魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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阿岡入理乃

年齢 十四

身長 157センチ

好きなもの 黙々と一人で何かをすること 雑学 サチ

嫌いなもの 自分 理解できないもの

金持ちの家のお嬢様で、蘭ノ家学院の中等部の二年生。文武両道で、特に書道の才能が飛び抜けており、部活も書道部に所属している。気弱な性格であり自信がないせいかおどおどしている。しかし意外と淡白で、服やイベントごと、恋愛や勝負事に無頓着で流行りに疎い。固有魔法は紙を操ること。武器は筆だが、紙を精製する目的で使うことが多い。


鉄塔の魔女

「ーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

扉をくぐったその先でまず聞いたのは、空間を揺るがすほどの絶叫だった。その悲鳴はひどくひどく、醜く悪意に満ちている。しかし悲痛にも聞こえ、どこか子供が駄々をこねている時のような、癇癪に近い声だった。そしてその声の主もまた、やはり醜悪な姿であった。

 

その魔女は血のような夕暮れを背景に、雲の地面に陳列する無数の鉄塔の中央にいたーーいや、そびえ立っていた。エッフェル塔に似た、黒いその魔女の身長はおよそ七十メートル前後か。他の鉄塔よりも抜きん出たその高さの頂点には、長い首の羊の頭が三つ、ギョロりと白目をむいている。その下には左右に一本ずつ鉄骨が延び、そこから羽のはえた触手が二本、それぞれ生えていた。

 

「大きい、キショい、グロい……。全然想像と違うんだけど…」

 

そのグロデスクな見た目と大きさに圧倒されながら、そして怯えながら夏音が言う。魔女と言うぐらいだから、もっと人型の何かだと思っていた。だがまさかこのような姿をしているとは、予想外だ。

 

「ま、魔女って、どれもこんなのなんですか!?」

「……ええ。だいたい、こんな気持ち悪い姿なの。でも、魔女にも様々な姿や形、能力もあるから、気をつけないといけなくて……」

「あー!!何船花様が言おうとしたことを先に言っちゃうの!!つか、さっさとそいつらに結界張れや、カス!!それが、お前の役割だろが!?」

 

声を張り上げるサチはそう入理乃に指示する。後から聞いた話によれば、実はサチは結界を張ることが大の苦手らしい。それどころか、魔力操作自体が苦手で、故に応用である他の魔法全般がかなり不得意だ。戦闘センスはピカ一でも、身を守らせる防壁を造ることには、サチは向いていないのだ。

 

「ご、ごめん、そうだよね。キュゥべえ君、夏音ちゃん。急いで結界はるね」

 

そう言って入理乃は十数枚の紙を着物の裾からとりだし、魔力を通す。それらは自ら手から離れて、一人と一匹の周囲を囲み、ドーム状の結界となった。

 

二人はそれを見届けるまもなく、跳躍する。その飛躍は、常人の限界のそれを易々とこえ、一番近くの鉄塔の上へと着陸する。少女らはひときわ高いその塔を見上げ、魔女は己が天敵たるちっぽけな者どもを、三つの羊の計九つの目で捉える。

 

途端すべての目が、細められた。口が裂ける。そして、矮小なる存在に向かって、魔女が嘲笑の声をたてた。あまりにも魔法少女達が弱々しく見えたようだ。あんなやつらに自身が負けるはずがない。なのに彼女らはこの自分に武器を構えている。それがひどく滑稽だ、とでも言うように舐めくさった顔をしている。

 

「何船花様を笑っての?むしろ、やられるのはお前なんだよ。このくそ魔女が」

 

やれやれと言いながら、余裕の様子のサチは入理乃に目配せする。それだけで、彼女は自身の相棒が何を伝えたいのか理解したようにうなづいた。それは長年共に戦った、二人だからこそ伝わるやりとりだった。

 

まず動いたのは入理乃だった。彼女は使い魔の時同様、筆で横に線を引いた。しかし、その目的はあの時に行ったような、足場の精製ではない。今回は攻撃のため、より正確にいうならば防御のための攻撃である。

 

ぐりんとすべての魔女の頭部が入理乃に向き。うち一つが、炎の息吹を吐いた。それにあわせ墨のあとから大量の紙が数百枚、わっと出てきた。和紙は一つ一つが鉄をも切り裂く花びらとなって、吹雪の如く襲いかかる。その猛攻は空間を圧迫し、多大なスピードとそれなりの攻撃力をもって赤い炎とぶつかった。しかしそれは、所詮紙の攻撃である。触れた瞬間めらめらと燃えていき、全体に広がって黒い炭と化して地に落ちていく。

 

しかし、それで良いのだ。先ほど述べた通り、これは防御のための攻撃。すなわち相殺できればそれでいいのである。そしてーー魔女の隙さえ造れれば。

 

入理乃とは反対側から、九つの視線の外から、もう一人の魔法少女が巨大な錨をもって、飛んできた。雄叫びをあげ、そしてそのまま魔女の左側の触手を、鉄骨ごと粉砕。すぐ近くの鉄塔に降り立った。

 

「ーーーーー!!ーーーーー!!!」

 

ふいに轟いた絶叫。鉄骨とはいえ、魔女の体の一部だ。だから痛い。鉄塔の魔女はその苦痛に悶え、もう一つの残った触手を、苦悶の元凶へと伸ばす。しかし彼女はニヤリと笑いながら、軽い身のこなしで跳躍する。当然攻撃対象から逃げられたその触手の勢いは止まらない。そのまま周囲の鉄塔にぶつかり轟音と共に崩壊させる。

 

「ーーーーーーーーーー。ーーーーー!!」

 

恐ろしい表情の羊が、ふいに焦ったような声をたてた。己のミスにより大事な鉄塔が破壊されたのだ。これを慌てぬはずがない。他のことなど忘れ、鉄塔を直そうと急いで口から馬頭の使い魔を出し、触手で倒れた鉄塔を立たせようとする。

 

と、同時に二人が攻撃を仕掛けた。魔女の左側に回り込んだ入理乃が下から使い魔を、右側に移動したサチが触手を、それぞれ貫き切り裂く。

 

「ーーーーーーー!!!!?!!?!」

 

三度目の絶叫が、響き渡る。錨により破壊された二本の触手は、もう使い物にならなかった。使えなかった。

 

「フフフフ、こんな手に引っ掛かるなんてね。三つも首がついているっていうのに、この船花様に気づかないなんて。アホすぎ、マジありえない」

 

近場の塔に着地した魔法少女の一人が、錨を手に楽しそうに言う。

 

羊の顔が歪んだ。やられている。なぜ自分がやられているのだ、あり得ないとばかりに憤怒した魔女は、がむしゃらに何度も、彼女に向かって輪状の電気を発した。

 

しかしそれもすべて相殺される。入理乃の魔法による、大量の硬化した紙が弾丸となり、一瞬のうちに互いを搔き消していく。

 

「本当に、一つの敵にしか対処できない魔女…。私ごときが言うのもあれでしょうけど…こんなに楽な魔女はあまりいないわ。触手さえ、潰せばいいのだから」

 

ーーそう、それこそが二人の作戦。触手を封じることこそが、この魔女の攻略法。

 

鉄塔の魔女はその巨体故に動くことができないが、その代わり強力で多彩な攻撃方法を持つ。口から火を噴く攻撃に電波による範囲攻撃。使い魔による様々な遠距離攻撃にも優れている。

 

そして、二本の触手による攻撃。これが一番やっかいな攻撃だ。何せ小回りがきくしスピードもある。何より単純に防御できない、すべてを薙ぎ倒す破壊力を持っている。逆を言えば、他のものは相殺したり避けたりすればいい単調な攻撃であり、対処が可能な攻撃。そして、魔女は馬鹿だ。多種多様な能力を折角持っているのにもかかわらず、使いこなせるだけの頭がない。

 

魔女が初めて恐怖を抱いたかのように泣き叫んだ。そのあまりの轟音、そのあまりの衝撃に地が揺れ、二人のいるそれぞれの鉄塔にまで伝わってくる。

 

しかし二人の魔法少女は平然としていた。このような時、どうすれば良いのかわかっていたからだ。

 

少女たちは柱に捕まっていた手を放すと、同時に飛び降りた。ぐんぐんと地面が近づいてくる。魔女の羊の顔が、ふいに落下物をその目で捉える。驚いたようにいななく魔女。入理乃が手を空にかざす。足場である固い和紙を、相方と自身の落下地点に精製する。

 

しかし、その和紙が作成された場所には高低差がある。入理乃の足場は比較的地面に近い場所に。そしてサチの足場は、比較的高い場所にある。

 

たん、と軽い音と共に飛んだサチはさらに周囲の鉄塔の柱を蹴り、魔女へと飛躍。その超重量級の武器を向けて、敵を殺さんと向かっていく。魔女が慌てふためいたように、三つ首の口から鉛を発射する。しかし、それを低いところに着地した入理乃が紙で打ち落とす。

 

「やああああああああ!!」

 

サチが錨を羊の頭部へと振るう。その理由は至極明快だ。そこが魔女の本体だからだ。

 

ぐしゃりと錨の湾曲した部分がぶつかる。頭部がひしゃげた。頭蓋骨が、嫌な音をたてた。

 

彼女らは最初から知っていた。その魔女がどの様な方法で攻撃し、どの様に自分達に対処し、どの様な弱点を持っているのかを。そう、彼女達は初めからわかっていたのだ。魔女の殺しかたを。だからこの魔法少女達に負ける道理はなかった。つまりこれは当然の結果であった。

 

しかし、魔女にはわからない様子だった。何故自分が負けたのかを理解しようと、錨が突き刺さった顔を下に向けようとするが、その前にその体を構成する鉄骨が落ちていく。朽ちていく。そして、魔女の意思さえも消え去ってーーあとには、黒い宝石しか、残らなかった。




鉄塔の魔女。性質は蔑み。
自分が特別な存在であり、優秀であると心から信じている魔女。しかし、かなり頭が悪く、愚鈍。自分に釣り合う者を求めており、鉄塔を造っているが、決して自分より高いものは、つくらない。何故ならば、自分より優秀なものはいないから。自身が、見下されるのは嫌だから。魔女は、仲間を欲している。しかし、それは、取り巻きがほしいだけ。集団のトップにいたいだけ。この魔女は、永遠に自分の愚かさに気がつかないだろう。

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