魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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人のためには、戦えない

船花サチ、阿岡入理乃、そして、菊名夏音の三人は、魔法少女のお供のキュゥべえと一緒に町の中を散策していた。それぞれサチは宝石を手のひらにのせ、入理乃は透過させ、中身が見えるようにした紙の袋を掲げながら進んでいる。そして、その光の点滅具合を時々確認する。彼女達の様子を夏音は不思議そうに眺めながら言った。

 

「そんな風に魔女を捜索してるんですね」

 

絵面だけ見れば、ただ歩いているだけだし本当に花がない。魔法少女というアニメみたいな存在は、妙なところは地味で現実的なんだな、と思わずにはいられず、なんだかがっかりだ。本音でいえば、夏音としてはもっとこう派手ですごいと思えるような感じのが見たかった。

 

「ええ。魔女の魔力の後を、こうして、探してるののよ…」

「つまりそれを追って、魔女を見つけるということですね?」

「そうそう。で、その魔力に反応してこのソウルジェムが光るの。私達はこれを便りに魔女のもとに行くんだよ」

 

と言って、サチは手に持っているものを見せた。それは金色の台座に支えられた卵型の宝石。色は深々とした海を連想させるコバルトブルーだ。てっぺんには錨のマークがついており、本体の方に刻まれている紋章らしきものもアンカーだ。

 

しばしば夏音はそれを見つめると、肩にいるキュゥべえに質問する。

 

「ソウルジェムって、何ですか?」

「魔法少女の証であり、魔力の源。ボクと契約した魔法少女の祈りが生み出す石だよ」

「要は変身アイテム的なやつってことですか?」

「まあ、厳密には違うけど、概ねそう考えてもらっていいよ」

 

そう答えるキュゥべえ。それにしても、と夏音は紙の袋を下げている入理乃に尋ねる。

 

「何で紙の袋なんかに、ソウルジェムをいれてるんですか?」

 

入理乃が提げている袋には、色が紫でてっぺんについたマークが桜の花びらという差異こそあるものの、サチと同じ形の宝石が入っている。透過できているということは、袋は魔法の紙で造ったのだろうが、だとしてもわざわざそこまでする理由がわからない。

 

「そのまま指輪にして露出させといたら、割れちゃう可能性あるじゃない?そもそも命と同価値のものを守っておかないと安心できなくて気が気じゃないっていうか…」

「まったく、大袈裟じゃないの?入理乃ってば、昔から神経質だよね。本当心配しすぎー」

 

声をたてながらサチは笑った。まるで、馬鹿じゃないのと言わんばかりに。

 

夏音はそれを一瞬ジト目で睨むと、縮こまっているだろう入理乃の表情を見るためこっそりと視線を向けた。しかし彼女は驚いたことにまったく弱気そうな態度をとっておらず無表情だった。だがそれも一瞬のことだった。

 

入理乃は空いた手の上に魔法で同じ袋の紙を出すとサチに、

 

「ね、ねえ……よかったら、船花ちゃんも、これにソウルジェムを入れてくれないかしら……?」

「しつこいなあ。何度もいらないっていってんでしょ?第一、そんなのにいれたら持ち運び不便だし、どっかに忘れそうじゃん!!」

 

怒鳴られて、びくりと肩を揺らす入理乃。しかし、それでも食い下がらず続けておどおどした口調で言う。

 

「そ、それは……、自分で気をつけて……、肌身離さず常に持ってれば……」

「あーもー。うっさい。これ以上、船花様に口答えするな。面倒なんだよ」

 

うんざりだったらしくサチはぎろりと鋭い目をした途端、低い声を出す。入理乃は、ようやくそれで口を結んだ。もうこれ以上言っても仕方がないと思ったのだろう。しかしその表情は完全にあきらめたものではなくまた同じことをやろうとしようという意思が表れているようだった。

 

夏音は頭のなかで小動物に話しかける。キュゥべえは少女の顔を見るため上を向いた。

 

『ソウルジェムって、割れたらいけないんですか?』

『ソウルジェムは説明した通り魔法少女の力の源。それが割れたら、大変なことになる』

『魔法少女じゃなくなっちゃうんですか?』

『そうだね。ソウルジェムを失えば、魔法少女は魔法の力を失う。そういう意味でも、入理乃はソウルジェムを特に大切に扱っているのさ』

 

しかしサチを見る限り彼女は自身のソウルジェムをそこまで大事に扱ってはいないらしい。まあ、面倒くさがりのようだし物も雑に扱うイメージがあるけれどと夏音は心の中で呟いた。

 

少女たちはそれから休憩を挟みながら二時間ほど歩いた。回った場所は、廃虚や廃ビル、商店街の路地裏などの不気味な場所だった。その他にも大通りやデパート内部などの華やかなところをパトロールし続けた。

 

魔法少女の二人曰く事件や事故などが頻発する場所には魔女がいる可能性が高らしい。なぜならば、その事件や事故を魔女が引き起こしているからだ。そして自殺などをさせやすい廃虚や単純に人が集まるところに魔女はよく潜む。魔女は餌が得られる場所を好むのだ。

 

もちろん普通の場所に普通に魔女がいることもある。また魔女の種類によって潜んでいる場所に偏りが見られるらしい。故に魔女がどこに潜んでいるのか基本的に予想がつけられるが、うっかり見落とす場合も多々あるのだという。魔女探しは町の隅々まで行わなくてはならない。

 

人気のない裏通りを通っている時にふいにソウルジェムの点滅が光を増した。二人が、はっとなってそれを見つめる。ソウルジェムが魔力を捉えたのだ。

 

「反応、強いですね。この近くに、いるんですね」

「……そうみたいね。でも、この感じだと……微妙かしら。なりかけっぽいけど、でも成長しきっていたら…」

「一応、いってみよーよ。あいつのところのかもしんないしー?」

 

仕方がないように入理乃は頷いて、三人は再び歩き始めた。そうして魔力の反応をたどっていき路地裏に入る。ひたひたと湿った通路を歩く。背の高い両脇の建物の影でそこは真っ昼間だと言うのに薄暗かった。突き当たりまでいくとピタッとサチが止まった。

 

「どうやら、使い魔の結界のようだね」

「使い魔……。あの手下って、魔女みたいに結界をはるんですか?」

 

夏音が疑問をキュゥべえに投げ掛ける。彼はそれを肯定する。補足するように、入理乃が続けて説明する。

 

「こういった使い魔はね……、魔女に成長するかもしれないの……。人を何人か食えば…、親と同じ魔女になるの。これはなりかけみたい……」

「じゃ、じゃあ放っておいたら大変じゃないですか。だったら、早くーー」

「倒せって?やだよ」

 

思わず、耳を疑った。サチが、何でそんなことを言ったのかがわからない。話を聞く限り使い魔は魔女同様に危険な存在だ。それどころかそれらのボスである魔女に成長するのだ。絶対に倒しておいたほうがいいはずなのだ。

 

なのにサチは乗り気ではない。入理乃の方も目をそらして、うつむいたまましゃべらない。やはりなにかあるのだろうか。使い魔を倒せない理由が。それとも、倒したくない理由が。

 

「何で、使い魔を倒さないんですか?」

「そんなん、決まってんだろ。メリットがないからだよ」

 

サチがポケットからなにかを取り出す。それは、上と下に針が生えている黒い球体だった。黒い色に相応しいくらい、夏音には禍々しくて見えてかなり嫌悪感が湧いてくる。サチはその刺を手の平に立たせて夏音に見せた。

 

「これ、あの時魔女が落として、貴女達が回収したもの……」

「グリーフシード。魔女の卵だよ」

「卵!?あいつらって、卵から生まれたりするんですか…って、ヤバイやつなんじゃ、それ」

 

孵化したら、またあの魔女が生まれてしまうのだ。このグリーフシードは処分したほうがいいのではないだろうか。

 

「夏音。今の状態のグリーフシードは安全だよ。そして、魔法少女は、これを使って魔力を回復するんだ」

「そうそう。魔法使う度に、ソウルジェムには穢れがたまってくんだけど、この卵使えばキュゥべいの言う通りそれが元に戻るんだよ。ほら、よく見てよ。濁ってるじゃん?船花様のがさ」

 

ソウルジェムを彼女がもう片方の手でつきだす。言われた通りに見てみると、確かにその輝きの中に黒いモヤモヤとした穢れが蠢いていた。サチが宝石にグリーフシードを接触させる。すると穢れがグリーフシードに吸いとられソウルジェムが本来の光を取り戻していった。逆にグリーフシードは穢れを吸収したぶんより真っ黒になっていた。

 

「こうやって穢れをとって魔力を回復させんの。ゲームとかにさあ、よく特定のアイテムを時々落とすやついるよね。それと同じで、魔女もグリーフシードをたまに持ってるんだよ。わかりましたか、クソ夏音先輩?」

「私はクソ夏音先輩じゃありません。つまり使い魔を倒しても、グリーフシードは手に入らないってことですね」

 

そもそも使い魔を倒すためには、魔法をどうしても使わねばならない。つまり魔力を消費しなければならない。しかしそれを回復するアイテムは転がってこない。使い魔を倒すのは余計な穢れをソウルジェムに溜め込むことになる。それは何の利益にもならない。使い魔を倒しても何のためにもならず逆に負担になるだけなのだ。

 

「勘違いしないでほしいんだけど、別に他の人が犠牲になればいいやなんて、思ってないよ?一応昔は私達も多少は使い魔を狩ってはいたし」

「あれ、そうなんですか?」

「船花様を何だと思ってんだよ。被害はないほうがいいじゃないか、ボケ」

 

心外そうに言うサチ。その後を今まで黙っていた入理乃が、でもあることがきっかけで、使い魔を狩らなくなったのと言った。

 

「魔法少女にはね、魔女の狩り場、要するに縄張りがあるの…。昔は見滝原も私達の縄張りだった…。でも、二年前巴マミが魔法少女となった…。そのことを知ったから…、私達は、その子に知られないように、見滝原から出ていったわ…」

 

これは、サチの提案だったらしい。入理乃は反対したのだが、結局新入りの巴マミに見滝原を譲ることにした。グリーフシード不足で魔力が足りなくならないように。

 

「でもちょうど同じ頃に、ボクは広実結(ひろみゆえ)という少女とも契約していたんだ。早島に新しい魔法少女が生まれたんだよ。そして彼女はサチたちと縄張りのことで対立した。話し合いによって、早島市の半分をサチと入理乃が、もう一方を結が縄張りとすることになったんだ」

 

結果二人の魔法少女の狩り場は、初めと比べてずいぶんと収縮した。もちろんそうなってくると倒せる魔女の数も減るのだ。必然的にグリーフシードを手に入れられる数も激減した。当然、そうなると、魔力を今までのように、無駄に消費できなくなる。

 

「だから、使い魔を狩るのをやめた。被害も、仕方がないと、割りきることにしたんだ。それに、使い魔を倒しても、自分には何もかえってこないし」

「………」

 

しかしそれだと使い魔は魔女へと成長し、この世界に呪いをもたらす。人がたくさん死んでしまうのだ。だが夏音は彼女らに、そのことについて何も言えなかった。だって夏音も彼女達の立場だったら、彼女達と同様の考えに至るとしてもおかしくない。そう思うと急に言葉が引っかかってしまった。

 

「この船花様はね、グリーフシードが欲しいから魔女を倒してるの。私は他人のためじゃなくて自分のために魔女を狩るんだよ」

「……リノはどうなんですか。貴女もそうなんですか?」

 

夏音が入理乃に質問を投げ掛ける。それに彼女はうつむいたまま、静かに頷いた。

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