魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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一ヶ月ぶりの投稿です
結と夏音のデート回前編
私服姿の挿絵を書きたかったんですけど、ここ最近忙しくて全然書けなかった…
きっかり久々の一万文字です
本当にびっくりするくらいきっかり一万文字


SIDE:結 3

 寝巣扉都市圏。

 それが、ここ一帯に広がる都市圏の名前だった。

 

 元々は何の変哲もないただの地方都市群。

 しかし十数年前から目覚ましい発展を遂げ、都会に生まれ変わった。

 だがその影響で治安が悪化、貧富の格差が生まれ、あらゆる社会問題が発生したと言われている。

 しかも二年前、大体的な都市開発を行政が宣言。その急激な変化は魔法少女の増加という更なる歪みとなって現れる。

 結果あちこちで縄張り争いが勃発。現在に至るまでその争いは続けられているのだった。

 

 ちなみにこの寝巣扉都市圏、全部で五つの市から構成されている。

 

 まず一つ目、牛木草市。

 人口、四十五万人。

 この市は昔、早島の一部だった。

 つまり本来ならば現在も牛木草市は早島と呼ばれるべき土地なのだが、明治時代の時、独立。

 以来、牛木草市は独自の道を歩き始め、今では寝巣扉市のベットタウンとして栄えており、裏では暴力団が活動しているという噂。

 その噂が本当だと知ったのは……また別の話だ。

 

 次が二つ目、飛雄角市。

 人口、三十二万人。

 ここは観光地として有名だ。大正時代の西洋風の建物が残り、古き良き町並みが広がっている。だがその分老人と若者の間で軋轢があり、飛雄角公園では行き場をなくした子供達が集まっている。そこでは薬物売買やら売春が横行しているのだとか。

 良くないニュースはかなり聞く。

 

 続いて三つ目、トメ井市。

 人口、九十九万人。

 海に面する港町。寝巣扉市に次いで最も都市化が進んでいる市で、いさ土との結びつきが強い。最近市長が新しい人になっていて、実は広実一族の人なんだけど、あまり面識はない。

 

 そして四つ目、いさ土市。

 人口、四十五万人。

 こちらも同じく海に面した工業地帯。寝巣扉都市圏では面積最大の市だ。

 

 最後に五つ目、寝巣扉市。

 人口、百三十五万人。

 その名の通り寝巣扉都市圏の中心地。

 有数の大都市であり、魔法少女の数が特に多く、周辺のあちこちから流れてくる子も沢山いることから、ついた渾名が“魔法少女の交差点”。

 その性質上、中立地帯であり、同時に無法地帯である。

 

 これら五つの都市は支え合い、強調しながら寝巣扉都市圏の経済を回している。

 これからの更なる成長と発展を目指して。

 以上が寝巣扉都市圏の概要である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ――閑話休題。

 

 と、ここまでごちゃごちゃここの地域について話をしたが、つまり何が言いたいかっていうと。

 これだけ人口がある分、人の往来自体も盛んなわけで。当然と言えば当然、鉄道も整備されている。

 それは蜘蛛の巣のように張り巡らされ、寝巣扉都市圏内であれば何処にでも行ける反面、東京の地下鉄のように複雑だ。

 しかしまあ、それは些細なことだ。

 今はスマホもあるし、慣れれば割と迷わないようできている。

 

 問題は別にあった。

 そう――前にも言ったが、ここの電車……揺れる。

 それはもう思いっきり揺れるのだ。どんな対策を取ってたとしても。

 

 結果――

 

「……うぅ……」

 

 僕、広実結は現在、乗り物酔いのせいで目眩に襲われているのだった。

 とは言っても電車からは降りてるし、無事、寝巣扉市には着いていた。

 ここは駅前のカフェの中なのだ。

 目の前の席には当たり前だけど夏音ちゃんが座っている。彼女は僕の醜態に、何とも言えない顔をしていた。

 

「だ、大丈夫ですか? 家主さん、すごい顔色悪いですけど……」

「……多分、大丈夫」

 

 それに僕は、ヘロヘロと答えるしかない。

 本当、見栄なんて張るんじゃなかった……。

 

 夏音ちゃんに何も相談せず、ありたっけの酔い止めを飲み、魔法で体を限界まで強化した僕。更には回復魔法も常時発動し、考えられる限りの手段を使ったために、すっかり慢心していた。

 これだけやったんだ。流石に耐えられるだろうと。

 

 が、僕の体質は何処までも呪われていたのだった。

 五分もしないうちに吐き気に襲われた。

 ヤバい……と思った時には、夏音ちゃんに異変を見抜かれていて。

 

 そうして何とか耐えつつ、駅に着いたところで事情を話し、今に至る。

 

「うぅ、申し訳ない……ごめん、夏音ちゃん」

「いえ、そんな。私の方が誘った立場ですし」

 

 僕が謝れば、夏音ちゃんはブンブンと首を振った。

 しかし電車代も馬鹿にはならない。それに帰る時のことを想像すると、余計な気苦労をかけることになる。

 後腐れのないよう、お互いのためにもお詫びしないと……などと考え、僕はメニュー表を開き、夏音ちゃんに差し出した。

 

「迷惑をかけた分奢るよ。好きなの選んで良いよ」

「え、良いんですか?」

 

 すると思いの外食いついてきた夏音ちゃん。

 あれ、意外だな……と僕が目を瞬かせていると、遠慮がちだがウキウキした様子でメニュー表を受け取り、「ありがとうございます」とお礼を伝えてたから、

 

「実は前々から飲みたかったのがあるんですよ。これです」

 

 そうやって開いたページを見せてきて、一番上の欄を指差す。

 それは――

 

「ウインナーコーヒー?」

 

 あまり聞いたことがなかったが、確かにそこにはウインナーコーヒーと記載されてあった。

 しかも限定メニューらしい。

 その限定の部分を強調し、夏音ちゃんは若干興奮したように続ける。

 

「今逃せば二度と! 二度と飲めないんです! このオシャレなコーヒーが! 高いから諦めてて……結さん本当にありがとうございます!」

 

 そして夏音ちゃんは、かなり嬉しそうにお礼を言った。

 

 ようはここぞとばかり、豪華なのを選んだということらしい。

 すごくちゃっかりしてる。いや、それくらい頼んでも良いと判断されたのだろうか? そう思うと悪い気はしなかった。

 それに高いと言っても、そんなに無茶な金額じゃないしね。

 

「うん、了解」

 

 僕は頷く。

 携帯をバックから取り出し、電子マネーの残高を確認しようとして。

 ――そのタイミングで夏音ちゃんから何かを渡された。

 

「あ、そうだ家主さん」

 

 と、いつのまにか財布を手に、そこから数枚のポイントカードを出してきたのである。

 

「買う時にこれ、見せてきて下さい。ポイント二重取りになるんで」

「二重取り?」

「ポイントが倍でもらえるんです。お得です」

 

 ……へぇ。

 …………。

 ……何でそうなるんだろう。

 

「フーン、ソウナンダ」

「今めんどくさいって思いましたよね!?」

 

 少しふざけてみると、夏音ちゃんはカフェの中だから声を控えめにしつつも、面白いくらいにムスッとなった。

 

「いつも私のポイントでお菓子食べてるくせに。アレ、私の血と汗と涙と後ついでに時間の結晶ですからね! もうビビンバもハンバーグもグラタンも作ってあげないですよ」

「う……冗談だって! はいはい、ごめんごめん」

 

 と、僕は堪らずそう軽く謝って。

 

「それじゃあそろそろ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 体調が回復してきたタイミングで席を立ち、コーヒーを注文しに行ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ――とまあ、始めから色々グダグダだったんだけど。

 ここからようやく、町の中で遊ぶ――もといデートの開始である。

 

 まずカフェを出た僕達の目に飛び込んできたのは、聳え立つビルの摩天楼だった。

 そしてその中を行き交う、人、人、人の群れ。

 

 流石は寝巣扉市中央街といったところか。

 東京、神浜に劣るとはいえ、大都市の発展具合をこれでもかと見せつけられてるみたいだ。

 このままでは人の波に飲まれる。

 邪魔にならないよう道の角っこに寄って、僕は夏音ちゃんに聞いた。

 

「それで最初は何処から行くの?」

 

 この寝巣扉市に行くことを決めたのは当然ながら夏音ちゃんだ。

 多分、夏音ちゃんなりの配慮だろう。前にも言った通り、ここは魔法少女の交差点。魔法少女が大勢いるから、早島、牛木草よりも目立たずに一緒にいれる。

 だが生憎と、僕は寝巣扉市に関してそこまで詳しくない。せいぜいその周辺……飛雄角辺りぐらいしか知らないのだ。

 というわけでデートプランを夏音ちゃんに委ねてみた。

 

 夏音ちゃんは一生懸命考えてくれたようで、腰に下げたウエストポーチから遠足のしおりのようなものを出して渡してきた。

 思わず僕が聞き返したのは言うまでもない。

 

「? 何これ」

「ご満足いただけるよう、いくつか複数のプランを用意したんです。Aコース、Bコース、Cコースって」

 

 料理のフルコースメニューか何か?

 

「最後のDコースは複数のプランから行きたいところをセレクトするコースとなっております。少々お時間はかかりますがオススメですよ」

 

 そしてまたもフルコースの紹介みたいに言う夏音ちゃん。

 なんだろ。これ……ボケてるのかな。わざとなのかな。どっちだろう。

 よく分かんないからノリに乗っとこ。

 

「そ、そうなんだ〜。迷っちゃうなあ〜、どれにしようかな〜。悩むなあ、店員さん」

「???? え、突然何ですか……?」

「……」

 

 死にたいッ!

 

「ご――ごほん!! じゃ、じゃあこのAコースで! Aにする! 楽しそうだし」

「はい。了承りました。Aコース、お一つですね」

 

 と――誤魔化して答えれば、夏音ちゃんはやはりボケてるのか分からない受け答えをするのだった。

 だからもうその言い方は飲食店の店員だって。

 

「でもなんか色々とありがとうね、夏音ちゃん」

 

 しかし複数案を用意するのはかなり手間がかかったはずだ。気を使ってくれている。そのことに僕は改めて感謝を伝えた。

 すると夏音ちゃんは気にしないように「いえいえ」と返して、

 

「それじゃあ行きましょう!」

「おー」

 

 そうして僕達は移動し始めた。

 でも。

 

「――あ、やべ」

「? どした」 

「道間違えてました。……引き返します」

 

 締まらないなぁ……。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「よーし。今度こそ間違いなく辿り着けました」

 

 それから十分後、何度かぐるぐる回ったものの、僕達は無事、目的地に到着した。

 そこは国内でも有名な、某企業が運営する超大型ショッピングモールである。

 寝巣扉市の若者が集まるスポットの一つで、勿論、休日なだけあってかなり賑わっていた。その人の多さや並んでいる店舗の多さに、僕はもの珍しげな顔でキョロキョロと辺りを見渡す。

 ここに来たのは、実は初めてだったのだ。

 普段は地元のスーパーにしか行かないし。

 

「沢山お店があるなあ……」

 

 案内板を確認すれば、ここがいかに広いかザッとでも分かった。

 多分、その気になれば一日中時間を潰せそうではあるが、夏音ちゃん曰く午後はショッピングなので、出来るだけ回るところは絞りたい。

 ああそれと、

 

「夏音ちゃんの意見も聞かせて。何処行きたい?」

「へ、私?」

「二人で来てるんだから。買いたいものとか夏音ちゃんにもあるでしょ?」

 

 すると夏音ちゃんは何故か僕をじっと見た。

 

「なら服見ましょうよ、服」

「服?」

「リボンとかでも良いです。だって綺麗な顔してるのに、絶対色んな格好似合うのに! 家主さん全然自信なさそうにしてるから! もったいないですよ」

「そうかなぁ」

 

 僕としてはいまいちピンとこないのだが……。

 ああ……けどそう言えばなんか、夏音ちゃんそんなことぶつぶつ呟いてたなぁ。

 もしかして僕に色んな服着せたいから、デートを口実に遊びに誘ったんだろうか?

 

「だけどこれでもオシャレしてきてる方だよ、今の僕。いつものユニクロファッションじゃないし」

 

 だから僕も言い返す。

 いくらズボラな僕とて、遊ぶ時くらいはTPOに合わせた服を着るものだ。

 あと、髪だって頑張って編み込んでるよ。スカートも履いてるよ。

 今の僕は何処からどう見てもイケイケな感じだよ(多分)。

 

「いやいや。そうは言っても、同じデザインの使い回しばかりか、組み合わせすら色違いしかないのは流石に……センスがズレてますよ」

「むっ……でもそう言うなら夏音ちゃんだって……」

 

 と、そこで僕は、改めて夏音ちゃんの格好を眺めた。

 そう言えば夏音ちゃんの私服は初めて見る。いつも制服かラフな部屋着姿なので、結構ギャップがあった。

 

 まず髪を下ろしている。

 頭にはキャスケット帽を被り、黒いシンプルなTシャツの下に白い長袖を着込んでいる。長ズボンに動きやすそうな運動靴は活動的で、全体的に見ればかなりシンプルなのだが、首元のチョーカーと言い、手首にはめたシュシュと言い、ところどころは派手である。

 だが……一番気になるのは目元だった。

 

「今更気付いたけど、メガネがないだと……? え、コンタクトなの?」

「いえ、裸眼ですよ」

「裸眼!? なら視力は!?」

「両目ともに1.5」

「僕より良いじゃん! 何でメガネ!?」

「それは勿論、カッコいいから!!」

 

 ドヤァ……と、ぜんっぜんカッコよさのカケラもない理由で夏音ちゃんは得意顔を披露した。

 

「メガネで敬語だと、すごい賢そうに見えませんか? 知的でクールで美人って感じで!」

「いやいや。どっちかって言うとアホでポンコツで面白い子にしか見えないよ……」

「なっ……ポンコツ!? この私が……!?」

 

 僕が素直な感想を漏らすと、夏音ちゃんは心外だと言わんばかりに、割とショックを受けてるのかブルブル震える。

 そうは言うが、思い返して見れば普段から時々してない時もあったし、完全に気分で外したり外さなかったする時点でガバガバだと思う。

 それに、

 

「今の格好が似合ってる分、メガネない方が良い感じだなぁ。そっちのがクール? だよ」

「嘘でしょ!?」

 

 と、遂には夏音ちゃんの口調から敬語すら抜け始めた。

 

「割と気に入っているのに……メガネ……そんなまさか……」

「夏音ちゃんがメガネすると、性格もあって素朴に見えるんだよねぇ。顔は大人びてるけど、中身は子供っぽいから」

「ええ!?」

「センスがズレてるんだ。今確信したよ……」

「……」

「……」

 

 その時、僕達の視線がバチバチっと交錯し、火花が散った。

 きっと考えていることは一緒だ。

 ふーん、そこまで言っちゃうんだ、ふーん……。

 

「良いじゃん。そこまで言うなら目にもの見せてあげるよ。夏音ちゃん」

「ええ。そっちがその気なら受けてあげる。家主さん」

「「どっちのセンスが良いか勝負だ!!」」

 

 そんな訳で、僕達は服屋のコーナーに直行したのだった。

 そこの一角は試着が自由なコーナーになっていて、人がいるから少し諦めていたけど、幸いな事に空いていた。

 じゃんけんをして、どっちが先攻か後攻か決めて、まずは僕から服を選ぶ事になった。

 そしてあれこれ悩んだところで、ふとあることを思いつく。目の前の服を手に取ると夏音ちゃんへと手招き。

 

「ねえねえ、これ着てみてよ。サイズもきっとピッタリだし」

「え、私が? ……こう言うのって普通自分が着るんじゃあ」

「別に良いじゃない。どーせ僕を着せ替え人形にするつもりのくせに。代わりに少しくらい付き合ってくれてもさぁ」

「……と言われても」

 

 夏音ちゃんは僕が持っている服を見て、明らかに渋っていた。

 口元も心なしか引き攣っている。

 そんなにおかしなものではないはずだけどね。 

 

「ほら、良いから良いからっ!」

「ちょ、うわ!?」

 

 しょうがなく僕は遠慮なく夏音ちゃんの腕を引っ張り、試着室に押し込んだ。服も渡したら、閉められたカーテンの奥から「ぐぬぬ……」と言う声が聞こえた。

 どうやら堪忍したらしい。

 やがてゴソゴソという音が聞こえ、カーテンが開けられると――

 

「だからって、いきなりこんな際どいものを着せる人がいるかーっ!!」

 

 夏音ちゃんは店内だからか、カフェの時と同じように、控えめな声で叫んだ。

 その着替えた服はというと、さっきまでの私服姿とは正反対の、フリルたっぷりの可愛らしさ満点の服だった。

 尚、下はミニスカだ。ミニスカである。だが制服でも同じぐらいのスカート丈だというのに何を今更恥ずかしがるというのか。

 

「そもそも君の魔法少女服の方が大分ヤバ――」

「――ちょっと待って! アレは私だって不本意なんですけど! 普段から考えないようにしてるんだから言わないでくれる!? でないと恥ずかしくて変身出来なくなるからっ!」

 

 僕が言いかけた言葉を遮り、夏音ちゃんはキッと目尻を釣り上げる。

 

「あ、ああうん……オーケーオーケー」

 

 そのあまりの勢いに僕はちょっと引いてしまった。

 そっか。そんなにあの服嫌だったのか夏音ちゃん。

 まあ、丸出しに近いもんな。これ僕が言い過ぎだな。

 ごめん。

 

「ていうか何でこの服なの! 何で!」

「あーそれはねぇ。可愛いけど自分では抵抗あるし、せめて他の人に着せてどんな感じが見たかった的な? 後ついでに、夏音ちゃんがイメチェンしたら面白いから試してみよう、絶対面白いに違いない……的な感じが?」

「つまり、揶揄いたかっただけだったと?」

「……いやあ。やっぱし夏音ちゃんに着せて正解だったナー。お人形さんみたいでプリティーだモノー。本当ダヨー?」

「わざとらしい上に棒読みだな!」

 

 夏音ちゃんは遂にうがーと吠えたが、実際今の彼女は可愛らしかった。

 かなり似合っている……本人は顔を赤くしてるから、そうは思っていないんだろうけど。

 

「じゃあこの調子でガンガン行こう! 次からおふざけはなしだから安心して、夏音ちゃん。後の服はまともなのにするからさ」

 

 夏音ちゃんは、嘘じゃないのか? とでも言いたげに訝しそうにして。

 

「持ってくるからちょっと待っててね」

「マジで頼むよー……」

 

 僕が次の服を選ぶまで大人しくしてくれた。

 そうして僕が何着も持って帰ったのを見て、その服を一瞥し、ホッとした顔になった。

 そうおかしな服はないからだろう。

 そう……一見おかしな服は何もない。だが僕がその中から渡した服の組み合わせに、夏音ちゃんは途端、ギョッとした表情に。次に、さっきよりもブスっとした顔になった。

 

「まずはこれね。はい」

「……………」

「そして後ろ向いてー」

「…………………」

 

 だが夏音ちゃんは腹を括ったのか、その指示に渋々といった様子で従った。

 彼女の髪を編み込んでいき、少しのアレンジも加えて……さっき渡した服に着替えてもらう。

 するとその格好は……、

 

「僕とお揃いー♪」

「おふざけなしじゃなかったの!?」

「君、僕の服を否定したからね。そこで僕と同じ格好をしてもらうことで、改めてセンスを分からせようという計画さ。実際悪くないだろう?」

「確かに……服自体は悪くないけど……」

 

 夏音ちゃんはその場で自分の服を確認する。

 そして試着室の鏡で自分の姿をチラッと見て、

 

「普通じゃない?」

「普通!?」

「とにかく他のも着てみる」

 

 夏音ちゃんは容赦なくそう言い放った。それからまた次々と僕が持ってきた服を試着していく。

 ロングスカートのワンピース、ロングスカートにフード付きのトレナー、ロングスカートにニット、ロングスカートにシャツ、ロングスカートにカットソー――

 

「いや、ロングスカート多いな」

「確かに……言われてみるとそうかも?」

 

 夏音ちゃんがツッコミを入れたことで、そのすべてがロングスカートということにようやく気付く。ズボンよりスカートが好きな僕だが(普段着はズボン多いけど)、それにしたってここまでロングスカートが続けば、夏音ちゃんもビックリだろう。

 だが思い当たる理由はあった。

 

「あー、そっか。僕ってば身長少し高いから、普通のスカートは合わないんだよ。だからどうも丈が長いものを選びがちというか……」

「ああそれは……なんとなく分かるかも」

「それで全部着替え終わったけど……総評は?」

「そうだなあ」

 

 夏音ちゃんはそこでポクポクポク……と考え。

 

「一つ一つは良い感じだけど、全部同じ系統の服でワンパターン……?」

「微妙って言われるより傷つく返答!」

 

 今度は僕のツッコミが響き渡る。

 それに夏音ちゃんはクスクスと笑って、

 

「次、私が選ぶ番ね。気合い入れてくるから、覚悟しろ!」

「うん。楽しみしてる」

「ギャフンと言わせてやるんだから!」

 

 夏音ちゃんは元々の服装に着替えると、試着室から出て、何故か首から下げたスマホを起動。

 ふむふむと何度か頷くと、さっさと店内へ行ってしまった。

 入れ代わるように僕が試着室の中に入ってスタンバイ。

 やがて十数分もしないうちに夏音ちゃんが戻ってきた。両腕には、僕が持ってきたのよりも倍の量の服と、ジャラジャラとベルトやらリボンやらのアクセサリーが抱えられている。

 それだけでも随分と派手でゴテゴテしてる。

 

「ちょっと待ってよ。まさかそれ全部着せるつもりなの!?」

「そうだよ。髪型もその都度変えるから」

「ええ……頑張って編み込んだのに?」

「後で私が直してあげる。さっきやってもらったから出来る」

「ふーん。ところで夏音ちゃん、まだ僕と同じ髪型のままだけど。わざわざお揃いに戻そうとする辺り、気に入ったの?」

「……。別にそんなんじゃないってば。ていうか私だって付き合ってあげたんだから、家主さんもつべこべ言わないでよっ!」

「〜〜〜〜。分かったよぉ……」

 

 そんな訳で、色々な服を着させられたのだった。

 仕返しなのかゴリゴリのロリータや、袖の長いワンピース。

 ボーイッシュな服装から落ち着いたパンツスタイルまで。

 実に様々な格好をさせられた。

 そのバリエーションの豊富さと言ったら……。

 

 そして夏音ちゃんは妙にノリノリだった。

 何が楽しいのかひたすらに「すごい何でも似合う!」だの、「やっぱり顔が良い」だの言ってきた。

 僕としては相変わらず実感が湧かないが、

 

「そんなに僕の顔が好きなの?」

 

 と聞けば、

 

「顔が良い人は男女問わず好きだよ。目の保養になるもの」

 

 と当たり前のように答えられた。

 結構な面食いである。

 

 でも無作為で服を着せているわけではないようで、どうも全体的な傾向として彼女の好みに沿った内容らしく、シュッとした服、派手な服、高そうな服なんかがとても多い。

 チョーカーとかをつけたがるし、ゴテっとしたアクセサリー類もかなり好きそうだ。

 それを考えると、パンク系統の服も大好きじゃないかなあと思う。

 比較的シンプルで、ゆったりとした服を好む僕の趣味とは真逆と言って良い。

 

 なので終始気恥ずかしかった。

 何でこんな体のラインが出そうな服ばっかりなんだと叫びだしたくもなって。

 けどこれ、洒落てるな、と思うものが大半だった。

 夏音ちゃんは、デザインの良いものを組み合わせるのが上手い。

 

 結果――

 

「僕の負けです。完敗です」

「うええ!?」

 

 最後まですべての服を着ることなく、自ら負けを認めた。

 

「そんなあっさり負けを認めて良いの? 早くない?」

 

 と当然夏音ちゃんは驚いてたけど。

 でも敗北感が物凄いんだもん。なんかこっちが複雑な気分になるのよ、うん。

 

「しかもこれだけ服を選べてる時点で凄いでしょ。こんな短時間の間でさ……持ってくるの二十分もかからなかったよね」

「それは……えーと……」

 

 しかし何故かその時、夏音ちゃんは一瞬自身のスマホに視線を移して、それから露骨に目を泳がせた。

 なんか怪しい。

 もしかして……、

 

「その中身は何だろな〜」

「……」

 

 僕が聞けば、夏音ちゃんはあまり嘘をつけないのか、素直にスマホの画面を見せてくれた。

 開かれているのは電子書籍みたいだ。有名モデル七海やちよが載っている表紙で、タイトルだって聞き覚えがあるし、即ちこれは某有名ファッション雑誌である。

 つまり――

 

「雑誌の中見を見て服選んだでしょ! カンニングしてるようなもんじゃん! カンニング!」

「うっ……ごめんなさいごめんなさい! 前々から事前に何着せようかなって考えてて、それで雑誌を購入してたんですごめんない!」

「もー、夏音ちゃん……。僕、負けを認めたばっかりなんだけどー。何も見ずに自分のセンスだけで選んだ服ってないの?」

「……」

 

 すると夏音ちゃんは、持ってきた服の中から数着を見せた。

 うん。

 …………。

 

「くっ……普通に可愛いのばっかり!! ズルい!」

「え、ズルい!? 自力で選んだのにズルいの!?」

「だからだよぉ。やっぱり僕負けてる! 悔しい!!」

 

 その後も悔しい悔しいと繰り返せば、夏音ちゃんは目を瞬かせて一言。

 

「家主さんって意外に負けず嫌い? 私より子供っぽい?」

「そんなことある訳ないし! …………それから、次の勝負も負けないからね!」

「え、勝負?」

「この後も色々行くでしょ。そこで別の勝負をしかることする! 負けっぱなしは癪にさわるんだよ。だから、何が何でも勝ってやるから! 年上より優れた年下など存在しねぇ!」

「お、大人気ない……」

 

 ハーハッハッハ。

 などと高笑いの真似をすれば、夏音ちゃんは実に呆れた顔をしたのであった。

 しかも小声で呟いていた。

 

「面倒くせぇ……」

 

 バレないと思ってるだろうけど聞こえてますよー。

 でもあえて知らないフリを貫き通す。

 

 ハーハッハッハ。

 次こそは絶対勝ってやるからなー!

 

 ハーハッハッハ!

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「――あ、そう言えば、夏音ちゃん夏音ちゃん」

「? なあに? 家主さん」

「いつの間にか敬語使うの忘れたまま喋ってるよね。そっちの方が可愛いくて好きだから、ずっとその口調のままでいて欲しいなぁって。可愛いからその喋り方。可愛いから」

「何回も繰り返さないで! 可愛いって何なの!? 本当……」

「本当?」

「…………………何でもありません。敬語は崩しません! 絶対に嫌ですッ!!」

「何で!?」

「嫌なものは嫌だからです!」

「そんなに!?」

 

 僕がガガンと驚けば、夏音ちゃんはそっぽを向いた。

 その耳はどういうことか、ちょっとだけ赤くなっていた。




結の服選び→ズボラなので普段はユ○クロで済ませる。動きやすさ重視でいつもはパンツスタイル(長ズボン多い)。でもオシャレする時はロングスカート。柄物が多い。ゆったりとしたニット類を選ぶこともあるが基本はワンパターンかつ田舎臭い。可愛い格好は好きだがどうせ買っても飽きるし考えるのも面倒なので、とりあえずよそ行き用の服は色違い&同じ組み合わせを数着持って着回していた。あまり遊びに行かず友達がいないからこそ出来るぼっちのコーデ。悲しい。

夏音の服選び→家ではラフだが意外に外ではちゃんとした格好をしている。100話記念で語った通りシュッとした服やカッコいい服、派手な服が好き。ゴテゴテとしたアクセサリー類を好んでおり、チョーカーをつけたがる。ファッション雑誌を愛読しており、結よりもセンスは圧倒的に良い。尚、服は基本ポイントで買っている。ポイントの鬼である。
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