年齢 十三
身長 145センチ
好きなもの 船 鳥 養父 自由 入理乃
嫌いなもの 過干渉 実の両親
早島市で活動する魔法少女で、魔法少女歴は三年とかなり長い。明るく優しそうに見えるが、実はかなりわがままで、そのうえ短期で乱暴でナルシストという、問題だらけの性格。外面だけはよく、学校では目立たずおとなしい方であるが、周囲を気にかけているようで気にかけていない。固有魔法はレプリカの精製だが、戦闘ではゴミをつくるだけなので、あまり役にたたない。しかし固有魔法の性質から武器を造ったりといった魔法に長けている。
「知ってるの……?って、ああそうか。有名人だもんね、入理乃は。逆に知らない人がいないよね」
一瞬不思議そうに首をかしげたが、サチは納得したような顔をした。
サチの言う通り入理乃は有名人だった。早島市の中学生、特に夏音の母校である早島小学校出身の生徒ならば、その少女のことは皆知っている。それくらい、彼女の名前は広まっている。
阿岡入理乃という少女は特別だった。この早島市一番のお金持ちの名家、阿岡家の一人娘であり、ばりばりのお嬢様。通っている学校も、市内で有数の名門、蘭ノ家学院だ。母校は夏音と同じく早島小学校であり、何度かクラスメイトになったこともある仲だ。かなり頭が良く、百点以外のテストをとったことがないとまで噂されている。スポーツも優秀で、全国記録を何度も塗り替えるほどであるらしい。所謂天才に分類される人物で、特に小学校六年生から始め出した書道の才能が頭一つ、飛び出ていた。
しかし、その性格は気弱でいつもおどおどしており、夏音には彼女が自己否定の塊に見えた。六年生になるとそれはさらに悪化して、夏音は密かに彼女のことを心配していたが、そこまで話すことは互いになかったので、中学生になったと同時にその関係は絶えた。
入理乃がはあはあと息を荒げながら、到着する。サチは、途端怒りを露にし遅いと怒鳴った。
「船花ちゃん、ごめんね。私が使い魔に手こずってる間に、魔女がそっちに結界ごと、移動しっちゃったみたいで。その…」
「何やってたんだよ、入理乃!!この魔女はあいつが育てたやつだし、自分が排除するって、テメエは言ったよな!?それを忘れたのかよ!?今度から気を付けろよな!?」
「うん……。ごめんなさい。気を付けるわ……」
縮こまりながら言う入理乃。年下の後輩から怒られるその姿には、どこか哀愁が漂っている。どうも、入理乃はサチに対しては頭が上がらないらしい。と、そこでようやく夏音にようやく気がついたらしい。
「ところで、そこの子は大丈夫ーーえ!?」
入理乃が、夏音を見た瞬間驚いた表情をする。何故この場にいるのか理解ができないとたばかりに、彼女は取り乱しながらキュゥべぇに問いかける。
「な、何故、その子がここにいるの!?一般人のこの子が、どうして……」
「それは、魔女が夏音の家に移動したからだよ。恐らくサチの魔力反応を魔女が捉えて、結界に取り込もうとしたんじゃないかな。ここの魔女は、好戦的だからね」
幸い、この魔女の結界は小さく、主の影響か他の一般人を飲み込もうとはしなかった。それに、この辺りを通っている通行人もいなかったし、夏音の自宅は住宅街の外れのほうにあるから、被害はでなかったようである。だが夏音の場合は魔法少女が運悪くそばにいた。だから、巻き込まれるように結界の中に入ってしまったようである。
「キュウべい。その言い方だと、この船花様が魔女をおびき寄せたっぽい感じになるじゃん?マジやめてよね」
「でも事実、こんな所まで魔女が来るなんてことは滅多にないし、過去にも同種の魔女で同じことがあっただろう?だから、客観的にーーわかったよ、黙ればいいんだろ?」
サチが錨を自身の頭上に構えたのを見て、白い小動物は口をつぐんだ。それを見てサチは錨を肩にのせ、満面の笑みを浮かべた。入理乃は苦笑いをしていて、疲れたような色を浮かべていた。色々苦労してるのかな、と夏音は少し入理乃を不憫に思った。
「巻き込んじゃって、ごめんね。たてるかしら、えと、…菊名さん」
座り込んでしまった夏音に、入理乃は少々混乱した様子で、手を差し出す。その手を借りて立ち上がると、夏音は礼を言った。
「ありがとうございます、阿岡さん。すいません、わざわざ」
「そんなことないわ、菊名さん。それにこんな私に、お礼なんて、言わなくていいから…。あと、それから……。そんな阿岡さんって言う呼び方じゃなくて、リノでいいわ。堅苦しい感じは…、その…、苦手でしょうし」
おどおどしながら、気弱な態度で入理乃は言う。相変わらず、自信がなさそうに見える。何故この子はこんなにも自信がないのだろうか、と思いながら、夏音はできるだけ温和な笑顔をつくった。
「じゃあ、こっちも菊名さんじゃなくて、夏音で良いですよ。リノ」
「………………」
「リノ?」
「ごめんない。何でもないの。ただ、少しボーとしちゃって」
「そうなんですか?」
「ええ。それじゃあ、いいのかな?私も…、夏音ちゃんって呼ばせてもらおうかな…」
入理乃は、少し遠慮しながら僅かにはにかむ。夏音も釣られるように共に微笑んだ。この状況に怯えていた夏音だったが、その緊張が少々和らいだような気がした。
「そこのお二人、いつまでこの船花サチ様を待たせてんの?さっさとさー、魔女倒しにいこうよ。じゃないと、結界が消えないよ?」
「消えない?」
「そうだよ、魔女を倒さないと、結界が消えないんだよ。何せ、結界を造りだしてんのは魔女だし。幸い最深部は近いみたいだし、このまま一気にこちらから攻めこむと思うんだ。だから、私たちから離れないでね。わかった?えーと、えーと。……ボケカス!!」
「名前違います!!菊名夏音です!!ごまかさないで!!」
いくらなんでも、ボケカスはあんまりだ。自分の名前を忘れたからって、そんなごまかしかたをしないでほしい。
「……な!!ごまかしてないし、夏音って名前は知ってたし、ボケカスって顔してるしボケカスって呼んでいいと思うし?」
「なんていう暴論ですか……」
「三人とも、そろそろ警戒をした方がいい。また使い魔が集まりだしている」
キュゥベえの言葉に、はっとなる三人。周りをみるとわらわらと、使い魔がこちらに向かってくるのがわかった。しかも、先程の犬猫の使い魔だけでない。馬の頭部から綿菓子でできた蜘蛛の足を生やした使い魔や、ランタンを持つ、空中に浮かんでいる鳥の使い魔などの、新しいタイプの使い魔が混じっている。
「さっきよりも、多い……!!」
身を固くする夏音とその前に立つサチと入理乃。キュウべぇは夏音の肩にのぼり、周りを見据える。
空気を切り裂くように馬の頭部の口から、糸が発射される。それは本来ならば殺傷能力を持つことなどない、ただの糸。だがそれに魔力を通し、勢い良く射出することにより岩をも砕く立派な凶器となっている。
その凶器による攻撃が三方向から同時に来る。しかしそれよりも前のタイミングで、入理乃が着物の袖からそれをーー三つの和紙を素早く取り出した。
ばっと、ばらまかれた。ひらりと紙が空を泳いで、瞬時に鉄のように硬化。肥大化して攻撃をすべて防ぐ。そして防いだあとは、その形は突如くしゃくしゃと、鋭く細く針のような形状に細められらた。
「行け」
入理乃の号令を出す。三つの紙の棘は主の命令を聞き飛んでいく。先程の糸と同等か、それ以上の速度で飛来したそれらは、他の使い魔をも一掃。馬の使い魔に貫通したころには、すでに周囲の何体かの使い魔は、大量の光の粒になって無へとかえっていった
「スッゴい。紙が……」
「入理乃の魔法は紙を操ることなんだよ。自由自在にその性質、形状を変えることができる。例えばーー」
入理乃が、筆を地につけ一線を描く。墨の軌跡から、ごう、と和紙でできた長方形の箱が縦に伸びだした。
「船花ちゃん」
「わかった」
サチは紙の箱を足場をにし、鳥の使い魔へと錨を槍のようにつきだしながら跳んだ。鳥の使い魔は、慌てた様子でランタンから炎の攻撃を放射。しかし遅すぎる。サチは炎ごと使い魔の体を貫く。そしてまた同じように精製された和紙の足場を踏みしめて飛躍。巨大な武器を、さらに大きくさせ使い魔をまとめてはたきおとした。
ものの、数分の出来事だった。あっという間に使い魔を片付けた魔法少女達は迷わず走りだし、夏音も後に続く。
襲い来る敵の群れを、二人は次々撃退していく。サチが豪快にアンカーを振り回しては使い魔を牽制し、怯んだ隙に投擲された紙が突き刺さる。使い魔の攻撃を、入理乃が紙を飛ばして目くらましをしかけ、サチは武器の爪を食い込ませ倒す。あまりに見事な連携と、僅かな一瞬をも逃さない正確無比な攻撃だ。夏音はまるでフィクションでも見ているような気持ちで、思わず感嘆していた。
十分ほどしただろうか。やがて、突き当たりに行き着く。その先にあったのは、一つの扉だった。描かれていたのは、馬の死体のパーツ。それが中央で積み上げられている様子だ。夏音は血の気が引いて、吐き気が込み上げてくる。目を背け、青ざめた。
「この先が、魔女がいる最深部だよ。夏音」
「魔女がいる……」
唾を飲み込む。恐怖が、込み上げてくる。凶悪な使い魔の親玉が、この先にいるのだ。ただでさえ使い魔は、怖くて恐ろしい存在なのに、それ以上の存在なんて絶対危ないに決まっている。本当に、魔法少女は魔女を倒せるのだろうか。
「ま、こんな魔女に、負けはしないよ。こう見えても私たち、ベテランだよ? 特にこの船花様は強いからね。そんじゃそこらの魔法少女とは戦闘経験がちがうんだよ。安心しなって」
えっへんとサチは胸を張るが、それでも夏音は暗い表情のままだ。すっかり、彼女は怖じ気づいてしまった。命の危機にさらされたことなど、これまでに一度もなかった夏音にとって、使い魔や結界は、明確な死を予感させる死神だった。
「夏音ちゃん。こんなことを言うのはあれだけど、この魔女は以前戦ったことがあるから、攻略法方はわかるの…。だからね、船花ちゃんの言う通り安心していいわ」
入理乃が、夏音の目を見据えて言う。夏音はうつむきながら、どうにか返事した。
「じゃあ、行くよ。よーし、魔女お!!この船花サチ様が、フルボッコにしてやっからなあ!!」
サチが豪快に叫び、ドアを乱暴に蹴破る。三人は中へと足を進めた。
鉄塔の魔女の使い魔。その役割は鉄塔の管理。
馬の頭部から吐き出した糸で、鉄塔の修復を行い、蜘蛛の足であらゆる場所を昇ることができる。働き者で、戦闘でも使い魔の中では最強だが、他の使い魔と同じく頭が悪い。
鉄塔の魔女の使い魔。その役割は作業場の照明。
カンテラを運ぶ、鳥の姿の使い魔。カンテラから炎を出し、攻撃する。照明の役割を与えられているも、基本的に仕事をしようとしない。したとしても、無能で気がきかないので、いても困るしいなくても困る、迷惑な存在。しかし、この使い魔は、そのことを気にしていない。