魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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必然

チーズおつまみを勝手に食い漁り、どこかに消えた魔女は、見覚えのない魔女だった。つまり、新種か、それか三滝原から流れてきたのだろうか。どちらにせよ、新種は見つけた時点で、即殺すべきだと、魔法少女になってしばらくしてから、入理乃は話した。

 

サチがよく分からず何故かと問えば、今まで戦ってきた魔女の種類が、一定以上重なっている場合がある、と入理乃は答える。つまり、人間を食らって繁殖し、広まってしまった魔女が存在していると結論づけられる。そしてそのまま地域的に定着した魔女がいるということは、ほかの魔女だって、そうなる可能性があるということだ。それがいかに危険か、言わずもがなである。

 

しかし、魔女に辿り着くのは、予想以上に難航した。すぐ現れて離れたので、そう遠くにはいかないはず。魔力の痕跡を辿れば、すぐに追いつける。そう思った自分が甘かった。

 

魔女は意外と、すばしっこかった。捉えたと思った魔力の波動も微弱で、人の密集地などの、感情が集まりやすい場所などを探ったが、逆に薄くなるばかり。かといって、暗い人気のない魔女が好みそうな場所とて同じ。むしろ、普通の道をほぼ一直線に進んでいっているようだった。

 

「…で、ようやく会えたわけだけど、まさかよりによって…」

 

魔力の反応からして間違いない。苦心して、何とか、何とか追いついた魔女の居場所。それは、よくある空き家。丸く右折する石垣に囲まれた道の角に位置する、杜撰なつくりで、かつ錆びているトタン屋根の家だ。

 

サチは微妙な気持ちで、頭を悩ませた。普段なら、ズケズケと行って、ちゃっちゃと終わらせる。だがあいにくそういうわけにもいかない。トタン屋根の家に続く道にはーーー壁がある。魔力で編まれた、早島市を二分する壁が。

 

その壁は、サチが基礎の魔力を注ぎ、残る二人が拡張した結界。薄く遮断の効果がないそれは、目視できないほど淡い。だけど、感じることができる。壁に近づこうとした時、警告のように魔力反応が伝わる。結界は、文字通り領域の境目、線引きの役割がある。

 

その先に踏み込むのは、その線引きを破壊すること。結の行為で、もう役目はないも同然に等しい結界だけれど、こちらが敵対者と同じ行動をとったら、バレた時まずいことぐらい、サチにも分かっている。だが、せっかくの獲物が、しかも新種が結界の向こうにいるなんて、もどかしい。

 

サチは結界の前で渋い顔をしながら、悶々としていると、ふいに魔力反応が徐々に遠ざかる気配が走った。魔女がどこかに行こうかしているのだ。サチは思わず落胆した表情をした。

 

もう駄目だ。逃してしまうーーーそう思った瞬間、家の壁に鉈が、まっすぐ右手から飛来する。壁に刺さった途端、ギィン、と緑の鉈の魔力が唸り、移動しようとした結界が半強制的にその家に縫いとめられて動けなくなり、入口が顔を出す。

 

サチの瞳が驚愕に染まる。この魔力の反応、忘れるはずがない。それにこの武器。入理乃の分析と、本人の話曰く、魔力を込めることで魔法の媒介となる鉈ではないか。考えるまでもなく、目の前の鉈を放ったのは、

 

「今の、まさかーーー結か!?」

 

答えるように、こつん、こつん、と足音が響いて一人の少女が姿を現わす。色素の薄い髪を、左を高く結んで、右側を三つ編みにした髪型が揺れて、サチの真正面に体が来た時に治る。淡い瞳が笑って、従姉妹の顔を彷彿とさせたが、今更になって、数年会っていないせいか、随分と昔の印象と異なることに気がつく。青い上着にシャツ、半ズボンとスニーカーの組み合わせはほぼ実用性を重視したせいか、微妙に本人に似合っていない。中学の制服姿しか見たことなかったから、これはこれで違和感がある。

 

サチはジロリと少女、広実結を睨みつける。憎たらしい瞳に、結は一瞬相変わらずだなあ、と懐かしげな、しかし申し訳なさそうな顔をしたが、次には気さくに話しかけた。

 

「久しぶり。サチちゃん。元気にしてた?」

「…元気にしてた?この船花様が元気に見えまして?わかるよね、アンタがしたことのせいで、こっちは色々大変なんだよね、クズ!何で助けたんだ!揉め事起こしやがって!」

 

助けたも何も、大元を辿ればキュゥべえに話したサチが悪い。その事は理解している。自分のことを棚に上げて責めているのは分かったが、でもわざわざ助けたなんて、また対立を起こしたいからではないのだろうか。いや、そうに決まっている。普通なら、めんどくさくて、助けるはずない。

 

これから先もずっと前と同じだったら、どんなに良かったか。本音を言うとサチは結が嫌いだから、今までどっかに行って欲しいと思っていた。だけど、そんなことはできなくて、サチも入理乃も小さなテリトリーの中で、グリーフシードがないなか、仕方なく我慢していた。我慢していた方が、平穏だったからだ。でも、結は平穏を壊した。サチには、それが許せない。自分も自分勝手だが、結の方が数倍自分勝手だ。

 

「そんなに魔女を独占したいのかよ!アンタ、そうやって私達を追い出しテェんだろ!!」

「…僕はそう思ってない。ていうか、そんな訳ないじゃん。よく考えなよ。独占したり、追い出したりしたいなら、夏音ちゃんを助ける以前に、とっくに行動してるって」

 

呆れた声色に、サチは図星を突かれて黙る。何も反論できず、自分の馬鹿さばかりがひけらかされたような気がして、無性に恥ずかしい。サチはイラついて、舌打ちをした。

 

「で、何でいるの?船花様に教えて?」

「んー、それを説明するには、彼女に出てきてもらわないと」

 

彼女?と、サチが渋い顔をすれば、結が横を少し困ったように笑って、右を向いた。すると、しばらくして、石垣の陰から、橙色の髪を横に結んだ、セーターにスカート、ローファーという地味な格好の少女が出てきた。迷っているように、恐怖で震えるように、眼鏡ごしの瞳が彷徨う。そして、意を決したように、目を合わせた。それにサチは、息を呑んで、彼女に指を指した。

 

「な、何でいるんだよ、菊名夏音!!」

「そ、それはこっちも同じです。何でいるんですか…?」

 

夏音も驚愕の意を伝える。どうやら、互いに、この場で邂逅したのは想定外であるようだ。何故こんなところにいるのか、一体何をしているのか、全く混乱して、訳がわからない状態だった。動けず、瞳と瞳の間で睨み合う。

 

ただ、唯一、結は両者を見比べて静かにしてていて、不憫そうに隣の少女の方を見た。夏音は視線に一瞬だけびくりと驚いたが、眉間に皺を寄せて、目を細め、怖がるというよりも、拒絶に近い反応をした。結は参ったとばかりに、苦笑する。

 

サチは、そんな二人のやりとりが引っかかったものの、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきて、先に自分から事情を説明する。

 

「私はその魔女を追って、こんなところに来たんだよ。アンタらは?」

「僕達は、魔女を探していたんだ。夏音ちゃんがどうしてもって言うから。で、どうせ近くにこの壁の結界があったから、一応どういうものか実感した方がいいかなって、連れてきたんだ」

「それで、貴女に会ったんですよ…。本当に、こんなことってあるんですね…」

 

歯切れの悪い口調で夏音が言う。まるで、会いたくなかったといわんばかりに弱腰というか、いちいち隠れられていたし、なんとなくムカつく態度だ。舐められて入るのだろうか。失礼極まりない態度だ。サチは無性に馬鹿にされた気がして、むかっ腹が立った。

 

「ていうか、二人揃って仲良しなの?夏音、どうしてもって、グリーフシードでも集めて私達と戦う準備がしたかったってことなの?それに付き合う辺り、結も結だよ!アンタら協力関係ってやつ?早島を自分達だけのものにするんだね」

「ち、違います!そんなつもりありません!」

 

慌てたように夏音が否定するが、そんなのサチには信じられない。こんな奴の言うことなんか、一ミリだって、信用なんかできない。これなら、順那の方が信用できる。だって、彼女は身元がはっきりしているんだから。夏音はそうじゃない。夏音に関しては、何もわからない。

 

「アンタ、何者!?どこから来たの!?早島中の制服だったけど、ここの近くに住んでんの!?そもそも、何が目的なのよ!!」

 

訊きたいことを次々とぶつける。だけど夏音は、黙った。何かを言いたそうに、顔をしかめて、俯いた。奇妙なことに結も、腕を組んでサチに悲しそうにしている。サチは二人の反応にイライラして、さらに畳み掛ける。

 

「何で何も言わないのさ!卑怯者、黙るとか、良い子ちゃん気取り!?ずるいよ、そういうの!」

 

サチがずるいと言った瞬間、ピクリ、と夏音は肩をはねさせた。真顔になって、かすかにずるい、と反芻して、泣きたげに自嘲した。彼女は明らかに沈んだ表情で、嫌に馬鹿みたいな笑顔で言った。

 

「…そうですね。私は貴女が訊きたいことに答えることができません。本当になにもかも、ずるいかもしれません。…すみません」

「はぁ!?何謝ってんのさ!?意味不明!アンタみたいなのが、私をバカにするんじゃねえ!」

「……馬鹿になどしていません!」

 

サチに、真正面から夏音が怒鳴る。サチは鼻を鳴らして、目尻を上げて警戒心を剥き出しにした。胸の奥で、炎が弾けて大きくなっていくのがわかる。それが、バンと弾けて、サチは思わず、ソウルジェムを衝動的に構えて変身して、武器を向けた。

 

「こちとら、我慢の限界なんだよ!いい加減にしろ!」

「……船花、やめてください!こんなの、何にもなりませんよ!」

「うるさい!逃げようとすんなよ!」

「………っ!」

 

夏音の体を魔力が覆い、黒い服に帽子の姿へと変わり、ハルバードを同じように向ける。サチはふぅんと夏音を一瞥する。彼女の構えが、明らかに丸腰の様子じゃないのだ。恐らく、どこかで訓練か何か受けたのだろうか。だが、一日で大したものだけれど、まだまだ戦い慣れていないものがする姿勢で、隙が多すぎる。どうやら契約したてというのは嘘じゃないらしい。

 

サチは、憤怒の火を夏音に近づける。それだけで、夏音は躊躇するように顔をしかめて、こっちまで眉がくっつきそうだ。サチは足を踏み込み、動かそうとしてーーーそこで沈黙していた結が二人同様変身して、やめて、と鋭く言い放った。

 

「武器を下ろして。ここで争ったって、しょうがない。魔女もいることだし」

「…そうだわな。頭に血が上りすぎてたわ」

 

…考えなしに動いてしまった。癪であるが、結の言う通りだ。何の利益にもならない戦いなんて意味がない。むしろ騒動を起こせば、さらなる問題に発展しかねない。

 

夏音とサチが臨戦態勢をとく。夏音はホッと息をついて、サチはガサツな動作で錨を下ろした。一応、武器は消さないでおく。何をするか、わからないから。向こうも構えはないが、ハルバードを握りしめている。

 

結は、よくできました、と言うようにうなづくと、さてと魔女の方を向いて、当然のように言った。

 

「あの魔女、もらっていいよね?」

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