魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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※不快な表現が含まれています。グロ注意。


紅の月

山に続いている夜道を、二人の少女が歩く。少女のうちの一人、東順那は、怖がる素振りを見せずに、どこか堂々としていて、もう一人の船花サチは、訝しがるように憮然として文句を言っている。

 

それもそうだろう。順那に着いて行ったら、こんな遅くまで一緒にいるはめになってしまったのだ。予想以上に、結にまつわる場所を巡るのに、時間がかかってしまった。これが最後の場所だというが、親になんとか説得するのも申し訳なかったし、しかも、この道は、時間帯的にも、地理的にも、車は通っていないし、人家もない。本当に、目の前の先は見えない。一応懐中電灯を一旦コンビニで買ってきて(魔法で造っても、所詮レプリカなので、精巧な偽物はできても使えない)、人工の光を用いても、それはあまり変わらない。

 

普段魔女の結界に行っているためか、暗がりなどに今更不気味さも感じない。誰か人が来ても、魔法少女が一般人に叶うはずもないから、そういうことに関して不安な気持ちはない。ただ、本当にこの道であっているのか、サチは懸念して順那に尋ねる。

 

「こっちでいいの? 間違ってたらぶっ飛ばす」

「合ってるって。ほら、あそこ」

 

懐中電灯の光が傾き、最終地点を照らす。少し遠くの道の横側に、神社がある。サチはまた神社か、とうんざりとした面持ちで頷いてみせ、先行する順那と共に鳥居をくぐる。神社の裏手に回ると、そこにあったのを見てサチはっとして、次には神妙に黙り込んだ。

 

順那は、しかしやはりマイペースだ。サチを気遣わず、ある地点まで行くと、そこを指さした。

 

「ここ掘って」

「え……?」

「いいから。おもしろいの見れるよ」

 

サチは一瞬だけ心底嫌そうにしたものの、覚悟してスコップを魔法で造る。そうして、ひたすら二人で掘り返して、果たしてそこにあったのはーーー

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

広実結は、笑い続ける。こだまする声の主を、皆黙って見ていた。夏音も、使い魔も、魔女も。驚愕し、息を飲み、戸惑いを向けている。彼女は、鉈を空に向けて、何かの感触を確かめるように数度軽く振るう。そして、震える体を自身で抱き締めて、身もよだつ奇声を発し、甘美なとろけるような顔でうっとりしている。

 

「や、家主さん……?」

 

もう一度呼びかける。これ以上、訳のわからないものが増えて欲しくない。怖いものがあって、それがようやく退けれくれるだろう人が来たのに、その人まで怖いものになるなんて、最悪だ。そうなって欲しくない一心で、夏音は結に、また呼びかける。

 

すると、結は笑顔のまま夏音と目を合わせた。結の愉悦に満たされた瞳と、夏音の揺れる瞳が交差する。ゾッとするほど、結の双眸に、何らかの感情がしみだし、沈殿する。慈しむように結は目を細める。喉がひゅうと乾いた息を吐いた。

 

「大丈夫、僕がやっつける。絶対、殺させない。たとえ、どうなろうとも。君は僕のためにそばにいて欲しいんだ。僕が僕であるために」

「……、それはどういうーーー」

 

質問する前に、強く後方に押され、足のそばに鉈が飛んでくる。鉈からほとぼしる閃光が、ぐるりと夏音を囲むように四つ円を描き、どうするまもなく、しゅるりとそこから線が伸びて触れた瞬間、体が硬直する。無理に動かそうとしても、声を出そうとしてもピクリとも動けず、周りを箱状の網目模様の結界が覆う。

 

「ごめん」

 

そう謝って、申し訳なさそうな顔をしたのも、結は一秒にも満たず、魔女が動く音がする。

 

ガチガチガチガチ。歯を鳴らす音が、不自然に明るく、軽い。その歯で齎されるであろう死とは比べ物にならいほどに。だが、そう感じるのは、目の前の結が異常だからということもあるだろう。結が纏う空気は、彼女の口角が示す通り、うきうきとした浮ついたものだ。

 

ろくろ首の顔の口が、動く。その困惑した魔女の言うことが、夏音にのみ伝わる。

 

『ヨうジュツ…、バカな。アノかお……ゴハン、ナノに…ニテイル。アイツラ…、アイツラ…、いえが…、オナカすいた…。アイツラ…のせい…で…』

「…アハハ、おかしい?おかしいよねえ?そこの死体と同じ顔がいるんだからさあ…、ぐちゃぐちゃだよねえ。これから、もっと楽しくしてあげる。踊ろう、死の舞踏を共に」

 

もう片方の手に握った鉈の切っ先を、結は魔女にまっすぐ見せつける。没落の魔女は、蝿の羽をぶうんと唸らせ、着物から伸びた人間の腕で癇癪を起こし、地を鳴らす。

 

『バカナアアア!!にくい、にくい、いアアアアアあアアアああ!!!!』

「アハハ、アハハハハハハハハ!!!!」

 

咆哮と笑い声が、醜悪な程に重なる。途端、六つの足が床を蹴って、跳ね飛んだ。大きな質量が動いたことで、大気が一瞬だけ軽くなって、重くなる。体が鋭利なナイフのように硬質化したまま、その影が結に近づき大きくなって、そのまま体重で押し潰さんとする。

 

しかし、結は滑らかな動きでバックし、巨体が下りた衝撃で舞い上がった机の一つを右足で弾いて魔女にぶつけ、怯ませる。その隙に、一気に接近。両手の鉈を、そのがら空きの横腹に、グサリと刺した。傷口から、生物じみた紅の体液が溢れて、着物を染め上げる。ぐりぐり、と結は鉈を押し込め、加虐的に言う。

 

「どう…痛いでしょ?」

 

結はさらに、鉈の柄を握って前にやる。抉られる箇所が深くなって、魔女から苦痛の叫びが上がった。夏音は思わず、耳を防ぎたくなった。

 

『イダ、いだあああああい!!』

 

長い首がブンブン、縦横無尽に激しく動く。暴れ出す醜い女は、無茶苦茶に足をばたつかせる。結は突き立てた鉈から手を離し、ニヤつきながら、鉈を二本再召喚する。洗練された技術で、立ち向かう馬鹿な使い魔どもの爪による攻撃を、手ごと切りふせ、メイドはさらに血を被る。今度は魔女ではなく、彼女が大きく飛躍する。そしてーーー没落の魔女の背に、勢いよく刃を逆手で振り下ろす。

 

ざくり。嫌に軽やかに、されど確かな抵抗をねじ伏せるように結は力み、刃を体に入り込ませる。痛みが伝染するような絶叫がまた上がる。夏音はまざまざと、魔女がのたうち苦しむ様子を見せつけられる。結は鉈を引き抜く。内部から上に走った激痛が、魔女の体から発せられる声を借りて、夏音に報せる。

 

一方的な遊びが始まる。血の解体ショーが、開始される。

 

結は子供のように無邪気に、魔女を好き勝手に、虫の羽を根元から、ぶちゅんと引き抜いたり、首に刃を指して、縫い止めたり、無数の刃を腹や着物に突き刺して、降りると今度は内蔵を引きずり出したりする。血が撒き散らして、泉をつくって、川になる。

 

ぶちゅん。ざくり。ぶちゅん。ざくり。グサグサ、ぐるり。ねちょり。

 

気持ち悪い音。吐き気を催す匂い。タダでさえ醜いものが、醜くなっていき、見るに堪えない。刃の反射した光が、視界で明滅し、煌めいて、肉に吸い込まれては突き刺さったままの楔となる。刺繍が施された高級な衣は、もはやボロ布で、身にまとえていない。鮮血の川に、うき沈む。魔女はもう、動けず、命の炎は消え去ろうとしている。

 

と、そこで結はふと、思案するように目を閉じて、そして思いついたように瞼を開いて弾んだ声を上げた。

 

刃を向けると、緑の光が天使の祝福の如く、没落の魔女に降り注ぐ。魔女がピクリと動いた。神の奇跡を体現したかのように、みるみるうちに傷が巻き戻り、治っていく。だが、体には無数の刃。完治していく度に、鉈が食い込む。

 

「アアアアアア⁉︎助ケ、タ巣ケテ!!赦し手、ユルして、モウシ氏センから!!!?」

 

そしてまた、魔女は血を流して枯れた声で叫んだ。

 

夏音には、聞こえていた。魔女が許しを乞う言葉が。哀れすぎるほどの、懺悔が。憎しみと自らの運命を呪う呪詛が。まるで、自分が没落の魔女でもなったかのような錯覚に陥る。

 

だから、夏音は泣いていた。あんなにも怖がっていたのに、魔女に共感し、同調した。可愛そうで、結に恐れを感じて、震えていた。

 

『いい、イイイイイイイイイ!!キレイ、サイコウ!!ウハハアハハ!!』

 

ただ一人、血濡れのメイド服の少女が高らかに歌う。耽美し、頬が高潮するが、目は爛々と輝く。常に笑みを浮かべる彼女ではあるが、この笑顔こそが本物であるとばかりに、あまりにも生き生きとしている。

 

だが、それもしばらくすれば、なりを潜める。山から下って、思考が平静になっていっているようだ。結は絶頂から来た余韻に浸り、薄く笑う。

 

「アハハ……。ふう、つまんないけど、まあまあ満足したあ。そろそろ終わり……」

 

二本の腕に握られた鉈が、彼女の欲望を叶え、行使する。

縦に、横に、斜めに。追えないほどの斬撃が、魔女をバラバラに切り刻む。パリん、と結界が割れて崩れ去る。

 

『ふざ…ケる…ナア……!!』

 

一言、没落の魔女が呟いた。それが耳に響いた途端、畳の間が揺らぎ消え去る。周りが闇に包まれる。自由になった体で、社と月を眺める。ここは、現実の世界なのか、よくわからない。夏音は呆然と、それらをじっと見つめた。しかし、草を踏みしめる音に反応し、そちらに視界を移す。

 

紅の月明かりの下。広実結がいた。不釣り合いな髪型が、戦闘中にとけたらしく、そのシルエットは左右対称となっている。以前は純粋な白を讃えていたメイド服は、しかし全てが背徳的に赤い。スリットから見えた太もものソウルジェムが、きらりと眩く一瞬光る。鉈は、怪しく鈍い色をさらに血で濁していた。

 

夏音は驚いて後ずさり、たたらを踏んだ。結は魔法少女の姿のまま、親しい者に語かけるように問いかける。

 

「良かった。ちゃんと守れたよ。怪我はない?」

 

結はにいっと笑って、鉈を手に言う。

 

「僕が、治してあげる。きっと、そのさまは綺麗だから」

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