Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯   作:馬の羽根

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第2話 1日目 運命の夜 (後編)

「問おう、少女よ」

 美女の艶やかな唇から美しく弾むような音が響き渡る。いつの間にか開かれていた窓から差し込む月明かりに反射し、音は魔理沙の中へと染み込む。

 ―――あぁ、なんと麗しき赤色なのだろう。

 そして美女は陶器のように繊細な手を少女に向ける。

「そなたが余のマスターか」

 

「へ?」

 

「『へ?』ではない、貴様が余のマスターかと聞いておるのだ」

 

 つまり、この美女は使い魔ってことか?使い魔ってもっとこう異形のようなものだと想像していたのだが……ならば目の前のこいつは自分をたらしこむ悪魔か何かか?などと思考を巡らせた魔理沙。

………ともかく………。

 

「あ、あぁ……あんたが私に呼ばれた使い魔と言うなら、私があんたのマスターだ」

 

 この暫定使い魔の言葉を借りるなら私はこの美女のマスターになるというわけだ。契約はこれでいいのだろうか?だとしたら随分と簡素でわかりやすい。私向きだ。そういう風に考えた魔理沙は様々な疑問をうっちゃって答えた。その返答に満足したのか、魔理沙の目の前の美女は満面の笑みで。

 

「うむ!良い、そなたは良いカードを引き当てたぞ!なにせこの余を呼び出したのだから此度の聖杯戦争は必勝であろう。しかし、使い魔という呼ばれ方は好かん!余のことは…」

 

「ちょちょちょちょ!!!!ちょっと待て!!!今なんつった??聖杯戦争?」

 

 思わず遮ってしまった、私の出発点とも呼べる単語が出てきたことに耳を疑う。聖杯戦争だと?なんで今それが出てくる?

 

「なんだァ?まさか嬢ちゃん聖杯戦争を知らずにサーヴァントを召喚したってぇのか」

 

 次から次へと問題が流れ込んでくる。世界は私に思考の機会を与えることは無いのか?まさかの第三者の登場にその声の発生源に目を這わせる。

 ――そこにいたのは素人目にでもわかる歴戦の勇士、体の線がはっきりと分かる青い装束は戦闘のために無駄を省いた故だろうか。

 壁に体重を預けた男の細身ながらもしっかりと鍛え抜かれた体躯は魔理沙の体を軽く吹き飛ばすことが出来るだろう。そうでなくてもサーヴァント相手に普通の人間が太刀打ちできるわけがないのだが……。

 

「下がっていろ、マスター。

 其方が聖杯戦争を知らずとして余を呼び出したのもなにかの縁だ、サーヴァントとしての余を奏でることを許そうではないか」

 

 いつの間にか大剣を携えた赤色の美女が魔理沙の前に立つ。

 

「ほう、あんたがセイバーか。なら話は早ぇ……早いうちに会えて良かったぜ。

 早速だがこの朱槍の餌食となってもらおうか」

 

 対称的な青色の益荒男はその手に持った赤く朱い槍で空を切る。こちらに浴びせるのはいつでも葬ることが出来るという殺気めいた自信。

 魔理沙は色々な思考が頭を巡っていたがどれも言葉にならない「こいつらは何なのか」「あの本で見た聖杯戦争なのか」「自分がそれに参加しているのか」「今からここで何が始まるのか」その全ての思考が声帯を震わせることはなく―――武器の重なり合う甲高い音でかき消されてしまった。

 そう、戦いの火蓋は魔理沙の関せずところで勝手に落とされていた。

 

 互いに赤色の閃光を翻しながら交差させる。

 ―――奇妙な形をした燃えるような真紅の大剣は、朱の一閃を踊るようにいなす。

 

 ―――敵をまっすぐ睨みつける血のような朱槍は、真紅の一振りを荒々しく抑え込む。

 

 一瞬にして幾度も行われた攻防により部屋はいつも以上に散らかっていく。

 

「ふん、やるじゃねぇかセイバー。その剣術どこの英霊だ?」

 

「当ててみるが良い。ひょっとしたらセイバーなどではない、また別の余であるかもしれないぞ」

 

 剣戟の合間に挟まれる軽口は魔理沙と別世界の住民であるとわかる内容だ。つまり魔理沙には理解ができなかった、新しく制定されたスペルカードルールでだってこんなふうに涼しい顔して避けることは少なくとも今の魔理沙にはできない。目の前にいる二人はそよ風の中にいるように感じたのだ。

 

「このままでは埒が明かぬ……マスター!出るぞ!」

 

「え?ちょっ…おわぁあ!!何すんだよ!!」

 

 赤色の使い魔は魔理沙を抱え窓から飛び出る。宙を舞うガラスが魔理沙の瞳に映る。

 

「来るがよいランサー。余の乱舞、其のような狭苦しい劇場ではちと贅沢というもの」

 

「人の家捕まえて狭苦しいとはなんだ!これでもそんなに日はたってない新居なんだぞ!」

 

「との事だ、これ以上貴様が余のマスターの居城を汚すのも看過できぬ!さあ心ゆくまで!」

 

 この赤色の美女は……言葉を借りるなら……まるで劇場に立つ舞台役者のような振る舞いでランサーを呼び出す。その居城を荒らしていたのはランサーだけではないのだが……。

 

「いいだろう、セイバー。その誘いに乗ってやろう」

 

 朱槍の男は律儀にゆっくりと玄関から現れた、その様子からは余裕を感じられいつでも刺しに行けると言わんばかりだ。

 

「ではランサーよ、ひとつ指摘させてもらおう。先程も申したが余をセイバーと決めつけるには少し早計と言うものではないか?」

 

「……!!」

 

 魔理沙は気づいていたいつの間にか浮かんでいた黄金のパイプの存在に、そのパイプに自分の魔術に似たエネルギーが収束していることにも。

 パイプから放たれたのは純粋な熱量を持った魔力。ランサーなる男に直撃するかと思われたその砲は脅威的な瞬発力によって躱されてしまった。

「ハッ、あんた真っ当なクラスで来たって訳じゃあねぇな、なんのクラスだ?本命はライダーか、アーチャーか……大穴でキャスターなんてこたぁねぇな?」

 

「ふふん、七分の一だ当ててみるが良い!余が答える義理はないがな」

 自信満々に胸を張る赤色の美女は魔理沙に目配せをすると同時に語りかけてきた、魔理沙は身を震わせた。何故ならば脳内に直接語りかけてきたのだから。

 

『マスターよ、此度の余はキャスターの霊基にて顕現した。

 恐らくそなたに寄せられたのだろうな、今は真名は明かさぬがランサーを退けた後に好きなように呼ぶが良い』

 

『なんだよ、念話ができるなら最初からやってくれ。……魔術師(キャスター)か……

 おそろいじゃないか。私は魔理沙だ、同じ職の好、ここは頼んだぞキャスター』

うむ!とキャスターは満足げに頷いた。

 

「して貴様、仕掛けてこぬのか?ならばこちらから往くぞ!」

 

「いいや、今日はここまでみたいだ」

 先程までの殺気は嘘だったかのように引っ込めて男はこちらを眺めていた。決してこちらに興味を失った訳ではなく、別の用事が入ったかのような様子だ。

 

「何?貴様逃げるのか!」

 

「そう言われると背を向けたくなくなるのは戦士の性ってやつだが、こちとらマスターの命でなぁ。ここは一旦引かせてもらうぜ」

 

 そう言って彼。―――ランサーはキャスターの砲台を槍ではじき飛ばして魔理沙の家の屋根に飛び乗った。そうしてこちらを見下ろしながら声高らかに宣言した。

 

「今宵の戦い、貴様と再戦の誓いをもって預からせて頂こう!我が身をこの世に留める器はランサー、誓いを果たすその時。この身、朽ち果てるまで戦うと誓おう!」

 

 ランサーは、そのまま満月が照らす闇に沈んでいった。

 

「追わなくていいのか?キャスター」

 

「魔理沙が良いならば余もそれで良い……そもあの英霊を追うのは骨が折れそうだ。

 それにマスターから離れるわけにも行かぬからな。

 改めてサーヴァント、キャスター。この剣、この術、この身。マスターに捧げると誓おう」

 

 魔理沙は首尾よく――首は良くなかったが――使い魔を召喚をすることが出来たことよりも、問いただしたいことが山ほどあったがそれはまとまらず。とりあえず目先のことを済ませることにした。

 

「よしじゃあキャスター!私と一緒に部屋の片付けだ!」

 

 よもやキャスターも部屋の片付けなんて雑用を命じられるとは思わなかっただろう。先程までの交戦が風に掻き消えるかのように二人は平和な時間を迎えるのだった。

 

 ――具体的にはキャスターが小一時間ごねることになった。

 

 

 

 

 薄く霧がかかる湖、その畔に佇む目を引く赤き居城。名をば紅魔館、その門には4人ほどの少女と――館とは対称的な青い装束の男、ランサーがいた。

 

「ランサー、よく来てくれた。今宵は幾人と出会えた?」

 

「そうさなぁ、今のところは二騎ってところかねぇ。そんなことで呼び出したのかいオジョーサマ」

 

 ランサーは門の前で待っていた4人のうちの1番小柄な人物――否、ヒトではない。一人の妖怪に声をかけられた。その口調はまるで後ろの館の主であると言わんばかりの尊大な雰囲気を含んでいた。

 対するランサーはからかうような口調で。――実際からかっているのが顔に出ているのだが――小柄な妖怪に対応した。

 

「うー、クーフーリン!ちゃんとマスターって呼びなさいよ!せっかくこっちはマスターらしく接しているんだから」

 

 ランサーのことをクランの猛犬(クー・フーリン)と呼ぶ小柄な妖怪の名はレミリア・スカーレット。

 紅魔館の主人にして自称ツェペシュの末裔――というのもその身が吸血鬼などという得意な性質を宿した妖の類であるからだろう。紅魔館の唯一無二の主、高潔な吸血鬼、永遠に紅き幼い月。このレミリア・スカーレットは一ヶ月前にこの紅魔館でランサーを召喚した。

 

 そしてこのランサーの真名は言わずもがな、ケルトの大英雄、アイルランドの《光の御子》クーフーリン。太陽神ルーの息子は何の因果か紅き月に引き寄せられたのだ。太陽と月、本来ならば相反するものかもしれぬ存在は決して険悪な仲ではなく……。

 

「はははっ!すまねぇなぁマスター。ところでバーサーカーはどうした?見たところ霊体化してる訳でもなさそうだが」

 

 こうして良き間柄になっていたようだ。ランサーは自らの主の頬をふくらませた抗議を意に返さず、隣にいる興味なさげにその様子を眺める紫色の魔術師に気になっていたことを問いかける。

 

「あぁ、バーサーカーなら人里の方に偵察に行かせたわよ。

――貴方みたいに全員と戦うって訳にも行かないからね」

 

 ははぁ、そりゃあ。とランサーは理解したのか否かよくわからない返答をした。

 この魔術師の名をパチュリー・ノーレッジ、《知識》を名に宿した日陰の少女はこの聖杯戦争の参加者にしてバーサーカーのマスターである。

 

「はぁ…ランサー、またからかわれるのも面倒だから引き続き他のサーヴァントに適当にふっかけてきて頂戴」

 

「はいはい、んじゃあまた行ってくるぜ幼いマスターさん」

 

 クーフーリンに命じられたのは他の陣営の偵察。好きなように戦っても良いが宝具の封印と相手のクラスが推測できる程度に判明した時点で撤退することを条件に幻想郷中を歩き回っていたのだ。彼が今宵まで出会ったのは同じ陣営のバーサーカー、そして恐らく敵になるであろうアサシンそしてキャスター。

 次に出会うのはどのクラスだろうか。

 

 

 

 

 

 そして時を同じく霧の湖の近く、魔法の森の魔力溜まりに豪風と呼べる魔力の奔放が発生した。自然の変化には機敏な妖精はその様子を一部始終見守っていた。

 

「召喚に応じ、参上仕った。クラスをアーチャー!うむ……まずは腹ご………むむ?」

 

 現れたのは朱の着物を纏い、はだけた着物から覗くのは度重なる鍛錬により鍛え抜かれた体躯の精悍な偉丈夫。勝鬨をあげるかのような腹からの名乗りを聞き届けるはずだったマスターは目の前には居らず、居るのは自らを怯えた目で見る女子供。見た目は人と多少差異がある程度、この英霊には大したことではない。

故に―――

 

「うむ!やはりまずは何はともあれ腹ごしらえからだな!」

 

 そう言って豪胆な人を惹きつける笑顔を向けた。この英霊はそういう男だった。

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