魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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今のうちに

一羽のカラスが、突然、アホのように大音量で、カーと鳴いた。確か、雑学好きの相方の話によれば、本来カラスはとても頭が良い動物らしい。だが、こんなにも大きな声で鳴くなんて、やはりあの鳴いているカラスの頭は、悪いのではないのだろうか。

 

ふと窓のほうを見れば、そこから、夕日が差し込んでいて、四角い赤い光が、暗い部屋の床に映っていた。それで、ああ、もうここまで時間がたっているのか、と更にいらだちが募った。そしてついに、船花サチは我慢出来ず、思いっきり不満を叫んだ。

 

「遅ーい!!結のところから戻ってこない!!本当、キュゥべい、遅すぎー!!」

 

ビクリと、相方の阿岡入理乃が、驚きで肩を揺らして、誤魔化すかのように、パーカーのフードを引っ張った。しかし、サチはかまわず、ぐりんと入理乃を向くと、やはり怒ったように攻め立てた。

 

「本当にキュゥべい来るのかよ!! お前が待っていようっつったから、この船花様はいちいちこの時間まで自室っで待っていたんだ!! なのに、こないじゃんか!?」

 

大体、何故キュゥべえを自分が待たなければいけないのだろうか。その理由がわからない、いや、なんとなく理由はわかるが、しかしそれだけの理由で、相方が自分を待たせているはずがない。っかし、その説明が入理乃からされていない。ただキュゥべえに会えば、すべてがわかると言われただけだ。そうやって、珍しく強気な態度で、半分強制的に、入理乃にここで待つよう指示されてしまい、結果何時間もキュゥべえを待っている。

 

しかし、そもそもこうなったのは、サチのミスのせいである。サチがうっかりキュゥべえに喋らなければ、彼が広実結に、菊名夏音の情報を流すことはなかった。そして、捕まえていた少女が向こうに行くことはなく、話し合いの取り決めを、キュゥべえに頼むこともなかったのだ。

 

だからこそ、自分の非を認めているからこそ、サチは文句を言わず(普段より)入理乃の頼みを聞いて待っていたのだ。だが、こうも遅いと話しは別だ。さすがに、この時間まであの猫もどきが来ないなんて、どうにかしていると思う。そろそろ、堪忍袋の尾が切れそうだ(というか切れているが)。

 

「…も、もう少しで来るから…、そ、それまで…」

「マジなのか!?」

「う、うん。マジ、マジだよ。来させてるから…だから、落ち着いて…」

 

そう、目を逸らされながら言われ、ちっと舌打ちをすると、その場で座り込んだ。拗ねたように、不機嫌な顔になって、頬をついた。

 

「何か話してよ」

「え……?」

「暇なんだよ!! だから、この船花様に話せ。そう、例えば、カラスの話とか」

 

入理乃が、目をぱちくりとさせる。

 

「えーと、それじゃあ……、カラスの話をしよう、…かしら…。でも何でカラスの話なんかを……?」

「さっき、カラスが鳴いてたじゃん。それでその話題を今ぱっと思いついたんだよ。つか、最近私カラスの動画にハマってんだよ。船には及ばないけど、鳥も最近興味がでてきたんだよね。だから、カラスについての雑学でも知ってんじゃねーのかなーって」

「う、うん。あの…、カラスってさ、…どんな漢字書くと思う?」

 

そう聞かれて、サチは顔を歪めた。そんなことを言われても、知っているわけがない。だいたい、カラスに漢字何かあったのが驚きだ。

 

「こ、この船花様はなあ、知らなくていいことは知らないんだ。ましてや、そんなことを答えられるわけがないだろ。というわけで答えは?」

「答え…は、これだよ」

 

彼女は手元に紙を出現させると、実際にボールペンで烏と書いて見せた。さすがの字の上手さに感嘆していると、ふと指さして、サチは文句を言った。

 

「何カラスじゃないの書いてんの?おかしー」

「…おかしく、ないよ。あ、あってるわ…よ、よく見て、ここ一本線がないでしょ」

「………、私は既に気づいてたし。カラスじゃないなんて冗談言っただけ」

 

本当は気づいていなかったが、誤魔化すために、早口で否定する。それに、入理乃は口を手でかくして、少し笑った。だが、サチは真っ赤に顔を染めらせて、入理乃を怒鳴ったために、彼女は再度ビクリと肩を揺らしてしまった。

 

「で?何でカラスには一本線がないの?昔の人が書き忘れて、それがカラスって意味で定着したとか?」

「諸説あるのだけど…、カラスって、全身真っ黒…よね?つまり…、目がどこにあるのか、わからない…」

「あ、そっか、この線って、目なのか」

 

カラスには、目がないように見えるから、線自体がないのか。言われて見れば、確かにカラスというものは、どこに目があるのか分かりづらいと思う。

 

「黒いから逆に目が分かりづらいのが漢字の由来とか、なにそれ。凄くね? へえー、なるほどねー。つか、やっぱ入理乃は何でも知ってるな。さすがこの船花様の下僕…、いや相棒だよ」

 

感心しながら、サチが頷く。入理乃は、少し恥ずかしげに微笑むと、しかしすぐに暗い表情で、その紙をじっと見つめた。

 

「でも…、目がどこかわからないって、よく考えたら、カラスは、怖いわ。目という感情を表す器官が一瞬でもわからないない、黒い体なんて、怖い。感情がわからないなんて…、気持ち悪い」

「気持ち悪い…?」

 

まさか、そんなことを言うと思ってもいなかったので、思わずサチは聞き返した。それだけ、阿岡入理乃という人間から、“気持ち悪い”という言葉がでるなんて、信じられなかった。少なくとも、阿岡入理乃は、サチの目の前では、そんなことを言わなかった。

 

「入るよ」

 

と、その時、頭の中に少年の声がした。サチの目が窓へと自然といき、その下にいるキュゥべえを捉える。サチはやっとか、という思いで、心の中でため息をつくと、一言言って、ぶったっ叩いてやろうと彼に近づこうとした。だが、その前に、入理乃が彼に近づいた。

 

そしてサチが入理乃にそのことについて、文句を言おうとする前にーーー彼女はキュゥべえを掴んだ。身体強化の魔法によりあがった腕力で、その首を軽く絞めて絞殺した。がくりと、キュゥべえの頭が下がった。

 

それを見た瞬間、入理乃は気がつくまもなく、入理乃に迫った。あっという間の出来事に、一応ある倫理感が、サチに相方への怒りを起こさせ、怒鳴らせた。

 

「な……、何してんだよ!!いきなり殺して…!!そりゃむかつく野郎だけど、いくらなんでも、殺す必要なんかないだろ!!」

 

だが、入理乃は平然として、小動物の死骸を片手に、おどおどしたりもせず、極めて冷たい声で、説明した。

 

「………。大丈夫だよ。キュゥべえは死んでない。この体はスペアだから。キュゥべえは、何個も体を持っているの。つまり、これくらいじゃ死なないわ」

「…は? え、マジで?」

 

幾つも体があるなど、今までそんなことを、聞いた覚えなどない。そりゃあ、世界各国に魔法少女がいるわけなので、キュゥべえが、何匹いてもおかしくはないかもしれない。だが、サチは、キュゥべえという存在は、一個体であると認識していた。

 

だから、彼女はまるでそのことが信じられなかった。そして、自身が知らない情報を知っていた入理乃を、訝しんだ。だが、それよりも気になる疑問を、サチは相方にぶつけた。

 

「え…だとしたらさ…、お前その死骸どうするつもりなんだよ。なんか、そうする意味があるんでしょ?」

「ええ。…これを使って、あるものを作るの。サチちゃんにはそのお手伝いをしてほしいの」

「手伝い……? ね、ねえ入理乃。そのあるものを何に使うんだ?つか、あるものって何だよ」

 

その問いには、沈黙しか返ってこなかった。ただ、入理乃は、珍しく、サチに対して怒っているようだった。目尻を上げ、怖いくらいに、唇を噛み締める彼女の姿は衝撃的すぎて、初めてすぎて、サチは思わず怯んで、何も言えない。

 

「貴女は何も考えなくていい。何も知らなくていい」

 

彼女は、断言する。そう、サチは、相方にはっきりと言い切られる。それに、サチは、当然の権利を否定されたことに、怒りを露わにした。

 

「な…、何でなんだよ!!何でそんなこと……」

「言うんだって?そんなの決まってる。私が貴女の手を煩わせたくないからよ」

 

すべてをいう前に、入理乃はサチの質問に答えた。そうして、だから安心してほしいと、菊名夏音達から、気持ち悪い奴らから、守ってあげるのだと、諭すように言った。

 

「守ってあげる……!?この船花サチ様を守るとは、何言ってんだよ!?上から目線なんだよ!?私のことがそんなに信用ならねえのかよ!?」

「信用しているからこそ守りたいのよ。だから、徹底的に気持ち悪い奴らから貴女を守る」

「はあ!?そこまでするほど、あいつらが気持ち悪いのかよ!?」

「……、ええ。気持ち悪い…。気持ち悪いよ…」

 

そう言うと、戸惑うサチを他所に、フードを掴んで引っ張りながら、入理乃は小声でぶつぶつと呟き始めた。

 

「あいつらは気持ち悪いのよ。わかんなくて、狂ってて、得体がしれなくて、本当に、考えていること自体が、とても、わからなくて。いえ、わかるの。考えていることの内容は理解できるの。でもちっとも共感できないし、その考え自体が理解できないの。何もわからないのは、おぞましい、理解できないのはおぞましい……そういうやつは、私から何もかも奪って、奪って、奪って………、邪魔をして……」

「い、入理乃……?」

 

いきなりの言動だった。一体、何が引き金で、彼女がこうなったのか。突然どうしたというのだろうか。明らかに様子がおかしい。フードを更に引っ張りながら、顔を隠す相方は、何かに怯えていて、震えていた。

 

サチは、その何かがわからなかった。というよりは、その何かに怯える理由というものがわからなかった。奪う? おぞましい?言っていることが、何もかも訳がわからない。

 

「わからない、あいつが彼女が、わからない何で現れたのか理解できるけど何を思ってるのかわからない何を起こすのかわかない見たくない邪魔もさせない奪わせない気持ち悪い気持ち悪い…」

 

だからーーーと、阿岡入理乃は虚ろな表情で、何があっても、絶対に貴女を守るからと、サチに宣言した。




早島の魔法少女の強さ

広実結>>船花サチ≧阿岡入理乃>>>>>>菊名夏音≧伊尾ミズハ

結はサチ+入理乃だと強さが同じに。伊尾ミズハは生前実戦経験がほぼ無し。あったとしても1回ぐらいで、魔力の扱いも、素人。夏音は言わずもがな。しかし、素質が僅かに夏音が上回っているのに加えて、頭の良さもミズハは負けているので、もし戦ったら夏音は勝つことが出来る。
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