Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯   作:馬の羽根

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第4話 1日目 『最強問答』

 ほんの少しだけ先の話をしよう。

 時刻は既に午前6時ほど、キャスターが召喚された7時間後。ウィリアムと名乗った人物が人里の門を潜った5時間後の出来事。

 博麗神社裏の魔法の森、上空にゆっくり流れていく日の出に照らされた黒点。不自然にぽっかり浮いた闇を生み出しているのは人ならざる妖怪という存在。外界では消えた神秘、この幻想郷ではそういった存在が五万と存在している。

 そんな土地で、宵闇の妖怪ルーミアは気ままに空を漂っていた。人喰いの名を冠するこの妖怪は称号に対して怠惰だ、今も眼下には妖怪を強化する満月の夜だというのに魔法の森をさまよう人間がいた。そして彼女は、()()()()()()()()という理由だけで自身の特性を放棄するのは普段通りの事だ。しかし今回は少しだけ違う、ルーミア自身腹が既に満たされているのもあるがまた別の要因があった。

「ねぇ、あの人間を懐柔したら私たちの戦力強化になるかな?」

 何も無い空間に話しかける妖怪幼女、その声に返すものは誰もいない。――が、彼女の耳には何かが聞こえたようだ。少々不服ながら何かに納得し「じゃあやっぱりあの子達を誘ってみようかな」と空に語りかけるように独り言を呟いたのだった。

 

 そして今度は時間を戻そう、ルーミアが遊覧飛行を楽しんでいる時刻の6時間前。ちょうど時計の針がてっぺんで交わる時刻の話。

 

 魔法の森、霧の湖が見える開けた場所では。――米に溢れていた。

 

「はははは!!そうれ、美味しいお米がどーん、どーん!」

 

「おぉーー!すごい!すごいぞトータ!!」

「あはははー!沢山のお米だー!!」

 米の発生源からは愉快痛快といった笑い声が響き渡っていた、その場には米以外に妖精妖怪人間が入り乱れるといった何とも幻想郷らしい光景があった。

「妖精、妖怪!大いに結構!彼の者の地に根付くものであるならば、先ずは景気づけに腹を満たさねばなぁ!なぁマスターよ!」

 米が出続ける俵を担ぐトータと呼ばれた男は豪快に笑っていた。ある少女とともに豪快に、痛快に。

 

「そーよ!聖杯戦争って祭りが始まるんだったら景気良くしなくっちゃね!トータったらあたいの思ってることよく分かってるじゃない!」

 

 トータの丸太のような足を報奨と言わんばかりにべしべしと叩く凍てつくような冷たい手には雪の結晶のような令呪が浮かび上がっていた。

「それにしてもあたいがマスターってやつ?になったってことはトータはあたいの部下ってことよね」

 幾つもの桶にぶちまけられた米を頬張り令呪を眺めながらうわ言のように呟いた。

「トータさんがチルノの部下って想像つかないんだけど……そもそもその刺青みたいなのなんなのさ?」

 と問うのは背中に羽を生やした少女、ミスティア・ローラレイ。彼女もまた人ではなく夜雀という妖怪だ。

「それは令呪という、言ってしまえば(オレ)と主を繋ぐ信頼の証明だな。主は(オレ)になんでも好きな命令を3回までできるというわけだ。

 ――なぁに聖杯戦争が終わればいずれ消えるものだ」

 大量の米を巨大な桶に出し終えたトータは白米に手を差し込み三角に結んでいる。トータが語った令呪の説明に気の抜けた返事を返す妖精妖怪の一同。その中から頭から虫の触角を生やした少女、蛍の妖怪リグル・ナイトバグがおにぎりを頬張りながらトータに気になっていたことを聞き始めた。

「さっきトータさんが急に現れた時にクラスとかアーチャーって叫んでましたけどあれってどういう意味なんです?聖杯戦争ってのもよくわかんないんだけど」

 

「うむ、当然の疑問だ!なんと言ったって(オレ)もこの地に付いて知識はあれど興味は尽きぬからなぁ!(オレ)の知っていることなら教えよう、代わりにこの地について色々教えてはくれぬか?」

 

「あったり前よ!あんたはあたいの部下なんだからこれから沢山幻想郷について教えてあげるってのが上司の役目ってやつでしょう!」

 

 チルノは頬張った米を撒き散らしながら宣言した。チルノの口から飛んだ米を呆れたように被るのはルーミアだった。

 

「うぅー……。チルノ、食べてる時に大声で話すのは控えてくれー……」

 

「その方の言う通りだ。マスターよ、先ずは飲み込んでからだ!腹を満たすのはいいが食事という営みを守ることも大事だ!ではお主らが米を食らう間に吾から聖杯戦争について知っていることを話そう」

 

 

 

 

「では聖杯戦争自体の仕組みは知っておるのだな?マスター」

 

 同時刻、霧雨魔法店と書かれた建物では片付けられた――いや、適当に物が寄せられた空間にバスタブが置かれていた。バスタブに張られている湯には赤い薔薇とキャスターが浮かんでいた。

 

「あぁ、昔読んだ文献に書いてあったんだ。

 ―――万能の願望器、聖杯。それを獲得するために7人の魔術師がマスターとなり7騎のサーヴァントと呼ばれる使い魔を使役し、最終的に一組になるまで争う大規模な魔術儀式……。優勝者にはその聖杯が与えられなんでも好きな願いを叶えられるという――。

 まさか私がその聖杯戦争に参加することになるとはなぁ、考えもしなかったぜ」

 

 魔理沙は床に散乱したガラス片を片付けるついでにしばらく放置していた道具や書物を整理整頓もとい、漁っていた。

 

「そう、その通り。余とそなたは聖杯戦争の参加者であり聖杯を獲得するため勝ち抜く、そこで願いを叶えるのだ」

 

 キャスターはちゃぷと水を弾く音が衝立越しに聞こえた後に「ほーん」と鼻から抜けるような音が魔理沙から響く。

 

「マスター、本当に願いはないのだな?」

 

「あぁ、あの文献にあったように根源の渦に到達する――なんてのも性にあわない。

私の願いはその時芽生えた……あー……魔術使いになりたい?って夢ももう叶えたし。あとは聖杯にかけるような願いって言ったら一生遊んで暮らせる金くらいじゃないか?」

 

 魔理沙の幼少の頃の夢は魔術使いになることだった。あとの事は全て自分が成すべき事だし聖杯を得たとして叶える願いは今すぐには思いつかない。

 

「ほぅ?まあ、かく言う余も然したる願いがある訳では無いがな!魔理沙よ、気に病む事はない余たちは似たもの同士という事だ」

 

 そもそも余は皇帝、叶えられぬものなどほとんどない!とコロコロと笑うキャスターに魔理沙はどこか羨ましさを感じていた。

 

「別に気に病んではいないがなぁ……」

 

「なに、皇帝ジョークというものだ大いに笑うが良い!」

 

 なんでこいつはこんなに機嫌が良いのだろうか、魔理沙は自作の魔術書(とは名ばかりのメモ帳)を捲りペンを走らせる。

 

 幻想郷の外の世界。この大地とは地続きではない大陸の西側、ローマ帝国の第5代皇帝。真名をネロ・クラウディウス・カエサル・ドルスス・ゲルマニクス。数々の功績を残し、歴史に名を残す人物。基督教において暴君と恐れられている。魔理沙の書いたメモだ、それを指でなぞる、先程書いたばかりだがインクは既にかわいているようだ。

 

「なぁ、キャスター。さっきも言ったが私は幻想郷以外の土地を知らない。ローマなんて国もな、あんたがやったこともここには最低限のことしか伝わってない」

 

「そうだろうな、余も幻想郷という土地は聖杯から与えられた知識でしか分からぬからな。――栄えある余のローマ帝国が忘れ去られることは決してない」

 

キャスターは湯船に浮かぶ自らの象徴とも呼べる花弁を掬う。その行動に意味があるかは分からないがその表情は誇りに満ちていた。

「なぁ、キャスター。私はこの聖杯戦争で何を学べると思う?」

「学ぶ?」

「私はさっき聖杯にかける願いはないって言ったけど目標ならある。

 ――再現したいものがある。探求したい神秘がある。……越えたいやつがいる……。

 どうしても叶えたいものだけど聖杯に与えられる結果なんて面白くないだろう?私は自分で叶えたいんだ。

 ……だから私は……この聖杯戦争を勝ちに行こうと思っている」

 魔理沙の拳には知らずのうちに力が篭っていた。そして彼女の目は、まっすぐ窓の外を見つめており星を映していた。

 

「聖杯戦争にはこの幻想郷の外の世界を駆け抜けた奴らが7人もいる。私の知らない世界だ。それを知りたい――。

 彼らの見てきた星を知りたいんだ。この聖杯戦争で私の知らない星を見ることで、私の魅た星の魔法を大成させたい。

 もちろん、キャスター。お前のことも知りたいことだらけだ」

 

「――マスター」

 力強く語った彼女の瞳には空に輝く歴史のその先が見えているようだった、そのどうしようもなく果てない夢を語る魔理沙にキャスターは思わず美しさ(儚さ)を感じた。

「そなた、存外ロマンチストよなぁ」

「へへっ、ロマン貫かなくちゃ魔術使いなんて目指してな――」

 星を見ていた魔理沙の瞳にはまた別の双星が映りこんだ。思わず固まった視線の先にはタオルを羽織るだけの全裸のキャスターが佇んでいた。

「ちょっ……お前!服ぐらい着とけバカ!!」

 思わぬ事態に顔を赤く染め、また窓の外に視線を向ける魔理沙。別に変な感情はない、単に驚いただけだ。

「む、余に向かってバカとはなんだ!良いではないか、ここには余とマスターしかおらぬのだ!余の玉体、しかと目に焼き付けることを特別に許そうというのだぞ!」

 指摘されたキャスターは逆に胸を張る始末である。先程片付けを手伝うように申し付けた時のようにまた口喧嘩が始まるだろう。

「バカ!アホ!そういう趣味は私にはないっつーの!!そもそもなんでお前が割った窓を私が片付けてお前は風呂に入ってんだ!」

「うぬぬ、貴様!バカの上に阿呆と申したか!

 そもそもあれは余のせいではなくランサーのせいだ!あの場にいたら元から悲惨な部屋がさらに凄惨な光景になっていただろうに、余に感謝せよ!」

「うがー!我慢ならん!!私も風呂に入れろ!そんな見るからに豪華な風呂、羨ましいぞ!」

 

 正直、先程までの真面目な雰囲気とのギャップで魔理沙は混乱している。別に裸を見たことではなく、あの雰囲気でまさか全裸で目の前に現れるとは思ってなかったことで驚いているだけである。

「なるほど、マスターは余と俗に言う裸の付き合い(コミュニケーション)をしたかったわけだな……初めからそう申しておれば。そなたも愛いやつよなぁ」

 この皇帝何かを勘違いしている。確実にそうじゃない方向に解釈をしている。――汚いな、流石暴君汚い。

「あ、あぁーー?!……もう知らん!!わかった!!私も入ってやるよ!」

 白黒の魔術使いも――寝不足も相まって――判断能力が著しく低下していた。

 このあと、我に返った魔理沙の心が一瞬世界の裏側に行きかけたのは言うまでもなかった。

 

 

 

「……へー聖杯戦争って優勝したら()()()()叶えて貰えるんだ」

 ルーミアの言葉でピリオドを打ち、大量にあった米が半分まで減ったところでトータの聖杯戦争教室が終わった。利かん坊が多い幻想郷の生徒達も食事中はいつもより大人しかったこともあり説明は思いの外スムーズに進んだ。

「うむ!呼ばれたサーヴァントの殆どは生前に果たせなかった願いを叶えるために召喚に応じるのだが……」

「トータはどんな願い事するんだ?あたいは決まってるぞ!」

「チルノ……そんな七夕じゃあないんだから」

 まだ聖杯戦争について若干理解しきれてないチルノにリグルがツッコミを入れる。

「うむ、よくぞ聞いてくれた!

 (オレ)の願いはこの世の全ての存在に分け隔てなく食を与えることだ!人間、妖怪、妖精、神、植物に動物。道具や機械に至るまで分け隔てなくな!」

 トータの声高らかに宣言した願いは、その場にいたもの全員の頭上に決して聞こえることのないポカンという効果音を鳴らしていた。

「トータさんの願いはなんというか……スケールが違うね」

「おうとも!そんな願いすらも叶えてくれるのが聖杯だ。

 ――腹が満たされるのであれば略奪は減り、争いはなくなる。(オレ)はそう信じている」

 ミスティアの率直な感想にも全力の笑顔で返答するトータ、そしてその笑顔を真面目なものに変え自らの主、チルノに向けた。

「そしてマスターよ、お主の願いとはなんだ。(オレ)はサーヴァントとしてではなく純粋な興味として知りたい」

 

「へへへ、よくぞ聞いてくれた!」

 

チルノは意匠返しと言わんばかりにトータのように胸を張りとびきりの笑顔で立ち上がった。

 

「あたいは最強になること!最強になって妖精の地位?ってやつを取り戻すんだ!」

 

 

「ほう、では最強とはなんぞや」

 

「え?」

 

 チルノは面食らってしまった。この男ならば笑い飛ばしながらもバカにすることなく聞き入れてくれるだろうと半ば確信してたが故に。

 そうして、トータは笑い飛ばすことはなく静かに言い放った。『最強』生前に様々な偉業を成し遂げたこのサーヴァント。真名を俵藤太、またの名を藤原秀郷。不死身の魔人、日本最大の悪霊と名高い平将門を単身で撃破した彼は日本においては紛れもなく最強とまでは行かずともそれに近いサーヴァントであろう。

 そして、武人としてもチルノのその言葉は笑い飛ばすわけには行かなかったのだ。

 

「この聖杯戦争はその最強を決める戦いだろう、少なくともそこらの木っ端を相手取るような戦いではない。巨木を相手取るような戦いだ。

 その戦いの先に最強の名を求めるのならマスター殿よ、よく考えねばならぬぞ」

 藤太の顔は真剣なものだった。その切っ先を向けられた氷精は思わず圧倒されてしまった。

「な、なによ!あんたもあたいをコケにするわけ!」

 否定でもなく肯定でもない言葉を浴びせられ思わず強く言い返してしまった。

 ――この氷精は長くを生き、妖精の扱いを長らく見てきた。人間に馬鹿にされ虐げられているのを見た。単に弱いからという以外にも因果応報な部分もあるだろうがそれでも弱い妖精が下に見られているのは我慢ならなかったのだ。

 故に自身が最強となり妖精という種族を持ち上げるのだ。そう決めたのはいつの時代か、少なくともココ最近のことではない。

「そうではないマスター。お主の願いは尊いものだろうよ。

 ――しかし、長く生きた末の答えだろうと手にした時何をするべきか考えねばそれは虚構というもの。

 つまり最強となった時お主は何をするのだ?」

 

「そ、そんなの……」

 

 言葉に詰まった。いつもなら言い返せるのに何故だか声帯を震わせることが出来ない。

 空気が変わったことによりその場にいた他の妖精妖怪も固唾を飲んでその問答に耳を傾けていた。が、その空気はまた藤太の明るい声によって覆される。

「なぁに、聖杯戦争は始まったばかりだ。ゆっくり考えるべきだろう。(オレ)と共に考えていこうではないか」

 あっけらかんと笑う藤太、成り行きでなった主従関係とはいえチルノのことは気に入っているのだ。チルノは不服といった表情だが言われたことを素直に聞き入れていた。

 

 そして、この問答はその場にいた別の者にも深く刺さり込んでいたのだった――。

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