Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯 作:馬の羽根
ここでは織り成す戦い全てに美しさがあった。しかし、それは似て非なるこの
遊戯であったはずの戦いは闘争となり戦争となった。ボタンのかけ違いなどではなく、
―――そう、あったはずなのだ。
幻想であるこの土地で、実在したはずの実在しない者達は何を願い、何を望むのか、そしてどこにたどり着くのか。
これは、知られることのない運命の話。
とある少女の話をしよう。
星を追い家を飛び出し魔導に落ちた少女の物語を。
その少女は平凡な生まれだった。
彼女の家を知るものには語弊がある言い方だろうが、幻想が住まうこの土地では平凡、普通と呼ぶのがふさわしいだろう。
――少女は普通だった。
その土地では名家と呼ばれる霧雨の家に生まれた。その家では長男は生まれず娘が一人いるだけだった、その娘には霧雨家を継ぐための教育を施した。決して抑制するような教育をしていたわけじゃない、しかし、
ある日、少女はその郷で一番の名家である稗田の家に向かっていた。稗田はこの郷の歴史を保管する役割を持っている。霧雨はこの家に定期的に訪れ、近況を報告するのだ、少女もいずれしなくてはならない立場になるのだろう。しかし少女の分岐点が訪れた、稗田の書斎から零れていたとある資料が目に留まった。
――聖杯戦争。
見慣れない単語を目にした少女はその巻物を手に取った。それはここではない、どこかの街で起こった催し。魔術師という者が使い魔を行使し勝ち抜いたものに万能の願望器を授けるという内容、その詳細は結果はどうであれまるで読み物のような出来事だった。少女は胸を踊らせた。万能の願望器にではなく、魔術師という者達にだ。
――そう、少女は普通だった。
少女は幻想の土地に住まいながら幻想を知ることは無かった。身近にいる半妖の知人などは生まれた頃から知っているので実感がわかない。夢見る少女はこの時―――このほんの些細な出来事で、魔術師になろうと決めたのだ。本当に幼き頃の話だ。
そして幾年月が経ち。2003年夏。
少女の名を霧雨魔理沙。霧雨魔理沙は魔術師になっていた。10年ほど前から魔術を独学で学び始め、数年前に父親に勘当されたその後、魔法の森に居を構えほぼ独学で魔術を鍛え上げる。真っ当な魔術師が見たなら卒倒するだろう。彼女は普通でありながら卓越したセンスを持っていた。
努力の天才と言うべきだろうか?恐らく環境に恵まれたのは確かだろう。少女には並ぶと決めた頂があり、それを後押しする存在がいた。そこに彼女自身の努力が重なったのだ。
そして、今少女はその頂の元へ向かっていた。
長く続く石造りの階段、その向こうに見慣れた紅白が見えた。
「お前から呼び出しって珍しいな、霊夢」
紅白の少女に話しかける白黒の少女の口調は気安さが含まれたものであった。恐らく彼女らは親しい間柄であることは明白だろう、少なくとも魔理沙からは。
「そっちこそ珍しいじゃない、わざわざ階段を上ってくるなんて」
「今日はわざわざ階段を上る気分だったんだ」
軽口を言い合う二人は確かに親しい間柄だろう、双方ともに友人としての親しみを持っているように見える。
「用件だけど大したことじゃないわ。どこか変わったことないかしら?どんな些細なことでもいいんだけども」
魔理沙はすこし不審に思った、この博麗霊夢がこんな近況を聞くヤツだっただろうかと。普段の様子だったら軽く茶化してやるだろうが今回は真面目に聞いているように思える。さっきから自分の体をジロジロ見て気色が悪いが……
「いいや、別にいつもと変わりないぜ? なんだ、いつもの勘でも働いたのか?」
博麗霊夢は直感で話すことが多々ある、今回もそんなもんだろうと魔理沙は思考を切り替えた。
「そうね、勘……まあ何にもないならどうでもいいわ」
そう言って魔理沙を観察するのをやめた霊夢は踵を返し縁側の方へ向かっていった。正直この話題の掴めなさはいつものことなので気にしてはいないが今回はすこしばかり変だ、いつもならこのまま勝手に上がり込んでティータイムと行きたいところなのだが。
「そうだ、魔理沙」
「あん?」
不意に話しかけられぶっきらぼうに返す魔理沙、それを気にすることなく霊夢は続ける。
その表情は――真剣だ。
「今日明日の夜は出歩いちゃダメよ」
……何故だか空気が一気に乾燥した気がした。思わず喉に乾きを覚え唾を飲み込む。霊夢が放った言葉には根拠はないが説得力のようなものが感じられたのだ。
「な……なんだよ、また勘か?」
「そうよ、博麗の巫女の勘」
はっきりと言われてしまった。何か言いたいことがあった気がしたがその言葉は喉から放たれることなく飲み込まれた。返す言葉もなく代わりに強く頷き返すしかできなかった。
「―――行ったわね」
しばらくして紅白だけが残った神社の境内に空間の亀裂が走った。亀裂のスキマからは老いも若いもその中間も全てあやふやな少女が半身を乗り出した。
「あらあら、お友達は巻き込みたくないってことかしら?」
そして妖艶に笑い霊夢を誘惑するような声色で話しかけた。この妖怪はこういう妖だ。特に気にする事はないのだが今回はなぜだか無性にイラつく。
「別に、聖杯戦争に一般人は巻き込みたくないだけよ友人だからってわけじゃあない」
「そうなの?でもまだ分からないわよ、まだ出揃ってないクラスの内どれかが彼女の元に行くことだってあるかもしれないのに」
「その時はその時よ、少なくとも魔理沙には令呪はなかった」
彼女を観察したところ特に変わったところはなく令呪なども見受けられなかった。だからまだ大丈夫だと思う。そう思いたいのだ。
「霊夢、あなたには役割があるのだからどこかに加担するようなことはしちゃいけないわよ? あなたがいくらルールに縛られないからと言って、これから始まる聖杯戦争、初っ端から監督、運営がハメを外しちゃったら示しがつかないんだから」
このスキマ妖怪は……小言がおおいな、私を娘かなにかと勘違いしているのではないか?
などと考えながら霊夢は「はいはい」と心が一切こもってない返事を返すのだった。
一人魔法の森に帰る魔理沙は、森にかかる瘴気とは別にモヤモヤとしたものを抱えていた。なぜ霊夢の言葉に従おうと思っている自分がいるのだろうかと、普段の自分ならあんな忠告意に介さずに、そのまま神社に上がり込みダラダラ煎餅でも齧ってただろうに……。
「まぁなんだっていいか、帰って術式の組み上げの続きでもやって寝りゃあいいさ」
先日制定されたスペルカードルール、あれはなかなか面白いものだ。とりあえず現状で思いつく限りのものはいくつか作ったし、新しく使い魔を使うスペルカードを作ろうとしていたのだ。
「使い魔か、私にとっては原点だな」
この霧雨魔理沙が最初に覚えたのは使い魔を使役する魔術だ。しかし適正はこれとはまた別の魔術にあったために、小さな精霊としか契約できずそれも持続しなかった。それ以来あまり使うことがなかったが、最近は隣人の魔術師アリスの指導もあり、複数の召喚術式を覚えることが出来た。とりあえず試してみるが吉、魔法陣を描いて詠唱するだけなのだから簡単なものだ。
「いっ……たぁ……なんだ? 枝にでもぶつけたか」
急に右手に痛みを感じ手を持ち上げる、そこにあったのは赤く滲んだ痣のような模様。枝に引っ掛けたにしては奇っ怪な形だ。また新しくヤな胞子でも撒き散らすキノコでも生えたのだろうか?ともかく原因はあとにしてキノコの毒であれば少し急がなくては。
そして魔理沙は気づかない、既に何者かにつけられているということを。
物で溢れかえった部屋を足でかき分ける。少女は手に抱えたスクロールと詠唱が書かれたメモとその他材料を少し開けた床に撒き散らす。先程の痣は特に体に支障をきたす訳ではないことがわかり放置して、今は次のことを考えていた。
「使い魔かー、どうせだったらかっこいいやつがいいなぁビーム出せたりな」
などと適当なことを呟きながら道具で溢れかえっている床を足で広げていく。久しぶりに見た床に石灰で魔法陣を描いていく。慣れない作業に悪戦苦闘しながら右手の痣が熱を帯びていく。それに気づかないほど熱中し、魔法陣が出来上がる。
「えーっとなんだっけなぁ、みたせーだったかな」
手に持ったメモ書きを見る。そこにはアリスが書いたきれいな字が載っている。実に読みやすい字だ、注釈まで書いている、器用なやつだこんなのは適当でいいのに。その思考を最後に普通の魔術使いは肺の空気を全て吐き出し新しい空気を吸い込み―――。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
祖には我が大師魅―――」
この術式に関わった者、そして私の最大の恩人に祈りを。
「降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
魔力を込め、知恵を絞る。全ての始まりと終着に意識を向ける。
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
魔力の高まりを感じる、マナが震え何かを形作ろうとしてる。右手が熱い、何かと呼応しているのだろうか。
「―――――
魔力は満ちた。あとはイメージを結ぶだけ。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
私を守る剣となり願いを叶える聖杯を……ん?聖杯?
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
まあなんだっていい、この詠唱が終わったなら使い魔に聞いてみるといいだろう悪魔の召喚術式出ないことはわかってる。もしそうだとしたらアリスを恨む、末代まで。
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!っと、うわぁ!」
詠唱に結びをつけた瞬間に右手から何かが抜け落ちたかのような感覚が襲う。だいぶ魔力が持っていかれたようだ。
「う、うおぉ……何が起きてんだ」
そして逆巻く風と舞う薔薇の花びら。目を開けていられないほどの風圧の中、召喚の紋様が輝きを放った。
その場に現れたのはまるで伝説の顕現、なにかの資料で見たようなローマ彫刻の美女が悠然と笑顔を向けていた。その立ち姿と真っ赤な装いはどこか男性のようにも思えるが、顔は幼く胸は性が女であることを主張している。
魔理沙は呆然と突然現れた人物を眺めていると、美女は楽器のような音色で告げる。
「問おう、少女よ。其方が余のマスターか?」