魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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改めて

「では、まず、武器を出してください」

「は、はい」

 

出し方は、なんとなく分かっていた。二回目の変身を経た今、武器も同じ要領で出せば良いと、知識はないのに感覚的に理解出来てしまった。魔法少女の本能というやつが夏音にそう教えてくれたのだ。

 

夏音はせめてこんなものであったらいいな、と思う武器のイメージを紡ぐ。内に潜む魔力が赤い光となって現れて、渦を起こしながら細長く伸び、空想を現実へと変えていく。やがて手のひらに重さが伝わった。見ると、自分の手は血の如き色をしたハルバードを握っていた。

 

夏音がもっと良く見ようと僅かに動かすと、刃に光が反射する。鮮血を溶かした色が少し薄れて、白い斜線が入る。死を刈りとる斧と、生命を貫く槍が禍々しくもあったが、まるで装飾品の様な見た目をしているためか、とても美しく思えた。

 

斧槍を触る感触は慣れないはずなのに、何故か馴染んでいる。自由自在には扱えないけど、少なくとも振るったり攻撃したりといったことはできるはずだ。そう思うと、同時に少しだけ心臓が縮んだ気がした。

 

「おお、また物騒なものが出てきたなあ。僕からしてみれば、やはり刃物は、鉈に限るよねって感じだけど、嫌いじゃないよ、君の武器」

「あ、ありがとうございます。ブラットも、嬉しいと思います」

「え……、ブラット……?」

 

結が戸惑ったように、突然出てきた言葉を聞き返す。当たり前だが、ブラット、という単語が何を指しているのかわからないらしい。

 

ならば、ブラットが何か解説しなければいけないだろう。自分にしては良い名前をつけれたから、緊張するけど、さっきから言いたくて仕方がなかったのだ。今は、正しくそのチャンス。夏音はちょっと自信を出して、ハルバードを両手を突き出すことで見せた。

 

「これの名前です。血を吸う霊魂宿る輪廻の斧槍、ブラック・リンカネーション・オブ・ブラット。通称ブラット。かっこよくないですか!?」

 

興奮気味に言う。実はこの名前、以前に考えていたものだったりする。一年前、小説のキャラの武器の名をどうしようか悩んだ時、兄が一緒になってこの名前を考えてくれたのだ。結局小説は断念したけれど、ずっと気に入っていた。

 

「へ、へえー。意外だなあ、君そういうことするんだね。まあ、ポールウェポンで良かったよ。長いから、その分敵と距離が取れる。さらには、身が守りやすい」

「そういうものなんですか…」

 

武器には恵まれたということだろうか。考えてみれば、魔法少女の武器は博打みたいなものなのかもしれない。魔法は願いである程度方向は決まるけど、武器はそうじゃない。魔法少女になってからのお楽しみだ。

 

その点で言えば、よくわからない武器ではなくて良かった。でも、銃とか遠距離でも良かった気がする。接近する前に攻撃出来るのはとても魅力がある。

 

「うん。もっと欲を言えば、槍が一番扱いやすいから、それが良かったんだけど。四の五の言っても仕方ないか」

 

そう言うや否や。結は指揮者のように鉈を横に振った。と同時に、一瞬だけ、ズキ、と感覚が針のように背中を刺す。刹那的に恐怖が噴出して、身体は反射的に屈む。風邪を切る音が、ギリギリのタイミングで頭上を通り過ぎ、パシリと受け止められた。

 

「……!?」

 

今のは、一体なんだったのか。何かが自分を攻撃しようとしたのか?それも、突然?まさか彼女が?

 

恐る恐る上を見る。すると、ニヤニヤと結が、鉈の柄を逆手で持って、こちらを見下ろしている。相変わらず笑っていて、垂れた前髪で目元が見えない顔が、ぐにゃぐにゃ歪んで見える。

 

夏音はどこか、呆けた表情で尋ねた。

 

「い、いきなり何を……?」

「何って、僕、特訓スタートって言ったよね?」

 

では、今のは特訓の一環なのだろうか。しかし、何のためにそんなことをするのか。理由は一つしか考えられない。あれは、不意の攻撃で、避けられるかどうかのテストだったのだ。

 

「君、油断していたでしょ? かわしたのは褒めてあげるけど、常に警戒しないと駄目だよ?」

 

はっとして、後ろを見る。しかしもう遅い。横に動くために足を動かそうと思考する一歩前に、二本の飛来する刃物が、脇腹と足をかすめとる。

 

「ぐぁ………!!」

 

ずぎゃ、と嫌な音が肉と衣服を切り裂いてえぐる。血飛沫が舞って、視界が暗転。からん、と武器が手を離れて、体が前のめりになり倒れる。床に剣鉈が刺さって、目の前で露散していく。じん、とする痛みが広がり、夏音は思わずそこを押さえる。とてもじゃない激痛に、呼吸するのもままならず、涙が自然と出てきて、立てない。

 

「あら…、足に怪我しちゃったね」

 

結は夏音に手を向ける。何かされると思って身構えたものの、しかし攻撃はしてこない。それどころかどんどん痛みが引いていく。己の変化に戸惑う夏音は気になって手を離し、その部分を覗くとぎょっとした。

 

傷口から流れる鮮血が、立ち上るように、奇妙に動いている。蠢く動物のように地面から飛んで、血飛沫の形に(・・・)なりながら、夏音の体へと入っていく。そして、敗れた衣服と一緒に、傷口が薄くなっていき、瞬きもしないうちに元の通りになっていた。

 

まるで、動画のスローモーション。現実が、過去に置換されていくような、不思議かつ恐ろしい光景。ここまで登ってきた疲労感もいつの間にか少なくなっているし、汗も結構かいたのに、からりと乾いている。自分の体は、どうしてしまったのだろう。

 

「や、家主さん、今のは、なんの魔法なんですか?」

「僕の固有魔法だよ。僕が夏音ちゃんの体を元の状態にしたんだ」

 

結の固有魔法を使えば、四肢がたとえばらばらになろうが、心臓が引き抜かれようが、頭がなくなろうが。無理矢理身体を元に戻すことができる。下手したら、死んだものまで生き返らせることができる。

 

結曰く、あまりこの魔法が好きではないらしいけど、あらゆる面で助けられてきたのだという。結はこの魔法を持つことで、傷つくことが怖くなくなった。強烈な魔法が、感覚を狂わせ麻痺させてしまっているのかもしれない。

 

「今更だけど、特訓内容を説明するよ。方法は至ってシンプル。僕の攻撃から自分の身を守りながら、この上に逃げ切って。足を怪我したらアウトで、元の位置からやり直し。それまで治癒はしてあげない」

「そ、それが…、特訓…?」

「君も話し合いには参加しないといけない。何しろ、今回のきっかけは君と僕。でも、僕は君を守れないかもしれない。だから、夏音ちゃんはまず逃げ切ったり、死なないようにしないと。二人には、君は勝てないんだから」

 

結の、“勝てないんだから”、という言葉が、耳に入り込んだ瞬間。図星を付かれたように、嫌なものがはっきりと目の前で、見せられたような気がした。お腹の中にぐるぐるした思いが沈下し、広がっていく。

 

「勝てない…、そうだよね、勝てないよね…」

 

ああ、いつの間にか、思い上がっていた。本当にどうにかできるのか、という不安はあった。ここの登る途中でそれを考えた。だけど、夏音は自分が“二人に立ち向かう”ことを前提として、先のことを考えていた。

 

実際は失敗どころの話ではなかった。戦闘は避けれないのに、抵抗するだけの夏音は二人に手出しはできない。だから、失敗“さえ”できないのだ。敵に見られている? 体が勝手に動く? 戦えないくせに、よくほざいたものだ。

 

夏音は、自分が情けなく思えた。勝手に不安になって、そのくせ大事なことを見落としていたのが、とても恥ずかしい。馬鹿みたいに思えて、仕方がない。

 

夏音はどうすればいいのか、わからなくなった。このままでは、いや、このままでなくても、自分は二人に介入できないから、突っ立ていることしかできない。二人の先頭に、役立つことも何も無い。どこまでも、夏音はお荷物だ。

 

「不安になるくらいだったら、逃げ出してしまえば?」

「え…?」

 

驚きの声が上がる。喉から、そんなことなんて、出来るわけないじゃないか、という言葉が飛び出しそうになった。だが、それはできなかった。ちっぽけだけど、逃げ出してしまいたい、という思いがあったから。そこに結の発した音が響いて、仕方がない。

 

「……夏音ちゃん。僕は君達三人がどういう関係か知らない。君のこと、わからないけど、本当は二人から逃げ出してしまいたい訳じゃないんでしょう?」

「はい……」

 

頷く。弱々しく、肯定する。入理乃の考えどうり、二人が気になる。放棄するのが、躊躇われる。

 

「でも、逃げるのも手だと思うんだよね。あの子は、クレイジーだからね。危険だし。あの子が言ったのと、反対の行動をしてもいいんだから」

「そしたら、貴女に迷惑かかるんじゃないんですか?」

「別に?苦じゃない。その時は僕一人でも良い」

 

真顔で、当然のように言われる。そこから察するに、どうやら本気で言っているらしい。二人と対立するのは、“大変”でもなければ、“めんどくさい”訳でもないようだ。そんなことすれば、敵対関係はますます深くなり、互いに互いが、さらに傷つくのに。それは彼女の本意じゃないのに。

 

うずうずと手が動いているあたり、それはそれである意味“楽しそう”なのだろうか。本人は気づいているのか、いないのか分からないけれど。

 

「逃げるのって、別に悪いことばっかじゃあない。どうしようもないとき、全てのことを捨てて、身軽になる。そしたら楽になれる」

「……………」

「逆に、望まない逃走は、枷になる。後々まで後悔する。それでも死んじゃうよりはましじゃないかな。全てを失ったら、意味無いからね。本当に、“死んだら”無意味なんだよ」

 

結が、悲しそうな、やるせないような、怒っているような、“逃げたいような”、それらをごちゃ混ぜにした顔をした。夏音は、何故か結に同情のような念をもってしまった。と、同時に軽蔑や嫉妬の感情も。

 

ふと、結に鎖が絡みついて、自分にも同じようなものが絡みついているような、そんなものを思い浮かべる。

 

夏音は、鎖がどんどん体に絡みついているような気がした。鎖が、逃げるな、と言っているのが聞こえる。鉄の蛇が、鎌首あげて、歌い出す。

 

“死んだら”無意味。それは、他の人も一緒。“死んでしまう”結末は、嫌。何も残らない。残せない。死んだら、死んだら、死んだら、無意味。私は、貴女しかいない。皆死ぬから。だから、皆に死んで欲しくない。皆といたいから、助けたい。それにこの行為自体が、とてもーー

 

傲慢な考えが、夏音の中を無意識に支配していく。夏音は、それを自覚しながらも、同時に二人を助けたい、仲良くなりたいという気持ちが強くなったのを感じていた。どうせ逃げようとしたって、もうそれ自体できない気がする。だったら、やるべき事をしよう。何か、それで変わるかもしれないから。

 

夏音は武器を構える。自分の思いを感情を、吐き出す。

 

「私は、逃げません。特訓、お願いします!!」

「……、わかった。じゃあ、改めて、特訓スタートだね」

 

結の後ろに浮遊する鉈が生み出され、こちらに標準を定める。結の握る刃物が、項垂れるように下を向き一斉に飛びかかっていった。

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