコクンと頷いた
そのまま雲が作る影を渡るように進んでいくと小さな海上軍事基地を見つけた
忠敬「……ヲ級……偵察機を出来るだけ見つからずに飛ばせるか?」
マントの中にいるヲ級にそう伝えると、ヲ級はコクンと頷いてクジラの頭のような所の口がゆっくり開き、一機の飛行機と思わしき物が飛んで行った
ヲ級「……………人形ガ五、兵士ワ三十クライ……」
ヲ級は飛んで行った偵察機から見えた情報を的確に伝える
忠敬「よし、ヲ級、よくやった引き上げだ」
そう言うとヲ級は誉めてもらえた事が嬉しいのか嬉しそうにコクンと頷いて偵察機を開いていたクジラの頭のような口にしまった
偵察から帰還している途中に音が聞こえた、微かに聞こえる音でマントの中のヲ級には聞こえていないようだ
ヲ級「ドウカシタノ?」
忠敬「ヲ級……敵機が近くにいるかもしれない……お前は先に戻っておいてくれ、お前がきちんと戦うには体が慣れていないからな…」
そう言うとマントの中のヲ級は置いて行って欲しくないのか服の裾を握っている
忠敬「大丈夫だ、必ず戻る……」
ヲ級の頭を撫でると少し不安そうだがゆっくりと服の裾を放してくれた
ヲ級「約束ダヨ」
ヲ級はそう言ってティアマトのいた深海へと潜って行った
微かに聞こえる音を頼りに進んでいく、ヲ級に格好つけたが正直、俺もこの体に慣れてない
進んだり方向転換したりするのは出来るが、戦闘面になると難しい
しかし、この場所に見張りがいるのなら追い払わなければ次回出撃の妨げとなる、ここでやらなくてはいけないんだ
徐々に音の方へと近づいていくと音は音程を持つ音楽へと変わり、さらに近づくと音楽は声を持つ歌に変わる
そして歌だとわかったくらいに近づいた所には悲しそうに歌う一人の少女がいた
少女の特徴は肩より少し長く鎖骨辺りまでのふわりとした髪で双方にお団子に髪を纏めている頭のてっぺんに二本の髪がはねている
淡いオレンジ色の服に黒いミニスカートを履いた少女が月に照され彼女の腕や足にある殴られたアザがよく見えた
俺はなぜだか分からないがとても胸が苦しくなった、たぶん、敵機の艦娘というやつなんだろう、迂闊に接触するのは避けた方がいいと頭でわかっているけれど
気がつけば彼女の近くで歌を聞いていた
少女「!だ、だれ?」
少女が歌っている途中に俺に気付き後ろに下がる
忠敬「悪い、綺麗な歌だったから聞き入ってしまった」
少女「……綺麗じゃない………です」
俺の正直な感想を少女は首を振りながらそう答えた
忠敬「綺麗だったよ、歌手にだって成れそうな程にね」
少女「…………昔、憧れていました…けど…もう……無理なんです……」
さらに暗そうな顔をする少女
忠敬「君は艦娘だろう、艦娘で歌手なんて中々面白いじゃないか」
少女「………艦娘は兵器だから歌ちゃダメなんです、人間様に作られ使われる兵器は人間様のために動かないとダメなんです……だから」
忠敬「そうか……なら、もう一曲歌ってくれないか?俺も人間じゃない、それにここにはお前を縛る人間様はいないよ」
そう言うと少女は少しだけきょとんとしてその後クスリと笑い、歌い始めた
今度は俺も知っている二十年ほど前のアイドルの歌だった
戦争で離れ離れになるカップルをモチーフにしたこの時代からすれば、他愛もない歌詞だったが彼女の歌い方が上手いからか涙が流れ出た
少女は涙を流した俺を見てまたクスリと笑い、その時に涙が流れているのに気がついた
しばらくして歌は終わり、俺は彼女に向けて拍手をしていた
忠敬「やっぱり上手いな、あと、笑ってた方が可愛いと思うぞ」
そう言うと少女は少し恥ずかしそうに嬉しそうにしていた
少女「!もう戻らなきゃ、あっ、ま、またここで会えませんか?」
忠敬「あぁ、明日もここにいる、また歌を聞かせてくれよ、えーっと……」
名前を聞いてなくなんて言おうと考えていると
那珂「私の名前は那珂」
忠敬「那珂か……俺の名前は忠敬だまた今晩にな、那珂」
そう言うと那珂は笑顔で
那珂「うんっ!またね!忠敬!」
そう言って去っていくのを見守り見えなくなった所で俺も深海へと沈んでいった
忠敬「悪い、遅くなってしまっ……
俺が言いかけた辺りでヲ級に抱きつかれて言葉が止まった
ヲ級「………遅イ…心配……シタ…」
ヲ級は俺の胸に顔を埋めていて少し震えていた
忠敬「悪い……これからはお前を一人にしない………約束だ……」
俺は震えるヲ級を抱きしめて慰めるように頭を撫でて落ち着かせた
ヲ級「…絶対…約束ダカラネ………」
忠敬「あぁ、絶対だ」
この時に、上目遣いで言う彼女に対して可愛いらしいと思ったのは触れないでおこう