魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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待たせたが予想以上に長くなり中編ということで。
二万文字です。


遠い未来の昔話 中編

 目を開ければ、私は見知った建物を見上げていた。

 大きくて立派な神社。

 何故か少し古くなっていたが、疑いようもなくここは私が死んだ場所で――

 

「は……?」

 

 私は訳の分からない状況に混乱していた。

 上手く現状が飲み込めない。一体何が起こっている。私は確かに死んだはずなのに……。

 

「……まさか、死後の世界か?」

 

 言って、即座に否定する。

 それにしては違和感があり過ぎるのだ。上手く言葉に出来ないが感覚が現実的過ぎる。この風も、この臭いも、すべて故郷のもの。私が間違えるはずがない。

 

 それに気になる点がいくつかある。

 何やら視点が低いのだ。髪の長さも色も違うし、何よりその小さなプニプニとした手は幼く、指輪がはめられていない。

 生前からして見れば有り得ないことだらけだ。

 

 何かがおかしい。

 

 私はとりあえず鏡代わりのものを探した。

 すると丁度、池があった。懐かしい。昔、私が指揮して造らせて、……って、今はどうでも良いか。

 

 私は早速池に近づき、自分の顔を映した。

 そうして、言葉を失うしかなかった。

 果たしてそこにあったのは、まったく見知らぬ(見知った)幼い少女の姿だった。

 毎日見ている私の顔じゃなかった(私の顔だった)

 

「何だこれは」

 

 更なる混乱に陥るのは、それで充分だった。

 私は頭の中の記憶を探った。だが、奇妙なことにその瞬間、鋭い頭痛が走った。

 

「……っ!」

 

 思わず頭に手をやるが、止まらない。

 ズキズキ、ズキズキ――次第に苦しみで息も上がり、脳髄を内側から食い破るが如く、膨大な記憶が溢れ出る。

 それは私が知らない……否、“私”が知っている、これまでの人生の記録。

 

 そう――“私”の人生の記録だ。

 

 私の名前は広実久遠。

 この地で生まれた由緒ある娘で、父と母の顔は知らないが、お婆様の元、日々、広実家の者として研鑽に励み、領民の皆とも仲良くしていて、龍神様や玉枝様の器となるべくこの身を――

 

「――っ、違う! 違うぞ!!」

 

 否定するべく、私は強く絶叫した。

 この体の人生を、自分のものだと思うこと。それを認めてしまう訳にはいかなかったからだ。何故なら私は玉だから。久遠などという娘ではないから。

 

 だが、私の自己認識は間違いなく自分が久遠だと言っている。

 それが玉という私を拒絶し、弾き出そうとしている。しかし当然のように玉の記憶も黙っていない。彼女は、お前は誰だと叫んだ。それに久遠の記憶も負けじと吠えた。すると玉の記憶は怒るのだ。その身を殺さんと襲いかかる。必然、久遠の記憶も抵抗するのだ。

 まるで、玉と久遠、その存在同士が喰らいあってるみたいで。

 

 自分が誰なのかすら、最早、見失いそうになっていた。

 すべてが虚構とさえ思えて、そうして、私は“私”に飲み込まれ、アイデンティティが崩壊しそうになったその時に――現実に引き戻されるかのように、声がかけられた。

 

「久遠? そこで何してるの?」

「……」

 

 その声には聞き覚えがあった。

 私は振り返る。

 銀色の髪の、恐ろしく美しい少女。時を経ても尚、その若さを保つ“龍神”は――

 

「島」

 

 私はあえて、お婆様ではなく、その名で呼んだ。

 玉の自我が僅かに勝っためだ。やはり私の大元は玉なのだ。そしてその彼女が一度死んだ以上、色々と取り繕ったものが崩れて、心の中で見下していた呼び方になった。

 

「……!」

 

 当然、島は驚いた顔になった。驚愕のあまり固まっている。

 私はもう一度島に呼びかけた。

 

「島。早はどうなったのだ。何故ここにいない。それに、玉枝などという妙な神は何だ。お前は何をやろうと――」

 

 そこで私はギョッっとなった。

 島が泣いていたのだ。その瞳から滂沱の涙を流している。だが口元は愉悦を滲ませるように、ニタリと三日月のように笑っていて、その昂りはいっそ狂気すら感じられる。相反する二つの感情は矛盾だらけで、だからこそ恐ろしく感じられる。その様はまさに妖怪そのものだ。

 島は長き時の中で、何かが壊れて狂っていた。

 

「お前……」

「やっと……」

 

 島は涙を流したまま、震える声で、胸の前に手を組む。まるでメシアか何かに、祈るみたいに。

 

「玉……っ! やっと思い出したんだね!」

「!? 何を言っている!!」

「私は、間違っていなかった! 間違っていなかったのだ!」

 

 島は私の話など聞いていなかった。代わりに組んでいた手を解き、私に駆け寄って抱きしめる。それはいつかの時のように暖かかったが、同時に力も強く鎖のようですらあった。

 

「玉、よくぞ、よくぞ戻ってきた。これからはずっと一緒だ! 離さない!」

「――ッ、やめろ!! 気持ち悪い!!」

 

 私は島を突き飛ばした。あっさりと離れる彼女。私は怖気から脂汗を滲ませ、拒絶を込めて叫ぶ。

 

「さっきから意味の分からないことをごちゃごちゃと!! 何なのだ!! お前は一体何なのだ!!」

「……ハ」

 

 すると、島はまたも笑った。鳥肌が立つ。

 ……こいつは駄目だ。そう直感的に分かった。

 

「……ッ!!」

 

 私は反射的に島を殺そうとした。常日頃から戦場にいた私にとって、親しい者を殺す覚悟は一秒あれば充分なのだ。

 それに何故か私は己の魔力を使えていた。ソウルジェムもないのに。

 

 だから咄嗟のように、いつも通りに、呼び出した大鉈で、その島の体を真っ二つに両断し――嫌な感触と共に、血の泉が吹き出した。

 

「????」

 

 島は訳の分からないといった顔だ。すぐになす術なく崩れ落ち、だが私は手を緩めない。その指輪ごと左手を容赦なく踏み潰した。

 

「これで……」

「……フヒ」

「!?」

 

 島が私を見上げていた。あり得ない事実に固まる。何が起きているのか分からない。何が……。

 

「い、良い加減にしろ!!」

 

 私は困惑と共に島の首を断ち切った。だが、島の口元は歪んだまま、ゆっくりと瞬きを繰り返す。

 ついに私は絶叫した。

 

「この化け物が……!!」

「そう。私はとっくに怪物だ」

 

 肯定。

 私の言葉に答えて、島は自身の頭を抱え、ぴったりと首をつける。そして下半身が自ら張って、上半身と繋がった。完全復活。何事もなかったかのように、血だらけの怪物は、私の前に再び立っていた。

 

「……なんなのだ、お前は」

「ふふ、ふふふ、フフフフフ――もう離さない、玉」

 

 島の体から後光が溢れ出し、背後から何か大量のものが――触手が溢れ出し、私を捕まえる。私はもがいたがどうにもならなかった。やがて、いつの間にか意識は暗転し、気が付けば地下牢にいた。

 

 ……そこは冷たく狭く、そして暗い場所だった。

 

 私は起きて早々、冷静な頭で周りを分析した。壁の感触、カビの匂い。捕えられたことは一度や二度じゃない。その度に隙を見つけて脱出してきたのだが、今回のは完璧過ぎる。少し調べただけで分かった。空間全体にありとあらゆる結界魔法が施されている。

 対策もなしに逃げようとすれば、より強固に縛り上げられるだろう。

 であるなら、まずは状況の整理、そして魔法の解析をしなければならない。

 

 私は改めて記憶を呼び起こした。

 

 ……すると、現状のことが少しずつ理解出来た。

 今は前の私が死んで丁度三十年ぐらいらしい。戦乱の時代が終わり、豊臣公が天下を納めているそうだ。しかしこの地方を牛耳るのは、島と呼ばれる現人神。早は若くして亡くなって、島はそこからおかしくなっていったのだろう。

 力を使い老化を抑え、私の妹の子供と自らの血縁を番わせて、何度も赤ん坊を造らせた。

 

 私は六人目の赤ん坊である。

 そのせいか生まれた順は別に珍しくもないが、母親、父親共に死亡している。

 今の私の体は尋常じゃないくらい異常なのだ。徹底的に弄られ、改造され、ソウルジェムがなくても魂の力を引き出せるなど、最早その身体構造は人間ではない。

 胎児の頃からの魔法干渉、因子操作の賜物だ。

 だが、母体はその無茶に耐えきれなかった。また父の方も精巣を作り変えられ、その影響で病死している。今世の私にとって、親とは島である。

 久遠はずっと、島に育てられてきた。

 そして、教えられてきた。

 

 玉枝という存在。

 そう、前の私を神格化した神だ。

 

 何故か早や島より、上位の存在とされている。

 私が大好きだった猫の姿をしていて、因果を操り、時を超える輪廻の神らしい。

 私にはそんな力はないのだが……。

 しかし、私は確かにここにいる。私は確かに久遠という少女になっているのだ。

 一体どうして? まさかそのために久遠を産ませたのか?

 

「……」

 

 そうだとしたら地獄だ。

 私はここまで望んでない。妹の子供の尊厳を踏み躙って、妹の子孫を乗っ取って……私が皆を殺したようなものだ。

 私はそんなことないよう、呪いを消したのに。

 

「くそッ!!」

 

 思わず悪態が口から出る。幼い体のせいか、感情を制御するのが難しい。久しぶりの感覚だ。私は今……やるせなさに打ちのめされている。

 底無し沼のような絶望だ。

 

「……どうして。何でこんなことに……」

 

 考えども考えども、答えは出ない。

 ただ、事実として、島は私に執着している。気色悪くて吐き気がする。もしかしたら私を不憫に思って、こんな行動をしているのかもしれないが、余計なお世話だ。

 だけど……、

 

「私も散々、お前を操ってしまった――これは天罰かもしれないな」

 

 自分がやったことが、自分に跳ね返ってしまった。

 これは多分、そういう状況だ。

 自業自得過ぎて笑えてくる。やがて私は実際にくつくつと笑った。笑って笑って笑って……今度は泣いた。限界まで泣いた。泣いた後は蹲った。このまま何もしたくないとさえ思った。

 けれど、そうやってどん底に落ち切っていると、ぼんやりと殺さなければいけないという思考が浮かんだ。

 

 多分、そんなに早と島が、嫌いじゃなかったからだ。今になって、心の底からすまないと思う。だからこそ、今の島は見てられない。この土地の安寧のためにも、終わらせてあげたいと強く思うのだ。

 

「……それに時間がない」

 

 こうして一人でいるからこそ分かる。

 刻一刻と、玉の記憶が薄れつつある。多分、前世の自我は芽生えたけど、だからと言って記憶はずっと保持していられないのだろう。それこそが島の狙い。

 そうなる前に、島を殺すしかない。

 

「急がなければ……」

 

 そうして、私は策を巡らせ、何日もかけて地下牢を脱出した。

 

「そうだ。それで良いんだ」

 

 そう近くで笑う、島のことにも気付けずに。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ……そして、その後はどうなっただろうか。

 結論から言おう。私は島の殺害に成功した。その道のりは決して平坦ではなかったが、確かに島の殺害に成功したのだ。

 

 手順としては単純だった。島の本体を倒したのだ。島は本来の肉体を捨て、ソウルジェムを隠し、魔力の受信機を用いて仮の体を操っていた。だからすぐに再生出来たし、偽のソウルジェムを砕いても不死身だった。だが、私はそれを暴き立て、島のソウルジェムが祀られている祠を破壊した。

 それで終わりだ。島の生命停止を確認した後、私も速やかに自害した。こんな異物、この世界にはいらないと思って。

 

 だが……次に目を開けた時、そこは一面田んぼ畑だった。

 私は驚いた。しかし同時に、先程のことがまるで思い出せないことにも気が付いた。

 私は何をしていたのだろう。

 確か……確か……。いや、そもそも私は何者で、何故こんな場所にいるのか。

 私は誰?

 

 そう思っていると、遠くから声をかけられた。

 

「船花様ー!」

 

 そうだ。

 私の名前は、広実船花なんだった。

 この地で生まれた由緒ある娘で、父と母の顔は知らないが、お婆様の元、日々、広実家の者として研鑽に励み、領民の皆とも仲良くしていて、龍神様や玉枝の器となるべく、巫として過ごしている。

 光栄なことだ。私は、そのために生まれてきたんだ。

 

「船花様、大変なんです、船花様!!」

 

 振り返ると、声をかけていたのは領民だった。

 慌ててていたようなので、思わず彼の元に駆け寄って、「どうしたの?」と聞いた。

 すると、必死な形相で領民は叫んだ。

 

「実は病気が流行っていて、土地全体の畑が枯れてしまったのです!! 今すぐお確かめを!!」

「分かった」

 

 私は急いで土地中の畑を見て回った。

 確かに畑が全滅していた。このままでは食うにも困る有様だろう。だから領民達は、玉枝の巫である私の周りに集まって、祈りを捧げていた。

 

「どうか、どうか」

「お願いします」

「お助け下さい」

 

 皆が私を必要としてくれる。私は無言で頷いた。手を広げ、力を解放すれば、畑の作物は次々と実りを豊かにさせて生き返る。

 領民は喜び、声を上げ、私を称えた。

 

「ああ、ありがとう、ありがとうございます!」

「船花様!!」

「流石は我らの巫様じゃ」

 

 領民達は、まるで私のことを救い主のように崇めてくれる。

 私はそれだけでここにいていいのだと思える。

 その後も、私は沢山、この土地の民に奇跡を起こし続けた。雨を降らせ、太陽を呼び、川を作り。

 領民の皆に認められて、嬉しかった。

 

 ああ、私は、ずっとこういう風になりたかったんだ。

 神様でいる限り、ずっと皆と一緒にいられる……この土地で平和に生きていけるんだ……。

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………………………?

 

 ……あれ? でも、私にそんな資格あったんだっけ?

 

 私はこの世界にいちゃいけな存在なんじゃ……。

 

「――!?」

 

 その瞬間、私は今までのことをすべて思い出していた。

 いつの間にか目の前、あの日壊したソウルジェムを祀る祠がある。

 冷や汗と共にゆっくりと振り返った。

 そこにいたのは金髪の少女、早だった。この世界では、島が死んで、早が生きていたのだ。

 

「……」

 

 言葉を失う私に対して、早は微笑んでいた。

 

「どうでしたか、この世界は。幸せでしたか?」

「……あ、あり得ない。お前は一体……」

「貴女が知っている早ですよ。正確には怪物となった私が作った、手下ですが」

「……嘘」

 

 呆然とする私に、やはり早は不気味な笑いを返すだけだった。

 

「嘘ではありません。その驚きようからするに、貴女が前にいた世界では島だったんですね」

「は……? い、いや、待て待て。待ってくれ。私はあの時、確かに島を殺したんだぞ! それがどうして手下だのなんだのの話になっている!」

 

 それに今の私はなんなんだ。

 この幼い体、慣れない髪色。全部私のじゃない。

 また転生している。

 

「また私は妹の子孫を体を奪って……どうしてこんなことを!!」

「でも、楽しかったんですよね?」

「そういう問題じゃない!! 私は望んでいないんだ。こんなことは今すぐ――」

「でも、楽しかったんですよね?」

 

 有無を言わせぬ物言い。

 私は黙ってしまう。事実だったからだ。

 そして早は続ける。

 

「大好きなこの土地の人々に囲まれて、愛されて、認められて、美味しいものも食べられて。可愛い着物も手に入る。まさに貴女が思い描いていた幸せですよ?」

「……幸せ?」

 

 これが?

 何を馬鹿なことを。大体、私は死んだんだ。散々人を殺しておいて、妹達も守れなくて、更には自分の都合で早と島を利用した。私の一族ももういない。

 そんな私に幸せなんてないだろう。もう私には何もないんだ。

 

「けれど、またやり直すことが出来ますよ」

「……!」

「それこそ妹の子孫の体を使って、何百回でも、何千回でも、世界を超えて、時代を超えて。貴女の魂にかけられた呪いは、そういう呪いなんです。失われた家族だって、私の一族や領民達が代わりにいます。現に、貴女はもうこの土地の全てを、昔の家族と同じくらいに愛しているんでしょう?」

「…………」

「おめでとうございます。これで貴女は真の神になられました」

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチ。

 

 島は乾いた拍手を私に送った。

 私は上手く考えることが出来ず、ただ固まっていた。

 冗談じゃなかった。

 

 でも……。

 

 島の言っていることは本当だった。

 久遠や船花として生きて。玉だった頃に無くした、幸せな幼少期を過ごせた。

 その時点でもう、私は広実一族を家族と認識しているし、慕ってくれる領民のためなら、喜んで命を差し出せる。

 そして実際に力が目覚めて――巫になって、私は歓喜していた。これでようやく、皆を救うために人生を生きられるのだと。

 

 ……最早、私はこの土地を救うことだけでしか、自分に価値を見出せないのだ。そのためなら何度だって、皆のために犠牲になれる。

 

 そう考えられる者だけが……きっと神になれるのだろう。

 神とは即ち、究極の人身御供なり。

 私はこれから、多くの救いを齎すべく、死ぬためだけに生まれ変わる。

 

「さあ、新たな神よ。私を殺して下さい。ずっと思っていました。この土地を守ろうとして下さる貴女こそが本当の神様。私達は貴女のようになれなくて、すぐに怪物となりました。私達は貴女のような神様を作りたかったのです」

「まさか、それだけの目的で、お前のような手下を生み出したとはな……」

「私のことなんてどうでも良いんです。さっさと私を喰らい、呪いを完璧なものへ。そうしなければどうなるか分かりますよね?」

 

 ……分かるさ。

 お前を殺さなければ、この土地を滅茶苦茶にするくらい暴れるんだろう。そんでお前を殺すことでしか、転生の術式は完成しない。あえて大切な者を壊させ、私の人としての心を失くす気なのか?

 

「ふざけるなよ」

 

 自分から引き金を引かせようなんざ、反吐が出る。反吐が出る。

 しかし私は祠の方へ、振り返って近づいてしまう。やはりこの祠のソウルジェムこそが、手下の本体なのだ。

 だが、この世界で私を育ててくれたのは彼女だった。

 私は今から、この手で親を殺す。

 

「――ッ」

 

 私は呼び出した武器で、ソウルジェムごと祠を破壊した。

 早が倒れる音がする。魂が絶望で黒く染まった。

 

 ――私の中で、何かが壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、私は何度も転生を繰り返した。

 死んで、生まれて、死んで、生まれて。

 

 転生の呪いは、当初、上手く機能してはいなかった。

 そのため、自我の目覚めが長く続いたり、記憶が戻るのが比較的成長してからというケースが多かった。

 そういう時は動きやすかった。そのため、色々と転生の呪いや土地の呪いをどうにかしようと頑張ることが出来た。

 けれど、段々と転生の呪いは私を縛り、何十年もかけてどうにか出来たのは玉枝の存在を消すことだけ。その最中思い出した最初の願いには、愕然ときたものだ。まさか、この状況が全部自分のせいだったとは。その時はどうしようもないと、絶望して魔女になった。

 だが、次には生まれ変わっている。

 死んでも生まれ変わっている。

 そしてその度に、私は妹の子孫の体を乗っ取ってしまう。

 

 ……ごめんなさい、と謝らなくなったのはいつからだろう。

 罪悪感が薄れていったのはいつからだろう。

 

 私は亡霊なのに。いちゃいけない存在なのに。何度も人生をやり直している。

 自我が曖昧になる感覚。

 私は誰だ。色んな私がいた。

 大人しい私、だらしない私、あまり賢くない私、活発な私。

 どれが本当の私だと言えるのだろう。

 まるでシュミレーション。ルーレットを回して、その人生双六を進めて、はい、終わり。

 でも結末は決まってバッドエンド。

 

 笑えない。笑えないよ。

 本物の私が何処にもいない。

 

 でも、私は心の何処かで役割に徹している。

 神様という人身御供の役割。その役割さえあれば私は欠片でも幸せを感じるのだろう。

 そのために、いくら犠牲を払おうとも。騙し、犯す、そうすることでしか私は何かを掴めない。

 

 ……そのせいで、私は大勢の家族を殺し続けた。

 家族。

 広実一族。そして早島に住む人々。

 

 彼らはどの時代においても、私に何らかの形で寄り添ってくれた。

 時には親として、時には親友として、時には兄弟として。

 幸せをくれるのは、いつだって彼らだ。

 けれど、敵として戦うのも、また広実一族や早島の人々だ。この早島を支配するからこそ、悪の芽がそこから生まれ、魔法少女も広実一族の出身者しかいない。

 早島を守るために、守りたい家族である彼らを殺す。

 その矛盾こそが、私の真の絶望だった。皆が私の手から零れ落ちて離れてしまった。

 

 ――ああ、何が神様だ。

 

 ……神様になったって、何も出来やしない。

 すべてが無駄のままに、また繰り返し、繰り返し。それでも、大切な早と島を殺したことで、私の中で歯止めが壊れてしまっている。

 

 ずっとずっと……惰性のままに、神様を続けた。

 その内、時代は何度も移り変わり、早島は発展を続けた。

 私はぼんやりとそれを眺めていた。無感動にも、あるいは感傷的にも。

 だが、そこで生きる人々の煌めきは、私の心を捕らえて離さなかった。

 人々は生きる逞しさに溢れていた。私は悟った。龍神信仰の意味も、失くなっていくべきだ。しかしいつまで経っても、呪いは残り続け、人々は神への依存をやめない。

 

 ……どうしたら良いか、分からなかった。

 私もまた、この土地に依存していた。

 

 そして……やがてすべてを諦めた頃、私は“東順那”に生まれ変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 その転生は、普段のものとは違っていた。

 生まれて数ヶ月で既に、私は自分の自我を取り戻していた。

 記憶も欠けることなく、ちゃんと思い出せていて。

 

「………………?」

 

 うん。意味が分からなかったよ。

 初めは、何の冗談かと思った。

 まさか赤ん坊になっているなんて。普通は想像だにしないだろう。おかげで驚愕のあまり、悲鳴を上げていた。けれどそれは泣き声になっていた。

 

「あらあら、まあまあ!!」

 

 すると、その泣き声に母親が飛んできた。よしよーし、よしよーし、と私を抱き上げてあやす。

 その母親が、那お子の時と同じだったので、ゲンナリした。

 またお前なんかーい、という感じだ。しかもこの人とは致命的に合わないっていうか、あんま好きじゃないっていうか、そりゃあ情はあるけど、一緒にいたくないタイプだ。

 

「順那ちゃん、いないいないばあー!」

 

 後、こいつのネーミングセンスも微妙だ。

 何だよ、順那って。可愛くない。サチとか、いのりとか、そういう名前の方が良くないかい?

 

 とは言え、東家は情報管理の家だ。何かあった時、動きやすいのもまた事実だ。

 

「アー……」

 

 私は適当に赤ん坊のふりをしつつ、悦子の時にした布石を思い出した。

 私の固有魔法は“その土地に眠る魔法少女の魔法”を引き出すこと。その魔法の中に危険予知……つまり未来における災厄を予知するものもあった。そのため、私はそれに従い、最悪の事態を想定して何度も策を打ってきた。だが正直言って、予知できるのは曖昧な部分だけだ。十数年後、この先に早島を揺るがす程の何かが起きる。それだけしか分からない。

 しかし、放っておく訳にはいかない。私はこの早島の神なのだから。

 

 ……まあ、その神が絶賛、赤ん坊になってるってのは如何なものかと思うけど。

 でも、赤ん坊になってる時点で、何かがおかしいのはやっぱり明白だった。それこそ、まるでここが終着点みたいな。行き止まりみたいな。

 

「……」

 

 ……しかしふとそう思っても、私の中の期待はすぐに霧散していた。私は何も夢見たくなかった。既に無駄だと嘲笑った。

 だが何かがある。その予感だけはあった。

 そして、それは数ヶ月後に確信に変わった。

 

「わー、かわいい!!」

「ちっちゃいねえ!」

 

 定期的に行われる親戚の会合。そこでその少女達は私の周りに集まってきたのだ。

 まだ小さく、この出会いのことも忘れてしまうだろう。

 でも私はいつまでも覚えている。一目見ただけで、似ていると思った。

 “玉”であった頃の妹達。

 その二人の少女――結とミズハは、何から何まで妹達にそっくりだった。

 

「――!? ――――!!」

 

 あまりに似ていたので、私は思わず、驚きに息を飲んだ。そして次には込み上げる懐かしさで号泣してしまった。ワンワンと泣いたので、結とミズハは困り果てていた。けれど、そんな様子も似ていて、涙が止まることはなかった。

 時を超えて、また大切な妹達が会いにきてくれたんだと、そう思った。

 

 だけど……頭も冷えてくると、二人が妹達とは全然違うということは、やはりはっきりと分かってきた。なんていうか、似ているのは顔と性格だけで、根本的には別人なのだ。

 当たり前だった。死んだものは回帰しない。

 転生しているのなんて、この世で私、ただ一人だろう。

 

 だが、間違いなくそれは一つの救いだった。

 昔失った感情の欠片が、少しだけ戻ってきたような気がした。

 私は自我を取り戻して、決めていたのに。他の人達からは、わざと嫌われようと。そもそも彼らとは距離を置きたかったから。何らかの形で殺してしまうかもしれない相手と仲良くなるのは、残酷過ぎる。

 

 けれど、結とミズハだけは例外だった。

 仲良くなりたい。妹達を失った分、一緒に遊んでやりたい。

 ただの自分勝手な自己満足が、私の心を支配していた。

 

 ……それでも、嫌ってくれたら、どんなに良かったか。

 

 めんどくさく、変わり者で、嫌われ者の順那。

 成長し、その仮面を被っても、結とミズハは態度を変えなかった。

 ゲームをしよう、なんて、誘ってくる。

 

「……しょうがないなあ」

 

 今更本当の私になれなくて、偽物のキャラのままで笑った。

 

 だけど、結とミズハが楽しそうにしているから、一緒にゲームをするのは悪くなかった。

 わざと負けて、拗ねるふりすると、彼女達は私の頭を撫でてくれて、ああ、私を妹扱いするのが好きなのだなと思った。そうした方が仲が深まるから、私はその状況に甘んじた。

 

 しかし私はその裏で、いつものように、いつも通り、来たる災厄に備えるべく、日陰の世界を生きるのだ。

 殺し、犯し、奪い去り――古株の魔法少女が死んだので、サチと入理乃という少女達を、誘導して魔法少女にした。

 バラバラにすると管理が面倒だから、コンビを組ませた。相性はお世辞にも良いとは思えなかった。

 

「そろそろ、結とミズハを、魔法少女にした方がいいんじゃないかな」

 

 だから、それを危惧してか、キュゥべえにはそう言われた。

 だけど私は少し考えてから、首を振った。

 

「まだ早いよ」

 

 思えば、私は何がしたかったのだろう。

 私と親しい友人、兄弟、恋人はごまんと居たはずなのに。だが必要とあらば、私はそんな彼らであっても、例外なく生贄にしてきたはずだ。

 それが、結達をそこから遠ざけるようなことを言ってしまっている。それは本当にまだ、魔法少女の替えがいないから? 

 違う気がする。今回の転生先で、不思議と私の自我がいつまでも消えていない。そのせいか、昔の私にはなかった何かが、芽生えつつある。

 

「あ、順那!」

 

 その時、後ろからパタパタと足音がして、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。キュゥべえはさっさといなくなった。振り返ると、結とミズハがいた。

 

「もう探したんだぞ。今まで何処行ってたんだよ!!」

「えへへ。ごめんね。何となく、別の場所に行きたくなっちゃって」

 

 誤魔化すと、やれやれまたか、という顔を彼女達はした。

 

「相変わらず気まぐれだなあ……まあ良いや。いつも通り一緒にゲームやろうよ」

「新作だぞ。これ好きでしょ」

 

 別に好きでも何でもないゲームソフトを見せられた。

 それでも私は微笑んだ。偽りの、“妹”の笑顔で微笑んだ。

 

「うん! すごく楽しみ!」

 

 それから私達は、ゲームで対戦を楽しんだ。

 すぐに私のゲーム機の画面に、ゲームオーバーの文字が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そしてしばらく経った頃である。

 暖かく、ぬるま湯なような日々に変化があった。

 事件が起きたのだ。

 

 ミズハの姉の駆け落ち。

 

 別に駆け落ち事態、よくある話だ。最近、若者が嫌気を指して、一族を出奔することが増えてきた。

 今になって、私が少しずつ蒔いてきた種が芽吹いてきたとも言える。結構長い間、考え方が変わるよう、一族の掟改革などをやってきたのだ。……結局、神の依存心が完全に消えなくて、頓挫したが。

 

 ともかく、広実一族は解体され、血が薄くなれば良いと私は思っていた。そのため、私はこの駆け落ちを歓迎していた。

 だが……ミズハの姉というのはよくなかった。

 駆け落ちした家は、迫害され、取り潰しになることも多いのだ。

 ミズハが酷い目に遭うのは確定していた。

 

 ……まあ、実際のところ。

 何れこうなるんじゃないかな、とは予想していた。

 だってミズハの姉が、誰かと付き合っているのは知っていたから。私がそれを防ごうとしなかったのは、本当にミズハには一族を出て行ってもらおうと考えていたからだ。

 

 多分、そんなことをしなくたって、私は結とミズハの性格を変えることが出来たと思う。一族に縛られず、自由奔放に生きられる性格に。だが、肝心の私自身が、この早島に一番縛られていた。

 道の示し方は分からず、さりとて誘導したところで、気質というのはどうしようもない。

 例えば結の場合、精一杯、他の道を教えてやったのに、諦めモードで完結してしまった。ミズハに至っては、一族にしがみつく有様だ。

 

 最終手段として、強制的に追い出そうと思った。

 結は本家の娘だから、どうにも出来ないかもしれない。

 だがミズハは、魔法少女の才能がかなり低い。問題ないはず……問題ないはずだと思った。

 

「……本当にそうかい?」

 

 しかしキュゥべえは聞いてきた。

 それが本当にお前の望みなのかと。

 

「君は順那に転生して、随分と変わってしまったね。訳が分からないけど、相当甘くなったんじゃないのかい?」

「それでも……それでもミズハが早島のために死ぬことはなくなる」

「ふーん。そう納得しているなら良いけどね。けれど結への影響、考えなかった訳じゃないんだろう?」

「……」

 

 分かっている。

 結は今回の件が自分のせいだと、大分落ち込んでいる。どうせ結がいなくても、ミズハの姉なら勝手に駆け落ちしてるだろうに。

 だが、同時にこれで、結は一族を更に嫌うはずだ。溜め込んだら溜め込むだけ、後は爆発するタイプなのだ。高校生にでもなれば、すべてが自棄になって一人暮らしを始めるはずだ。

 

「少なくとも自分の人生を束の間でも生きられる……その一助くらいにはなるはずだ」

「成る程ね。かつての妹達と、おんなじことはしたくないって訳か。未だに割り切れてないんだね」

 

 当たり前だ。あれが私の最大の間違い。

 新たに出来た妹達を束縛するくらいなら、私から遠ざける。

 たとえエコ贔屓だとしても。サチと入理乃には心の底から悪いと思っていても。……幸せにしてやりたいと、私は強く望んでいる。

 

「長く生きてるのに、酷く不器用だね」

「しょうがないだろう……」

 

 そうじゃなきゃ、私はきっと神様になっていない。

 

 ……そうして、私はミズハを追放した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 ミズハを追放するにあたって、私は事前に長に取り行っていた。

 ミズハを牛木草行きにして欲しいと。

 結がそう頼むはずだから、その願いを聞いてやってくれと。

 

 果たして、その願いは聞き届けられた。

 ミズハは牛木草に引っ越し、私と結はそれを悲しみと共に見送った。

 とは言え、私としては目論見大成功で、ほっとしていた。

 

 長には感謝しても仕切れない。

 なので後日、改めて礼を言いに言った。

 すると、彼は虚な目をして、首を振りながら答えた。

 

「別に、かしこまる必要はございません。姉上である貴方様がそう仰るのですから」

 

 そう。

 彼は私の暗示にかかっていた。いくら神様と言えど、私は長にとってただの孫に過ぎない。言うことを聞かせるには、やっぱり魔法が一番手っ取り早かった。

 

「それでも、お前の働きあってのことだよ。私はお前のことが誇らしいよ」

「滅相もございません」

 

 長は控えめな態度で首を振った。

 

「さて。それで? 例の件はどうなっている?」

「はい。すべて順調にございます」

 

 長の隣で両親が答えた。こちらも必要な時は暗示をかけて操っていた。

 情報を扱っているだけあって、物事の管理が上手く、便利だ。

 

「牛木草、早島共に、玉様が設置した結界の魔法陣は機能しております」

「魔道具の方は?」

「それも無事、所定の位置へ。これでここら一帯は、玉様の魔力が干渉できるエリアとなりました」

 

 よし。布石は順調だ。

 感情エネルギーの収集。そのエネルギーを用いた遮断フィールド及び防護結界魔法陣の生成。

 その範囲は早島や、早島に深く関わる経済圏の町々と、かつてないほど大規模なものとなる。

 ここまでやるのは、想定する厄災が、それ程やばいからだ。

 

 ワルプルギスの夜。

 ――かつて早島にもやってきた最大最悪の魔女。

 

 私だって、何も調べなかったわけではない。

 これまでの経験や勘、ありとあらゆる書物から、ワルプルギスの夜に思い至り、統計データをとったところ、やはり進路的に見滝原へ向かうらしい。

 見滝原と言えば、ここから真っ直ぐ行ったところにある町だ。勿論、真っ直ぐと言っても距離はとても遠い。電車で何時間もかかる程遠い。

 

 だが、ワルプルギスはその距離を無視してやってくるだろう。

 しかも早と島を呼び出しても、本気で戦闘すれば多くの人が死んでしまうし、ましてや昔のように牛木草に逸らす訳にもいかない。

 牛木草は早島と深く結びつき、早島市民の働き口のほか、買い物場所や経済圏そのものになっている。牛木草一帯も守らなければ早島は別の意味で終わるのだ。五十年前の時点でワルプルギスの行動パターンを変えられれば良かったが……まあ、早島の外から出られないのでどうしようもない。

 そんな訳で、今のうちにワルプルギスの夜から早島を守ろうと動いているのだ。五十年前から想定していたことである。

 

「とは言え……」

 

 嫌な予感はまだあった。

 今回の転生が普段と違うこともそうだが、それとは別に、気になることがもう一つあるのだ。

 それは予知夢である。私は危険予知のほかに、未来を知る手段をいくつか持っていて、その内の一つが、限定的な未来をランダムで見るという魔法だった。

 そこで私が目にした光景は、キュゥべえが地球を去るという未来だ。あれだけ古代からこの星に干渉してきた宇宙生物が、この地球を去るのだ。

 

 ……考えれば考える程、訳が分からない未来である。

 ただ、それだけの理由がキュゥべえ側に出来た……ということなのだろう。

 しかし、予知夢は当たり外れがとにかく酷く、あまり信用できない魔法でもある。それを百%信じるのも馬鹿馬鹿しいことだ……だが私の中で不安はいつまでも消えない。

 

 もしかしたら、地殻変動が起きて、地球が爆発するのではないか――そんなことさえ思った。

 後はあまり考えたくないが、ワルプルギスの夜を超える魔女が生まれたとか――

 

「……。それは流石にないだろう……」

 

 言って、否定する。

 

 そんな膨大な因果を持つ奴が、突如として発生するなんてことがあり得るのか?

 過去にはラ・レーヌの黄昏や、早や島みたいなのはいたらしい。

 だがあくまで、この地球以下のスケールに収まっている。それが地球を滅ぼす規模なんてのは、荒唐無稽な話だ。

 

「……まあ一応対策を立てておくか」

 

 それでも可能性があるなら気にするすべきだろう。

 両親に新しいノートを持ってきてもらい、ペンで計画を書いていく。

 今の仕組みを利用すれば恐らくは――いやいや違うだろうと考え直し。

 そんなことを、何度も何度も繰り返した。

 

 最早、ミズハや結に構っている暇など、この時の私にはなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて月日は流れた。

 気がつけば、二年も時間が経っていた。

 

 結は相変わらず落ち込んでいる。ミズハのことを全部自分のせいと思い込んでいるようだ。

 

「……しょうがない奴だなあ」

 

 というのが私の正直な気持ちだ。

 何回もそうじゃないと言っているのだが……頑固なところは誰に似たのだろう。

 なんだか可哀想だ。

 お詫びのように、私はペットの手配をしていた。

 珍しく妹が我儘を言ったので、こっそりでも叶えてやりたかった。

 

 そうして、一族から白猫の子猫が届いた。

 私はケージに入れられたそいつに向かって微笑んだ。

 

「我が妹の話し相手になってくれ。私はあいつを見てやることが出来ないからな」

 

 子猫はニャーと鳴いた。人懐っこい奴を選別したつもりだ。結も気に入るだろう。

 

「よし、頼んだぞ」

 

 渡す前、思う存分猫吸いしてから、子猫を結の元に送った。

 結に笑顔が戻ってきた。これで大丈夫だろう。

 

 そう思い、私は更に計画の方にのめり込んだ。

 ミズハの方に気を回そうとした時には、既に遅かった。

 

 ――予期せぬアクシデントが発生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、私は牛木草に赴いていた。感情エネルギーの回収のため、魔法少女の争いを激化させようと動いていたのだ。

 だが。

 大きな広場を移動していた時、そいつは突如として暗がりから現れた。

 

「お前は――」

 

 そう、言葉を続ける前に、何かが風を切って飛んできた。

 槍――いやこれはハルバードだ。赤黒いオーラで作られたハルバードが、何者かによって射出されたのだ。

 

 ――遅い。

 

 しかし私にとっては止まって見えるも同然だった。

 武器を使うでもなく、手刀ではたき落とした。だがその何者かは、次々とオーラでハルバードを生成し、打ち出してきた。数は百。ちょっと面倒だ。

 

 私は糸を一本、指から伸ばした。

 縦横無尽に薙ぎ払うことで、その何者かを含め、寸断しようとした。

 だがハルバードは破壊できたが、そいつは視界から逃げていた。しかも空間を飛びように一瞬で。

 

 ――転移?

 

 そう思った時には、そいつは後ろから回り込んでいた。振り返り、軽くバッグステップで回避すると、ガアン!! と大きな音が響いた。

 見るとオーラじゃない、ちゃんと金属で出来たハルバードの刃が地面にのめり込んでいる。力いっぱい振り下ろしたんだろう。刃を中心に地面に蜘蛛の巣状のヒビができていた。だが、その少女はあっさりとハルバードを引き抜き、構え直した。相応に筋力はあるらしい。

 

「お前は誰だ?」

 

 私は少女に尋ねた。

 しかし少女は何も答えない。答える必要はないとばかり、殺気を漏らし、ハルバードを私に向けている。

 

 見たこともない魔法少女だった。黒い格好で、黒い帽子を被っていて。黄色い菊の花飾りが帽子についていた。横に結ばれたオレンジの髪は、目に痛い程鮮やかだった。そして一番印象的だったのは、その顔を隠す仮面。

 これが魔力そのものの気配を隠している。魔力が大きいのか、異質なのか。特徴が分からないから、捉えどころのない感じだ。

 

「私を殺しに来たのか?」

「……」

 

 再び問いかけるも返事はない。

 私はそれでも思った。こいつは私を殺しにきたのだ。別に珍しいことでもない。裏で動き回る以上、私の敵は多いのだから。

 ならばやることは一つ。排除、あるいは捕縛し、情報を吐かせる。

 

「――ッ」

 

 と、そこで、少女を観察していると、何かよく分からない、得体の知れない違和感を感じた。

 ゾクリと、その瞬間、悪寒が全身を駆け巡った。

 

 ――こいつヤバいかもしれない。

 

 私は侮りも、油断も、すぐに捨てて死装束に変身した。懐からグリーフシードをいくつも放り、魔力を込めた瞬間、それは羽化する。

 

 結界が現実世界を飲み込んだ。

 

 淡いピンク色の空。空に突き立つようなビルの摩天楼。しかし町並みは昭和時代のものであり、何処かレトロな懐かしさを感じさせる。

 空中に何匹も浮かぶのは蛇――否、ウミヘビである。しかも木でできた翼が生えた。

 目の部分は車のライトに、その下には巨大な人間の唇があり、ベロンと大きな舌を覗かせている。胴体には無数の錆びた車輪が付いていた。

 

 旧車の魔女。私はそう呼んでいる。早島で五十年前、悦子が魔女化した時の姿である。

 私は天高く浮かび上がり、その内の一つに着地した。

 黒の魔法少女は地面からそれを見上げていた。

 両手の十指から糸が伸びる。魔女に接続、完了。私の意思に呼応し動き出す。

 

「っっkぇlwmっwlwrーfーpdぺーえーdー!!」

 

 旧車の魔女達の目が光り輝いた。そしてそれは光の筋となった。黒の魔法少女を、明るくスポットライトのように照らし出す。彼女は身構えたが、直接的な攻撃ではない。ただ逃げられないよう、“魔法”を封じさせてもらっただけだ。

 

 そして続く第二手。

 糸を動かす。魔女達は喋り出した。魔法により形となった言霊である。その結果、ただの“喋り声”が質量を伴って降りかかる。所謂音波攻撃というやつだ。

 

「!!」

 

 魔法少女は気配で気づいたらしい。

 避けた。かわした。だが、鼓膜は破れたのか耳を抑えた。音波は脳に直接干渉し、平衡感覚を狂わせる。

 堪らずと言った感じで、また空から丸見えは不味いと思ったのか、彼女はフラフラとビル街の奥へ逃げていく。

 

 そこで第三手。

 

「“世界よ、震撼せよ”」

 

 そう言葉にした時、文字通り世界が震えた。

 地震だ。私の切り札的な魔法でもある。ビル街が一瞬にして倒壊し、ほんの一秒足らずの出来事ですべてが崩れていった。後は魔女に号令を出し、炎を発生させて残骸を火の海へと変えた。

 

 これだけやったのだ。何も残らないはず。本来ならば。

 

「……」

 

 でも、魔法少女は瓦礫を退かし、立ち上がっていた。腕も、足も、あり得ない角度で捻じ曲がっていたが。全身血だらけの少女は、それでも立っていたのだ。

 あり得ないことだ。

 

 ――なんだこいつ。

 

 それが最初に思ったこと。

 次に、久方ぶりの戦慄を味わった。こいつは今までの奴とは違うのだと、私は認めた。

 

「……」

 

 だって黒の魔法少女は、その目だけは私から逸さなかったから。

 仮面の左半分は砕けてなくなっており、案外素顔は大人びていたが、可愛らしい顔立ちだった。

 

「お前、何者だ?」

 

 私は三度目の質問をした。少女はやはり無言だった。しばらく黙って……やがて、くはッ、と笑いを溢した。

 

「この顔を見てもまだ気づかないんですか。兄さんに似ているって、結構言われてるんですけど?」

「兄さん……?」

「ハハ……そりゃそうか。アンタにとっちゃ、有象無象の一人ですもんね……早島の五万人の顔なんて、覚えられる訳ないですもんね」

 

 意味の分からないことを魔法少女は喋っていた。だが、一人で納得したように、少女は呟く。

 

「これではっきりした。やっぱりアンタは、全知全能じゃありません」

「……そりゃそうだ。私はたった一人なのだから」

「――けど神様ってのは、万能で、人の願いを叶える存在なんでしょ」

「そうだ」

「だったらアンタは違う。アンタは本質的に誰の願いも叶えられない。アンタは神様なんかじゃありません。そう仕立てられた紛い物だ」

 

 ――紛い物。

 誰が、何の、紛い物だって?

 

「いや、そもそも私の情報をどこで手に入れた。お前はなんだ」

「……」

 

 ここでも黙るか。拉致が空かない。

 私はダメ元で暗示を使った。しかし案の定跳ね返された。

 魔方阻害(レジスト)

 ……やはり暗示は使い勝手が良いが、その分魔女や魔法少女相手には効果が薄い。それでもこの黒い魔法少女は“魔法を封じたはずだ”。何故別の魔法である魔方阻害(レジスト)が使える。

 いや……そういえば、旧車の魔女が封じられる魔法は一つだけだったな。転移が使えなくなっただけで、他の魔法は使えるのだろう。それも複数。

 

「厄介だな」

 

 様々な魔法少女がいたが、このタイプは何気に面倒くさい。

 色んな能力を持ち、あまつさえ異常な生命力を持つ。

 危険である。思いつく固有魔法は一つしかない。

 

「名付けるなら能力模倣と定着上書き(コピー&ペースト)か? 随分と特殊な固有魔法だな」

「……」

「だがいくらコピーしたものとは言え、大量の魔法を使えば、その分魔力も食らおう。何やら私を恨んでるようだが……今のうちに逃げるのが得策ではないか?」

「馬鹿言わないで」

 

 黒い魔法少女は吐き捨てるように言った。

 事実、逃げ場なんて何処にもありやしない。

 

「アンタがどれだけ不幸をばら撒いたと思ってるんですか。人を殺して、家族を滅茶苦茶にして、全部を奪って! それが神様のやることなんですか!」

「そうだが?」

「ッ!」

「早島のために必要なことだ。それがこの土地の五百年もの歴史である」

 

 そう言い切ると、少女はぶわりと髪を逆立たせるように怒りを露わにした。

 

「ふざ……ふざけるな! そんなことのために兄さんや仲間達は死んだんですか!!」

「まあ……そうする理由があったのだろう。ご愁傷様だ」

「はあ!?」

 

 魔法少女は納得出来ないように、ブルブル震えた。私は冷徹な目で見下ろしていた。……憎悪を向けられても……私の心には何も響かない。

 

「話は終わりか? そろそろこの余興にも飽きてきたのだが」

「待って。本当に、待って。本当に何も思い出せないんですか? 菊名という名前に聞き覚えは?」

「菊名? 確か入理乃の友達か何かだろ? でもそいつは入理乃の願いで牛木草に――」

「そっちじゃありません! 関係ない訳ではありませんが、そうじゃありません!」

「ん? ……ああ、成る程。思い出したぞ」

 

 そう言えば牛木草の暴力団の中に、そんな名前の奴がいたな。

 そいつは、実は早島警察の一員で、早島への麻薬密輸調査のために、牛木草の暴力団の中にスパイとして潜り込んでいたのだ。だが暴き立てられると面倒だったので早々にぶっ潰した。

 そして行方不明になって騒がれても困るため、偽物の人形を用意し、本人の知識と顔を与えて、任務が失敗したように見せかけた。後は今まで通りに、本人のふりをさせておいたのだ。

 それがまさか……関係者に気付かれるとはな。

 

「兄さんをあんな目に合わせるだなんて」

 

 魔法少女は、この世の憎悪を煮詰めたような目で、私を見ていた。

 

「あの兄さんは人形なんですよね? 本当は死んじゃってて、私はそれに気づかず、何年も一緒に暮らしてたんですよね? 母さんも父さんも気付かずに」

「……」

「何でなんですか? 兄さんは早島を守ろうとしてたのに、何で殺すんですか? ……早島を守る存在のくせに、早島を守ろうとした兄さんをどうして奪ったんですかッ!!」

 

 悲痛な叫び声だった。

 心を抉られるような声だった。

 私は平静な声で、答えた。

 

「人間では、早島を守れんだろう?」

 

 それは私の気持ちとは真逆の言葉だった。

 私は早島の人々のことを信じていた。きっと自分達でやっていけると。

 だが、それなら、これまで早島の安寧のために、犠牲にしてきた人達は――早と島を殺したのは、何なんだろう。彼らは亡霊のように私の背後で囁いている。

 もっと、もっと。役目を果たしてよと。

 だから私は止まる訳にはいかない。

 

「馬鹿馬鹿しい答えですね……」

 

 だっていうのに、少女は呆れた表情を作った。本当に呆れた表情を。

 

「アンタのことは知ってますよ、火雨玉。一族を滅ぼされて、お兄さんを殺されたそうですね。その復讐のために、早島の神になったのも。その体は子孫のものですか? 子孫の体に乗り移ってまで生き伸びるだなんて、そうまでしないと、早島は守れないんですか?」

「……よく調べてあるな」

「長い時間をかけたんです。……それでね、私、思うんですよ」

 

 黒い魔法少女は、冷たく目を細めた。

 

「そうまでして神に守られないといけない早島ってのは、クソだなって。そんな町、滅びれば良いんです」

 

 そうして彼女はそう、さも当然のように、断言した。

 

「――ッ、何を」

 

 馬鹿なことを。

 私はそうやって反論しかけた。しかし声が出なかった。それは私も心の何処かで、思っていたからかもしれない。

 

 神様なんて嫌だ。

 助けて欲しい。

 この町は歪んでいる。

 

 犠牲が増えるくらいなら、今すぐにでも全部、なかったことにしてしまいたい――

 

「すべてを終わりにするんです。そのために私はここに居るんです」

 

 魔法少女は仮面を外し、地面に放った。途端、吹き荒れる魔力。格が違う。この私が圧されている。傷がみるみる内に再生し、五体満足の状態になった彼女は、今度はハルバードに力を与え始めた。

 

「――最早私が守りたかった小さな世界は消えました。兄さんが愛した早島。特別だと認めてもらいたかったのは、兄さんに勝ちたいだけじゃない。私は私の手で、大好きな人達や、今を生きる世界を、精一杯守れるという証明が欲しかったのです。そしてその世界が、幼い私にとって早島だった。そこに住まう病原菌を、どうして放置など出来ましょうか」

「――――」

「私は兄さんが愛した故郷が、大好きです」

 

 ハルバードの周りに、赤い黒いオーラの渦ができ始めていた。

 あれに直撃したら不味い。

 

「散開!!」

 

 すぐ様、魔女を散り散りにさせて逃げた。

 カアッ!! と、その直後、私がいた場所目掛け、赤いオーラが一直線に収束されて、まるで竜巻のように、螺旋状に魔力が打ち出された。

 一瞬、視界が紅く染まった。

 次に目を瞬かせると、空に穴が空いていた。

 大きな大きな穴が。

 

 ……空間に直接ダメージが入っているだと?

 

 にわかには信じられない光景だった。

 この結界は特別で、主である魔女達は、一匹につき五十人も人間の死体を食べている。

 魔女が強力な分、空間自体も頑丈なのだ。神である私でも苦労するくらい。だが目の前の奴は、それに届く力を見せている。

 

「ちっ――」

 

 舌打ちを一つして、私は魔女に音波で攻撃するよう命令した。

 更に、彼女の周り、三百六十度の空間から、無数の糸を出して串刺しにしようとする。

 

 でも奴の姿が消えた。

 また空間転移?

 違う。高速移動。しかもこちらに飛び上がり、空中に足場があるように駆け上がってきている。

 

「もらいますよ」

 

 魔女の支配権が奪われた。

 私が乗っている旧車の魔女が暴れ出す。振り落とされた。そこに他の魔女が殺到する。

 

「鬱陶しい」

 

 だが私は冷静だ。糸を虚空から何十も伸ばす。素早く動き、その勢いで魔女が細かく切り裂かれて消滅した。

 その糸を一つに束ねる。出来上がったのは大鉈だ。元々私の相棒は、糸を集めて出来たものなのである。

 

「……!」

 

 空中で姿勢を直し、停止すれば、一直線に魔法少女がハルバードを突き出して突進してきた。鉈で防御する。高い金属音が響き渡る。重い。だがそれだけだ。

 私は大鉈を振るう。魔法少女が弾かれる。その側には旧車の魔女。魔法少女は旧車の魔女に乗ろうとした。その前に空中を歩き、魔女に近づいて両断した。

 

「!?」

 

 見えなかったらしく、魔法少女が驚いた顔をした。容赦せず、続けて鉈を振るう私。咄嗟に防御したものの、魔法少女はその勢いで地面に叩き付きられた。遥か上空から。しかもその地上で待っているものは何だろうか?

 旧車の魔女は死んだのに、結界は消えていない。

 そう。答えは別の魔女だ。

 

「ひっ!」

 

 地中から現れたのはイソギンチャクのような触手である。地震にも二発で耐えられるようなすごい奴だ。一瞬にして魔法少女を捕縛した。そして、私は隠し球を投入する。

 

「出ておいで、私の可愛い妹達?」

 

 すると次々と。

 次々と、空間が捻じ曲がり、別の場所で飼っていた早島の魔女達が姿を現す。

 召喚魔法だ。全員、広実一族が魔女化した姿だ。

 愛おしくも愛らしい、私の妹達である。

 

「簡単に行くと思うなよ?」

 

 私は低い声で言った。

 容赦はしない。

 

「“蹂躙せよ”」

 

 そのワードで、魔女が一斉に魔法少女に襲いかかった。

 普通ならばなす術はないだろう。だがここで魔法少女のハルバードが“発光”した。

 光り輝いたのだ。

 

 ――それは聖なる、魔女特攻の光だった。

 

 離れているので視界が焼かれることはなかったが、それでもイソギンチャクの触手は直に浴びて、消滅していた。妹達も一瞬、硬直したどころか、攻撃を跳ね返されていた。その隙をついて魔法少女は高速移動で逃げた。魔女の群れから遠くへ。

 

 その際中、ふと空を見上げ、私と目が合った。

 

「堕ちろ!!」

 

 刹那、上からすざまじい速度で何かに叩きつけられる感覚がした。

 否、これは下に引っ張られている。

 重力か?

 

「……」

 

 私はそのまま落下した。

 魔女の群れの中心へと。

 

 魔法少女がハルバードを指揮棒のように振るう。これだけの数の支配権を奪うのは流石に無理らしい。だが別の魔法なら?

 

「認識反転、攻撃対象変更。火雨玉を殺せ」

 

 魔女の群れから、一際大きな個体が飛び出す。幻覚で操られているのか。……まあ良い。

 

「お前達を失いたくはなかったんだがな」

 

 背に腹は変えられない。私はすぐ様立ち上がり(正直ダメージは皆無である)、鉈を振るった。

 一撃で魔女が沈んだ。後ろから来ているやつも、右から来ているやつも、斜め前から来ているやつも、まとめて十体薙ぎ払った。

 その合間を縫うように魔法少女が突貫する。

 

「アアアアアアアアアアアアアアア!!」

「……ふん」

 

 私は攻撃を軽く弾いた。

 ハルバードがまた唸りをあげて襲いかかる。

 右、左、斜め上、下から。

 何処までも泥臭い、凡人が限界まで鍛えて初めて、到達出来るような素晴らしい技量だった。

 だが、私には届かない。戦闘経験が違い過ぎるのだ。

 

「ッ!」

 

 しかし乱戦に持ち込むことでカバーしている。

 再び魔女が横から火を吹いた。邪魔だ。避ける。そこを魔法少女が狙う。弾く。魔女を片付けるべく、糸を発射する。まとめて二十匹が死ぬ。その血飛沫を目眩しに、魔法少女が突きを放つ。再び、高い金属音が鳴り響いた。

 

「……どうしてそこまでする。魔力は付きかけ、体力は底を尽きているはずだろう」

 

 私は四度目の質問をした。

 少女は一瞬悩んでいるようだった。だが、

 

「言ったはずだよ。すべてを終わらせるためだと」

「……」

「私の願いは、“お前を超える存在”、“特別になることだ”!!」

 

 瞬間、目も眩まん光が瞬いた。

 これは先ほどの聖なる光――

 勿論、こんなので死ぬ私じゃない。すぐに勘で、魔法少女のハルバードを押し除け、その両腕ごと一秒で断ち切った。

 

 だが、ぬ――と、何かが光の中から無数に伸びた。

 全身が粟立つような鳥肌がたった。

 戻った視界に映るそれは、クリスタルで出来た人間の手腕。しかも少女の背中から飛び出ている。

 

 ――こいつ、体内で魔女を飼って……!?

 

 逃れられない。魔法少女の膨大な魔力は、多分この魔女の魔力だ。

 しかもこの感じだと、相当強力な――

 

「さあ、これで終わりです。ジゲンノトビラ――」

「ッ!!」

 

 咄嗟に糸を発射する。狙いは衣装の裾についたソウルジェム。本体を狙えば一発で死ぬ。

 

「くっ――」

 

 だが魔法少女もまた、腕から血を吹き出し、苦痛に声を漏らすも、身を捩った。僅かでも逃げられるよう、身を捩った。果たして揉み合いのような形なったせいか、糸は右足太ももを直撃した。

 

「――ヘイモン!!」

 

 その痛みを乗り切って、魔法少女が叫ぶ。

 魔法陣が広がり、私はその赤い光に飲み込まれた。

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