Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯   作:馬の羽根

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第9話 1日目 昼 『イレギュラー』

 ――ついに、幻想の地に7騎すべての英霊が集った。聖杯戦争が始まる。

 

 戦いの始まりを告げた烏は、この閉ざされた隠れ郷(幻想)に災厄を(もたら)すのだろうか……それとも素敵な変革を与えるのか。

 

 どうであれ、妖怪(少女)達の常世(楽園)とも呼ぶべき現世(監獄)はその檻を開き始めたのだ。

 

 時を刻む毎に広がる悪魔の霧は、洛陽とともにこの極小の世界を覆い隠すだろう。

 

 それは夏の夜の夢、妖精たちが踊りだし、招かれた客は森をさまよい、いずれ紅の館へと誘われる。

 

 これは()()()()()()知られることのない運命の物語――。

 

 

 

 

  Fate/Cross Orient × 東方幻聖杯

      〜紅霧異変編~

 

 

 

 

 

 俺は、間違えたのだろうか。

 

 ジークフリートは瀕死の不死身の少女を抱えながら思案していた。

 

 ――全ては俺の戦いへの傲慢のせいだろう。

 邪竜の血を浴び、限定的だが不死身となったこの肉体であるならば。――アイルランドの光の御子……、ランサーの必中の宝具(ゲイ・ボルグ)であったとしても防ぐだろうと。

……故に動けなかった……。マスターは俺の宝具()を理解している。しかし彼女はこの鎧のことは知らなかった。やはりこれは俺の慢心が起こした事態だ……。俺を庇うことは無いだろうという慢心だ。

 あの時――俺の願いを聞いた時に、少し憤りの表情を見せた彼女。あの声は決して正義を否定するようなものではなく、彼女は()()を正義に似た何かに置く者、故に相反した感情が露見した。

 それはきっと、きっと我が身を不死に墜し永久を生きても尚――正気を保つ程の何かだ。

 つまり俺をかばったのは……きっと()()()()……。

 

『なぁ、あんた――』

 

 彼女のあの言葉の先、あれが俺への問いだとするならば。俺は答えを探さなくてはならない。彼女が目を覚まし、今1度言葉を交えた時に間違わぬよう――。

 

 あの戦いで俺は選択を違えた、ならば次は正しい道を選ぶべきだろう。そうでなくては彼女の命を穢すことになってしまう。マスターのためにも……彼女のためにも。

 

 

 長い森を、長い獣道を、長い階段を。道中でカラスが現れ、聖杯戦争の始まりを告げてからもひたすらに歩いた。朝の涼しげな日差しも中天に上がり既に昼、真夏らしいジメジメとした日差しを慧音達に注いでいた。

 彼女は休む間もなく歩き続けていたのだ。休みがあるとしたら時折振り返り、傷のふさがらない妹紅を確認する際に多少足を止める程度。変わらぬ容態を確認するたびに足取りを早め、いつの間にか5時間も歩きっぱなしである。

 現在、一行は博麗神社の境内に続く長い階段を上っていた。

 その5時間の間に同行者のバーサーカーは聴ける範囲の、言える範囲の情報を交換した。

 その内容は各陣営のサーヴァントには触れずにこの幻想郷についてだった。

 

 聖杯からの知識では神秘が隠匿されたこの世で唯一神秘が自由に生きる場所であるということのみであり、直接住人から聞く情報はセイバーとバーサーカーともに新鮮なものだった。

 特にバーサーカーは驚きの連続だ、生前まだ身近に魔術があったとはいえここまでの神秘が間近にあることはなかったのだから。

 

 これがもし、聖杯戦争でないのであれば……大切な人の命がかかっていないのであれば。慧音は喜んで幻想郷を案内していただろうに。

 

「……妹紅はやはり目を覚まさないか……」

 暑さとは関係なく慧音の頬を汗が伝う。本来であれば心臓を貫かれた程度であればひょっこりと生き返るくせに、今は死んでいるかのように寝ている。彼女の小さな胸には大きな風穴、心臓が貫かれ肺も魔力で焼かれている。なのに血が大量に流れ出るということもなく、呼吸も安定はしている。――まるで人形のようだ。

 

「不老不死である彼女に医療の知識が役に立つかどうかはわからないが……」

 

 バーサーカーが口を開く。この男はそのクラスとは裏腹に理性的で理知的だ、それにサーヴァントの気配すらも感じない。

 慧音は昨晩の能力の行使で彼が英霊であると把握しているが、その能力の期間が終わってしまった今では、目の前にいる青年はただの生身の人間のように思えて仕方が無い。

 

「僕の見解を言わせてもらうと……彼女は少しずつ命を手放しているようにも見える――」

 妹紅の体温は通常より高い、それであるにも関わらず彼女の体は死体のように、冷たい。

 呼吸も一時間前、二時間前より遥かに浅く、その生理的な動きは注視しなくては分からぬほどだ。

 慧音は何も言わなかった、彼は同行者ではあるが一応は敵対者だ、敵の言葉など信用は出来ない。

 ――が、慧音はバーサーカーのその言葉は真であると理解している。なぜならば、彼女はかねてより……どこか……どこか死にたがっていたように見えたから。

 ――――――()()()

 

「…………私は妹紅を信じている」

 いつの間にか最後の階段を踏みしめていた。ようやく神社についたのだ、そしてようやく妹紅を呼び戻せるかもしれないのだ。

 最初に目に入ったのは神社の裏の柱。境内には誰も居らず無人のようにも感じた。鳥居がある正面に回り込みながら中に誰かいないかを伺う。

 

「博麗霊夢!博麗霊夢はいないか!」

 

 慧音は中にいるであろう家主に声をかけた。あのものぐさ巫女ならまだ寝ている可能性はあるが、少なくとも今の彼女は聖杯戦争の監督役。いつまでも寝ているわけはあるまい。

 しばらくして床の軋む音が聞こえる、寝ていたということは無いようだ。

 

「負傷者が出た、呪いにやられている。巫女に解呪を頼みたいのだ……が……」

 

 慧音は()()()()人物の登場に口の動きを止めた。

 

「わかりました、では本殿の方に向かいましょう。彼女はそこで貴方達を待っています」

 

 現れたのは――聖人めいた御仁(イレギュラー)だった。

 

 

 縁側から居間の横の廊下を進み霊夢がいるという本殿へと案内されるが、慧音は場所を知らぬわけではないが好意を無下にするわけにも行かず、ルーラーと名乗った人物の後をついていく……。

 

「なぜルーラーが召喚されているんだ?なにか理由が……」

 

「バーサーカー、それは私にもわからない。ルーラーという器に入れられた我が身は本来通りのルーラーの力を宿しています。しかしなぜ呼ばれたのか、使命はまだ把握してはいません。

 ――故に、こうやって監督役の霊夢の補佐に務め、大局を見定めようとしているのです。

 貴方達が聖杯戦争のルールに反することがなければ、私が敵対することはないのでご安心を」

 聖杯戦争には防衛装置となる裁定者(ルーラー)というクラスが存在する。聖杯戦争が破綻する事態が起きる可能性がある場合、聖杯自身に召喚されるエクストラクラス。

 『聖杯戦争』という概念そのものを守るために動き、部外者を巻き込むなど規約に違反した者に注意を促し、場合によってはペナルティを与え、聖杯戦争そのものが成立しなくなる事態を防ぐためのサーヴァントである。

 ルーラーの情報はほかのサーヴァントには詳細な情報は与えられていない。存在するということを知っているのみだ。

 その召喚条件はあるが……まずこのクラスがいることが異質だ。それ故に……。

 

『マスター』

 

『あぁ、セイバー分かっている。この者は信用出来ない』

 

「こちらです」

 

 本殿に到着し扉が開けられる。そこには霊夢が座して瞑想していた。

 

「……話は全部聞こえていたわ。そいつをそこらへんに寝かせて、スグに治るなんてことはないから期待しないで」

 

 目を伏せたまま支持する霊夢、慧音はその態度に以前より冷たく感じた。

 ――面倒なことでも嫌そうな顔をし、一回断りながらも仕方なくと言った感じに、だが一瞬優しい顔をして仕事をこなすのが霊夢だったのだが。

 今の彼女どこか事務的だ。

 

 言われた通りに妹紅を床へと静かに寝かせる。改めてその傷口を覗くと酷いものだ、かろうじて生きていることすら不思議な程だ。

 

「そいつの名前は?よく生きているわね」

 

 いつの間にか立ち上がり妹紅を眺めていた霊夢が妹紅の状態を見て、表情を動かさず訊ねた。

 

「妹紅だ、藤原妹紅。彼女の体は不老不死で……いつもなら致命傷でも蘇るのだが……」

 恐らく呪い、回復阻害など幻想郷では聞いたことのない呪いだ。

 思わず感情が溢れ出しそうな慧音は眉間に力を込めなんとか耐える。

「ふーん、とりあえずあなた達は外で待っていて適当に解呪しておくから」

 霊夢は一目見ただけで呪いだと理解したようだ。何ともない、取るに足らぬ呪いだと言わんばかりの態度だ。

 

「いや、だが――」

 

「外で待っていなさい。私がしっかり解呪する」

 

 霊夢の赤みがかった瞳が渋る慧音を睨みつける。慧音は何故か従わなくてはならぬ気持ちになり、素直にその場を立ち縁側へと向かった。

「分かった――妹紅を……頼む……」

 そう言うと本殿からセイバーを連れ出ていった。バーサーカーは残ろうとも思ったが……しかし、霊夢はそれを許さず慧音のあとを追った。

 

 

「ははは、霊夢も優しいですね」

 

「何言ってんのよ、ぶっ飛ばすわよ」

 

 ルーラーの自分を馬鹿にするような態度に霊夢はそれだけで人を殺せるような眼で睨みつけた。

 

「心配させまいと感情を抑えているのは嫌でも伝わりますよ。その呪い、かなり厄介でしょうに。いや厄介なのはこの者自身か」

 

 ルーラーは妹紅の傷口を見ながら言い放つ。決して塞がることのない大きな穴、不老不死の身でありながら再生する訳でも蘇る訳でもない、その傷からは少しずつ血が流れだしている。

 

「黙って貴方も出ていきなさい。気が散る」

 

 霊夢もそれは重々承知である。呪い自体は祓い清めて解呪の札を貼れば時間経過で消え去るだろうが……。――彼女自身が望まなくては。

 

()()()……幻想郷を守る者よ。この地にいる者、誰1人。取りこぼさない……」

 

「……応援はしてますよ、博麗」

 

 互いに聞こえない呟きを交わす二人は、幻想郷に相反するものを(もたら)す。

 

 安定と変革。平和と不穏。自由と――。

 

 二人の裁定者はどう動くのだろうか。

 

 

 

 

 魔法の森の某所、顔を突き合わせて今後の予定を組む幼い姿をした妖怪が3名、ミスティア、リグルそしてルーミア。

 

「ついに始まっちゃったのね聖杯戦争」

 

 使い捨ての式が剥がれたカラスを指先で弄びながら呟くのはミスティア。

 

「でも勝ち抜けば複数人の願いでも叶えられるの?」

 

 不安そうに訊ねるのはリグル。

 二人はルーミアの誘いで同盟者として聖杯戦争に参加しようとしていたのだ。

 

「うーん……トータは勝利者が願いを叶えられるって言ってたけどなぁ。どうなのライダー?」

 

 ルーミアは首をかしげながら少し離れてこちらを眺めている大男に声をかけた。サーヴァントである彼であるならば分かるだろうということだ。

 

「………………」

 

 しかし彼は返答しない。どうしたのだろうかとルーミアは彼に近づき、肩を揺する。

 

「ねーぇ、ライダー?聞いてるの?」

 

 

 

 

 

「………………ハッ!!!!ここはどこ!!拙者は誰!!!ここは幼女の楽園?黒ひげの夢の中か!!!うっぴょー!!!金髪ロリっ子に大胆なスキンシップ!!!柔らかい御手が我が肉体に染み入りますな〜ボクちん死んじゃってもいいわー!!!!」

 

 ――――なんだこいつは。

 

 リグルないしミスティアはそう思った。

 最初に彼を見た時恐ろしい大男だと思っていたのだが、口を開くことは無かった。しかし初めて口を開いて出てきたのは、とんでもないびっくり箱だ。幻想郷にいてあんな言葉遣いの者には出会ったことがない。

 正直妖怪である自分たちでも不気味とまで思える。それに普通に接するルーミアもルーミアだが。

 

「なんだ起きてるじゃないかー、ねぇライダーみんなで勝ち抜けば複数人でも願いは叶えられるかな?」

 

「デュフフフwwwそんなの勝ち抜かなきゃ分からないでござるよー!!!

 それに拙者のロリっ子ハーレムの夢はもう叶えられた……我が生涯に一遍の悔いなし!!聖パイに祝福あれ――!

 とお巫山戯はここまでにして……少なくともマスターとサーヴァントの分は叶えられる。俺の船に乗船して聖杯に願えば……わんちゃんいけっかもーなんて黒ひーは言ってみたりー!」

 

 ――――なんなんだこいつは。

 

 ミスティアとリグルは再び思う。不気味さを通り越して逆に清々しさすら感じる。

 それほどまでに支離滅裂なライダーの口調に辟易としながらも、とりあえずは最後までやってみようという気にはなった。

 

「と、ともかく黒ひげさんの言う通り勝ち抜けるところまでやってみようか!」

 

 リグルは苦笑いしながらも手をぐっと握りしめてやる気を貯めた。

 

「この黒ひーもリグちゃん達のためにも頑張るぞい!ぐふふ」

「うわ。」

 

 裏声でリグルの真似をする小汚いおっさんに思わずミスティアは口から嫌悪がこぼれてしまった。まあライダーはそれでさえ「ハーピー的美少女の冷たい眼差しぃ!」と言いながらデロっとした笑みを浮かべている。

 

「それじゃあ次はだれ誘う?ライダーが仲間は沢山いた方が勝ち抜けるって言ってるからできるだけ集めたいんだー」

 

 ルーミアはそんな黒ひげの気色の悪いロールプレイなんて知ったことかと話を進める。ルーミアが魔理沙の自宅、霧雨魔法店の魔方陣で偶然の召喚を果たした時に伝えられたこと。

 

『俺一人でも強い、だが仲間がいればいるほど我が宝具は強くなる……故に同志を集めるべきだろう。――――つまりぃ……他にも女の子紹介してくだちい』

 

 ルーミアはその通り知り合いを集め聖杯戦争に挑もうとしているのだ。

 

「うーん、そうだなぁ竹林に影狼さんがいたけっなぁ。満月は終わったしひょっとしたら会ってくれるかも?」

 

 ミスティアは迷いの竹林に行くことを提案した。影狼、主に竹林に住むウェアウルフ。希に人里に現れるが満月の夜が近づくと姿を見せなくなるが……それも過ぎた。

 ならば仲間に引き入れることも可能ではないかと。

 

「竹林に行くならてゐも誘ってみる?最近はあんまり見かけないけど」

 

 リグルは同じ場所で妖怪兎のトップを張っている因幡てゐを誘うことを提案した。あのウサギなら悪知恵が回るし結構戦力になるんじゃないかとのことだ。

 

「うーんじゃあまずは竹林に行こっか。途中で会えた妖怪にも勧誘しよう」

 

 ライダーのマスターであるルーミアが一応まとめ役ということになっている。次の目的地は迷いの竹林に決まったようだ。

 

「次回!そうだ……竹林へ行こう。ってことですなぁ。では不肖黒ひげ、どこまでもお供致しますぞー!!まぁサーヴァントだから当然なんだけどねっ!!」

 

 彼らの道のりは指し詰め珍道中と言ったところだろうか。恐らくこの幻想郷においてジョーカーとなり得るこの男は何をしでかすのか。

 

次回、黒ひげ死す。

 

とか心の中でネタをぶっ込んで黒ひげはたくさんの美少女とともにこの聖杯戦争を楽しむのであった、まる。デュフフフフwww

 





召喚された時のことだった、歌に導かれ顕界し肝心のマスターがいない。だとすると外で歌うあの少女がマスターか。

少女の前に立つ。

どうやら本当にマスターのようだ。

あらためて目の前の少女を見た、暗闇に浮かぶ月のような少女。無垢な表情、無邪気な振る舞い。彼女は―――不気味だった。

瞳の向こうに広がるのは満たされることのない深淵。

ならば飲み込まれまいと、しばらくは道化を演じるのみだ。
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