魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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三つのルール

早島は、廃れた町だ。端的に言って、何もない。都会でもなければ、かといって、自然が豊かでもない。目立った特産品もないし、観光名さえもあまりない。だから、都市開発をする金もない。年寄りの人口の増加と少子化で、町は活気がない。急速に発展した見滝原とは雲泥の差がある。

 

早島市の長所は、もはやその長い歴史のみであろう。“早島”の名で長年紡がれた、軌跡のみだろう。だからこそ、早島”の名前が、この市では何より尊いものであるとされる。

 

だが、そもそも早島市の名の由来は、何であるのだろうか。早島市、というわりに、そこは島ではない。海に面することはない内陸部だ。

 

では、早島市は、何故早島という地名になったのだろうか。その所以は、自分達の一族にある。そう結は教えてくれた。

 

広美一族。結の家を本家とする一族。昔、あの阿岡と、力を伸ばして活躍した、しかし今は力を失った、ただ歴史があるだけの旧家。延々と受け継ぐ、ある習慣を続ける一族。

 

そんな広実一族の始祖、いわば、結の祖先は、早島において、重要な役職についていたらしい。彼は、土地が乏しく、貧弱であったこの地をどうにかしたいと思い、ある一つの神社を建てた。それが、早島神社だ。

 

そして、その神社こそが、早島市の名の由来。龍神を祭る、かつては市の中心にあった、聖なる場所。今は、別の場所に再建された神社だ。

 

「そのそばに、このマンションがあるんだよ。ほら、見えるでしょう、早島神社が」

 

そう言って、結は窓から見える、近くの赤い神社を指さす。夏音は、眼鏡越しで目を細め、それを見つめた。

 

ああ、あの神社は行ったことがある。兄の厄祓いの際に、ついていった記憶がある。そういえば、この神社は、自宅からは遠い神社だったはずだ。家からは、車で五十分もかかる。それぞれが、入り組んだところにあるからだろう。だがそれが、こんな建物から見える場所にあるだなんて。変な気持ちになってしょうがない。

 

「ごめんね、手狭でしょ?」

「いいえ」

 

結がいうほど、今いるこの一室は、狭くはない。リビングに、二つの使われていない部屋。結の寝室。電気で調理できるキッチンを備えた台所。トイレに、足をゆっくりと伸ばせる浴槽。色々とごちゃごちゃはしているもののそれでも十分家族で暮らすのにも困らないくらいには、広い。まあ、なんせここは、そこそこ良いマンション。その中も、そこそこ良いのだ。

 

時計を見ると、四時二十五分だった。あの館で確認したときは、一時だったので、あれから三時間以上は経っていることになる。

 

夏音が泣いて、落ち着いた時には、もう雨は止んでいた。どうやら、にわか雨だったようで、そのためすぐに晴れてくれた。だが、それは良かったものの、服はずいぶんと濡れてしまっていた。夏音達は、急いでバスに乗って、駅で電車に駆け込み、市の最北端、見滝原に面する地域、富上で降りた。そして、このマンションに移動。結が住む六○二号室に入り、服を着替えたり(夏音は制服しか持っていないので結から私服をもらった)、ご飯を食べたりした。そんなことをしているうちに、いつの間にか、こんなにも時間が経っていたようだ。

 

「結さん。色々と、ありがとうございます。あの、ご迷惑おかけてしていますよね、私…」

「そんなことないけどね。まあ、色々準備してたし」

「……え?準備?」

 

今、何か聞き捨てならないことを聞いた気がする。思わず、問い返す。

 

「いや、最初からね、助けた子と仲良くなりたいなあと思ってたんだ…。僕、他の子とは感性もはずれているし、普通とはかけ離れているし。従姉妹達も従姉妹達で仲良かったんだけど、今は話せないというか…。とにかく、友達いなくてぼっちで…、助けたら友達になってくれるかなあ…みたいな…。アハハハ…」

 

結は、組んだ手を見ながら、どこか死んだ目をした。ああ、…そんな理由で、自分を助けたのか。なんというか、彼女は哀れだ。

 

「だからね、布団も買ったし、あらゆるサイズの服も買ったし、物置にしてた部屋も全部きれいにしたし。あ、僕流行ものとかうといけど、それでも大体のものは歌えるよ、昨日の夜に覚えたんだ。グリーフシードもいくつか分けてあげる」

 

そうやって、まくし立てる結は、夏音の両手を掴んでぶんぶんと振る。あまりの彼女のテンションについていけず、困惑する夏音は、その一方的な態度に、既視感を覚える。このような行動、一度されているような気がする。いや、待て。思い出せ。自分は本当に、このような行動をされた経験している。

 

そう、あれは中学一年の入学式だった。ひょんなことで順那と話して、意気投合して友達になったときに、彼女に結と同じようにまくし立てられた。

 

…そういえば、広実結は、東順那と顔が似ている。それこそ、姉妹のように。だが、順那は一人っ子。さらに言えば苗字も違う。ということは、結は順那の従姉妹なのか?先ほども、従姉妹と今は話せないと言っていたが…。

 

「とりあえず、安心してね。悪いようにはしないよ? 生活費も僕が受け持つし、遠慮なんかいらないよ? 大丈夫、大丈夫」

「……あの、従姉妹の方々の名前は、何ていうんですか?」

「ん?どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、気になって…」

 

一瞬、結は夏音にきょとんとして、首を傾げた。だが、すぐにニコリと笑い、彼女は答えた。

 

「東順那。…それから伊尾ミズハ。それが、従姉妹達の名前だよ」

「東順那那と…、伊尾ミズハ…」

 

やはり、そうだった。彼女は、順那の従姉妹。友人の親戚だった。まさか、こんな偶然があるなんて、信じられない。

 

「ごめん。僕、従姉妹の話はしたくないんだ。これ以上は、ちょっと…」

 

結は、沈んだ表情で、そう苦笑する。そこで、はっとなる。確か、彼女らの従姉妹、伊尾ミズハは失踪しているのだ。そして、そのことで従姉妹同士の関係は悪くなっている。そんな話をしたいはずがない。

 

「すいません。そうですよね…、失礼しました…。それよりも、これからのことを話し合いましょう」

「うん。そうしてくれるとありがたいよ。ああ、そうだ。一つ聞いてもいい?」

「? 何でしょうか?」

「君って、僕らのことを、どこまで知っているの?」

 

瞬間、夏音は顔を引き締めた。質問の意味が、わかったから。

 

この問いは、自分が“阿岡入理乃と船花サチのコンビと、広実結の関係を、どこまで知っているのか”、ということを聞いている。つまり結は、自身とあのコンビの関係について、夏音と共通認識というものをつくりたいのだ。もはや、夏音と結は、入理乃とサチに対抗せざる終えないのだから。

 

「あなた達が、縄張りのことで対立しているってこと。そして今は、早島の半分を、それぞれがテリトリーにしていること。それは知っています」

「ってことは、結界はしらないんだね?」

「結界?」

 

結は、しばらく待っていて、と言うと、自室にまで行き、地図を持ってくると、夏音に見せた。覗き込むと、そこには、中央に書かれた丸ごと、紙をまっぷたつに裂くように引かれた線があった。それ以外にも、右側のところにだけ、やたらとペケ印が赤でつけられている。

 

「僕らね、停戦の取り決めを結んでいるんだ。“早島の半分をそれぞれ縄張りにするかわり、争いません”っていうのを。僕がこの線の右側。サチちゃんたちが左側と決めてね。で、そのときに、いくつかルールを設けたんだ」

「ルール?」

「うん」

 

そういって、結はその三つのルールを説明する。

 

まず第一に、市を横断する規模の結界を張って、それを互いの縄張りの境界線とすること。この結界は、サチ、入理乃、結で共同につくりあげた。もともと早島神社があった跡地を基点に、そこに残存していた魔力を利用して、超規模の結界を張ったのだ。これで縄張りをはっきりとさせ、より明確にわかりやすい形で、互いを文字どうりに、分けた。

 

第二に、魔女の数の調整。つくりあげた結界は、いわば壁のようなのではあるが、普通に魔女も人も行き来ができる。しかし、それでもこの町は、魔女が多い見滝原のように、複数の魔法少女を支えることは難しい。ましてや、市を分担して活動すれば、いずれどちらかが潰れる。だから、魔女の数を調整する。使い終わったグリーフシードを、相手の陣地に投げ入れたり、使い魔を放置したり、他の市から魔女をこっそり捕まえてつれてきたり、様々な手段で魔女が枯渇しないように保つ。

 

「最近だと、石の竜みたいなの育てて、あっちに放ったね。あとでっかい鉄塔のやつとか」

「え…、それってーーー」

 

自分が始めて遭遇した魔女ではないか。あれは、この少女が原因で、こっちに現れたのだ。ということは、結のせいで自分はしにかけたのか。ああ、なんということか。あの出来事がなければ、自分はこんな目にあわずに済んでいるというのに。ルールのせいといえど、なんとなく怒りがこみ上げてくる。だが、夏音は我慢し、再び尋ねる。

 

「それで、第三のルールは?」

「第三のルールは単純。結界を無断で出たら、このルールはなくなる。また、もとの争う関係に戻るってことだね。だから、きっと、あの二人とは、少なからず戦わなくちゃいけない」

「はい…」

 

正直、二人とは戦いたくない。仲良くなりたいと思った子達を、傷つけたくない。だが、こうなった以上仕方がないことだ。少なくとも、自衛はしなければならないだろう。

 

「夏音ちゃんは、どのくらい戦える?」

「…まったく戦えません。というか、戦ったことがないです」

「え、嘘だよね?」

 

びっくりしたような視線に、夏音は目をそらす。何もいえない。

 

「特訓…しようか」

「……はい」

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