魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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お久しぶりです
およそ一年以上の投稿再開
長すぎるあまり文体の癖まで変わってしまった…
今後ともかのマギを最後までよろしくお願いします


SIDE:結 4

 それから僕達は色んなところを見て回った。

 

 小物売り店、お化粧品店、バックとか靴とか売ってるところ。

 その度にどっちのセンスが良いのか勝負した。

 そうしている間に欲しいものが沢山増えて、僕と夏音ちゃんはいつの間にか長い時間ショッピングを楽しんでた。

 

 途中から、あれ? って思ったんだけど、まあ予定と違っても良いかって気になった。

 だってさ、夏音ちゃんとこんな風に遊べて嬉しかったんだもん。

 本当だよ?

 まるで夢みたいで……。

 

 何でかなあ。

 友達とこんなことしたの初めてだったから、尚更嬉しかっんだよね。

 

 だから何気ないことだけど、それだけで僕にとっては価値のあることなんだ。

 僕は気付けば笑ってた。

 夏音ちゃんも笑ってた。

 

 笑って、様々なお揃いのものを買った。

 お金は大丈夫だった。

 使ってなかったしね、お小遣い。

 

 で、荷物いっぱいになっちゃったから、一旦ショッピングモールのロッカーに預けてきて……そして身軽になった僕達は、丁度お昼過ぎってことで、フードコートに行くことにした。

 

 そこはやっぱり賑わってて、お好み焼きとかラーメンとか、美味しそうな店が沢山並んでる。

 僕は聞いた。何食べるって。

 そしたら夏音ちゃんは答えた。

 

「あ、生姜焼き食べたいです。家主さんは何が良いですか?」

「辛いのが良いなぁ」

「辛いの好きですもんねぇ……」

「あ、激辛ブラックラーメンってのがあるらしーよ! これにしよー!」

「舌がぶっ壊れそうな黒さですよ!?」

 

 夏音ちゃんがツッコむ。

 でも別に良い。

 だってすっごく美味しそうだし。

 そうしてカウンターで注文して……それぞれの料理を受け取って席に座る。

 隅っこの席だ。

 

 夏音ちゃんが僕の真っ黒なラーメンにドン引きしてた。

 反対に僕はウキウキ。

 両手を合わせて、

 

「いただきまーす!」

 

 ズゾゾゾゾゾ、と音を立ててかっくらう!

 

「おおー!」

 

 この舌にガツンと来る感じ!

 むせ返るような臭い。

 最高!

 癖になる辛さだ。

 

 僕は幸せな気分でラーメンを食べていた。

 すると。

 

「……美味しいんですかそれ」

 

 ここで夏音ちゃんが興味を示してきた。

 僕が美味しいそうに食べてるからかな。

 せっかくだし、どうぞって、進めてみたよ。

 そうしたら。

 

「ぐふ」

 

 一口食べてむせた。

 なんかちょっと、面白い。

 

「ぷふ……」

「ちょ、今笑いましたよね?」

「笑ってない、笑ってない」

「……口の端がニヤついてるんですが」

 

 夏音ちゃんの恨みがましそうな顔。

 ムスッとして、ジト目で、でもそこが可愛いなって思った。

 夏音ちゃんはそのまま、ちびちびコップのお水を飲んだ。

 辛さを洗い流そうとしてるようだった。

 

「美味しかった?」

 

 僕は問いかける。

 夏音ちゃんは「まあ、普通に」って答える。

 僕は夏音ちゃんの生姜焼きをロックオン。

 

「それちょーだい!」

「……どうぞ」

 

 夏音ちゃんは味が分かるのだろうか? みたいな顔で、生姜焼きの一つをこっちにくれた。

 そこで僕はラーメンを食べ終わってから、さっきの夏音ちゃんみたくお水で口の中を湿らせてから、パクッとお肉を舌へ運ぶことにした。

 

 うん、こっちも美味しい。

 タレが効いてるよね。

 

 ごちそうさまでした!

 

「で、この後どうしようか」

 

 互いに食事を終わらせ数分後。

 予定が崩れたのもあって僕達は話し合う。

 夏音ちゃんは最初そこら辺気にしてたようだけど、まあこういう時のために下調べや計画はいっぱいやってきた訳で。

 

「動物園」

「え」

「じゃあ動物園行きませんか? コースBに変更です!」

 

 元気いっぱいにそんな提案をする。

 僕は微笑ましくって、つい笑ってしまった。

 

「ふふ。ならそこにしよっか」

「はい!」

 

 夏音ちゃんも僕が笑って嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやってショッピンングモールから出て数分後。

 やってきた動物園は、広くって、沢山の種類の動物達がいた。

 

 動物は別に嫌いじゃない。

 猫を飼ってたぐらいだ。

 割と好き。

 

 パンフレットを入り口でもらって、夏音ちゃんと2人でどこから行こうかって相談する。

 まずは……、

 

「水辺生き物コーナーにしましょう!」

 

 そういうことになった。

 一番近い場所だからってのもあるけど、何でもカピバラとかフラミンゴとかいるらしくって、夏音ちゃんはとても気になっているようだった。

 

 そして行ってみたそこは、水辺の自然環境を模したコーナーになっていて……。

 夏音ちゃんお目当てのフラミンゴが、片足で立ってお出迎えしてくれる。

 

「思ったよりピンクって感じじゃないんだね」

 

 だけども思ったよりその鳥達は色素が薄い。

 なんて言うのか。桃色は桃色なんだけど、うっすいんだ。

 と、そこで夏音ちゃんが檻の柵にある解説文を読み上げる。

 

「えーと? 野生のフラミンゴの体の色は、餌のエビや藻類によって維持されています。当動物園でも、餌に赤い色素の入った餌を与え――ってことは、本来の色じゃないってことなんですか?」

 

 だったら青とか黄色の餌をあげたら、その色になっちゃうんだろうか?

 2人でそうなったフラミンゴを想像してみる。

 何ともしっくりこなかった。

 ただただ面白いだけだった。

 

「やっぱりフラミンゴはピンクだね」

「他の色って想像出来ないですもんね」

 

 それからカピバラの触れ合いとか、カバとか見て、次のコーナーに移る。

 森林の生き物コーナー。

 色とりどりの鳥がいた。面白いサルがいた。見慣れない珍しい動物がいた。

 他のコーナーも回って、僕達は感想を言い合って、可愛いって言ったり、変な顔だなあって笑ったり……ショッピングの時のように動物園を思いっきり楽しんだ。

 

 一時間もすると、案外色んなところに行けるもので、スタンプラリーはすべてコンプリート。

 満足だった。

 けど足が疲れてきたからちょっと休憩。

 丁度ベンチがあるからそこに座る。

 

「私トイレ行くついでに、飲み物買ってきますね」

「お、ありがと」

 

 夏音ちゃんがそんなことを言うので、僕は小銭を素直に渡す。

 離れていく彼女の背を見送って、僕は足をぷらんとさせて待っていた。

 なんとなく手持ち無沙汰だ。

 スマホを弄る。

 すいすいとネット記事を見るために親指で画面をスワイプさせているとと、ふと誰かから話しかけられた。

 

「ねェ、そこのお姉さん」

「? はい?」

 

 僕は顔を上げた。

 反射的に。

 するとそこにいたのは、見慣れない若い男二人組だった。

 

 何でかこっちを見てニヤニヤしてる。

 服装も髪型もチャラそうだ。

 なんか嫌な感じがした。

 すごく緊張した。

 

「え、えと」

 

 僕は冷や汗をかきながら、身をすくませる。

 何だこの状況。

 こう見えても男性ってのは苦手なんだ。

 どうしてこんな僕に近寄ってきてるんだろう。

 

 でもそいつらは僕をジロジロ面白がるように見てきて、距離を詰めてくる。

 

「いやぁ、お姉さん、可愛いね。一人? 何? 彼氏待ち?」

「い、いや。違いますけど……」

「え、ラッキ! フリーなの? やりー」

「え……ふり? やり……? はい?」

「ん? お姉さんもしかして分かってない感じ? ウブっ子? ウケる!」

 

 道行く人は誰も助けてくれない。

 男の人達はカラカラ笑って、僕をどうしたいのか、訳の分からないことを言ってこう誘ってくる。

 

「なァなァ、良かったらさー、俺らと一緒に町で遊ばない? お姉さんマジ美人だし、色々奢るよ! 良いとこいこーよ」

「は? ちょ……そんなこと言われても。困ります! 僕は友達を待ってて!」

「え、お姉さん僕っ子なんだ!? そんなナリで? えーますます可愛いじゃん!」

 

 手を触られた。

 無遠慮に。

 ぐいっと立たされて。連れてかれそうになる。

 

「良いから良いから! 照れてないで、俺らと一緒に行こうぜ!」

「ヒッ」

 

 その瞬間、恐怖が爆発した。

 

 ――脳裏に昔のことが蘇る。

 それは本当に昔のこと。

 小さい頃からの、“よくある当たり前の”話で。

 

『結ちゃん。結ちゃんはね、一族の希望なんだよ。沢山子供を産むために、君は生まれてきたんだよ』

 

『そう。つまりはおじさん達の子供を産むんだよ! 結ちゃんは可愛いなァ!』

 

『本当、将来が楽しみだ。どれ、どのくらい成長した? ほら、言ってみな。女の子は、成長すると来るんだろう? アレが来るんだろう?』

 

 僕は“それ”が怖くって、お婆様とお母さんに泣きついたんだ。

 でも――

 

『何を言っているんだい。情けない。それがお前の役割だろ。受け入れな』

『そうよ。みーんなそうしてるんだから。貴女だけじゃあないのよ』

 

 ――だけど……! けど……こんなの!

 

『なら、一族の伝統はどうなる。我々の信仰はどうなるだい? 結。ミズハだって、問題児の順那だって、そんなことは一言も言っていないよ! お前は一族の女としての自覚が足りないようだね。その物置で、一日反省してなさい!』

 

 ――ッヒ!

 ごめんなさい。ごめんなさい!

 ここから出して! 閉じ込めないでよォ!

 わああああああああああああああああああん!

 

『えー、結、また怒られちゃったの? ヤダねー。辛いねー。お婆様、お説教長いもんねー。あたしなんか一時間正座しっぱなし!』

『それは順那が悪いんでしょ! もう! 結も駄目だよ! お婆様やお爺様に逆らっちゃいけないんだって! そこら辺上手くやんないと!』

 

 ――うん。そうだね。

 ……言うこと聞かなきゃいけないだもんね。

 僕は……そういう存在だから……。

 

 あはは……僕は駄目駄目だなァ。

 

 そして――

 

『結ちゃーん。結ちゃん、ますます大きくなってきたね! 年頃だねえ。こっちおいで!』

『おいでー』

『何? 嫌がるの? 大丈夫だよ! おじさん達は手なんか出さない! まだ子供だからね! ただ教えるんだからね 知識だけを! そういうことだから、ね!』

『結ちゃんだけに教えるからね!』

 

 わああああああああああああ!

 うわああああああああああああああああ!

 

 ――泣いちゃいけなかった。

 ――僕は何もされてないなかった。

 ――これは僕にとっては普通のことだった。

 

 そう言い聞かせた。

 

 おじちゃん達に手を引かれるのも普通。

 子供を産めと言われるのも普通。

 男の人達に見下されるのも普通。

 

 全部普通。

 僕は何もされてない。

 何もない。

 何もないから僕は普通。

 

 そう信じて。

 それも普通のことで――

 

 けれど。

 

「じゃ、お姉さん。こっちにおいでねー」

「ヒィ!」

 

 う……うぁ。

 

 わああああああああああああああああああああ!

 わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

「あ……ヒ、ひ……っ」

 

 そうやって、怖くて怖くて何も出来ないでいると。

 ……タイミングよく、横から聞き慣れた声がした。

 

「――アンタ達何やってるんですか」

 

 全員がそっちを振り向いた。

 その視線の先にいたのは帰ってきた夏音ちゃんだった。

 目の端を釣り上げ、見たことも無い程怖い顔をしてる。

 僕は息を求める水難者のように口をパクパクさせた。

 

「か、夏音ちゃん……っ!」

「何だこのガキ」

「それはこっちの台詞です。アンタ達何ですか」

 

 夏音ちゃんは怯むことなく、男の人達に立ち向かってくれた。

 そして、掴まれた手を引き剥がして、逆に今度は自分の手で繋ぎ直してくれる。

 夏音ちゃん。

 その時ね、僕……震えが止まったんだ。

 すごく君が頼もしく思えたんだ。

 

 変だよね。

 年下の子にこんな感情を抱くなんて。

 だけどこの時の君はカッコよくって、誰も助けてくれない僕を助けてくれた。

 当たり前のようにね。

 

「アンタ達と付き合ってられる程、この人は安くありません。家主さん、行きますよ」

「う、うん」

 

 唖然としてる男の人達に向かって、そう吐き捨てて、夏音ちゃんはまるで迷子を導くかのように僕の手を引いた。

 その場を離れた。

 人気のない建物の裏に回り込んだ。

 そこでようやく夏音ちゃんは僕の手を離した。

 

「大丈夫ですか? 家主さん」

 

 夏音ちゃんは心配してくれる。

 助かったんだ。

 どうしてだかそう思い、感情が溢れてしまった。

 お礼を言った。

 

「あ、ありがとう……僕……本当怖くって。怖くて仕方がなくって……」

「はい」

「誰も助けてくれなくって……は、初めてだ……こんなの」

「はい」

 

 ひたすらに「はい」って言われるもんだから、いよいよ涙が出てきてボロボロ泣いてしまった。

 夏音ちゃんが爪先立ちして、ハンカチで僕の頬を拭ってくれた。

 その感触が優しくって、また泣けてくる。

 

「うあああ……ああああああ……!」

「大丈夫です。私がついてますから」

「ごめんね。ぐす……ごめんなさいっ……」

 

 そうしてしばらくの間、僕は泣き続けた。

 泣いて、泣いて、泣いて。

 やがて落ち着いてきた頃には、すっかりハンカチはぐしゃぐしゃになってしまった。

 罪悪感が生まれた。

 だけども夏音ちゃんは気にしないように言って、ハンカチを畳んでバックの中に仕舞う。

 それから、僕のソウルジェムをグリーフシードで浄化してくれた。

 やっぱり少し濁っちゃってたんだろう。

 

 悪いことをしたと思う。

 

「いつかお礼、必ずするね」

 

 そう言えば、夏音ちゃんは当たり前みたいに返す。

 

「はい。けど、さっきも言った通り気にしないで下さいね。友達ですから」

「友達……」

「友達を助けるのは、当然のことですよ」

 

 彼女はニコって笑ってくれた。

 太陽のような笑顔だった。

 それがとっても眩しくて……僕はそれだけで呆気なく励まされた。

 すごいことだった。

 

「ここから離れましょう」

 

 そして夏音ちゃんはさっきみたいに僕の手を引いて、動物園から僕を連れ出してくれた。

 やっぱり申し訳なかったんだけど、その背が頼もしくって、奇妙な安心感が生まれていた。

 僕達はしばらく歩き続けた。

 町の中は相変わらず人が多くてゴミゴミしてる。

 こうやって進んでいると、どんどん人の群れの中に埋没していって、それ自体に僕達の輪郭そのものが溶けていくような錯覚を覚える。

 

 まるで巨大な流れの一部にでもなったかのような感覚……。

 

 段々思考が空っぽになっていった。

 夏音ちゃんの導く方向へ、身を任せていた。

 

 やがて。

 次に辿り着いた場所は、予想外なところだった。

 

「自然公園?」

 

 そこは緑が多い場所だった。

 こんな都会にあるというのに、ぱったりと人気がなくなり、ただひたすらに静かだった。

 

「ゆっくりしたいなって思って」

 

 夏音ちゃんが言う。

 僕もまあ同じ気持ちではあった。

 気を使ってくれたのだろう。

 上手く言葉が出てこなくなる。

 

「え、えと、さっきはその……」

「はい」

「僕……待ってたらあの人達に、突然こられて……あの……」

「はい」

 

 夏音ちゃんはまた僕の話を黙って聞いてくれた。

 僕は事情を説明して、どれだけ怖かったかを心の赴くままに喋って、最後の最後に、本当に自分が情けなくて、辛ないなってことを言った。

 すると夏音ちゃんはちょっと顔を曇らせて、「絶対それ違います」って。

 

「え」

 

 思わず驚いてると夏音ちゃんは続けた。

 

「男の人にあんな風に迫られたら誰だって怖いに決まってますよ! 家主さん何も悪くないのに。どうしてそんな、何もされてないのにって、普通って……嫌なものは嫌って言って良いんです! あんな奴らに引けを取る必要ないですよ! 貴女は何も悪くない! それこそ当たり前のことです!」

「……そっか。夏音ちゃんって、すごいね」

 

 本心からそう言った。

 だってそうでしょう?

 

 こんなにハッキリさ。

 僕の欲しかったもの、欲しかった言葉をくれて、ずっとずっと否定し続けてきた思いを肯定してくれて……そんなの嬉しくなるに決まってるよ。

 

 ……うん。

 ちょっとね、心が軽くなった。

 君のおかげだ。

 そこもまた君のすごいところだった。

 君はいつも色んなものをくれる。

 

 いつだって……どんな時だって――

 

「ありがとう」

 

 僕はもう一度感謝を伝えた。

 夏音ちゃんは「はい」って頷いた。

 

 せっかくだし、自然公園を散歩してみた。

 2人きりで、誰にも邪魔されない、それは穏やかな時間だった。

 歩いてみると案外面白いもので、変なオブジェがあったり、綺麗なお花があったり。

 それを背景に、2人で自撮りした。

 並んでピースサイン。

 

「ハイチーズ!」

 

 瞬間、スマホのシャッター音がパシャって鳴る。

 見ると上手く撮れていた。

 我ながらとても楽しそうだった。

 さっきまで泣いていたくせに。

 写真の中の僕は表情がとっても明るくて、目元が赤くなってるのも嘘のように微笑んでいる。

 隣で写っている夏音ちゃんも心の底から笑っていた。僕といて嬉しいって伝わってくるような笑顔。

 顔を見合わせてまた笑い合った。

 記念に待受にでもしようかな。

 

「楽しいなぁ」

 

 ああ……楽しい。

 夏音ちゃんといると全部が楽しい。

 

 このまま……ずっとずっと、遊んでいたいくらいだ。

 

 普段の辛いことが、忘れられそうだった。

 この時だけは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、僕達は遊んだ。

 遊べるだけ遊び尽くした。

 商店街で買い食いしたり、映画館に行ったり、夕暮れ時には美味しいと評判の和食屋さんで食べた。

 レビュー通りの素朴だけれど優しい味だった。

 また来たいと思った。

 

 知らぬ間に辛い気持ちなんてのは全部吹き飛んでいた。

 ただただひたすらに笑ったし、楽しかった。

 夏音ちゃんもそうだろう。

 

 後に残ったのは良い思い出だけ。

 暗くなった帰り道、ショッピングモールのロッカーから取ってきた荷物を2人で持って、人が多い町中を歩いた。

 

 その時だ。

 パンッ! と音が弾けた。

 それは連続して続いく。

 思わず見上げた。

 夜空には色とりどりの花火が、パンッと音を立てながら、次々と打ち上がっていた。

 

 通行人は足を止めたり、すごいねと言いながら写真を撮っている。

 どこかでお祭りかイベントでもやっているのだろうか?

 見ているだけで胸が弾むような、それは綺麗な綺麗な花火だった。

 

「すごいですね」

「そうだね」

 

 僕らは並んでそれを見ながら歩き続けた。

 こうして揃って見ていると、その花火は一層鮮やかに思えて、ずっと胸の中に残るような気がする。

 

 その時の夏音ちゃんの顔がね、輝いていたんだ。

 

 僕は思った。

 この子はやっぱりすごい子だ。

 本当に僕に暖かなものをくれる。

 僕の友達。新しくできた僕の宝物。

 

 夏音ちゃんはずっと僕を守ろうとしてくれてる。

 だからこんなに救われて、こんなに一緒にいるだけで幸せな気持ちになれるんだろう。

 それを恐れ、それをあえて遠ざけることを、果たして僕は出来るのだろうか?

 

 ……答えは分かりきっていた。

 

 出来ないんだ。

 僕はこの子が大好きだから。

 

 もう好き過ぎて、そばに居てくれないと駄目なんだ。

 それを思うと、この臆病な気持ちも、全部くだらないものだったのかもしれない。

 

 そうだ。

 答えは分かりきっていた。

 深く悩み過ぎていた。

 

 僕はやっぱり、夏音ちゃんともっといたいんだ……。

 僕を守ってくれたこの子を今度は僕が守りたい。

 今みたいにもっと笑っていて欲しい。

 

 ならば――腹を括るしかない。

 逃げてはいけないんだ。

 この血と魔法少女の宿命に。

 

 立ち向かうんだ。

 過去と向き合おう。

 未来へ進もう。

 

 そのためにもこんな自分に打ち勝つんだ。

 夏音ちゃんとの沢山の思い出を、これからもずっと作っていくために。

 取りこぼしたことだって多くあるけど、その隙間を夏音ちゃんが埋めてくれようとしくれてる。

 

 ねぇ夏音ちゃん。

 僕はどうやら君に胸を張りたいらしい。

 君の隣にい続けたい。

 

 だからこそ――

 

「……」

 

 僕は密かに決意を固めていた。

 夏音ちゃんにバレないように。

 

 そうして次の日――自分の意思で、こゆりちゃんに接触した。

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