魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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爆煙

サチは何がなんだか分からず、混乱していた。魔女の異様な魔力と変化、そして動けなくなっていたはずの夏音が、まるで別人のようになって現れたこと。それらすべてが一変に起きて、まったく訳がわからない。

 

サチはばっと横を向いて、結に問い詰めた。

 

「ゆ、結!!お前ちゃんと動きを止めてたんだよね!?」

「そりゃあ、もちろんだよ。本当普通何も出来ないはずなんだけど…、って、そういうことかぁ。迂闊だったね、僕も…」

「何が起きたのか分かったの!?なら、ちゃんと教えろ!!」

 

額に手をやって沈んでいる結に、サチはいらいらして怒鳴った。こっちは何もかもが状況が把握できてないのに、自分だけ納得しないで欲しい。一人だけ取り残されるのは嫌だし、本当に勘弁して欲しい。

 

と、ここで夏音が呆れたように溜息を吐いた。

心底から吐き捨てるように。これ以上ないほど重く低く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……うっせーなぁ……。猿か何かかよ。ピーチクパーチク、無駄に喚きやがって……」

「……え」

「今は魔力に馴染まず、まだ動けない魔女ですが、騒げば刺激してしまいます。少しは静かにしてください」

「な、何んだよ、いきなり現れて!!偉そうに!!」

「……。だから、黙れっつてんのよ。それ以上騒ぐとソウルジェムを砕くぞ。クソガキが」

「!?はあ!?何言ってんの!?」

 

ソウルジェムがなくなるということは、魔力の源も消滅するということ。ソウルジェムがないとサチは魔法少女ではなくなってしまう。こんなところでただの一般人に戻るなど、ここでくたばれと言っているようなものだ。

 

結も夏音の発言に息を飲んだ。とても驚いているようで、サチよりも困惑しているらしく、動揺していた。結はサチに遠回しに死ねと言った夏音を恐れているのか、震駭して青ざめていた。やがて結は自分の恐怖を押さえつけるかのように、グッと鉈を握りしめから夏音に話しかけた。

 

「君、固有魔法で鉈をどうにかしたんだろうけど、ここまで到達するのには早すぎないかな?それにソウルジェムを砕くって言ったり、魔女がああなった原因について何か知っているみたいだし。…君は一体何者?」

 

結はサチに夏音のことを説明してやれなかったことが申し訳なかったのか、夏音がどうやってここまで来たのかわかるように、“固有魔法で鉈をどうにかした”というところを強調する。さらにはサチ自身も聞きたいことを質問してくれて、素直に認めたくはなかったが、正直ありがたかった。

 

感謝しつつも少し結を見直し、サチは夏音へと疑念を込めた視線を向けた。夏音はしかし、それを意に介さずおかしそうに言った。

 

「それを答えて何の意味が?ていうか結さん的にはそんなの関係ないじゃない。私が誰であろうとどーせ……」

「良いから、質問に答えて。話が先に進まない」

「……じゃあ、ぶっちゃけるけど。私自身、私が何者かもう分かんないよ?でも“私”を表す言葉は沢山ある。プリマドンナに及ばない、脇役にもなれないゴミの寄せ集め。本来はいちゃいけない存在。……塵芥なんですよ、私ってのは」

「…お前本当に菊名夏音なの?とてもそうには見えないんだけど」

 

菊名夏音とは、ここまで虚無的で無気力で自虐的な少女だっただろうか。少なくともサチが見てきた菊名夏音は、感情がはっきりとわかりやすかった。決して今のように、何を考えているのかわからない、得体の知れない変な不気味さなんてなかった。彼女の素性もよくわからないし、怪しいけれど、それを抜きにして見れば夏音はただの普通の少女だった。

 

黒い魔法少女は結を一瞥してからサチを見た。目と目が合う。瞬間、瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。まるでブラックホールのようだった。すべての色を混ぜれば黒という色になる。それと同じように、とても表現できないような様々な感情が混ざりあい、闇となって眼球の中で渦を巻いている。

 

――まるで“人を何人も殺めているような”……そんな危険で狂気的な瞳だと、サチは思った。

 

「だったら、菊名夏音って何なの?教えなさいよ、今すぐ。私はなんなの?最早答えがわからない。私は“私”だけど菊名夏音を表すのは何よ?私は誰なのよ。どうしてまだこの狂った次元の中を踊って歌い続けているの?そして未だにそれを望んでいるの?歌なんてもう誰にも届かないというのに」

 

彼女の二つのガラス玉の中で、ぐるりと闇が蠢いた。夏音は目を細め、口の端をほんの少し上げて、楽しげな笑顔を浮かべる。いや、楽しげな、というのはほんの第一印象で、よくよく見ればそれは嘲笑に近い笑みだった。しかし馬鹿にされてるにも関わらず、サチは何だか怒りよりも恐怖を感じて、口を噤んだ。

 

「え、えと…」

「ほら、やっぱり聞くだけ損だった。――ああ、家主さん。大丈夫ですよ。私を貴女の望み通りにして構いませんので。今の私はあくまで“私”ですから」

 

菊名夏音はサチの怖気付いた姿を鼻で笑い、目だけで結を向いた。結は数秒の間、限界まで目を見開いて、次には探ぐるように夏音をじっと見たが、その中には何か期待しているかのような感情も含まれているように見えた。

 

「…夏音ちゃん。魔女の状態がどうなっているのかわかるのなら、この異常な魔力は何なのか教えてくれない?」

「嫌でもこの先この魔力が何なのかわかりますし、時間が惜しいので教えません。もちろんしーちゃんにも」

「ふーん、じゃあこの結界から出たら色々と教えてもらうから…ってしーちゃん!?私のあだ名何で勝手につけてんの!?つか何でしーちゃんなんだよ!?」

「貴女の名前は船花でしょ?それから関連づけるものは海。船と海からあだ名をつけました」

 

一瞬、本気で訳がわからなかったが、船と海という言葉からすぐに納得した。船と海、英語に直すとそれぞれsipとseaだ。だから二つをかけてしーちゃん、なのだろう。

 

サチは夏音の意外な一面を知り、呆れた気持ちになった。一体どうしたらそんな発想になるのだろうか。絶対夏音のネーミングセンスは悪い。一周回って逆にしーちゃんというまともなあだ名になっていない気もしない。

 

「よく聞いてください。この魔女は見ての通り魔力に侵されています。その効力は何かの能力を下げる代償に、他の能力を上げること。この魔女は状況判断能力が下がることが代償となりました。だから動き出したら間違いなく暴走します」

「…その話が本当だとしたらさらに前以上に厄介だけど、上がった能力は何なの?」

「再生能力です。このお菓子の魔女は脱皮をし、攻撃を受けてもすぐに再生してしまうんだよ」

 

サチは攻撃した直後、魔女に食われそうになった時のことを思い出した。殺せるはずだった魔女が何故あんなにも無傷で、しかも結の魔法があったにも関わらず動くことができたのか、いまいちよくわからなかったが合点がいった。

 

あの時魔女は確かに動けなかった。しかし恐らく内部までに魔力は届いていなかったのだろう。表層的な部分だけ結の魔力は働くから、内部までに浸透することない。つまり、結の魔法は魔女の皮に働いていたのだ。攻撃を受けた際に、ダメージを受けていたのは皮だった。だから魔女は無事で済み、おまけに皮が消失したことで、自由に動けるようになったのだ。

 

「だ、だったら一体どうやって倒せばいいの!?そんなの無理じゃん!!」

「なら連続で再生が追いつかないまで攻撃をし続ければ良いんです。ですが私達の攻撃をずっと続けても火力が足りません。だから私の時間移動、そしてしーちゃんの銃を使います。家主さんは私達のサポートをお願いします」

「…わかったよ、夏音ちゃん」

 

サチも渋々ながらうなづくしかなかった。一番情報を持っているだろう夏音しか、この魔女を倒すすべは知らないだろう。癪だが夏音に従うしかない。自分の感情一つで死ぬわけにはいかない。サチには入理乃を止めるという大事な仕事があるのだから。

 

異常な魔力は、未だにその力を増して穢れのように禍々しく感じられる。魔女の周りを取り囲んでいるのが、魔力反応からも実際に肉眼でで見た限りでもわかる。魔力があまりに濃ゆいのか、白い霧のように漂っているのだ。

 

霧はぐるぐる、モヤモヤ魔女を侵していく。魔女の魔力パターンと異常な魔力のパターンが掛け合わさって、全く別のパターンとして届く。

 

サチは戦慄しながら、同時に変な汗が出てくるのを誤魔化すために眉間辺りに力を入れる。膨らみ続ける魔力に対して自身を鼓舞するよう、武器を強く握りしめると、夏音の指示により計二十の錨を召喚。横に整列させる。

 

夏音もハルバードに魔力を通し、魔女の頭上で赤いオーラが無数の戦輪のような形に具現化する。戦輪はよくよく観察すれば、イバラを結んだかのような形状をしていて、数百の棘がついている。サチがそれに一瞬ビビっている間にも、霧と化した魔力はどんどん膨張を続けーーそして一気に弾け、魔女が動き出したと共に、夏音はオーラを叩きつけた。

 

「ニンギョヒメノナミダ」

 

夏音の名付けた技名の通りに、血の涙のように魔女へチャクラムが回転しながら降り注ぐ。ミキサーに何か嫌なものでも入れたかのような音が響く。どうやら回っていることで、棘が魔女の体をえぐっているらしい。

 

しかし夏音の言う通り、魔女は尋常じゃないスピードで脱皮を繰り返し、攻撃を掻い潜っていく。輪の雨は古い皮を細切れにしていったものの、魔女に致命傷を与えることはできていない。

 

上空のオーラがやがて尽き、動きを制限するものがなくなる。魔女は脇目もふらず、焦点の合わない目で無茶苦茶な体制のまま飛び込んできた。サチはそれに合わせて錨を変形させて銃とし、魔女へ向ける。

 

「撃ってください!!」

 

一つの銃口から弾が飛び出した。魔女に当たると燃え上がり、脱皮した隙にもう一射。炎上する。他の銃も引き金を引き、銃声を上げた。脱いだ皮が鉢の巣になっていき、魔女は後方へ押されていく。

 

「もうそろそろ全部三発打ち終わる!!このままだと爆発するんだけど!?」

「心配する暇があったら、しーちゃんは銃をもっと召喚して、私の合図で打ってください。さあ、銃を未来へ送ります。ジゲンノトビラ・ヘイモン」

 

夏音がそう言った瞬間、打ち終わった銃の下へと魔法陣が敷かれ、瞬く間にその姿が消える。サチは驚いて一瞬だけ狼狽えたが、夏音にこずかれてハッとなり、手に魔力を宿らせると突き出した。

 

地面がせり上がり、空中にも青い魔力が駆け巡る。それらはあっという間に五十ほどの様々な形の銃へと変化する。

 

夏音がハルバードに魔力を練り上げている傍で、サチは集中して自分を中心に魔力が広がっていくイメージを思い描く。すると真ん中から順に、弾に魔力が送られて銃身が輝き始めた。

 

しかし、魔女は銃全体に魔力が伝達する前に突っ込んでくる。その有様は最早狂態と言って良いだろう。のたうつように不自然に酔っ払ったかのようなめちゃくちゃな動きでこちらへ接近してきている。完全な暴走状態だ。

 

サチは思わず唇の下を噛み、銃口を一斉に向ける。しかし、夏音に腕を掴まれて、発射を思い留まる。刹那、視界の端にいた結が動く。銃の壁の隙間を通って抜け出した瞬間、姿がぶれた。

 

驚いた時には、すでに結は魔女の頭よりも高い位置にまで、飛び上がっていた。そのまま魔力を乗せた渾身の蹴りを、上から下へとお見舞い。魔女の顔が地面に叩きつけられ、攻撃が逸れる。

 

その間にサチの魔力が全部の銃へと届き終わり、ついにそれぞれ銃口の前に光が集い出した。結は魔女を踏み台にし素早くサチ達の元へとバック。ほぼ同じタイミングで、すべての銃が弾を放った。

 

発泡音が重なり、轟音となる。魔女は突如爆炎をあげ、飛来した弾によって穿たれ文字通り火だるまとなった。しかし再生能力は銃の猛攻に十分追いついている。脱皮せずとも不気味に隆起して回復していく。

 

サチには大量の銃のコントロールが難しかったのか、軌道が交差して、いくつか弾と弾がv跳ね返えり、地面にぶつかり埋まっていく。他にも魔女に当たらなかった弾はお菓子のオブジェに当たって火をつけ、テーブルの支柱に当たって倒壊させていく。土煙が上がって、魔女が覆い隠された。

 

「そろそろ弾が尽きる!!夏音!!」

「言われなくてもやりますよ」

 

夏音がハルバード内に貯めていた魔力を解放する。呼応するように直径が十メートルもの魔法陣が現れ、すべての銃の下にまで広がる。銃は一つ一つ弾を失っていき、群れ全体の魔力が急速に青白く胎動する。最後の一射が放たれ、五十丁の銃は魔法陣と共に消えた。

 

「二人とも下がって!!」

 

夏音に叫ばれ、反射的に足が動く。三人が後ろに下がったのに合わせて、魔女が煙を突き破ってくる。そして、大量の銃があった場所へと(・・・・・・・・・・・・)やってきた。地面へ走る夏音の魔力は、魔女を囲うように線を描き、複雑な文様を造り上げ、円となっていく。

 

「さあ、貴女の劇を終わらせましょう。ジゲンノトビラ・カイモン」

 

赤く、紅く、赫く、魔法陣が輝く。バタン、とどこかでドアが開く音が聞こえた。空中から一つ銃が現れ、爆発する。魔女が脱皮して攻撃を凌いだところでもう一度爆発。それを皮切りに銃が元いた場所に次々と出現。銃身が耐えきれなくなり弾け飛んで、魔力同士が連鎖するようにさらなる爆煙を生み出す。

 

その威力は、五十発の砲撃の比ではない。爆発一つ一つが、サチの魔力を乗せた錨の一撃の半分に匹敵する。魔女一匹殺すのには十分だ。しかも銃が現れるタイミング若干ずれているのか、連続で炎が吹き上がっている。

 

これには魔女の回復能力も付いていっていない。爆煙は次々と生まれて、なす術なく魔女を燃やしていく。火の粉は辺りに飛び散って着火していき、結界内が火の海と化していき、むせ返るような煙と臭いに思わず手で口を覆う。

 

銃が二十丁現れ、全く同じ瞬間に爆発。魔女の肉体が木っ端微塵になり、肉塊が弾け飛んだ。すざましい音が鼓膜を破りそうになり、耳の奥が痛くなってサチと結は耳を塞いだ。

 

結界が消失し、どろりと溶解して元の場所に戻る。コロン、と音を立ててグリーフシードがコンクリートに落ちた。




ニンギョヒメノナミダ
チャクラムをオーラで形成し、相手にぶつける技。何百もの棘を備えており、威力不足を補っている。基本的には相手の頭上にチャクラムを形成するが、そのまま飛ばすことも多い。技の命名は夏音。


ジゲンノトビラ
誰かが名付けた夏音の“時間移動の魔法”の名前。ヘイモンで対象を飲み込み、カイモンで対象を出現させる。過去へ飛ぶ際は燃費が悪く、未来へ飛ばす際は比較的燃費が良いが、送る物質の量や種類、大きさや重さ、距離に魔力の消費量が比例する。送った物質はまったく同じ場所に出現。魔力が魔法陣に反発すればその物質は送れず、まず魔女などを未来へ送ることは実質難しい。未来に限り、魔法陣に物質を飲み込んだ際に指定した時間はいつでも変更できる。
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