Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯   作:馬の羽根

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第10話 1日目 昼 『人形遣い』

 蝉時雨、雨のように降り注ぐ夏の声は魔理沙の心を苛立たせていた。

 

 ――聖杯戦争を終わらせる。

 

 そういった時キャスターの顔は嬉しそうでもあり悲しそうでもあった。

 悲しい顔をするのは分かる、聖杯戦争を終わらせるということは聖杯に集った英霊達の願いを破棄することだ。ネロに私に言っていない本心(願い)があるなら私の宣言に怒りや悲しみを覚えてもしょうがない。

 

 でも彼女は――。

 

「マスター、そなたが望むなら余はそなたの剣であり続けようではないか。

 聖杯戦争を終わらせる……余とて惜しいとは思うが、そなたが望まぬ事をしてまで勝ちたいとまでは思わぬ」

 

 キャスターは微笑みながらそういったのだ。

その言葉に魔理沙はちょっとだけ申し訳ない気持ちになっていた。霊夢のためだけじゃない、これは聖杯戦争に関わる者全てに直結した問題なのだ。だからこうして店の裏手で考えを整理しようとしているのだが……。

 

 ……蝉が五月蝿い……。

 鬱陶しい……。

 

「あーー!!なんで夏なんだよ!!鳴くにしても秋みたいに静かに鳴いてくれ!!」

 

「うおっ!マスター急にどうしたのだ、驚かすでない」

 

 魔理沙は普段より冷静さにかけていた。無理もない、キャスターを召喚してから一睡もせずにいるのだから。そこに親しい友人の衝撃の情報を知らされれば冷静でいられるのは難しい。

 

「少し休んだ方がいいんじゃないかしら」

 

 鈴を転がすような声、アリスの声だ。傍らにアサシンを引き連れている。どうやら魔理沙の様子を見に来たようだ。

「む、アリスとやらか。アサシンを引き連れてマスターに何用だ?」

 様子を見に来ただけと答えながらスカートを揺らしながら近づいてくるアリス。普段通りの挙動で特に変わった様子はない、アサシンも従者のように静かにそばに立つのみだ。まるでいつも引き連れてる人形達のひとつのようにも見える。

「見ての通り休んでるぜ、そっちこそ休憩時間だってのに香霖を質問攻めにしてるじゃないか」

 紫の式が聖杯戦争の開始宣言をした後、アリスは個人的に聞きたいことがあると言い、霖之助にまるで詰問するかのように質問を投げかけ続けていた。魔理沙はこれ以上情報は頭に入らないと判断しその場を離れたのだが、ようやく霖之助は解放されたらしい。

 

「そうじゃなくて……。目の下、すごいクマよ?ひょっとして一日寝てないんじゃないの」

 と言って魔理沙の目の下を指でなぞり、くすくす笑う。からかっているのだろうか?

「なんで笑うんだよ……私が徹夜なんてよくあることだろ」

「良いコンディションでいなきゃ敵に襲われた時に対処出来ないでしょ?それに油断しきってる。

 私だって今からでも敵になるかも知れないのよ……」

 アリスは少し脅すように囁く。

 ――しかし魔理沙は動じることはなかった、そっとアリスの手を払ってジトっとした視線を向け。

「アリスが敵対するわけないだろ」

 はっきりと言い切った。

「どうしてそう思ったの?」

 魔理沙は懐から一枚の紙切れを取り出しアリスに渡す、開くとそれは英霊召喚の際の詠唱とその説明が書かれていた。

「使い魔の召喚法を教えろって言って渡してきたメモだ。英霊召喚(これ)(あたし)に教えたのはお前だろ。

 それと私が香霖堂に来て霖之助から色々聞いている間、お前だったら人形のひとつやふたつで盗聴し続けてればいい……。それなのにわざわざサーヴァントを霊体化させずに目の前に現れた。

 最初から(あたし)達と戦おうって言うなら夜のうちに奇襲をかけてくるだろうに。召喚しているのがアサシンなら尚更。

 ――これじゃ敵対する気がないって言っているようなものじゃないか」

 魔理沙の推理に感心したような表情を見せるアリスとキャスター。組んでいた腕を解き、ずっと思っていたことを魔理沙は問いかけた。

「なぁアリス、なんで私に英霊召喚法を教えたんだ?

 それと――なんで教えてくれなかったんだ?聖杯戦争のこと……知ってたんだろ、お前」

 そう、気になっていたのだ。アリスには同業者として先輩であるアリスに魔術師を目指すに至った理由を話している。(大部分をぼやかしてだが) その時に聖杯戦争について魔理沙は触れていた。アリスの反応は全く知らないような口ぶりだったが、英霊召喚について知っていると言うのもおかしい。

 魔理沙が幻想入りした魔術師に聞いたって、どの文献を漁ったって出てこないマイナーな召喚魔術であるはずなのに――。

 だがアリスは知っていた。後に知ったという線はあるがアリスは幻想郷に来てからは結界を抜け出たことは霊夢の様子からしてない。

 

「頭に血が上ってる割にはちゃんと考えられるじゃない」

 それは知っているという旨の返答でいいのだろうか?

「――前にも言ったかしら、私は前まで普通の人間だった。

 育った環境が特殊だっただけのね」

「知ってる、魔界から来たんだろ?」

 アリスと知り合って何度か会話していた。そんな中ある日、互いの身の上話を話したことがあった。きっかけは忘れたがその時にアリスは魔界という異界から幻想郷にやってきたと言っていた。

「そう、そんな魔界から私は幻想郷に来る前に一度()()()に行っていたの。言ってしまえば幻想郷の外の世界の事ね。

 そこで私は経歴を隠しながら魔術協会――時計塔で魔術の勉強をしていたの。すぐ辞めちゃったけどね」

 何でもないふうに言うアリス、しかし魔理沙は目を丸くして固まっている。

「魔術協会か、裏の世界でこそこそと動き回り時に派手にやらかす迷惑な集団と認識いているぞ」

「…………はぁ…………。

 今日だけで何人の衝撃の過去を知ることになるやら……」

 アリスの過去とキャスターの偏見のある知識に魔理沙は大げさに肩を落とした。少なくとも3人の知らなかった過去を知らされると流石にくるものがあるのだ。

 ――それより聖杯からの知識は変な情報を与えてるな。

 それに魔術協会、時計塔。ごく稀に幻想郷にその所属のものが流れ着きポツポツと情報だけは知っていた魔理沙はほんの少しだけ憧れがあったのだ。

「時計塔……後でどんな感じだったか教えろよ?」

「はいはい、それでその時計塔で授業を受けていたらとある講師が極東の島国で聖杯戦争なんて競技に参加する〜って噂が聞こえてきた。その講師は時計塔でも天才と謳われた才知。そんな人が参加する聖杯戦争なんて競技、気になるでしょう?だから調べたの。

 ――膨大な魔力を秘めた願望機『聖杯』をかけて、マスター7人が英霊7騎を現界させ使い魔として駆使することで競われる命懸けの勝ち抜き戦……。

 私もあなたと同じように憧れたわ、きっかけとは違うけどね。私のきっかけは――いやこれは蛇足ね。

 参加条件は分からないけど私は遥か東(東方)の地に飛んだわ」

「ひょっとして参加したのか?」

「まさか、私は聖杯戦争に参加することは出来なかった……遅かったのよね」

 アリスの表情はちょっとだけ悔しそうだった。

「でも参加しなくて良かったかもって思ってる。――ねぇ魔理沙?あなたがどう思ってたかは知らないけど聖杯戦争って碌でもないものよ下手したら大量の犠牲者がでる羽目になりかねない」

 真摯に訴えかけるアリスの言葉は実感のこもったものに聞こえた。いや、実際に見てきたのだろう。本当の聖杯戦争のその結末を――。

 ふとアサシンに目をやる、その表情は機械的で感情が伺えない。サーヴァントと言うにはいささか無感情すぎるようにも感じる。

「アリスは――望んで聖杯戦争に参加したわけじゃないんだよな?」

「いいえ、最初は望んで参加を表明したわ。冬木の聖杯戦争と違ってまだ見知った者がいて決闘ルールとして様々な不殺のゲームがある土地だったらまともな結末になると思ってね。

 でもそうじゃなかった……店主さんから聞いたけど聖杯になった巫女はまともに生きられないそうよ、第二次で聖杯になった巫女も世間に疎まれて石を投げられて……それ以上の吐き気を催すようなことをされていたみたい。願いを叶える願望器って知れ渡っていたのかもね」

「つまり聖杯戦争を完全に終わらせないと霊夢も……?」

「そうなるかもしれないし違うかもしれない。どちらにせよ霊夢のためにこんなふざけた催しは止めるべきだと思った。

 万能の願望器と謳うくせに犠牲が必要だなんて……だったら自分の身を捧げて願望を叶えた方が100倍いいわよ」

 力強く拳を握るアリス、彼女の願いは短くない付き合いの魔理沙なら推測することが出来る。完全に自立した人間のような人形をつくる、[[rb:魂>肉]]の器としての人形ではなく生ある[[rb:人形>人間]]。それはアリスにとっては悲願だ、理由は分からないが彼女にとっては普通の生を捨てるほど大事なもの。

「ごめんな、アリス」

 だから先に謝っておきたかった。魔理沙は自分のせいなどではないが謝罪の言葉を述べた。

 

「そうだ、前から気になっていたんだけどなんで人形なんだ?アリスの才能ならもっと別な魔術でも行けるのに」

 

「んー詳しく話すと長くなっちゃうから――そうね、日本に来た時にたまたま魔法使いにあったからかしら?」

 

「む?魔法とな、ではその魔法使いが人形遣いだったというわけか?」

 魔法、噛み砕いて説明するならば魔術の上、大魔術の更に上。万物にある過程を省き結果だけを世界に発現させる『根源』たる力。

 魔理沙は魔法にまで興味はないため軽々しく自宅の看板に魔法と書いてあるが魔法なぞ使えない。

「いやそういうわけじゃないわ、どっちかと言うと魔理沙みたいに火力重視の人だったわ。

 私が人形遣いになった理由は単純に肌にあってたからよ。――それをその人が教えてくれただけ」

 若干苦い顔をしているが何を思い出しているのだろうか、少なくとも良い思い出というわけでも無さそうだ。

「私の話なんてどうでもいいでしょ?そもそも様子見に来たのはあなたに休めって言いに来たんだから」

「え?そうなのか。だったら随分迂遠な言い回しだったな」

「迂遠にしたのはあなたでしょうに。いや私のせいでもあるか……」

 無駄な話をしてしまったかなと頭を抱えるアリス、その様子を見て少しだけ気が楽になった魔理沙は中に戻ろうと立ち上がる。

「そうだな、それじゃ1時間だけ仮眠をとるか。キャスターはとりあえずそのまま待機しててくれ、こいつが万が一裏切ったりしたらそこら辺に捨てておいてくれ」

「うむ、了解したぞ!マスター」

 はっきりした笑顔で答えるキャスター、冗談が通じているのかいないのか。アリスは裏切ったりしないと頬をふくらませているがアサシンは相変わらず動きを見せないはっきりいって不気味だ。

 寝て起きて考えたら、もう少し気持ちも整理できてちゃんと状況を判断できるかな?なんて考えながらまた香霖堂の戸を開けて中に入って言った。

 魔理沙たちは気づいていなかった。南の空から紅い脅威がこの地を覆い隠そうとしていることを。少なくともまだ気づくことは無かった。

 

 

 

 ――――アサシン、ここに起動。入力を求めます、マスター。忍びなりし我が体躯、命令をいただければ――

 

『あ、あなた!ひょっとして人形!?ちょっと待って。しばらく体を貸してもらえるかしら!!』

 

 え、ええと……マスター。それが命令で御座いまするか?

 

『ええ!何よりも最優先の命令よ!とりあえず内部機構を見させてもらってもいい?他にも――』

 

 

 ――――ワタシが幻想郷という土地で起動し(目覚め)た時の最初の記憶。

 

 どうやらマスターは人形師という生業ゆえに、段蔵の絡繰りの体に興味を持ったようで。召喚されてから暫くは質問攻めに御座いました。

 

 マスターはアリスと名乗り、ワタシの真名を申し上げた際には大層仰天なさっておりました。

 

 しかし、召喚の折よりは感動は少ないようにも感じました。少し変わった方ですが、悪い方ではなさそうです。

 

 

 ――――あれから二日、私は入力をされることはなく待機状態となっていました。起動し最初に映ったのはマスターの顔と――私の、私と瓜二つの人形が。

 

 マスターに尋ねるとどうやら段蔵の体を参考に模倣をしてみた結果仕上がったものだと。

 

 戦略的にも役に立つとの事ですが。

はて、段蔵に搭載されている忍術の中には分身の術がある故に複数体のワタシはいるのでしょうか?と申し上げたところ

 

『ごめん、ちょっと調子に乗っちゃって作ったの……でもあなたに偵察を頼む時に私の周りにサーヴァントがいなきゃカモだと思われるでしょ?だったら役に立つかなって』

 

 とのこと。

 確かにその通りだと段蔵も思います。ワタシはアサシンの霊基にありますから。その本質は偵察に暗殺、斥候などの忍ぶこと。

 その間の主の警護は一つしかない我が身では難しい。なれば形だけでも段蔵が共にあるならば敵も手放しに襲いかかるようなことも御座いませぬ。

 

 マスターは職人、故に。

 興が乗ってしまえば周りが見えなくなることも御座いましょう。

 ならばワタシ、段蔵めがマスターの目となり鼻となり耳となるのが忍びとして造られた者の役目でしょう。

 

 

 ――――起動、命令(プログラム)入力確認。

 

 マスターからの任務はご友人、魔理沙殿の自宅で確認されたランサーの追跡及び監視でした。日差しが傾き夕刻に至る頃か機体に損傷を負った場合にマスターの元に戻れという命令で御座います。

 

 ランサーという青い装束に身を包んだ者の名前が知れました。名をクー・フーリン。ワタシの記録にはございませんが――アイルランドという異国にて名を馳せた大英雄とも言える者、と聖杯から譲渡された記録の中に確認できました。

 

 相対するセイバーの真名は分からず、いずれも強敵と想定。

 

 バーサーカーの真名もこの場では分かりませんでしたがどうやらランサーと同陣営の様でしたがセイバーと同行。

 バーサーカーは未知数と過程、いずれも警戒。

 

 続けて偵察を――――ッ!!!

 

 気づかれた!?

 

 鳶加藤、機能調整。戦闘機構移行、加藤段蔵!参る!!

 

 

 

 結果から言って敗走と言うべきでしょうか。

 

 しかし、ランサーに見つかるとは思いませんでした。いつから気づいていたのでしょうか……だが気配遮断は今も効いています。

 

 どうやらランサーの拠点はあの紅い館。内部潜入も考えるべきでしょうが先程のことも考えて…………しばらく外で様子を見ましょうか。

 

 

 絡繰りは森にて忍ぶ、一度は露見した姿も隠し彼らを見やる。紅い霧が撒き散らされたとしても忍びは任務を遂行する。

 時刻が来るまで、それがプログラムであるからだ。

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