Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯 作:馬の羽根
「――サーヴァントがくる」
そう言って立ち上がった慧音が睨みつけているのは霧の湖がある方向。聖杯戦争の始まりを告げるような言の葉にその場にいる妹紅とジークフリートは互いに会話を交わさずとも気持ちを闘争のそれへと切り替えた。
「慧音、そいつのクラスと真名は?」
妹紅は迷いなく訊ねる、本来ならば頓珍漢な問いかけだが。……今宵のみ……この
「クラスはバーサーカー、真名は――
――行くぞ妹紅、セイバー。と二人の横をすり抜け玄関へと向かう。慧音を追う形で二人も続く。
「マスター。貴女は何故、敵の情報を知りえているのだ」
この幻想郷に初めて来た存在としては当然の疑問だ、本来であれば契約したサーヴァント以外の情報はそのサーヴァントのマスターにしか開示されない。さらに言えばサーヴァント自身が名乗らぬ限りはマスターにも真名は分からないはずなのだ。
「満月の夜だけ私は東洋の神獣、白澤の権能とも呼べる能力を一部使うことができます。この幻想郷の空気を吸い、大地を踏み、存在している者であれば、その者の歴史は私の中に流れ込んでくるのです。
今現在この聖杯戦争で召喚されているサーヴァントはあなたを含めて6騎……。
――《
私は今だけはこのすべてのサーヴァントの特性と過去を知り、契約しているマスターを知っている。今どこで何をしているかも把握しています。」
しかし、この満月が天に座している間だけですが……。そう言いながら早足で里を進んでいく歴史を宿す半獣。それに追従していくセイバーは柄にもなく驚いたような顔をしている。そして妹紅は慧音の説明に補足する形で口を開いた。
「まぁ白澤の能力で知った歴史も紙に書かなくちゃ日が昇る頃には忘れているんだがな。
――期間限定の特別な能力だ、今の慧音の姿お前にゃこれっきり、見納めだ。角も尻尾もなくなるし髪の色も変わるからな」
召喚されていた時から多少なりとも気になっていた慧音の容姿の説明にセイバーは妹紅に対して無言を返事とした。その態度に妹紅は若干のイラつき覚えたがそれを指摘する前に慧音が言葉を続けた。
「そう、これっきりです。なのでセイバー、あなたにはこの幻想郷について教えます。歩きながらの授業になりますがしっかりと覚えておいてください。
私たちの行動方針である聖杯戦争の終結に関わる内容ですから」
「了解した」
短い返答を開始の合図にし、人が寝静まった人里の大通りにて幻想郷の聖杯戦争についての講義が始まった
「事の始まりはこの幻想郷の外界、日本の冬木という土地で行われた聖杯戦争です」
「それなら俺も聖杯からの知識で知っている」
「あぁ、それが全ての聖杯戦争の始まりだ。
――1874年に冬木の土地の高名な魔術師達とその名家の立ち会いの元、始まった第一次聖杯戦争。その様子をこの幻想郷の管理者、八雲紫の興味を引いた……八雲紫はただ単に面白そうだからその模倣をした。と語っていたがあの妖怪のことだなにか裏がある」
「貴女の能力でその裏は探れないのか?」
「いいや、あの妖怪の能力は正直私以上のものだ。あの者に関する歴史には様々な編纂が加えられている……。
それに私の能力は人の歴史は知れど、記憶まで紐解くことは出来ないのです」
慧音の知る歴史とはその者の歩んだ結果を記すもの。歴史の資料のように淡々と出来事を綴ったタイムラインが頭に流れ込んでくるだけなのだ。記憶、感情、葛藤までは分かりえない。
「――話を戻そう、冬木で第一次聖杯戦争が開催されたその11年後の1885年、幻想郷でも聖杯戦争が開かれた。本来の聖杯戦争との差別化を図り、名を
――しかし宣伝が足りなかったのだろうな。ルールを把握せずに好き勝手やるマスターが続出……挙句の果てには幻想郷の部外者にかき乱された上にまともなサーヴァントもほとんど召喚されず、大量の虐殺が起き……何事かと龍神が降臨する始末。
結局優勝者はルール制定にも関わった当時の博麗の巫女だった。聖杯にかけた願いは――今も尚強固な守りとなっている博麗大結界を張ることだった」
「博麗大結界?それは如何様なものなのだ」
「この幻想郷を覆う巨大な大魔術だ、元からあった結界と合わせてこの幻想郷をあやふやなものにした守り。
外からはこの幻想郷を観測することは出来ないが変わりに幻想郷から外に出ることも出来ない。
神代でもないこの時代に神霊や妖怪なんて神秘がここにあるのはその二つの結界おかげだ」
「経緯は分からないがその願いは聖杯だけでなく龍神にも届いた。この地の結界にマナを送り込み続ける強い龍脈を龍神は与え、博麗大結界を盤石のものにしたんだ。
――その影響かどうかは分からないが竜にまつわる英霊が召喚されやすくなってるのかもしれない。それはともかく過去において願いが叶えられた聖杯戦争はそれっきりだ。その60年後の1945年に
慧音はそこで口と共に足を止める。後の二人もそれを真似る形で立ち止まった。そこは人里と田園の境目、目の前には青く茂った稲と田圃に貼られた水に浮かぶ満月がひとつ。
「どうかしたかマスター」
「どうやらバーサーカーは思ったより早く到着した様だ。セイバー、一旦話はここまでです。しばらくの間霊体化するように。あとは念話で情報を共有します」
急な命令だがそれでも短く了承の言葉を告げてセイバーは消えるようにいなくなった。
「それで慧音、バーサーカーをどうするつもりだ?」
妹紅は慧音の視線の先を同じく睨みつける。いつでも殺れるといった様相だ、しかし慧音はその殺気に同意することはなかった。
「いいえ、彼はどうやら"善性"です。戦って周辺に被害が及ぶのは避けたい……ここは話し合ってみましょう。それで、私の判断が間違えていたのなら」
ここで戦うことになる――。分かりきったことまでは言葉にせず二人は踏みならされた土の道を歩き出す。その道は聖杯戦争へと続く道――開始のゴングは鳴っていないが、それでも戦いは始まっているのだ――。
「よぉーし、今宵の宴はここまでだ!皆腹いっぱい食べただろう!」
チルノ他妖怪御一行はアーチャーの出す白米をすべて平らげた、楽しい宴もここで終わり。縁もたけなわというものだ。
「まさか米俵から野菜や魚まで出てくるとは思わなかったよ」
風を受ける帆のように膨れ上がった腹をさすり先程まで舌鼓を打っていた食物の数々を思い出すリグル。藤太の宝具『無尽俵』は英霊化の影響か生前持ち合わせていた他の宝具の特性を引き継いでいるようで、その俵は米に限らず無数の食物で出来ていた。
しかし名の通り本当に無尽蔵というわけでもなく。
「むむ、やはり英霊となってしまうとこの俵を使うには魔力が必要か……以前であれば其処な湖に富士ほどの山を作ることも出来ただろうが。どうやら満たす程しか出来ぬようだ」
そう言う藤太は少し残念な様子だが、それでも十分だろと一同思っただろう。
「――なぁ、藤太。英霊召喚ってどうやるんだ?」
ほぼ全員が藤太の発言に心の中でツッコミを入れている最中、ルーミアはずっと聞こうと思っていた事を話した。
「そうさなぁ、そもそも令呪がなくてはマスターにはなれぬからなぁ。
座にいる時に魔術師の呼び声が聞こえることがある、その際の詠唱で覚えている部分はそこだけであった。これだけで召喚に応じることはまず無いだろう。
「そーなのかー」
だがルーミアはそれで満足したようで満面の笑みを浮かべた。
「お主、なにか願いがあるのか?」
藤太その笑みになにか勘が働いたのか、それとも純粋な質問なのかは分からないがそう聞いていた。容姿は幼子といえど中身は永きを生きた妖怪、何をしでかすか分からないのが普通だが。どうやら藤太はここについてその事を少し忘れかけていたようだ。
「ふふふ、
そしてルーミアは笑ってはぐらかす、その様子に藤太は容姿とは合致しない妖しい雰囲気を感じたが。先程までの無邪気に飯を頬張り仲間とともに笑っていた者をここで断じる気にはならず一抹の疑念を抱くだけに留めた。
「……そうか……ならばよい。
――それに我が
視線を隣にやると小さく体を丸めて寝息を立てている氷精がいた。どうやら満腹感と疲労感で眠ってしまったようだ。
アーチャーはチルノを抱え立ち上がる、が着物を引っ張られた。その方を見やると緑色の髪をした西洋の妖精のような見た目の――実際に妖精なのだが。――少女が着物の裾を掴んでいた。
「あ、あのチルノちゃんのお家はあっちです」
「ふむ、なるほどお主は妖精の統括の様なものか。すまぬな、案内を頼めるか?」
そう言ってその場をあとにする藤太とチルノ、そして大妖精の背中をルーミア達は見送った。
「いいなーチルノ、お姫様抱っこなんて憧れるなー」
「ふふふ、リグルって結構少女趣味っていうか可愛いよね」
えぇそんなことないよ――。とリグルとミスティアがなんともむず痒い会話を交わしている少し離れた場所で、ルーミアは遠くの山に顔を隠す月を眺めていた。
夜明けが近づき太陽の気配を感じると月を背にしてルーミアはその場を離れようと歩き出した。
「あ、ルーミアはどうするの?私たちはしばらくここら辺にいるけど」
この場から離れようとする金色の闇に気づきミスティアは声をかける。
「んー、ちょっと用事があるんだ。終わったら多分また来るかも」
「そっかぁ、んじゃあまた後でね」
またねーとミスティアとリグルはルーミアの背に手を振っていく。
闇が向かう先は魔法の森の奥、その先には――。
「魔理沙よ、荷物を纏めるなどまるでここから出ていくような素振りではないか機嫌を治せ。
出ていくのは余はマスターと共にあるのだから意味は無いのだし……そもそもそなたが入りたいと申し出たのだぞ」
ほんの少しだけキャスターは拗ねていた。そんなに自分と入りたくなかったのかと頬をふくらませ不満そうにしている。
薔薇の皇帝と共に騒ぎながらも風呂に浸かった魔理沙はあの後、魔術書や実験道具、魔術の触媒となる道具をカバンや風呂敷に詰めていた。
「一緒に入るとは言ってなかったぞ!!それに別に機嫌を悪くして出ていくわけじゃない」
そう、機嫌を悪くしたわけでなく。共に入った際に感じた2つの膨らみに若干意識が飛んでいただけなのだ。
そんなどうでも良いことは置いといて、魔理沙には考えがあったのだ。
「ここはランサーに居場所が割れただろう?相手に有利に立たれるのは癪だからな。
――ちょっとそこらへんまでお引越しだ」
ニッと笑う魔理沙には先程までの事は特に気にしていないようだった。それに気づいたキャスターは表情を戻す。
「うむ、道理だな。しかしここはそなたの工房であろうに、留守にしても良いのか?」
魔術師が工房を空けると言うことは手の内を晒しているようなものであり、故に魔術師の工房というのは人目につかぬ場所に隠匿されているのが常なのだが。
「へへ、自分で言うのもなんだがここにあるのは碌でもないガラクタばかりだ。
私の武器はこの魔術ノートに私専用便利道具に、ここだ」
と自分の頭を指す魔理沙の顔は自信に満ち溢れていた、すなわちドヤ顔という類の表情だ。
「なるほど、ならば余はしばらくの間外の警戒に勤しむとしよう。出立の際は念話で伝えるが良い」
キャスターはそう告げるとゆっくり消えていった。霊体化し辺りを見て回るようだ――。
「――よしじゃあ出発するか!いざ香霖堂」
「おーう!」
意気揚々と自宅を後にした魔理沙とキャスター達。目的地は人里近くの古道具屋、香霖堂。
そこには偏屈な店主と、もうひとつの魔理沙の工房が存在しているのだ。こうして東の空は朝の光を浴び徐々に白く澄み渡っていった。
――風だけが入り込む工房。そこに遠くから聞こえる幼子の歌声。それに呼応して工房に残された召喚陣が光を放っていた。家主が出発してから半刻ほどの出来事だ。
「
店主不在の霧雨魔法店には詠唱とは程遠い