魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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もう、暗くなり始めていた。空の上のほうが、徐々に徐々に紫から藍色に近づいて、夕と夜の境目では、互いの色が混じりあい、ピンクがかった雲が、うっすらと見えた。

 

夏音は、キュゥべえと共に、サチと自身のバックを持ちながら、無言で待っていた。心配で心配で堪らなかったからだろうか。結界の入り口で、うろうろしたり、手遊びをしたり、どうにも落ち着いていられなかった。あれからしばらくたつが、中は一体どうなっているのだろうかと、夏音がキュゥべえに問いかけた、その時だった。

 

結界の入り口が、うっすらと、消えていったのは。戸惑う暇もなく、二人の少女が、突如現実世界へと現れる。サチの背に、右手を回して支えてもらいながら、入理乃がゆっくりと歩く。身体中につけられた怪我に、夏音が驚いて、すぐに駆け寄ってくる。

 

「リノ、大丈夫ですか!?」

「夏音ちゃん。…………………」

 

入理乃が、夏音の肩にいるキュゥべえの顔を見て、目を見開いた。紅の二つの双眼に、まるで吸い込まれるように、凝視する。しかし、それは数秒のことであった。入理乃は、無表情になって、グリーフシードをもらい、ソウルジェムをきれいにすると、怪我の治癒を始めた。サチも、なけなしの治癒魔法をかける。傷が少しずつ再生していく。そうして、どうにかしてましな状態にまで怪我を治した。折れていた左腕の骨も、なんとかくっつけた。

 

自分のことを見て驚いていると勘違いした夏音が心配そうに、しかし無事だったことに安心しながら、説明した。

 

「貴女が時間になっても来なくて心配だったので、私たち、何かあったんじゃないかと思ったんです。それで、もしかしたら魔女に遭遇しているのではないかという話になりまして。そうやって魔女を捜索して見つけたら、リノが中で苦戦しているので、船花が助けにいったんです。無事で本当によかったです」

「………で?何でテメエは、魔女のことを知らせなかったのさ。この私ににもうちょっと言ってくれてもよかったじゃねえか」

 

サチが、入理乃に吠える。彼女は納得できていなかったのだ。相方が危険に晒されたことが、そして自分に頼ってもらえなかったことが、この上なく悲しかったに違う無い。そんな気持ちが、ひしひしと伝わってきて、夏音も自然と、入理乃に、目で若干責めるように問いかけた。うつむいて、入理乃が申し訳なさそうに、ぽつぽつと答えた。

 

「……ごめんない。考えて歩いてたら………魔女の結界に取り込まれちゃったのよ。……………テレパシーも圏外だったし…」

「携帯鳴らしたんだけど!!」

「ごめんね…戦闘中で気づかなかったの…」

 

入理乃の見立てによると、あの魔女は攻撃すると、逆に刺激してしまい、さらにパワーアップしてしまうらしい。かといって、背を向けると、必ず弱点の炎を放ってくる。入理乃に炎を守るすべは、あまりない。あっても、それは気休め程度であり、防ぎながらの撤退は難しかったのである。

 

「それでも、それでもさあ!!こっちはむちゃくちゃ心配したんだよ!!ふざけんな!!この船花サチ様に何も言わずに死んだら、許さねーぞ!!」

「……本当に、ごめんね。何度も……何度も逃げようとしたのだけど」

「アホ入理乃のくそったれ~~~!!」

 

号泣しながら、サチが入理乃に飛び付く。着物がぐちゃぐちゃにされ、苦笑しながらも、どこか嬉しそうに、入理乃が、後輩の背をゆっくりと撫でた。普段はサチに逆らえなかった入理乃が、優しいお姉さんになったように、夏音には感じられた。涙ぐみながら、肩にのるキュゥべえに、話しかける。

 

「リノが生きててよかったですね、キュゥべえ」

「そうだね、夏音。それは、本当にいいことだ。だけど、入理乃、キミに一つ聞きたいことがあるんだ」

 

すたりと、キュゥべえが肩から降りて、入理乃のそばに座った。着物から手を離して、相方の魔法少女の横にたっていたサチは、足元の小動物に目を向けた。

 

「………………何かしら?」

「キミは、嘘をついているんじゃないのかい?」

「嘘……?」

 

まさか、さっきの言っていたことが、嘘であると、キュゥべえは言いたいのだろうか。いや、そんなこと、あり得るのだろうか。

 

「キュゥべい、テメエ何を言っているのかな?馬鹿なの?こんな時に嘘なんかついても、何にもなんないよ?」

 

夏音と、同じことを思ったのだろう。サチも、この白い生物の言うことを、信じられず、すぐに反論した。

 

「サチ、こんな時だからこそだよ。嘘というのは、自分に不都合なことを回避したりするためにつかれるものだ。入理乃は、“自分にとって都合が悪いこと”が起こらないように、あえて嘘をついたのさ」

 

都合が悪いこととは、“二人に真実を知られること”であると、キュゥべえは、主張する。阿岡入理乃は、隠している何かがある。あの魔女について、知られたくないことがあるのだ。そうキュゥべえは、赤い二つの目で、入理乃の目を見ながら言う。入理乃は、微妙に目を細めて、それに返した。

 

「ちょっと、待ってください。何ですか、その言い方は。キュゥべえは、何でそんなこと言えるんですか?」

 

何故、キュゥべえは入理乃が魔女について何か隠していることを知っているのだろう。サチが驚きと困惑のあまり、眉をひそませた。その様子から、彼女も、入理乃が魔女のことを隠していたのを、知らなかったようだった。

 

「それは、ボクじゃなくて、入理乃から聞けばいい。彼女はそれを含めて、すべて知っているはずだからね」

「………ねえ、入理乃。キュゥべえが言っていることは本当なのか答えろよ」

「……………」

 

相棒から言われても、入理乃は困ったような顔で、黙ったままだった。キュゥべえから、じっと向けられる視線を嫌がるように、彼から目をそらす。そして、二分ほどしてから、サチの顔を見ながら話すために、正面を向くと、入理乃は、予想外のことに、ぎょっとした。

 

夏音は、入理乃の前に立っていたのだ。相対する入理乃は、今までにないくらい、狼狽えている。キュゥべえは上を向いて、二人の表情を、探るように見つめた。

 

「言わなくていいんじゃないんですか、今は」

「………………………。………………は?」

 

入理乃が思わずといったように、声を出した。夏音は、無表情で言った。

 

「無理して言う必要はないと、私は思います。少なくとも、今はまだ、言わなくていいです」

 

再び言う。まるで、気遣うように。端からもそう見えたであろう。サチが、納得しきれてないが、しょうがないというといった、苦虫を潰したみたいな顔をした。

 

しかし、言われた本人である彼女、阿岡入理乃は、そうは捉えなかった。その言葉が、どんな意味なのか、理解したからだ。小刻みに体を震わせ、夏音が気づいた時には、ひどく動揺した様子で、怒鳴られていた。

 

「少なくとも今はまだ?一体どういう意味なのよ、それは!?」

「………ちょっと、どうしたんだよ。……入理乃?」

「こんなこと言うなんて、あり得ないわ!!少なくともって、これじゃまるで、全部ーーー」

 

と、そこで、入理乃がはっとした表情をした。目の前の夏音が、戸惑ったように、彼女を見つめる。次に、唐突な慟哭に、びっくりしているサチの方を見た。視線に気がついたサチは、様々な感情がこもった目を向けた。

 

着物の姿の少女は、それらの瞳に、ひどく動揺したようだった。一歩一歩、わずかに下がった。そして、背を向けたと思ったら、大きく飛躍し、廃墟の館の屋根に飛び乗った。突然のことに意表をつかれたサチは、一瞬だけ固まったが、すぐに慌てて、相棒の名前を叫んだ。しかし、時はすでに遅く、叫んでいた頃には、入理乃は館から飛びさって、もうその姿はどこにもなかった。

 

「さっきの魔女みたいに…、あいつも逃げやがった」

「どうして、いきなり、逃げたりなんかしたんでしょうか?」

「それは、キミがあんなこというからじゃないか」

「キュゥべい、人のことなんか言えないだろ!!テメだって、同罪だろ!!」

 

サチが、キュゥべえを睨み付けながら怒鳴る。しかし、苛立ったサチに反して、キュゥべえは、平然と答えた。

 

「でも、あの発言は、あそこでしか言えなかった。ボクはどうしても隠し事をしてほしくなかったのさ」

「だからってなあ……!?」

「あの、ちょっといいですか?」

 

船花サチとキュゥべえの言い争いに、割り込むように夏音が言う。一人と一匹が、夏音の方を見た。

 

「私、何かリノに言ったのでしょうか?」

「それはどういうことだい?」

「……さっき、自分が彼女に何をしたのかがわからないんです。気がついたらリノの前に立っていて、怒鳴られたと思ったら、逃げてしまうし……。正直いってーーー」

 

そして、彼女は自分でも信じられないとばかりに、

 

「先程の記憶がないんです」

 

そう言った。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

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