魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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一万五千文字です。結構短くおさまった。


遠い未来の昔話 後編

 紅く染まる世界で、私は黒い魔法少女の“記憶”を見ていた。

 

 発射した糸は、ただの糸ではなかったのだ。

 魂に接続し、直接内側から侵食する魔法の糸。

 それを利用し、彼女の正体、弱点を解析しようとした。

 

 別に自分が殺されるとか、微塵も考えてなかった。

 私は黒い魔法少女との力の差をはっきりと自覚していた。

 あの魔法少女は私を倒すこと絶対に出来ない。彼女がある程度戦えていたのは、体内に飼っていた魔女の力だろう。

 

 ならば、奴はどうしてわざわざ近づいてきたのか。

 遠距離からひたすら攻撃すれば良いものを。そっちの方がまだ勝算はあるのに。

 つまり近づいたこと、そのものに狙いがあるのだ。

 

 きっとあの魔法少女は気付いていた。

 放った魔女は“すべて体力を削ぎ落とすための囮に過ぎないとうことを”。戦っている時、“観察に徹していたことを”。バレないように“遅効性の毒ガスを散布していたことを”。

 最初、徹底的にやったのに倒れなかったのだ。なので方針を変更し、じわじわ弱らせる作戦に出た。

 それにどっちみち捕らえて解剖するつもりだったから、もし逃げても対処出来るよう、データが欲しかった。

 

 だが……それはそれで私の隙でもあっただろう。

 

 あの黒い魔法少女は、私の行動パターンを知り尽くしていた。

 知り尽くした上で、彼女は接近戦をしかけ、魔女の力を私に使った。

 魔女の力は極めて近距離でしか効果がないのだろう。

 

 こうなったら、内側から侵食して魔女を殺すか、その力を解析して逃げるしかない。大抵のことは出来るため、情報さえ分かれば対処できるはずだ。

 

 という訳で、私は魔法少女の中を調べていく――するとまず最初に見えたのは、彼女が契約した時の記憶。

 

 名前は菊名夏音というらしい。早島に生まれ、そして入理乃の願いによって牛木草に引っ越した普通の少女。

 だが、夏音は鬱屈とした感情を幼い頃から抱いていた。

 それはありふれた話だ。優秀な兄を慕いながらも嫉妬するという、典型的なコンプレックス。

 

 いつしか、それは刷り込みのように夏音の心を蝕む。

 特別でなければ誰にも愛されない。けれど平凡だから、猿真似のように他人の模倣しか出来ない。

 アニメや漫画の影響で、圧倒的な力があれば、皆認めてくれるかもしれないと、ありもしない妄想を夢見た。

 

 気が付けば夏音は自分のコンプレックスに追い詰められていた。そんな時に、キュゥべえが現れたのだ。

 

「君の望みを何でも一つ叶えてあげる。さあ、君の願いを言ってご覧」

 

 夏音は驚きつつも、だが、追い詰められていたが故に、深く考えることが出来なかった。夢ならどうせ言っても構わないと、そう思って、中二病も発症していたために、咄嗟にポツリと呟いたのだ。

 

「じゃあ、特別な存在になりたいです。……誰よりも、何よりも特別な……大きな力が欲しいです」

「ふむ……つまりは、神様のような存在ってことかい?」

「神様?」

「過去にそう願った子がいたんだよ」

「……じゃあその子を超えるような存在になりたいです」

 

 夏音としては適当な言葉だっただろう。

 だが、次には魔法少女になってしまった。

 後悔して、縄張り争いに敗れて、逃げて逃げて。でも、牛木草の大きなグループに入れてもらい、それなりに仲間も出来て楽しい日々を送れるようになった。

 

 だがそこに“私”が現れる。

 “私”は今ここにいる私と同じように、牛木草に不幸を齎していたようで、牛木草では泥沼の殺し合いが繰り広げられていたようだ。その元凶に気づいた魔法少女グループは“私”を捕縛しようとしたらしい。

 そのせいで大きな争いが起こり、半数近くが“私”によって殺害された。

 “私”のことを調べるうちに、夏音は兄が人形だということにも気づいた。

 

「どうしてこんなことに?」

 

 ただ兄は、妹と一緒に過ごした思い出の故郷を守ろうとしていただけなのに。

 この時、ようやく彼女はそのことに気が付いた。

 夏音にとっても、早島は特別な場所だった。

 その頃は、まだ親も家にいることが多くて、家族の時間が作れたから。兄と色んなところに行って、楽しい時間を過ごせたから。

 

 彼女は思い出したのだ。

 自分にとっての本当の幸せとは、そんな当たり前の日常だったのだと。

 

 だから、夏音は兄と故郷を穢した玉という存在に怒りを覚えた。

 仲間も殺されたから、尚更だ。

 

 “私”にやられた魔法少女は、その憎しみから一つの集合体として魔女化し、唯一生き残った夏音に憑依した。夏音はそれを受け入れた。彼女の願いのおかげか、はたまた魔女化した魔法少女が夏音を思いやったのか、夏音はこの憑依に耐えてみせた。

 

 魔女の情報を元に、上書きの魔法を使い、仲間の能力を獲得していく。

 空間転移、重力操作、支配――

 それらの魔法を使い、とある一つの力を知った。

 

 時間遡行だ。

 

 ――そう。

 夏音はこの時間軸の人間じゃない。時間遡行の魔法をコピーし、劣化したその力をもって過去へ何度も飛んだ、タイムトラベラー。そうやって“私”がやってきたことや、“私”の弱点を色んな角度で調べ尽くしたのだ。

 

 そして、その過程の中、何度も人形の兄や、早島が狂っている様を見せつけられて。

 きっと過去を変えようとしたのだろうが、それも叶わなかった。

 実に二年という歳月で、故郷への執着と妄執が熟成されていった。

 

 そんな彼女はとある計画を立てる。

 

 それは――

 

「そこまで、……です!!」

 

 その瞬間、パタン、と音がした。

 気が付けば目の前に、満身創痍の夏音がいた。記憶の閲覧がストップされている。

 ……こりゃ抵抗されたな。

 夏音の背後には魔女がおり、その魔女が消滅しかけるほど全力で夏音を守っているのだ。

 

「……」

 

 だが今の私には雑魚にしか見えなかった。

 記憶の閲覧は、その魂を、存在を、グチャグチャにかき混ぜること。

 夏音だってただじゃ済まないはずだし、彼女を基盤に存在する魔女は更に弱体化しているだろう。

 

 でも。

 何だ、この継続している違和感は。

 肌が粟立つような焦燥は。

 

 ……こいつらは、何のために、私に“あの魔法”を使った?

 

「情報を見た今なら分かるぞ。コピーした魔法は少なからず変質するんだろう。時間遡行の魔法が、時間移動の魔法になったように」

 

 夏音が私に使った魔法は、まさしくその時間移動――物体を未来に送る魔法だ。

 多分、駄目元だろうが、それで厄災が起きた後の時間まで、私を転移させようとしているのだろう。

 すべては早島を滅ぼすために。

 

「それとも、私を足止めして、何か罠を作動させるつもりだったのか? このタイミングで記憶の閲覧を止めにかかったのは、そういう魂胆だからか? 菊名夏音」

 

 しかし、夏音は最初に出会った時のように、しばらく何も答えないでいた。

 否、答える余裕がないといった感じだ。

 そもそも戦闘の影響で全身傷だらけだし、実際に荒い呼吸を繰り返して、ケフッっと血を吐いた。

 

「ふふ……さあ、どっちでしょうね」

 

 それでも笑っていたから、私は気付いた。

 ソウルジェムが黒く染まり始めている。

 魔女化も想定内ということなのだろう。やはり数秒でも良いから、ここで私を足止めするつもりなのだ。この空間の中では、短い時間であったとしても、外では長い時間が経過する。

 

「――――」

 

 私は人の感情を見抜くのが得意だが、それを抜きにしても、夏音の考えが手に取るように分かった。

 きっと、こいつの一部は、昔の私と同じなのだ。

 最初の頃の私。

 

 平凡で、ささやかな幸せが何よりも大事で。

 それなのに、私のように慕っていた兄を殺され、仲間も奪われた。

 

 すべてを失って、地べた這いずり回りながら、時に悪をなしたこともあっただろう。

 こいつの上書きした膨大な数の魔法は、仲間の能力だけじゃない。

 何でもかんでもコピー出来るのではなく、その獲得条件は能力の持ち主の“死”を確認すること。持ち主の情報を知っていること。つまりこいつは数多くの魔法少女を見殺しにしてきた。

 復讐のためだけに。

 

 ……いや? 

 それだけじゃないはずだ。

 

 そう。

 こいつは求められたから見殺しにした。

 仲間に求められ、“私”に苦しめられた人々に求められ、彼らが復讐を望むが故に、力を得る必要が出来て魔法少女を殺した。

 

 夏音も復讐鬼だが、それは本質ではないだろう。

 彼女は根っこの部分で空っぽだ。

 自分を認められないから、特別になりたいと思う。

 特別になれば、すべてを取り戻せると思っている。

 

 しかしそれは純粋な願いからではなく、兄や仲間を取り戻したら、特別な自分を必要としてくれるかもしれない、という歪な願いからくるもの。

 こいつが考える特別は、人の役に立って、人の願いを叶える存在。

 そうやって、愛されたい。それでしか自分を認められないのだ。

 

 こいつは恐怖も、不安も、全て無視して、人の願いに自分を捧げようとしている。

 無意識かもしれないが、その在り方はまるで私とそっくりだ。

 

「小娘如きが、可哀想なものだな」

 

 私は憐憫を持って、本気でそう言った。

 だが夏音は、何言ってんだこいつって顔をした。

 そりゃそうか。私が元凶だもんな。

 

 私のせいで、人生が壊れたんだもんな。

 

「クク……アハハハハハハハハ……」

 

 私はある意味で、かつての領主の弟と一緒だったって訳だ。

 理不尽にすべてを奪った。

 暴力的かつ一方的に。

 

 それは初めから気付いていただろう? 今更だ。

 

「夏音」

 

 私は彼女に呼びかけた。既に魔法の解析は完了し、外部を探るための糸は現実世界へ伸びている。

 そこで夏音のやりたいことは分かった。

 歴史を知っていれば可能なはずだ。後普通に使い魔を使って、重要な魔法陣が百個もぶっ壊されていた。

 その魔法陣がなければ、五十年貯めたエネルギーは使えなくなるのだ。

 かなり痛手だ。

 

「大したものだな。後にも先にも、ここまで私を追い詰めたのはお前が初めてだ。もしかしたら、私と同じ時代に生まれていたら、神になれていたかもしれない」

「……何ですって?」

「この時ばかりは、敬服を持ってお前を認めよう。お前の覚悟と信念は素晴らしい。お前はある意味で私を滅ぼす存在だよ」

 

 夏音はその賞賛に、しばしば目を見開いていた。

 そして、

 

「ふん、紛い物とは言え、神にそこまで言われちゃ、私の願いも無駄ではなかったんですね」

 

 その言葉の意味も理解せずに、仲間の魔女も飲み込んで、ソウルジェムを黒く黒く染め上げた。

 

 新たな怪物がこの世に生まれる。

 それは不定形な霧の化け物。

 ただ中心には仮面があって、その下に紅い目玉が隠されている。

 

 空っぽなために、何も姿を持たない悲しい魔女。

 

 名付けるならば無貌の魔女といったところか。

 性質は猿真似。特別になりたくて、誰かの真似を演じ続ける、無名のプリマドンナ。

 

「――繪囘えーswメーえーフォmrm!!」

 

 奇声を上げて魔女は私に襲いかかった。

 私はそれに対して、ただ、手を挙げた。

 

「“氷結せよ”」

 

 その瞬間、魔女の体を構成する霧が凍った。こいつには斬撃は効かないが、こういった攻撃ならば効くのだろう。

 そして固形化したものなら、大鉈で崩せる。

 

 私は一撃で、魔女を仕留めた。

 夏音の強固な意思とは反対の結果だった。

 しかし――その後で出てきたグリーフシードは別だ。

 私にはそれは、大量の因果が詰まっているものに見えた。

 

「……」

 

 それを無言で拾い上げ、この空間から脱出を図る。

 

 この出来事は、私にとって一つの大きな不幸であり、幸運だった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脱出すると、私はすぐに結を探した。

 結がこの近くにいる気配がしたからだ。

 当然、彼女も私を探していたようで、こちらを見るなり、嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「ああ、順那!! 良かった、良かった!! 無事だったんだね!」

「お姉ちゃん……」

 

 私は涙が出そうなふりをして、結を歓迎した。

 結は感極まるように、顔をくしゃりとさせた。

 

「今までどこ行ってんだ! 心配したんだぞ!」

「ごめんね。悪いことをして。……ところで私がいなくなって、どれくらい経ってたの?」

「数ヶ月だよ!! もう大騒ぎでさ」

「そう……じゃあ、やれるな」

「?」

 

 結が首を傾げた途端、私は指を鳴らした。

 早島、牛木草全体に暗示をかけたのだ。

 私が行方不明になっていた事実をなくせと。

 

 その影響か、結は数秒黙ったが、次にはキョトンとした顔で私を見ていた。

 

「あれ……? 順那?」

「お姉ちゃん、偶然だね。久しぶり」

「ああ、久しぶり……いや、久しぶりだけど……でも……」

 

 私が暗示をかけた直後だからか、混乱している。

 私はぷくっと頬を膨らませた。

 

「もう、どうしたの? しっかりしてよ」

「……、そうだね。ごめん」

 

 結は曖昧な顔で私の頭を撫でてくれた。

 

「それでお姉ちゃん。今、ミズハの方はどうなってるの?」

 

 声に強制的な暗示の魔力を乗せる。

 紅い空間にいた時、外界に伸ばした糸で得た情報を確かめなければならなかったのだ。

 

 すると、結は教えてくれた。

 

「変わらないよ。まだ部屋から出てこなくて」

 

 ビンゴ。

 やっぱり、そうだった。

 ミズハは引きこもっていた。

 

 まあ、いじめをやったからって引きこもるのは、若干自分勝手なような気もするが。私が行方不明の間も部屋から出なかったのだろうか。

 出てはいただろうな。

 もう魔法少女になっているはずだろうし。

 

 ……そうだ。

 ミズハは魔法少女になっていた。

 

 私が阻止する機会を、夏音は摘み取ったのだ。

 しかもミズハは牛木草じゃなくて早島で活動しているようで、彼女は入理乃達とも関わりを持っている。実に面倒な事態だ。

 今はいない夏音に、嘲笑われているような気がした。

 

「……」

 

 とは言え、今はそんなことをしている暇はない。

 一刻も早く魔法陣をどうにかしなければならない。

 魔法陣を土地に刻んでいる以上、二度も同じものを上書きなんて出来ないんだから。

 

 だが……私はミズハを無視することが出来なかった。

 大事な妹なのである。

 せめてミズハと話しをしなければならない。

 

「教えてくれて、心配もしてくれてありがとうね、……結」

 

 そうお礼を言って、私は結に三度の暗示。

 ここで会ったことを忘れさせる。これから牛木草に行くから、追いかけられても困るのだ。

 

 そうして、私はミズハの元に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 念の為、私はミズハの学校のことも調べて来た。

 ミズハのクラス。

 そこでは一人の男子生徒が、大勢からいじめられているらしい。

 とてもひどいいじめだ。でもありふれていた。

 

 こんなもの、別に珍しくもなんともないのだ。

 何なら私のクラスでも起こっている

 

 ……まあ、男子生徒にとっては地獄だろうが。クラスメイトも良くなさそうだし、ミズハをここに戻そうとは思えなかった。

 

 正直な話、学校には行きたい奴だけ行けば良いだけに。

 

 と、そんなことを考えている内に、ミズハの家に着いていた。

 鍵がかかっていたようだが、魔法を使って開錠し、中に入った。ミズハの親はびっくりしていたが、暗示で黙らせた。

 さて……そうやってミズハの部屋の前である。

 

 ……ここからどう話せば良い?

 一応、ノックだけはやってみる。

 

「……ミズハ」

「!? 順那!?」

 

 すると、すぐに反応があった。

 部屋のドアが開き、勢いよくミズハが出てくる。

 

「順那、どうしてここに!? なんでこんな所に来てるの!?」

「……」

 

 その質問に私は黙っていた。

 言葉が出てこない。

 ここで暗示をかけても良いが、そうやって心を救っても、本当の意味救ったとは言えない。

 だから思案するように一回目を閉じて……そして、

 

「ミズハ、君の事情は調べさせてもらった。何で引きこもっているかも、何で魔法少女になったかも。その上で、君と話しをしたいと思ってここまで来た。それじゃ駄目か?」

「……? 順那……?」

 

 普段と雰囲気が違うせいか、ミズハが困惑している。

 それに何で魔法少女まで知ってるんだって顔だ。

 そりゃそうだろう。ここにいるのは以前までの私じゃない。でもそれで良い。私は仮面の一部を外して対話をしている。

 本当の心を曝け出すのは怖いけど、しかしこの際、本当の私で話をしたいと思った。たとえ嫌われてでも。

 

「ミズハ」

「アンタ……偽物じゃないのよね?」

 

 ミズハが絶句してしまっている。

 私は何故だか笑ってしまった。

 

「私が偽物に見えるか?」

「いや、何処からどう見てもアンタにしか見えないけど……」

「でも、それにしてはあまりにも……ということだろう? そうだよな。私は生まれながらにしてこうなんだ。お前達と話していた時は、演技をしていたに過ぎない。だってこの私は不気味すぎて気持ち悪いから」

「……」

「別に騙そうとしたわけじゃない。それは誓って本当だ。嘘は言っていない」

 

 そう言えば、ミズハは混乱しつつも、受け入れるように、「そうなのね」と呟いた。

 

「とにかく入って。話はそれからだよ」

 

 ミズハは中に入れてくれた。それはそのまま、彼女の心の中の入り込んでいるに等しかった。

 

 向き合って、座る。

 久しぶりに会った妹は、少しやつれて見えた。

 私を探した影響だろうから、可哀想だった。

 

「それでミズハ、まずは……」

「待って。その前にまずはアンタからでしょ。突然やってきて、突然演技をしてたとか言われても意味分かんない。そのことはちゃんと話してよ」

「最もな話だな。実は私はね――」

 

 それから、誤魔化しを多く含めつつも、私は真実を手短にしゃべった。

 私は生まれながらに記憶があること。

 それはおかしいことだから、皆に嫌われたかったこと。

 でも、赤ん坊の時に見た結とミズハは別だということ。

 幼い頃からキュゥべえと知り合いだということ。

 わざとミズハをこの牛木草に行くよう誘導したこと。

 

 今まで人を殺すより、よっぽど至難で、言葉を発する度に心が悲鳴を上げたが、私はそれでもすべてを話した。

 

「な――」

 

 当然、ミズハはその話を最後まで聞いていて、声を失っていた。

 当たり前だ。信じられるものではない。

 特に、牛木草に引っ越すように誘導したことには、怒り狂っていた。

 

「何で! どうしてそんなことをしたの! 私達と一緒にいたいって思ったのは嘘だったってこと!?」

「そうじゃない。しかし、あのまま一族に関わらせたくはなかった。ユミハのことは応援してたしな」

「何故姉さんを応援する必要があるの!! 彼女は裏切り者じゃない!!」

「本当に裏切りものなのか?」

 

 私にはそうは思えなかったが。

 ただ幸せのために、自分の道を選んだだけだろう。

 むしろ、それだけのことで騒ぎ立てる一族の方がおかしいのだ。

 

「あの一族は我ながら、個を押しつぶし、未来を奪うロクでなし共ばかりだった。結婚なんて、本来ならば祝福されるべきことだし、お前だってあんなところにいたら食いつぶされる。それが姉妹として嫌だったのだ」

「何で!! そんなの、私達の当然の運命じゃない。一族に生まれたからには責務だわ」

「それは歪んだ考えだよ。もし結がそれで苦しんだら、どうするんだ?」

「……っ」

 

 流石に同じことは言えないらしい。ミズハは顔を顰めた。

 

「でも、いじめをしてしまった。姉さんのせいで、こんなところに来なければ……」

「結果論だろ。姉のせいにするな」

「……順那、もしかしてさっきから私を責めてる?」

「責めていないよ。それで魔法少女にまでなったんだ。相当辛かたっんだって分かるよ」

 

 もしお前のように、記憶を無くして、ただの少女として転生したら、私も泣いていると思う。

 

「でもだからこそ言うが、さっきのようにここに来たという言い訳で、いじめをした現実から逃げては行けないと思う。誰のせいでもなく、いじめに乗ったのはお前が――」

「だったら、何でこっちに来て惨めな思いをしなきゃ行けなかったのよ」

 

 瞬間、ミズハは私に詰め寄った。

 

「友達もいなくなって、一から人間関係作るためにへこへこして。乗るしかないじゃないの、じゃなきゃ私がいじめられるじゃないの! どうすれば良かったっていうのよ! こっちに来たせいじゃない!」

「落ち着け。別にそれはこっちに来たからとか、そういう関係の話じゃないだろ。早島にいたって同じことが起きたかもしれない。高校に行けば人間関係はリセットされる。その時、いじめに加担した場合、お前にも責任が――」

「私が全部悪いっていうの? 竹林が私を好きだからって、私もいじめに参加しろって言われて、どんな気持ちだったかアンタには分かんないわよ!!」

 

 ミズハはその後もしっちゃかめっちゃかに吠える。

 

 こりゃ駄目だ。

 全然聞く耳を持たない。元々、こいつの性格自体そこまで良いものじゃないし、そもそも私だって、本質的には現代で言うところのコミュ障なのだ。人を利用する話術はあっても、人に寄り添うコミュニケーションが出来ない。

 

「ミズハ!!」

 

 私は叫んだ。びくりとミズハが硬直した。

 

「良いか、ミズハ。私はお前には同情している、いいや、すまないと思っている。私の都合で振り回した。それは謝ろう」

「……順那」

「だが、それを棚に上げて言うが、いじめを自分のせいではないと、自分の姉さんに押し付けるのは良くない。それはお前が背負うべき荷物だ」

 

 もしあの男子生徒に引け目を感じると言うのなら、その時は助けてあげよう。

 自身を責めて苦しむというのなら、その苦しみが癒えるまで側にいよう。

 

 でもお前は何故、姉が悪いと言い訳をした。

 まるで自分の方こそ被害者なのだと言わんばかりだ。

 

 だがお前は被害者である前に加害者だ。

 忘れてはいけない。罪を、忘れては行けない。

 

「そうしなければ報いが来てしまうぞ。それでも良いのか?」

「……何よ、それ。私のこと、やっぱり責めに来てるじゃない」

 

 ミズハが私のことを睨みつけてくる。

 

「元を辿れば、アンタが原因のくせに、偉そうなこと言わないでよ。姉さんの前に、アンタのせいでいじめをしちゃったようなものなのに。何で勝手な真似をしたの」

 

 ……。

 

 ……そう言われて。

 私の中で、何かがピクンと揺れ動いた。続くミズハの言葉は決定的だった。

 

「アンタが余計なことをしなければ、私は今でも一族の皆と笑い合えたのよ。神様に身を捧げて、幸せになれたの。アンタの思いはありがた迷惑。自分の感情を押し付けないで」

「……押し付ける?」

 

 私が? ミズハに?

 けど私はただ、お前の幸せを願って、それで……。

 それで…………。

 

「フ……フフ……」

 

 感情が乱れているくせに、笑えてくる。

 ああ。私の気持ちは、お前にとっては邪魔にしかならないのか。

 私の言葉は届かないのか。自分を曝け出しても尚、お前は私を理解してくれないのか。

 

 ……それでも良い。

 元より私は嫌われ者。

 お前のためなら、何だって出来る。だから、

 

「神様に身を捧げるとか、言うなよ……私はそうして欲しくはないんだ……お前のことを利用したくはない」

「何で利用するとかの話になんのさ。私を利用して良いのは、神様方だけでしょう?」

「いや違う。お前はお前だけのものだ。誰のものでもない」

「それこそ違うよ? 神様がそう決めたから、一族皆そうなんだよ」

 

 私も、結も、順那も。

 

 そう笑った顔は、あまりに無垢な笑顔であった。

 今度は私の方が絶句する番だった。いくら呪いの効果とはいえ……ここまで酷いと手の付けようがない。私の心を折るには充分だった。

 

「どうして」

 

 どうして、ここまで言ってもお前を一族から切り離せないんだ。

 救いすらも拒絶して。これじゃあ誰の言葉も耳に入らない。

 

 それにいじめに対して、何もせずにいるのも腹立たしい。

 

「ミズハ」

 

 私は幽霊のように立ち上がった。

 ミズハの顔色が変わる。

 

「どうしても、考えは変えられないのか?」

「そりゃそうだよ。生まれながらに教えられたことだもん! 広実一族として、私は神様に自分の存在を捧げるつもり」

「それで不幸せに感じないか?」

「ただで死ぬよりマシだよ。この命を少しでも早島のために使ってくれたら嬉しい。そうすれば痕跡は残るってことだよね」

 

 私は息を吸いて、吐いて……それから在らん限りの罵声を浴びせた。

 何でそんなことをしたのか分からない。

 だが私は感情の赴くまま、怒声を撒き散らし、唾を飛ばし、時にはミズハに殴りかかった。

 でもミズハは変わらなかった。変わらず、いじめを私や姉のせいにしながら、一族の宿命に殉じると言って見せた。

 

 私は悟ってしまった。

 こいつは何があっても救われない。

 

「救われないなら……もう仲良く出来ないよ」

 

 そんなもの私にとって残酷過ぎる。

 

「さよなら、ミズハ」

「え?」

 

 ミズハはびっくりしていたが、私は容赦なく暗示をかける。

 先ほどの記憶を曖昧に改竄させた。

 背を向けてくるりと歩き出す。

 

 私は部屋から出て、そのまま外に出るのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 無貌の魔女のグリーフシードを見ながら思う。

 

 計画に修正を加えよう。

 如何なる犠牲を払うことも厭わない。

 私は妹も何も救えないから。救えないことが分かったから、もう早島以外、何もかもがどうでも良い。だから、この土地だけは守ってみせる。

 

 どんなことをしても。

 

 まずは……そうだな。あの男子生徒、竹林を自殺させよう。

 そしてミズハを魔女化させる。

 結は芋蔓式で魔法少女になるだろう。入理乃とサチとも、縄張り争いを起こさせる。

 それは土地の奪い合いに発展すると想定。

 かつての戦争の再現になり得る。その映像を早と島に見せつけ、誤認を与えれば、彼女達の力は増すどころか活性化する。

 余った力を魔法陣の再生に当て、補強の魔法陣は空に描き出す。

 

 これしかない。

 

 私は迅速に行動を開始した。

 さっき言ったことを、ほぼ完璧にこなした。

 

 ミズハが絶望して、結が壊れた。

 その様を見て、私も泣いた。

 争いが始まった。見守りつつ、状況をコントロール。

 数ヶ月で充分なエネルギーを回収出来た。

 その頃になると、入理乃達が結を追い詰め始めた。

 

 結が逃げる。

 

 それを見守っていると、何故かだが戯れを起こしたい衝動に駆られた。

 どうしてそんなことを思ったんだろう。

 ただ面白そうだと思ったんだ。

 ミズハに会わせたらどんな顔をするんだろうって。せめて頑張ったご褒美に、ね?

 

「キュゥべえ」

 

 私は小動物の名を呼ぶ。

 彼は何処からともなく現れて言った。

 

「契約だね?」

「そう。今から心の中で思う三つの魔法を私にくれ」

「何のために?」

「ミズハのためだ」

 

 しかしそうは言いつつも、いくら戯れのためとはいえ、本当は計画のためだった。

 私のすべてはそう、この早島のためだけに。

 そのための実験としてミズハを使うだけ。

 気まぐれに。何の躊躇もなく、私は魔法少女の契約を結ぶ。

 

「フフ……アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 そうして、私は新しい姿に生まれ変わる。

 衣装はゴスロリ服。

 可愛くて、かっこよくて、なんて素敵な衣装なの。

 

「アハハハハハハハハ!! ねえ、見て! 見てみてミズハ!! こんなに可愛くなったぞ、私は!!」

 

 夜を一人、くるくるとダンスを踊りながら、天に手を伸ばす。

 その手は何も掴めやしない。何も。

 ただその手は見えない糸で何かを作り出している。

 

 一つ目の魔法。

 擬似人格の再現。私自身の自我を切りとり、自分の中に姿を落とす。

 

 二つ目の魔法。

 肉体の生成。その擬似人格に形を与える。

 

 三つ目の魔法。

 能力の付与。これにより、擬似人格を使い魔として確立させる。

 

 こうして目の前には、私そっくりの肉人形が生み出された。

 でもその中身は、ミズハのもので、結果的にミズハは生き返ったように思える。

 

「だけど、あんまり出来が良くないな、私。まあ好きなところに行くと良い、“私”。結に会いたいだろう」

 

 すると目の前の肉人形はこくんと頷いて、夜の中を走っていった。

 きっと結に何かするつもりなのだろう。

 それで良い。魔女化せずある程度絶望してくれたら、その後の舞台はもっと華やかなことになる。

 

「そうだろう?」

 

 ――夏音。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 そうして、厄災がやってきた。

 黒く黒く、柱のような慈悲の魔女は、全てを飲み込み始めた。

 

 でも大丈夫。

 私が、“私達”がいるから。

 

 私は魔法でいざという時に、自分自身を増やしていた。その彼女達が、魔法陣を起動させ、早島の人々を守って、結界に誘ってくれた。

 

 ここにいる私は、魔法でこの早島を宇宙に浮かべる。

 狭い狭い箱庭が出来上がった。

 

 きっともうこれで、ここから先は何処へも行けないし、何処からも進めない。

 早島は、ゆっくりと滅びを待つだけの存在になってしまった。

 本当は後何十年も持つ計算だったのに、夏音のせいでそれも出来なくなっちゃった。やっぱり急拵えの魔法陣じゃいけないね。どうあっても消えてしまう運命だ。

 

「夏音。これが狙いだったんだな。この袋小路こそが、お前の真の目的」

 

 こうなることを、最初から夏音は予見していたのだ。

 

 滅びるのなら潔く滅んだ方が良いってのが、彼女の意見だったしね。笑えてくるよね。

 結局こんな結果しか出せなかったのかって。

 妹達を生贄に出したのに。

 

 けれど無意味なんかじゃなかったよ。私達は見つけてしまったんだ。

 

 白く輝く女神様――鹿目まどかを。

 

「ねえ、女神様。私、疲れちゃった」

 

 遠く、遠く、空の向こうにいる女神様に、私は話しかける。

 

「死んだり痛い思いをするのは嫌なの。寂しいのは嫌いなの。どうして私だけこんなに醜いの。どうして私の歌声は汚いの。どうして私は友達もいなくて一人ぼっちなの?」

 

 ずっとずっとこんなところで、ポツンと一人で、永久に生きていく。

 周りを見渡せば、飽和した自我達がいるけれど。それは全部私でしょ。

 

 私が、私で、私が、私を、私を産んで、私が私が私が私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私――!!!!

 

「「「「もう何も……分からないよ」」」」

 

 私達は一斉に呟いて、泣いた。

 訳が分からなかった。

 

 ああ……目を閉じれば、瞼の裏にソウルジェムが見える。

 あれは本当の私の魂。宇宙の裏に縫い付けられた私の本体。

 そこから何か靄が出て、糸の猫になっている。

 

 私は魔女化出来ないけど、それでも穢れは澱んでいるはずだ。その感情の欠片からこぼれ落ちたものが、あの猫だった。私の本質は魔法少女ではなく、この世界を呪う魔女なのかもしれない。

 

「終わりにしたい」

 

 ふと、私の中のうち、誰かが言った。

 続くのは幼い姿の私。

 

「皆に会いたいよ。お兄様、何処?」

「父上に会いたいんですのよ。父上を殺してしまったことを詫びたいの」

「娘を死なせてしまった。娘を抱き抱えるなら何をやっても良い」

 

 明治時代に転生した私が、江戸時代に転生した私が、他にもたくさんの私が、故郷に帰りたいと言った。それを合図に、誰もが私も、私も、と手を挙げた。

 

 そうか、私達の意思は最初から決まっていた。

 もう死にたい。誰かに愛されて、消えてしまいたい。

 妹達を犠牲にしたのに、何も守れなかった。

 何も成せないこんな世界に何の価値がある。

 

 私は一体、いつまでこんなことを繰り返せば良い。

 

「――この早島は歪んでいる。すべてを正さねばならない」

 

 私の存在を全宇宙から消してしまおう。

 そして、始まりの幼いあの夜に戻って、一族の皆と一緒に死ぬんだ。

 その方が良いに決まってる。

 

「……けれど、それで本当に良いの?」

 

 また、誰かがポツリと呟いた。

 これはもしかして……この私自身か?

 

「そうだね」

 

 すると、同意する声が現れ始めた。

 

「そうなっちゃえば、その後に続いた歴史は否定されてしまう」

「私が愛した早島が消えてしまうということ」

「それは嫌だ。それまで紡ぎ上げてきた人々の努力を無視して良い訳がない」

 

 それもまた私の思い。私の愛着心なのだ。

 

 今まで見守ってきた中で、早島を守ろうと思えたのは、そこで生きる人々が一生懸命だったからに他ならない。

 

「じゃあどうすれば良いんだよ。どうすれば私は救われる?」

 

 なので私は聞いた。何か代案があるのかと。

 別の私はすぐに答えてくれた。

 

「任せれば良いんだよ」

「任せる……」

 

 私は手の中のグリーフシードを見つめた。

 まさか……夏音に任せるというのか?

 確かに早島を存続させるためには、ループが必須だが。

 

「ようはアレでしょ。女神様に接触して、この時間軸を向こう側に統合しちゃえば、私の存在は消えてなくなってハッピーエンド。そうしなくても、夏音が代わりの神様になっちゃえば、私達は解放されるんだし、その道が来なくても、夏音は自らの選択肢を選べる」

 

 つまり人に託すか、神に託すか。

 そのルーレットの出目は何処に出るのか、実験しようと、私の中の一定数の私が言っている訳だ。

 それに私は――乗ることにした。

 

 何より面白そうだ。

 

「フフフ、アハハハハハハハハ。良いね、それはグッドアイディアだ」

 

 嬉しくなっちゃって、孤独な世界で、ワルツを踊った。

 

 産声のような笑い声が、空を満たしていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「そうしてループは生まれたのさ。夏音のループがね」

 

 長い長い、話が終わった。

 

「……」

 

 すべての話が終わると、目の前の少女は、息を呑んだまま固まっていた。

 何だかさっきからずっと驚きっぱなしだ。勿論、衝撃的な話だろうから、無理もないだろうけど。でも、そんなことを抜きにしても、リアクションが面白い子だ。揶揄いがいある。

 

「どうして……」

 

 やがて少女は――船花サチは、私に聞いた。

 

「どうして、夏音じゃなきゃいけなかったんだ。もっと他にも、適任者はいたはずだろう? それが何でまた……」

「そりゃあ、彼女の願いがまだ終わってなかったからさ」

 

 私は答える。

 

「彼女は私を超える存在となるため、因果を紡ぐ必要があった。私はそれに便乗した。それにこの現状の遠因は彼女だ。夏音に責任を取ってもらってるに過ぎぬ」

「でも、それを抜きにしても残酷過ぎるだろ。大体、見滝原が隣町だなんて認識はどっから来た。この世界の仕組みはどうなっている」

 

 私はフフ……と笑った。

 考えてみれば簡単なことだろう?

 

「そりゃ暗示だ。暗示でそう思い込ませてたのだ」

「暗示……?」

「時間遡行の元の持ち主は、暁美ほむらと言ってな。そいつを殺して、夏音はこの魔法を手に入れたのだ。そこで一つ思った。暁美ほむらの状況を元にすれば、もしかしたら因果が集まりやすくなるのではないかと。結果は見事に大成功。奴を踊らせ、悲劇が起きれば、因果が集まって無貌の魔女も強力なものになっていった。私以外の神が、ここに誕生したのだ」

 

 うっとりとそう言えば、サチは思いっきり引いたような顔をした。

 その反応もまた愛らしい。

 

「……、ていうか、何でそんな話をこの私にしたんだよ。私にされても困るってば、そういうの」

 

 ふと、サチは自分の境遇を思い出してか、そう思いっきり眉を寄せる。

 そうだ。サチは入理乃に拘束され、眠らされている。こうやって会話している世界は夢だ。私が彼女の意識に介入し、今までのことを話して聞かせたのである。

 

 でも、サチにとっては、いまいち私の狙いが分からないらしい。

 私は馬鹿だなあ、なんて冷笑を浮かべて、言う。

 

「単純な話だよ。お前が我が妹の中で一番純粋だった。ようは信じ込みやすいってことだな。私の話を素直に聞いてくれる」

「はあ……なんか嬉しくねえんだけど」

 

 サチは実に微妙な顔である。褒められても特にはならんからな。

 

「んで? その神様は、そんな話をした上で、この船花様に何をして欲しいんだよ。なんか目的があんだろう?」

「ああ……それはね、お前には私の邪魔をして欲しいんだよ」

 

 この私は、人を何よりも信じる私なのだ。

 人を信じるからこそ、サチを解放するし、早島をその手で守って欲しい。

 

「すでに夏音の因果は収束した。この時間軸でループは最後。だからこそ、私は行動に移るし、お前達にはそれに立ち向かってもらいたい。新たな未来を見せて欲しい。この袋小路を滅ぼすか否か。すべてを否定し、何かもを消してしまうのか。――選べ、我が妹よ。お前はこれからどう動く?」

 

 サチはそこで黙考した。

 長い間考え、やがて私を睨みつけて、

 

「お前に負けてたまるかよ。世界が終わるなんて知ったこっちゃねえ」

 

 そんな期待以上の答えを返してくれた。

 

「そうか」

 

 私は満足と共に頷く。ならば迎え討とう。全力で持って、すべてを終わりにするために。

 

「じゃあね、神様。ここから出してくれてありがとよ」

 

 サチはそう言いこ残して、踵を返して去っていった。

 私はそれをいつまでも見送っていた。

 

 いつまでも、妹の背中を……。






好きなもの 早島 妹達

嫌いなもの キュゥべえ

戦国時代から早島を守る存在にして、人々の願いを叶える神。順那の正体。苗字は火雨(ひさめ)。しかし一族を滅ぼされたことによってその名を捨てている。
元々は普通の一族出身だったが、家族を滅ぼされて魔法少女となった。その後、願いのせいで転生を繰り返しながら、早島をずっと一人で守ってきた。
冷酷ではないが冷徹。言動は軽く、人をおちょくったような態度が目立つ一方、その裏に苛烈ながらクレバーな本性を併せ持つ。
根は気弱な普通の子供で、お兄ちゃんっ子。一族の中でも末っ子に近かったので本質的には甘えたがり。だが幼い頃に保護者がいなくなったこと、妹を抱え、血に塗れた人生を生き抜いたことが合わさり、無理やり大人にならざる得なかったためか、歪な幼な心を残している。
そのため、ある意味一途でまっすぐ、純真な性格の持ち主である。
特別になることに並々ならぬ拘りをもつ。

得意なことは謀略を張り巡らせることと殺人。それ以外で物事を掴む方法を知らず、また他人を信用しなかったことからワンマン気味。
傲慢かつ平気で人を裏切るクズである。しかし他人の性質を見抜く力には長けており、相手の望んだ通りの性格を演じることによって、人心を掌握することも可能。
また、心と体を切り離す術も習得している。
影に潜みながら、虎視眈々と勢力図を広げていく、まるで蜘蛛のような女。

魔法少女としてもくれない。その才能はマギウスを凌駕し、ほぼ何でも出来る。
その理由は固有魔法にあり、それは土地に眠る歴代の魔女、魔法少女の記憶を呼び出すというもの。
これにより様々な能力を模倣し、主に魔女の魔法(呪い)を模倣していたので、妖術使いの玉と恐れられた。

ちなみに武器は糸と大鉈。衣装は死装束で、ソウルジェムの位置は太もも。高速で動き回り、本編で描写されることはなかったが、主に足蹴りを使っていたとか。
かなり膨大な因果を持つ彼女だが、それは願いのせいで死後も転生を繰り返しているため。
魂の大元は始めから宇宙の外にあり、玉のソウルジェムはその一部を元にしたものである。
そのため、歴代の転生先の魂もカケラに過ぎず、ある意味でイミテーション、しかしソウルジェムを砕かれれば命を落とし、また転生することになる。
この時引き継がれる記憶は曖昧である。これは大元の魂が既に膨大な呪いのせいで半魔女となってるからであり、玉自身の本来の姿は糸で出来た巨大な猫。
玉の精神もとっくに変容しており、人間のそれではなく、人間のふりした魔女のようなもの。
今の人格は模倣された偽物である(使い魔たる夏音と似た感じ)。
彼女が行き着く先は、果たして……。
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