年齢 十七
身長 163センチ
好きなもの 激辛カレーひき割り納豆乗せ 散歩 猫
嫌いなもの 甘いもの 車(乗り物酔いが酷いので)
歴史ある一族の本家の出身。進学校の和馬高校の生徒だが魔法少女の活動に夢中になりすぎで、成績が下がっていることを悩んでいる。面倒見は良く年下にはつい優しくしてしまい甘くしてしまう。センスや感性が人とは少し変わっていて友人は少なく孤立気味。運動神経は抜群であり、魔法少女時も身のこなしには目を見張るものがある。武器は鉈であり、基本的に二丁持つ。足蹴りを何故かよく使う。
魔法少女姿
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私服
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広美結は、頬を膨らませ、またも不満げに呟く。
「全力でやりたかったのになあ」
剣鉈を見る。刃物の輝きに、結は背徳感や嫌悪感に苛まれれながらも、興奮が抑えられず、恍惚として、閉じていた口を裂けさせた。その笑顔は、常人が浮かべるものではなく、まさに獲物を狩る獣のように獰猛で、見るものに恐怖を与えるような、恐ろしい表情であった。
だが、幸か不幸か。結が真下ではなく、真横を向いていたために、夏音は狂人の顔を見らずにすんだ。そのためか、わずかな躊躇で、彼女に呼びかけることができた。
「あ、あの。助けてくださり、ありがとう、ございます」
「……ん? え、ああ、うん。どういたしまして」
想像に夢中だった結は、少しどもったが、先ほどとは打って変わって温和に微笑んだ。そして、縛られたままである夏音を見て、はっとなって、慌てて降り立つ。その縄を、鉈で切って、夏音を開放した。
「………すいません」
立ち上がり、礼をする。だが、結は眉を少し下げて、
「いいって、いいって。君が無事でよかったよ。それにしても怖かったでしょ。大丈夫?」
心配そうに、結はそう尋ねた。夏音は首を縦にふって肯定した。本当はまだ、頭は混乱のさなかにいたのだが、しかし相手を困らせるわけにもいけない。なので、頑張って、明るく大丈夫であることを強調した。それを察した結は、ちょっと申し訳なさそうに微笑した。
「そういえば、君は名前なんて言うの?」
「夏音。菊名夏音です。貴女は?」
「僕? 僕は広実結。和馬高校の二年生で、趣味は刃物収集と、散歩。あとは運動かな。よろしくね、夏音ちゃん」
そう言って、彼女は剣鉈をくるりと回して、腰のホルダーに収納してみせた。夏音は、目の前の少女が名乗ったその名を、心の中でゆっくりと反芻させる。
広実結。早島市で活動する三人の魔法少女の、その一人。確か、巴マミとかいう少女に、サチ達が見滝原を譲った時期に契約した魔法少女。そして、縄張りのことで、阿岡入理乃と船花サチのコンビと対立している。現在は、この町の二分の一を己のテリトリーとして、魔女を狩っている。そう、サチ達から聞いている。
なので、夏音は驚いていた。だって、サチと入理乃が敵対している魔法少女が自分を助けてくれたのだ。普通に考えてみれば、これはまずありえないことだ。
なぜなら、捕虜ともいうべき自分を、入理乃が対立している相手に明かさないと思うからだ。彼女らからしたら、自分は不審で、何をしでかすかわからない存在だ。そんな奴が、結の手に渡るのは、たまったものではないはずだ。だから、入理乃が夏音を監禁するのは、必然的に、自陣の、しかも頑丈で見つかりにくい場所になってくる。当然、結は自分の縄張りからあまりでないだろうから、菊名夏音が捕まっているなんて、わからないはずだ。
「ところで、何で私がここで捕まってるってわかったんですか? 」
「キュゥべえから聞いたんだ。知らない魔法少女が、ここに捕まってるって。それで、助けなきゃって思ったんだ」
「そういうことだったんですか。そうか、キュゥべえ、ですか…」
なるほど。キュゥべえという点を見落としていた。キュゥべえは、いわゆる魔法少女のサポーター兼魔法少女の管理人のようなもの。キュゥべえになら、入理乃が夏音のことを言ってもおかしくはない。だが、それでも違和感がある。何故、キュゥべえは、広実結に情報を流すようなことをしたのだろう。その心意、その意図がわからない。
「夏音ちゃんは、どうして捕まっていたの?」
「あー、それはですね…」
果たして、本当のことを言って信じてもらえるのだろうか。自分は実は、過去からやってきて、しかも気づいたら、船花家にいて、結果捕まってしまったとか、言えない。それに、簡単に広実結という少女を信じられない。“狂人”という言葉が、こびりついて離れない。
「…まあ、事情があるんみたいだし、無理にいわなくていいよ。というか、敬語を使わないでいいよ。同じ高校生でしょ?」
「……私は十四です」
菊名夏音の身長は、百六十六センチ。クラスの女子で一番高い。いつも身長が高くて羨ましいと言われるが、そんなことは無い。中学生なのに、高校生と間違われ、なまじ、顔もどちらかといえば大人びているためか、大学生と勘違いされたこともある。そのため、夏音はサイドアップテールだとか、ツインテールだとか、子供っぽい髪型をしているが、それでも、間違われ続けている。夏音自身、それを気にしないわけがなかった。
「そ、そうか。そうなんだ。中学校の制服も来てるし…、ま、間違えるほうがどうかしてるよね。ごめん」
「いえ…慣れてるんで…」
「そ、そこまで落ち込まないで。ああ、そうだ。これからどうしようか考えないとだね!!……本当に、どうしようか。君が家に帰るのは、危険だろうし」
「家………」
ぱっと、家族の顔が、脳裏に映し出される。思い出一つ一つが上映される。それに、自然と胸が温かくなる。だが……自分には、家がない。家族がいない。存在がない。素性が、ない。そんな風に、言われてしまった。本当に、入理乃は正しいことを言ったのだろうか。いや、全部違うんだ。全部嘘だ。だから、そんな風におもっちゃいけない。
「あ、そうだ。よかったら、僕のところにおいでよ。僕一人暮らしだから、もう一人ぐらい住ませることはなんとかなるよ。それじゃあ、サチちゃんと入理乃ちゃんがここに来る前にさっさと移動ーーー」
「その前に、いいですか?」
夏音はそう、強い眼差しで、結の言葉を遮った。メイド服の魔法少女は首を傾げるたものの、すぐにニコリと、
「何かな? 」
「一回、家に帰らせてください」
「え、でもーーー」
「お願いします!!」
「ちょ、頭上げて、上げて」
結は、夏音が頭を下げたのに面食らい、思わず慌てて、彼女を正面に向かせた。それでも、夏音は、訴えるように、瞳に光を宿していた。困った結は、顎に手を当てて考える。そして、しばらくして、しょうがないと笑って、夏音の願いを了承した。
◆◇◆◇
外に出て分かったのだが、菊名夏音が捕まっていた場所は、どうやら入理乃が逃げ出し、行方不明となったあの廃墟の館だったようだ。空は分厚い雲が覆っていて薄暗いが、結のデジタルの腕時計はまだ午後の一時を指している。日付は巻き戻った日から、一日経過していた。
一体、入理乃はここまでどのようにして自分を運んできたのか、夏音には検討もつかない。実は入理乃は、夏音を大きなバッグに無理やり押し込め、魔法の紙で包んで見えなくしてから、館まで運んだのだが、夏音がそれを知るのはまた別の話である。
夏音達は館から歩いてバスに乗り、それから駅につくと菊名家まで行った。その間は、互いに色々会話をしたが、次第に菊名家に近くなるほど、夏音は不安で口数も減っていった。そして、自身の家を目の前にして、とうとう黙りこくってしまっていた。
「………………」
だが黙ったのは不安のせいではない。驚きのせいだ。
夏音の家、菊名家の表札には、苗字だけでなく、家族の名が刻まれている。菊名ユウ、菊名花火、菊名高貴。そして、菊名夏音。本来ならばそこには四人の名があったはずだった。だが、この表札に菊名夏音の文字はない。あるのは不自然に欠落したスペースのみだ。
「………、入らないの?」
「入り…、ます。確認しないと……」
結には物陰に隠れてもらい、夏音は震える手でチャイムを鳴らす。ピンポーンと、心中とは程遠い明るい音がした。すると、数分後、ガチャりとドアが開いた。
「はい、どちら様でーー」
「兄さん!!」
夏音は思わず高貴に迫った。あまりに嬉しくて嬉して胸が熱くなる。一方突然のことに赤面しながら、高貴は困惑しているようで、怪訝そうに尋ねた。
「あの…、君は一体……」
「忘れちゃったんですか!?夏音ですよ!?妹の夏音。私は菊名夏音です!!」
ゆさゆさと彼の肩を揺さぶる。
兄が妹をわすれるなんて、ありえない、嘘だ。嘘だ。嘘だ。だから、否定しろ。忘れてるということを否定しろ。夏音は願う。妹は兄に、お帰りと言ってくれと、必死に願う。
「妹…? ちょっと何を言っているのかわからない。俺には、妹はいない。菊名夏音なんて知らない」
「…何で?どうして忘れてるの?」
気がつけば夏音は、呆然として呟いていた。頭がぼんやりしていた。
「貴方私のこと、可愛がってたよね?なら、私のこと忘れるはずないよね。ねえ、惚けてるんでしょ?私のことからかわないでよ」
「ごめん。知らないんだ。君のことは」
そう言って、肩に触れている手を離される。夏音の兄は、逆にこちらを心配そうに見つめてきた。
「君、家族は…?何で制服姿でいるの?」
「…………」
「なあ、何で答えないんだ?」
「…………」
何で、この人は菊名夏音の家族なのに、そんな質問をしてくるんだろうと、夏音は思う。その目は、まるで知らない人を見るようなものなのだ。
ああ、そうか。嘘じゃないんだな、と。菊名夏音は、ようやく気づく。自分が、一人ぼっちなんだと自覚する。
「何があったのかわからないけど、でもーー」
「……何も、ありませんよ。ただ、勘違いしただけです。貴方が私の兄だと思ってしまっただけなんです。こんなやつ、馬鹿みたいですよね、変に思いましたよね。だから、ごめんなさい。………、ごめんなさい」
自分でも何に謝っているのか、わからなかった。ただ、申し訳ない気持ちと、羞恥心。それと、この場にいたくないという感情と、やりきれぬ苛立ち。それらがごちゃごちゃと暴れ回っているのは確かだった。
夏音は失礼します、と言うと、走って結がいるところま来る。そして、結にありがとうございました、と無表情で礼をした。
「………、夏音ちゃん。さっきのは……、君の家族、だよね……? 家族なのに、何で…、家を間違えた…、とか?」
「違います。家を間違えてはいません。ただ、私にはすべてがないだけ。学校も、友人も、家族も。私は…、どこにも居場所がない……」
涙が零れると同時に、雨が空から、ポツリ、ポツリと降ってきた。服に水滴による点ができ、やがてそれが全身が広がった。
「…………」
無言で、結は夏音の頭を撫でた。温もった手は、冷たい世界を溶かすように、そっと触れてーー夏音の悲しみを、さらに助長させた。そうして、いつまでもいつまでも、雨と一緒に泣き続けたのだった。