魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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特訓スタート

「今の話が、この地に伝わっていた、本当の昔話…」

 

よくある話だなあ、というのが夏音の感想だった。特別面白くもなくつまらなくもない。ありふれて飽和しそうなほどある気がする。実際に似たような話を探せば、きっとどこかにあるだろう。神が人間を救い罰を与えるという筋書きは、結が言った通り一つの典型だ。

 

だがそれならば何故白い猫の部分が忘れ去られたりなどしたのだろう。彼女は話の中でも重要な立ち位置、二つの龍神の主人だ。龍神よりも崇められる立場であるにも関わらず、そんな簡単に関係性が消えたりするものなのか?

 

他にも何個か注目すべき点がある。それは昔話の内容が幾つか早島の歴史と合致している点だ。例えば見滝原と早島の戦争。これは今も跡が残っていて町唯一といっても過言じゃない観光スポットとなっている。まあ観光スポットとは、名ばかりなもので、あまり人が来ない場所だがそれでも地元民には有名だ。

 

夏音も一度行ったことがあり随所に立つ説明板にはこんなことが書いてあった。戦争が終わると同時に作物の生産力が倍加した。盗賊が早島に蔓延ったがいつの間にか消え失せた、と。

 

昔話は多くの事実を含んでいる。もしかしたらあの昔話は恐らく本当に起こったことなのかもしれない。だったら、あの神々の化身の少女はーーどうだろうか。

 

わからない。幾らほぼ原型を保っているとはいえ、伝説なのだから元から創作や誇張が紛れ込んでてもおかしくない。書き換えられる前の状態でも、嘘が混じっているかもしれない。故に少女の部分が完全なる空想の存在だったとしても、不思議ではない。

 

「僕がこの話を聞いたのは一年前。魔法少女になったあとだね。十六になったらこの話を聞かされるんだ。そうしてこの話を聞いた時、思った。まだ神はいるんじゃないか…、三柱の神は本当に存在するんじゃないかなって」

「何故そう思ったんですか?」

 

夏音はそう尋ねると、結ははっきりとした答えを口にした。

 

「なんか変な感じがして、本当にこの話が本当か調べるために色々やったんだ。そしたら早島の戦場跡地の遺体と土を魔力が検出されたから。でもその後の前の年代で採取された土とそこで死んで埋葬された一般人の死体には魔力が検出されなかった」

 

この結果は戦国時代に何かあって、魔力が残存しているということを明らかに示したものだ。ではその何かを起こしたという者は一体誰だろう。

 

昔話の一文にはこんなものがある。“あとに残った空の光は、地へと移るかのように、大地の隅々へと行き渡ります”。昔話は実話が混じっている。この一文も実話ならばこれが魔力が残存している原因そのものなのではないだろうかと結は推測した。

 

この原因を引き起こしたのは昔話の内容から見るに神だろう。原因が実際のものなら引き起こしたものも実際にいたということになる。つまり、神はーーこの世に本当に存在していた。神は架空ではなく現実の存在かもしれないのだ。

 

「僕は、あの時から神の存在を信じるようになった。でも、僕は早島の神が嫌いなんだ。信じなかったし、信じたくもない、くだらないものだった。それなのに、神を信じたなんて、馬鹿馬鹿しいとは思わない?」

「いえ家主さんを、私はそう思いませんよ。そんなのただ、考え方が変わった程度ですよ」

 

何気なくそう言う。それが結の琴線には触れないとは考えたからだ。実際にその言葉は結を怒らせたりなどはしなかった。だが結の中のなんらかの感情を刺激してしまったようだった。

 

結は苦笑した。こちらを困ったようなものとして認識していて、それでいてどこか仕方ないと、諦めているような雰囲気だった。それどころか若干申し訳なそうにも見えた気もしたし、微笑ましくしているようにも感じた。夏音としては自分の発言でどうしてそんな風に結がなっているのかわからなくて困っていた。

 

結はやっぱりよく理解できない顔をして口を開くと、

 

「考えが変わるってのは、大きなことだよ。君が思っているほど、ずっとね」

 

上へと視線を向けた。釣られて、夏音も結と同じように見上げる。

 

前方に濁った水が入った手水鉢。そして境内へと誘う石の階段と鳥居があった。

 

鳥居はなかなか大きなもので、普通の神社のものより二倍は大きそうだった。しかし赤い塗料は禿げてしまってところどころ石のザラザラとした表面が露出して、ヒビが入ってしまっている。しめ縄はボロボロで汚れているし、傾いた神額には何故か剣鉈が一本刺さっている。長い年月によりすっかり古びて、鳥居自身が本来の威容を忘れてしまったかのようだった。

 

夏音は己の身体全身に、何かの反応が走っているのを感じ取っていた。しかし夏音はこれがなんなのか知らない。断続的かと思うと消えてしまったり、突如やってきたりを繰り返している。一言では言い表せられない感覚だ。でももしかしたら、波のようだと表現するのが一番適当かもしれない。この感覚はそれによく似ている。

 

「なんか、変な感じがしませんか? 何かあると言いますか…」

「それ、魔力反応だよ。魔法少女は魔力を感じとれる。これ(・・)の魔力を感知したんだろうね」

 

結は神額の刃に目を移す。それから魔力が発せられているらしい。確かによくよく感覚を研ぎ澄ませば、そんな感じがしないでもなかった。

 

「この刃をあちこちに配置して残存魔力を利用して、それらを起点に結界を張っているんだ。目に見えないくらい薄くね。これで一般人からここを遠ざけているんだ」

 

言うと彼女は魔法少女の姿になる。そうして促すように夏音を見た。どうやら魔法少女に変身しろということらしい。もしかしたら結界内には魔法少女の格好でなければ入れないのかもしれない。

 

夏音は自分の魔法少女の服を思い返す。と、途端に恥ずかしくなって、変身するのを躊躇う。だがここは変身するしかないので夏音は内心嫌々ながらも黒い魔法少女服へと身を包んだ。

 

「………、ウワオ」

 

視線が下に注がれた。顔に、全ての熱が集まる。

 

やっぱり前垂れだけなんて、痴女の格好ではないか。この魔法少女服はかっこいい。我ながらかっこいい。あと、仮面もかっこいい。だが何故下はこんな風なのだろう。もう恥ずかしくて恥ずかしくて、今にも心臓が爆発してしまいそうだ。

 

「あー、うん。まあ、いちいち恥ずかしがってもしょうがないんじゃないかな!僕のも恥ずかしいものだし」

「………」

 

確かに、メイド服なのである意味恥ずかしいものであるが。

 

「それに…、なんていうの? ハニーなんとかってイケてるキャラそっくりの服だし、いいデザインじゃないかな?」

 

夏音は改めて服を見直す。言われてみれば、ハニーガールの服にそっくりな気がしないでもない。全身を見れば完全にハニーガールのコスプレのようになっているだろう。

 

それに素直に喜んでいいのやら、恥ずかしがっていいのやらよくわからない。

 

「じゃあ、気を取り直していこっかな。あ、足元気をつけて、滑りやすいから」

 

結は先に行き鳥居をくぐり上に伸びる階段を上がる。夏音も仮面を外すと彼女の後を追い結界の中に入って、石でできた階段を一段一段踏みしめる。

 

階段はでこぼこしてかなり急で歩きにくい。それでも結は慣れた様子で進んでいく。夏音もそれほど苦労はしない。魔法少女に変身したおかげで、全体的な身体能力は向上されている。そのため、このくらいでは体力は尽きることない。

 

夏音は自分の変化に戸惑いながら、高揚するような気分に包まれる。魔法少女の力をはっきりと僅かながらに実感し持っているものの大きさに興奮する。ちょっとした全能感があって、今ならば何でもできそうで気が大きくなったような気がした。

 

しかしだけどとそこでふと思う。それは自分の大切なものを代償に手に入れたものではないか?そんな力に喜んでどうするというのだろう。

 

そもそも夏音は何故魔法少女になったのか。勿論それは阿岡入理乃と船花サチのため。あんな結果が嫌でそれを覆すためだ。夏音は真実を知らなければならない。あの時願った奇跡は、無駄にできない。

 

でも二人から敵対する相手に見なされてしまった。特に入理乃は自分を相当憎んでいる。しかも何故か自分の意思に反して、体が勝手に動くことが度々起っている。確実に失敗するんじゃないないだろうか。それなのに彼女達と仲良くできるのかーー仲良くする必要あるのか?

 

だいたい一人になってまで、家族をなくしてしまうまで、別の自分の存在を消してしまうまで、魔法少女になる価値はない気がしてこない訳でもない。

 

どうして菊名夏音は一人にならなければならない。他人のために祈ったのにあんまりだ。二人さえいなければこんなのことにならなかったのに。あんな願いするんじゃなかった。

 

「………」

 

自分は、何を今更考えているのか。こんなこと思うべきじゃない。それどころか、許されることでもない。助けたい、仲良くなりたいと思ったのは、本当の気持ちだったはずだ。結の家にいた時は、あんなにもやる気があったのに、一日で不安がっても仕方ない。

 

もしも兄が自分の状況に置かれたらどうするんだろう。後悔なんてせず迷わず二人を助けて、仲良くなるのかなと思う。少なくともヘマなんてしなくて立派にやり遂げるはずだ。だったら自分もそれを目指すべきだ。だってーー

 

「ついたよ」

 

結の声にはっとなる。考え事をしている間、階段は終わったらしい。

 

いつの間にか石畳が敷かれた境内が広がっている。手入れされているらしくゴミはあまりないし草も生えていない。建物は木でできた社一つと休憩所らしきものが一つだが、整備できずにボロボロのまま。それぞれ屋根に鉈があり恐らく結界の起点にされているようだ。ぐるりと辺りを見ると、両脇からさらに二つ階段が伸びていて、恐らく上にも社があると思われた。

 

夏音と結は参道を歩き、ほぼ真ん中に移動する。結は前のを向いていた身体を右回転して、夏音と顔を合わせる。ホルスターから武器を取り出し、手でくるくる弄んでから鈍い尖った銀色をこちらに向け、結はにっこりと笑った。

 

「それじゃあ、特訓スタートだね」

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