Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯 作:馬の羽根
時計の針が響く室内、朝の光が窓から差し込む。その場にいるものに統一性は無いようにも思えるが、集った者達は聖杯戦争の関係者である。奇妙な会合の会場は香霖堂、物好きな店主はお茶と菓子を用意し円卓に座った。その向かい側に座るのが霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドという少女。その傍らに自らの
「さて、まず何から話したものか……」
店主、森近霖之助は悩んでいた。魔理沙だけであったら、端折って話すことも可能だったがアリスがいるとなるとまた別だ。何を知っていて知らないのかが予想できないからだ。
「私のことは気にしなくていいわ店主さん、適当に話を聞いて勝手に理解するから。もちろん質問とかはさせてけど」
無意識のうちに視線を浴びせていたのだろう。霖之助の心のうちはアリスにはかられてしまったようだ。
「だとよ、とりあえず香霖が訳知りな理由を知りたいぜ私は。一緒にいて聖杯戦争のせの字も話したことない癖になんで知ってんだよ」
霖之助は魔理沙が物心ついた頃から知っている。魔理沙のかつての夢、魔術師になるということをサポートしたのも霖之助だ。二人の関係は彼を『香霖』と呼ぶ魔理沙から大体推察できるだろう。
「……聖杯戦争なんて2度と起こるまいと思ってたからな」
霖之助の口から語られたのは彼の実体験だった――。
「――僕は第二次幻想聖杯戦争の参加者だった」
「……はぁ?!聖杯戦争って外の世界の話じゃなかったのか?香霖って確か博麗大結界が張られる前から幻想郷にいたって言ってたよな」
魔理沙は耳を疑った、外の世界で起こった話だと思っていたのだから当然だろう。しかし霖之助の言い分ではこの幻想郷では過去2回、聖杯をかけた命懸けの戦いが繰り広げられていたのだから。
「僕は君が聖杯戦争を知っていたことが驚きだけどね。そう博麗大結界、あれの成り立ちも聖杯なんだ」
そう語る霖之助はほんの少しだけ遠い目をした、まるで尊い何かを見つめているような。その様子に魔理沙は投げかけようと思っていた疑問を飲み込んでしまった。そしてその疑問は霖之助の次の言葉によって完全にかき消された。
「魔理沙、心して聞いてくれ。この話は
静まり返った、時が止まったような気がした。少なくとも魔理沙の中の何かは一瞬止まった。それはこの場にいる誰もが理解した。
――魔理沙の表情が少なくとも穏やかではなかったからだ。
「なぜこの話を僕が知っているのかという質問には最後に答えよう。それ以外の質問だったらなんでも答えてあげるからね」
「それでは余が問おうではないか店主よ、霊夢とは何者だ?」
魔理沙が喋らぬのなら自分がとキャスターが口を開いた、その質問に対し霖之助は話してなかったのかと目線で魔理沙に伝えたがどうやら名前だけしか伝えてないようだ。
「博麗霊夢、幻想郷の管理者の一人にして裁定者。博麗の巫女と呼ばれ、幻想郷で度々妖怪に引き起こされる異変を沈めるためのシステムに選ばれた少女。
酒と財を好むが望んでいる訳では無い。あまり他人に興味が無く。異変の際は見境なく妖怪をなぎ倒す暴力巫女。今の幻想郷で一般的な霊夢の認識はこんな感じだ」
「むむむ、散々な言われようではないか!本当にそのような人物なのか?」
「――いや、実際付き合ってみると呑気でマイペース、忘れっぽくて図々しい。でも少女らしい笑い方をして人間のために怒る。誰とでも分け隔てなく接し完全に平等主義、そしてそこの魔理沙の友人にして僕の友人だ」
なるほど、と呟くキャスターは興味津々だ。何処か感じ入るところでもあったのだろうか、前のめりになりながら聞いている。
「そして――彼女は神稚児としてこの世に生を受けた、
それは衝撃の事実だった。空想などではなく事実。しかし、それが事実だと知るものはこの場には霖之助だけだ。他の者達は事実だと信じるか否定することしか出来ず。アリス、キャスター、アサシンはそれが本当のことなのかと半信半疑のようす。そして魔理沙は――。
「ふざけるのも大概にしろ香霖!あいつが聖杯?馬鹿じゃないのか!いつものぶっ飛んだ解説なんか今は望んじゃいない――!
あいつは確かに変わってるがちゃんとした人間だ!私の親友なんだぞ!願望器だなんて道具みたいに呼ぶな!」
信じられるはずもなかった。彼女の最も親しい友人、越えたいと思った目標、人間離れしているが人間らしい感情を持った女の子。
――そう、ただの女の子なのだ。
「待って、聞いてくれ魔理沙。霊夢は――。いや博麗の巫女がそういうモノなんだよ」
「お前――ッ!!」
「だから!!だから……初めて気づいたんだ、聖杯戦争がまだ起きていると知ってから。今初めて気がついた。
彼女が僕のところに来てあんなに――生きようとしていたのが……尊いと思ったんだよ。自分を誰よりも理解している彼女があんなにも――人間になろうとしてるだなんて。まるで――」
そのあとの言葉は出てこなかった。珍しく怒鳴った霖之助に頭に血が上っていた魔理沙は我に返った。彼が感情を見せることは数える程しかない、そういう男なのに。
「あれは、第1次幻想聖杯戦争のことだ――」
そういう男なのに、彼の表情は悲しみに満ちていた。
「聖杯戦争の優勝者になった当時の博麗の巫女は聖杯に願った、世界が終わるその時まで幻想郷に神秘あれ――と。
彼女はその方法を知っていた、外の世界の肯定された
幻想郷で組み上げられた魔術式、聖杯。それは本物ではなく贋作、さらに言えば贋作の模倣品だ。器を超える術式を練り上げる魔力は当時の幻想郷の聖杯では無理だった。
「――そうして聖杯ではなく幻想郷の最高神である龍神に同時に願ったんだ。結界を盤石のものにして欲しいと。
その結果が博麗大結界だ」
ならば聖杯ではなく神に願った。竜の魔力は無尽蔵とも呼べる最高の炉心。それを超える龍、さらに神ともなればそれほどの魔力など簡単に用意できるだろう。霖之助が説明を続けようとするとアリスが手を少しあげて遮った。
「待って、質問いいかしら。博麗の巫女は聖杯の器なんでしょう?ならなんで彼女が聖杯戦争に参加しているの」
「あぁ、当時はまだ博麗の巫女は聖杯に組み込まれてはいなかったんだ。
聖杯戦争による幻想郷への被害、その対価を龍神は博麗の巫女に対して求めた際に。彼女は迷いなく自らの命を差し出し……聖杯に自分の体を組み込んだ。それが何を意味するかは推測の域を出ないが龍神はそれを認可した」
神は無償の施しなどしなかった、無償で願いを叶えるとしたらそれは救世主か一部の英雄だけだろう。
「その結果、博麗の巫女がその役目を終える度にこの幻想郷内のどこかで神稚児が生まれ博麗の巫女として育てられるようになった。
幻想郷の秩序を機械的に守り続けるシステムだ。聖杯に組み込まれた巫女以来、第二次まで選ばれた巫女たちは本当に機械のようだったよ」
聖杯に身を捧げ、地脈から魔力を吸い上げ一定周期で降臨する聖杯。それは中身のない器であれば聖杯戦争が起こらずとも生まれていたのだ。
――そうして、今代の巫女には器が満たされた。
「ゾッとしない話だな」
魔理沙はあからさまに不機嫌だった。それもそのはず、浅い付き合いではない二人が自分に隠し事をしていたことと。それを甘んじて受け入れてるどっかのぐうたら巫女が気に食わなかった。
「そして第1次から60年。――再び聖杯戦争が開始された。その時は酷いものでね、聖杯に組み込まれたあの巫女の願いも他所に7騎以上のサーヴァントが召喚されて大荒れだった。
その時は僕も成り行きでマスターになってしまってね……召喚したのはアサシン、恐ろしいサーヴァントだったが――まぁ悪い奴ではなかったよ」
そう呟く霖之助は商品棚を眺めた、そこにそのサーヴァントを思い出す品があるのだろう。
「そこそこに勝ち抜き、そこそこのところで退場してしまったけど結末は見届けることは出来た。優勝者は名も知らぬ白髪の女の子だった。彼女は途中でサーヴァントを失ったが最後まで生き残り勝利した。
――だが聖杯には願わなかった。彼女は聖杯を破壊し迷いの竹林に消えていったよ」
「破壊って……まさか巫女を殺したのか?」
「あぁ、だが巫女は満足そうな顔をしていたよ。だから僕は縛り付けられていた聖杯の役目は終わって博麗の巫女は純粋に幻想郷の管理者になったのだと思っていたんだが……どうやら違った」
そう、終止符を打ったと思っていた聖杯戦争はまだ終わってはいなかった。今代巫女、博麗霊夢が聖杯に選ばれ、3回目の聖杯戦争が始まった。
「ふぅ……一旦休憩にしよう。その後にもっと詳しい話を――」
窓に何かが当たる音がした。全員がそちらを向くとそこに居たのは1羽の黒いカラスだった。そのカラスは器用に窓を開けると口を大きく開き鳴き声――ではなく咳払いをしてから人の声を発した。
『えー、マスター各位全サーヴァントに告げます。すべてのクラスが出揃いました。既に戦闘を開始した血気盛んな方達もおられましょうが改めて。聖杯をかけて最高の殺し合いを……さぁ始めましょう
この場にいるものは聞き覚えがある無しに関わらずそれはこの聖杯戦争の運営する立場にいる輩であることが伝わった。そして魔理沙その声が誰のものか、聞き覚えがあった。
「この声は……紫か。あいつは運営側ってわけか――まぁ当然か」
理由もなく苛立つ魔理沙、いや理由はある。この幻想郷の成り立ちに関わる女が博麗の巫女のシステムに関わっていないはずがないのだから。この女は霊夢の親のような顔をしながら自ら聖杯戦争の運営に関わっている。
それだけで魔理沙が怒る理由になる。乙女の怒りはそれだけで充分だ。
「どうやら彼女は過去の失敗した聖杯戦争は無かったことにしたいみたいだな」
霖之助は三回目の開催だと言うのに第1次と宣言した紫の言葉にそう考察した。
それが起爆剤となったのかは定かではないが魔理沙は力強く拳を握っていた。
「キャスター、決めたぞ」
魔理沙の決意めいた表情にキャスターは真剣な表情で答えた。恐らく次に続く言葉を理解したのだろう。
「私は――聖杯戦争を終わらせる」
赤い壁、紅い床、朱い天井。視界すべてが燃える血のような赤い色。
しかしこの館の主のセンスは悪い訳ではなく、調度品や芸術品に至っては良いセンスをしていると言っていいだろう。
「しかしこうも赤いと目が疲れちまうぜ、そう思わないかアンタ」
赤の中を歩く青、ランサーが自分を先導するメイドに声をかけた。
「私はいいと思いますよ、赤い人以外は見つけやすくて」
悪趣味な色の館のメイド長、十六夜咲夜は微妙にズレた答えを返す。
現在二人はこの館の主に報告するために廊下を進んでいた。
流れていく赤、赤、赤。ランサーは目を休めようと窓の外に目を向けようとするがこの屋敷には窓が少ない。あってもやけに高い位置に存在している。とりあえずランサーは咲夜の背中を眺めることにした。
「なぁその格好メイドって言うんだろ?聖杯からの知識で知ったんだが……やけに丈が短くねぇか?」
叔父貴がいたら大変なことになってたろうなぁなどと妙なことを考えながら歩くランサー。要は暇なのだ、屋敷の外観より遥かに長く同じ景色の廊下に飽きつつあるのだ。
「可愛くありません?私は結構好きなんですけど……それに侵入者があった時邪魔じゃないですしね」
「違いねぇな。そういうのは結構好みだ」
ランサーのナンパじみた言葉に笑って流す咲夜は恐らく口説きに気づいてないだけである。ランサーも本気で口説いてる訳でもないのでどうだっていいのだが。
「ランサーさんはなんでお嬢様の召喚に応じたのかしら。かなりわがままな方なのに」
「まぁそこに戦う相手がいりゃあ俺はどこでだって参陣するさ、それにあのちびっ子は気に入ってんだ。
見た目と性格とは裏腹にしっかりとした信念を持ってる。それに気が強い女は嫌いじゃないからな」
「マスターをちびっ子だなんて……後で怒られるかもしれないわ。覚悟した方がいいわよ」
「あんたもわがままだなんてマスターに言ったら怒られるぜ?覚悟しといた方いいぞ」
ランサーの返しにくすくすと笑う咲夜も内心でランサーと同じように感じている。紅魔館に雇い入れられて日は浅いが彼女には人を惹きつけるカリスマがある。故に今回の聖杯戦争、最大限にサポートをすると誓っていた。
「つきました、さぁ…どうぞ」
主のいる部屋、いつもなら今から寝る時間だが今日は特別な日。扉の向こうには待ちわびていたと言わんばかりにレミリアは座していた。
「よく帰ってきたわねランサー、ところで私に何か言うことはなぁい?」
彼女の表情は笑みが蓄えられているが別の感情が混じっているのが伝わった。
「宝具のことか?まぁ命令違反だったかもしれねぇが状況が状況だった、バーサーカーから伝わっているだろう?」
「そんなことじゃないわ、もっと別にあるでしょう?」
違った、ならばなんだと思案するランサー。そしてひとつ思い当たるものがあった。俺のマスターは面倒くさいねぇと呟くとレミリアはちょっとだけ眉をひそめたがランサーの言葉を待っている。
「ぁー……。ただいま」
「よし!おかえりランサー。じゃあ報告してもらえるかしら?」
一週間前に召喚されてからというもののランサーが外に出かける度にこれを要求してきた。レミリア曰く紅魔館にいる間は家族のようなものだそうだ。
ともかくランサーは出かけてから一日のことを報告する。
――ライダーと自陣のバーサーカー以外と交戦したこと。セイバーのマスターが自らの真名を把握していたこと。セイバーに宝具を使用したこと。その宝具がセイバーではなく別の連れに当たり生死不明、おそらく死亡。その後アサシンとの戦闘中にアーチャーに乱入されアーチャーから依頼を受けたこと――。
「とまァこんなところだ。アーチャーは未知数恐らく手練だ。
ライダーはどの霊脈をあたっても召喚の痕跡はなかったがいずれ召喚されるだろう……。どうする、探してくるか?」
命令であればすべてのサーヴァントと交戦するはずだがランサーはさっさと全力で戦いたくてうずうずしていた、セイバーとの戦いの高揚感が抜けていないのだ。
「とりあえずご苦労ランサー。ライダーまでは探さなくていい、パチュリーの方で見つけたからね。
それと――今夜からは全力で行くわよ、ランサー」
ついに全力で戦う許可が出たランサーは心を震わせていた。全力で戦えないというのは戦士としてなかなかに辛い命令だった、格下の相手ならともかく強敵を見つけた今では体が疼いてしょうがないのだ。
「夜になったらここが決戦場になるわ、すべてのサーヴァントが集う……まあそれ以外の妨害もあるでしょうけど」
「なにかする気か?マスター」
レミリアの表情はランサーにも似て狂犬地味た笑みを不敵に浮かべていた。
「ええそうよ、狼煙をあげるの。宣戦布告の真っ赤な狼煙よ!ここを決戦場にし……私たちの力を見せつけるため!私たちの願いを叶えるため!さぁ――さぁ、さぁ!さあ!!!今宵は血の滾る宴にしようじゃないクーフーリンよ!」
劇場の上で舞い踊る演者のように強大な魔力を練り上げるレミリア。その様子にランサーは召喚された時以来の狂気をこの少女から感じていた。――あぁこいつは確かにこの狂気の館の主たる存在だと。
「さぁ舞い踊れ!血の宴!!喝采を浴びて狂い謳いましょう!!!――『紅色の冥界』」
彼女の練り上げた魔力はその小さな手から離れ天へ、天へ。壁をすり抜け屋敷の外気に晒された魔力は膨れ上がり爆散した。
――それは霧へと変わり絶え間なく広がっていく。その霧が包む場所は
「なるほどねぇ、これで他のサーヴァントをおびき寄せるってわけか」
ランサーは部屋にある窓から外を眺めていた。高く登り始めた陽の光をゆっくりと覆っていく霧の影響で、景色が夕暮れのように紅く染まる。
「それだけじゃないわ、例え怖気づいて逃げ隠れた奴らがいたとしても太陽を覆い隠すこの霧で私自らの出向き、屠ることが出来る……満月の夜に練った魔力、すべてを使ったわ。私の全力の
そう言って胸を張るレミリアは自信に満ち溢れていた。
「勝つわよ、ランサー」
微塵も負けるとは思っていないレミリアの笑みは誇らしげだった。
「応、任せな」
互いの強さを知る新たな紅魔の主従は勝利を確信していた。なおも広がり続ける霧は二人の滾る血潮のようにみえた。
「よし!じゃあとりあえず夜まで眠るわ。咲夜、9持頃に起こしてちょうだい」
レミリアはしばらく悦に浸っていたあと気持ちを切り替え部屋を立ち去ろうとする。
「ランサーは私が起きるまで美鈴と相手しててやり過ぎない程度にね」
「あー、はいはい。模擬戦ねー、しょうがねぇな」
ここに召喚されてから1週間、毎日相手をしている。サーヴァントに疲れ無しとはこの事だろう。咲夜は既に自らの仕事に戻り、レミリアは自室に戻り、ランサーもこちらに来てからの日課に戻る。聖杯戦争が始まっても続く日常はあるのだ。
霧の中央、悪魔の館。
館の地下には子ども部屋。
そこには壊れたおもちゃと広く、大きいフカフカのベッドが置かれていた。
ベッドの中では少女が静かに寝息を立てている。
――