魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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戦闘シーンって書くの面白いですけど難しいですよね。少々わかりにくいかも。ちょっと長めです。感想が欲しい…。


拒絶

結界は魔女によって千差万別の姿を持つ。空中要塞、海原、教室、草原。明るかったり、暗かったり、暑かったり、寒かったりと、明るさや温度もまた違っており、それがずっと続くのかかと思いきや、階層によって百八十度環境が変わるでありながら、しかし共通して言えるのは、どれもこれも奇妙で複雑怪奇な空間であるということ。そして魔女の性質に結界もまた寄るのだということである。

 

この結界も例にもれず、魔女同様、十分ポップでファンシーだ。そしてとにかく甘ったるい。なんせそこらかしこにお菓子があるのだ。胸焼けがしそうなほどの匂いがして、げんなりしそうだ。今まで入ったところで、お菓子が結界の材料の一つとして使われてあるのを幾度か見てきてはいたが、ここまで全部がお菓子なのは経験したことが過去になかったので、入ったのが二回目であってもげんなりした。

 

後から、普段着のままの姿で結が結界の中に入ってきた。彼女は彼女でこの結界に充満する匂いと菓子のビジュアルにやられたようで、具合が悪そうにした。

 

「僕甘いのダメなんだよね。お菓子を見るだけで吐き気が…」

「おいおい、油断するなって言ったのに、そっちがダウンしちゃいそうってどういうことなの?しっかりしてよ」

「ごめん、しゃんとしないとね」

 

結が左手を掲げる。薬指の指輪から光が迸り、全身へと広がって、彼女の服を魔女と戦う時に相応しい装束へと変えていく。一秒よりも短い時間でメイド服を身に纏うと、結は不敵に笑った。久方ぶりに見る、狂気の魔法少女がサチの目の前に現れたのだ。

 

魔力は以前に増して数段上がっており、立ち振る舞いも隙がなさすぎる。見ているだけでもサチは圧倒された。入理乃を含めた二対一ならともかく、一対一ではまともに相手をすることなく、やられてしまいそうだ。恐らく、この魔法少女と互角に渡り合えるのは巴マミや佐倉杏子のような強力なベテランであろう。

 

「お前、なんか以前より強くなった?」

「うん。魔女殺すために、色々勉強もしたからね」

「勉強?わざわざそんなことしてたんだ。私なんかーー」

 

と言いかけたところで、ふいに何かが飛んでくる気配がして、サチはとっさに動く。結の前に素早く前に出ると、錨を横にする。軽い音の割に強い衝撃が加わり、サチは少し後ろに後退する。柄に当たったカルテが落ちる。

 

「お見事。サチちゃんも腕が上がったね」

「でしょ!船花様も強くなってんだからね!」

 

そうやって軽く言い合ってるうちに、カルテを投げたであろう、顔に渦巻き模様がある看護師の見た目の使い魔が現れる。釣られるように、ネズミのような小型の使い魔もわらわらやってきた。

 

サチは軽くそれらを見る。情報分析はまずやっておく。戦いの基本の一つだ。

 

まず看護師の使い魔であるが、ただのカルテを投げつけるだけの攻撃であの衝撃なのだから、強い個体であるのは間違いない。ねずみの使い魔も、一匹一匹がそれぞれ驚異的だろう。最大の問題は群れていることだ。ざっと見たところ数がとにかく多い。数の暴力とは本当にシャレにならない。塵も積もれば山となるということわざが示す通り、単純に集まれば集まるほど質量、物量は増していく。下手すればその波に飲まれかねない。サイズも小さいので、素早さそうなのもネックである。

 

「じゃ、軽くやっちゃおうか!」

「いや、軽くってほどでもないけど」

 

鉈を二丁召喚して構えながら気安く言う結に対してサチが突っ込む。現状はそんな簡単に言って良いほどのものでもない。どうしてそんなに笑顔でいて、緊張しないのかわからない。

 

「乗り切れるかどうか心配なの?」

「そりゃね」

「大丈夫。僕達は一人じゃない。二人なんだ。二人ならこれくらいなんてことないよ。それに心配しなくても、僕が君を守るから」

 

サチは目を見開いて面食らった。結の表情があまりにも優しい、まるで慈しむかのようなものだったからだ。狂気的な顔でもなく、ましてやおもしろがっている、ひょうひょうとしたものでもない、初めて見るその表情。あまりに広実結らしくなくて一瞬誰だこいつと思ったほどだ。

 

サチはすっかり調子が狂ってしまい、顔をしかめて言った。

 

「守られる必要なんかないんですけど。むしろこの船花様が活躍してみせるし」

「うん、君の力に期待することにしようか」

「ふん、ちゃーんとこの船花様の力を見てなよ!」

 

言うや否や、サチは錨を水平に持ち上げ魔力を一点に集中させはじめた。

 

サチは華奢な見た目の割に、爆発的なパワーを持ち合わせている。魔力を乗せた武器を手に突進するだけでも、相当な威力がある。その威力を以ってすれば、別の時間軸のサチが石像の魔女の結界で披露した通り、使い魔なぞ吹っ飛ばしながら進むことができる。

 

しかし一人ならばともかく今は二人だ。突進してしまうと、流石に結を置いてけぼりにしてしまう。だから今回は突撃するのではなく、そのパワーを一点に集めて使い魔を吹き飛ばす。そして道を切り開いた後は、一気に走り抜けるのだ。まあ端的に言ってしまえば、壁をなくしそのまま逃げ切ってやろうという単純明快な作戦である。

 

数の暴力というものは確かに洒落にならないが、何も馬鹿正直に相手にする必要はない。使い魔なぞ、所詮魔女と比べれば倒すべき相手ではないのだ。そうであるのなら、危険な使い魔から逃げて次の階層に行ってしまったほうがまだ利口というものだ。

 

「吹き飛べ!!」

 

溜めていた魔力を錨を突き出すことで解放する。突如青白い雷が走り当たった瞬間、周辺の使い魔が一斉に吹っ飛んだ。まるでピンポン玉のように跳ねていくねずみの使い魔達。看護師は地面に腰を打ち付けた。視界が一気に拓けていく。

 

「結!」

「うん!今の内に突っ切ろう!!」

 

二人は切り開かれた道を全速力で走り抜けていく。二対の風はぐんぐんと距離を伸ばし、使い魔達との間を引き離していく。しかし突如として、行く手を遮るように新たなねずみの使い魔が二匹現れた。サチは簡単にいかないことをわかっていながらも、舌打ちをした。

 

「ちっ!!そう上手くいかないか!」

「やむ負えないね。私から仕掛ける!!」

 

二丁の鉈を振りかぶり、ねずみの使い魔へと結が踊り上がる。上から下へと走る鈍色の軌跡を避け、使い魔は二手に分かれる。ねずみらは反撃とばかりに走り寄ると、勢いのまま魔法少女達にそれぞれ体当たりをしてきた。サチは冷静に武器を振り回し、結は足で逆に蹴りを仕掛ける。使い魔は勢いよく弾き飛ばされ、着地する直前に結が飛ばした斬撃を受ける。それでも次にはむくりと起き上がり、ピンピンしていた。

 

「ありゃあ、まじでかぁ」

「一筋縄でいかないってことか…。って、また集まりだしてる!早すぎるでしょ!!」

 

天井や物陰。死角になっているところから、次々にねずみの使い魔がやってくる。みるみるうちに、黒い斑点模様の数は膨れ上がってゆき、背後からは吹き飛ばした使い魔がもう迫ってきている。丁度挟み撃ちといった格好だ。しかも吹き飛ばした使い魔と、今増えてきているものを合わせると、結果的に最初の時よりも何倍も数が多くなっているのだ。

 

吹き飛ばしを行おうにも、どちらかがまた到達してしまう。結もパワーがある方だがサチのような芸当はほぼ無理である。だから同じタイミングで吹き飛ばし、牽制することはできない。

 

ベテランの魔法少女達は顔を見合わせる。

 

危機的状況に際して常用なのは、冷静な判断力に、とっさの反応や対応力。僅かな手段で活路を見出す。利用できるものは何でも利用する。そして一番大事なのが、周りをよく見ること。時にそれが命を左右するキッカケになるということを、サチは重々承知していた。

 

この状況を乗り越える方法がないか、一瞬にしてサチは周囲を観察する。前、後ろは使い魔の群れ。横もまた同様。下は地面。掘って逃げることは現実的にまずできない。ならば残るはーーそう考えたところで、同じ考えに至った結が鋭く言い放った。

 

「足場を造って!!」

「言われなくても!!」

 

手を掲げると青い魔力が空に向けられる。召喚されたのは通路に対し横向きの、五メートルの錨。サチと結はそれを視認すると素早く跳躍。その上に飛び乗った瞬間、前と後ろの二方向からわっと使い魔の津波が押し寄せ、地面を覆い尽くす。あっという間に通路は一変の隙間もなく、ぎゅうぎゅうずめになった。

 

サチは錨の上で青ざめる。一歩遅ければ、サチと結は使い魔に押しつぶされていただろう。死んでいたかもしれないと思うとぞっとしたが、それよりも恐ろしいと感じたのは、とてつもない使い魔の量である。

 

何百?何千?一体どれほどの数の使い魔がいるのだろう。もしかしたら、結界すべての使い魔が集まっているのではないだろうか。今まで魔法少女をやってきた中で、ありえないことに沢山遭遇してきた。でも、こんなにも一同に介した使い魔を見るのは初めてだ。経験から言わせてもらうと、ちょっと異常すぎる光景である。

 

「ちょっと、なんなのこれ!!?こんなの絶対、ありえないでしょ!!そりゃ結界ってのは常識は通用しないけど、限度ってものがあるよね!?」

「こんなの僕も初めてだよ。よっぽど魔女が強力なのか、あるいは外的な要因があるのか。さっぱりわからない」

 

結は、飛びかかってくる使い魔に蹴りをお見舞いしながら言う。表情には訝しがるような色。声には戸惑いが含まれていた。サチもカルテの雨をすべて跳ね除けながらも、顔には困惑の二文字を浮かばせていた。

 

しかし、考えるのは後ででもできる。今すべきことは、現状の打開。サチは自身も考えながら使い魔を錨で下に沈め、意見を求めるため、結に視線を向けながら問いかける。

 

「何か策ないの!?このままじゃジリ貧だよ」

「そんなのはわかってる。足場がこれだとーーそうだ、足場だよ!サチちゃん、錨の足場を造ってこのまま下の階層まで逃げ切ろう!結構きついけどできる!?」

「舐めんな!!造るのは得意なんだよ!」

 

サチの声を合図に、通路の奥へと群青のスパークが走り抜ける。出現したのは何十という錨で構成された道だ。遠く先が霞み、はっきりと見えないほど続いている。アンカーの大きさは約三メートルもあり、武器よりも巨大。四本の鎖で連結されていて、その鎖からは別の鎖が下に向かって垂れている。錨を島だとするならば、鎖はさながら橋のようだった。

 

結は驚いたかのように歓声を上げ、サチを褒め称える。

 

「さっすがサチちゃん!やればできる子だ!」

 

サチは自身の顔が、微妙な顔に段々なっていくのが、どうしてもわかってしまった。結に褒められても嬉しくないどころか、ギャップがありすぎて気持ち悪いのだ。

 

「よし、このまま今度こそ走り抜けるよ!」

 

サチ達はアンカーから飛び立つ。降り立つとジャラリと鎖の音がする。そのまま二人は上空にできた錨の道のりを進んでいく。足元は妙に不安定で恐怖を感じるが、使い魔に溢れかえった下よりかはよっぽどましだ。

 

魔法少女の脚力は馬鹿になどできない。数十メートルを、僅かな時間で駆け抜ける。常人から見たら、サチ達は疾風のように見えただろう。二つの風は使い魔を蹴散らして、快進撃を続けていく。

 

襲いかかる敵どもを、結が実体化した斬撃や鋭い蹴り、鉈による連続攻撃で畳み掛ける。サチは前方から飛びかかってきた使い魔を、垂れている鎖を操り、触手のように動かしてはたき落とす。大きく道が揺れ動き、同時に飛び跳ね使い魔を踏みつけて飛躍。さらに前進していく。

 

思いのほか、戦っていて気持ちがいい。しかし高揚よりも驚愕が優っている。サチは武器を振るい余計な感情をぶつけるように、力一杯なぎ払うと、ありったけの魔力を乗せ下方に向けて鎖を発射した。

 

風穴が穿たれたように、一気に使い魔が弾き飛ばされ、黒い斑点の一部分がえぐられ地面が露出。同じように壁の一部が現れーーそこにあったのは下の階層へと続く扉だった。

 

二人の魔法少女は下に刺さった鎖を伝い、すぐさま飛び降りる。そして使い魔が再び押し寄せる前に全速で扉を開き、中に入るとサチは息を整え、汗を拭った。

 

「お疲れ、大丈夫?」

「余裕はまだあるよ。…それにしても、結ってば変わった?以前は使い魔を見るなり、飛びかかってたのに」

 

共闘などあり得ないと思っていたサチだが、予想以上に共に戦えていた。違いの戦闘スタイルを知っているからというのもあるが、それ以上に初めてなのにここまで戦えているのは、サチがワンマンプレイではなくツーマンプレイを得意としていること。そして結がサチに合わせているからだろう。つまり、結には本当に共闘しようという意思があると言うことだ。ちょっと前までは考えられないことだ。

 

「そりゃ今でもどうにかなりそうなほど、使い魔をぐちょぐちょにしたいよ?でもそうなると周りに目がいかなくなる。それを反省して我慢してるんだよ」

「反省?」

「僕はあの頃ね、自分がやりたいことがわかって浮かれてたんだ。この望みに溺れてしまえればと魔女を殺してた。だけどそうしたらね、大切なものを忘れてたんだよ」

 

サチは息をするのを忘れた。

 

結は笑っていた。けれど笑っているのは外見上だけで、本当は笑ってないように感じた。結の笑顔は、無理して笑っているのか酷く義心地ないものだったのだ。こんな顔もするんだな、とサチは胸の奥で呟く。

 

こんな顔をした原因は、もしかしたらミズハなのだろうか。テリトリーの争いになったのは、ちょうどミズハが死んで間もないころのことだった。結があそこまで魔女を殺そうと躍起になっていたのは、一つはミズハが死んでどうでも良くなったから、というのもあるかしれない。

 

脳裏に浮かんだのは、夜の神社で見つけた光景。神社にはーーミズハの墓があった。恐らく結が造ったであろう、手製の墓だった。そして掘り返した時に発見したのは大量の動物の骨だった。あれほど、ゾッとした経験はないだろう。

 

結は、殺害衝動を合わせ持っている。残虐な行いで動物を殺したり、魔女と戦うことに快楽を感じている。一方で彼女は家族同然の、妹のような存在のミズハに深い愛情を持っている。そして積年の後悔の念は重くて強い。

 

結は二面性がある。サチは昨日、結にまつわることを知ったけど、それでもそれらが真実だとは信じられなかった。だがこうして目の前の結を見ていると、順那が教えてくれた結も間違いなく広実結だとわかった気がした。数年前の狂った姿も、今ここにいる別人のような姿も、どちらも結なのだ。

 

「ねえ、結。順那と話をしてやってくれない?」

 

今見せている姿の方の結に、サチはふともう一人の妹のことを伝えたくなった。結と順那は疎遠だ。それが続くのは結が従姉妹を失っているのと同義のように思えた。何故かはわからないけど、もう結の手から従姉妹をこれ以上、失わせたくなかった。

 

「…え?どういうこと?順那がどうしてサチちゃんと?」

 

結が固まった。サチは構わず言い続ける。

 

「私は昨日順那と会った。あいつ会いたがってたよ。ミズハと同じで大切なら、慕っている妹を姉としてーー」

「確かに順那が大切なことに変わりない。だけど僕はあの子と話さない。会いたくないんだよ」

 

結は感情を押し殺した声で、きっぱりと言った。それから、これ以上は余計なことを言うなよ、とでも言いたげに鋭く睨みつけられ、刃を向けられる。サチはそれであらゆる疑問をどうにか飲み込み黙ると、結は明るく笑った。

 

「じゃあ、魔女を殺しに行こうか」

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