魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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感想欲しい……。


ディテクション・マナ

 結界へと通ずる門たる紋章が消えると、そこから吐き出されるように夏音とキュゥべえは摂末社へと戻ってきた。

その姿を認めた途端、結界の入り口近くでずっと待っていてくれた結は、安心したような、それでいて嬉しそうな笑顔をこぼした。恐らく、夏音が使い魔を倒せたことを、純粋に喜んでくれているのだろう。

 しかし使い魔を憐れんでしまい、達成感も何もなく、むしろ罪悪感がある夏音にとって、その笑顔は目を逸らしたくなるものだった。共に喜ぶ事が出来ないのが、彼女に悪いような気がしたのだ。ぐさりと、杭を打ち込まれたような痛みが、錯覚として精神に走った。

 

「……」

 

 その様子に、流石の結も何かに気がついたように、一瞬だけ気まずそうにした。そうして次にそのことを悟られぬよう(夏音はそれを何となく感じ取れたが)、明るい笑顔を彼女は浮かべた。

 

「上手くいって良かったよ。次はもっと上手くいくよ」

「……あ、ありがとう、ございます」

 

 お礼を返す夏音。その時でさえ、痛みが大きくなったような気分になった。

 

「それじゃあ、残存魔力を調べようか」

 

 夏音の肩で、キュゥべえがそう言う。その口調は、まるでこの気まずげな雰囲気を、無理やり壊そうという意図が感じられた。夏音はキュゥべえを肩に乗せているため、当然彼が真正面を向いていたら、その表情は伺うことはできない。しかし見えずとも分かるほど、さっさとしてくれと言わんばかりに、じっと結を見つめているのだけは感じられた。

 逆に結もキュゥべえにちらりと視線を向けて、何かを思うところがあったのか、不思議がる様子でキュゥべえを観察していた。しかしそれを気のせいだと処理したためか、すぐにキュゥべえの言葉に頷き返した。

 

「そうだね。こんなこと、さっさと出て行った方が良いし」

 

 結にとってここは、あまり良くない思い出の場所に違いない。それに、他にも信者や親族の人がいるかもしれないし、もう今日に限って二度も彼らに遭遇はしたくないだろう。その言葉には、嫌に感情が込められていた。

 

 夏音はポケットから、ここに来る途中に結から渡されたものを取り出す。

 それは、グリーフシードを加工したものだった。中心部を球状に綺麗に抉り、その中に動物のものと思わしき白い毛を閉じ込めた、透明な宝石を嵌め込まれている。両端の棘の先にも小さな同じものがあって、それがどういう意味で付けられたのかさっぱり分からなかった。

 結の説明によると、これは残存魔力を調べる、魔力調査機のようなものなのだという。元々は入理乃が考案したものであり、作成者も入理乃だ。そのためか名前もディテクション・マナと何のひねりもない。

 仕組みはよく分からないが、魔力を流すことで起動させると、その場にある残存魔力を宝石が感知し、どのような状態なのか色によって可視化してくれるらしい。例えば宝石は残存魔力が安定しているのなら、済んだ群青に。不安定ならば淀んだ赤になる。その他にも、色相によって様々な状態を教えてくれる。その彩度は、魔力が強ければ強いほど高くなり、弱ければ弱いほど、下がっていく。明度は、よりそこに魔力が集っていくに従って変動するらしい。

 魔法少女は魔力を感じ取れるが、しかし正確さは個々人によって違う。しかも残存魔力の波は普通の魔力の波長に比べて感じとりにくく、不安定さや乱れなどが複雑になることも多い。故に、どういう風におかしくなっているか、残存魔力の魔力反応からでは識別しにくい。

 しかしディテクション・マナは宝石の状態一つで、そんな残存魔力がどのようになっているのか、一発で分かる優れものだ。それはキュゥべえも太鼓判を押す程高性能で、恐らく残存魔力を感じ取るという点においては、魔法少女の感知能力を軽く超えているだろう。

 と言っても、そう簡単に操作できるものではない。結果が出るまで常に魔力を送り続け、さらにはその魔力をずっとコントロールしなければディテクション・マナの宝石は何の変化も示さないのだ。ベテランの結でさえ、なかなか扱うのは至難の代物だ。

 

「夏音ちゃん、よろしく」

「はい」

 

 しかし、それは結一人だったらの話だ。ここには結以外に、夏音がいる。夏音が魔力を送り、結が魔力を操るという役割分断をすれば、そう手間をかけずに使うことができるだろう。

 

 夏音は、透明の宝石がはめ込まれた魔女の種へと意識を集中する。そうして魔力を送ると、宝石以外の黒い部分だけが眩く光り輝く。瞬間結がディテクション・マナに手をかざし、魔力の流れを回転させ、体動させていく。

 光が中心部の鉱石へと集う。その透明な無の色をじわりじわりと別の色相へと飲み込みながら。やがて、宝石の色がすべて変色した時、光は収まっていた。

 

「これ……」

 

 その宝石の色を見る。薄っすらとした紫色の中に、雫を一滴垂らして閉じ込めたように、これまた淡い金色と銀色が混じっている。目を引かれ、思わず溜息が出るほどに美しい色合い。絡み合い、重なり合うその様は、まさに双龍を連想させる。

 

「……こんなの、見たことない」

 

 絶句したように、結が言う。それに夏音は驚き、思わず疑問を口にした。

 

「どういうことですか?」

「この宝石に金色や銀色が浮かび上がるなんて初めてで……。紫色ってことは、少し不安定になってるんだろうなってことなんだろうけど……」

 

 そこから先は続かなかったが、夏音には彼女が何を言いたいのか分かった。つまりは、この金色や銀色が何を指しているのか、理解ができないということだ。それを目にするのが今日で最初のため、その知識を結は持ち得ないのだ。

 

 結は訝しがるように摂末社を見た。残存魔力というものを利用してきた彼女にとって、その異常は夏音よりもずっと大きなものとして感じられたに違いない。それに何か不気味なものを予感してしまったのか、その目は不安げに揺れていた。

 夏音も彼女に比べて度合いは少ないが、怪訝に思わずにいられなかった。昨日の、お菓子の魔女から発せられた異常な魔力の影響が出ているのだろうか、と夏音は口元を手で覆いながら考えた。

 

「キュゥべえ。どう思う?」

 

 同じように考えるような仕草をしていた結は、答えがさっぱりでなかったのか、キュゥべえに尋ねた。

 彼はディテクション・マナを覗き込み、興味深そうにしばらくじろじろと見つめた後、納得したように頷いた。

 

「……やっぱり、何かの魔力が残存魔力に混じっていると考えていいんじゃないかな」

「確かに、そう見るのが正しいのかもしれませんね。でも、これ……絶対、お菓子の魔女のあの魔力に関係ありますよね?この魔力のせいでああなっちゃったのかな?」

 

 夏音はそう言いながら、首を傾げる。そして瞬間、はっとなって固まった。

 自分が今、何を言ったのか。それを自覚したのと同じタイミングで、空気が重くなるのを感じた。結とキュゥべえも、夏音同様、その発言の意味を理解したのだ。

 夏音は改めて、その宝石を見る。金と銀の二つの色を観察しているだで、冷や汗が出てくる。ぞくり、と何か背中を這い上ってくるような悪寒がする。

 

「……まさか、そんなことって……」

 

 結が少し笑って否定する。しかし、夏音はそれに対して簡単に同意出来なかった。だって自分で言ったことが、半ば本当のことのように感じられたから。

 

「……一番の問題はこの残存魔力にどうして他の魔力が混じっていたかだよ。これを突き止めなきゃね……」

 

 それは最もな言い分だった。

 原因を突き止めなければ、新たな問題が発生するのは目に見えている。

 

「でも、その魔力がお菓子の魔女を狂わせた物だと仮定したとして、……考えたくないけど、これが人為的なものだったら最悪だよ」

 

 お菓子の魔女を狂わせた犯人が、悪意ある魔法少女だった場合、相当厄介なことは言うまでもない。何せ意思を持って、好きな時や厄介なタイミングで魔女を狂わせられる。自然発生的な原因の場合、それは突発的に起こるかもしれないが、そこには意思や策略といったものは存在しない。まだましな時に起こる確率だってあるのだ。

 

「しかし、それを起こすメリットはあまりないんじゃないのかい?限りなく原因は自然発生的なものだと思うよ」

「というと……?」

 

 キュゥべえから指摘され、結は素直に聞く。夏音は、ああと納得したように声を上げた。

 

「そうでしょうね。仮に人為的なものだったとして、魔女を狂わせるとすると、その先の目的は多分縄張りの乗っ取りだと思います。何せこの、“私が来て均衡状態が崩れた”タイミングに起こりましたからね。そこから推測するに、犯人は魔女を狂暴にして混乱を起こし、縄張りを掠めとろうという意図があったと考えられます」

「なるほどね。だけど、そこまでしても報酬はあまりないよね。……そんなことしても手間と時間の無駄ってわけか」

 

 こんな土地をまるごと手に入れたところで、得はあまりしないだろう。魔女を育て、融通し、使い魔を放置しなければ、三人もの魔法少女を賄えないほどに、この早島の土地はグリーフシードが少ない。それよりも、隣のグリーフシード見滝原を狙った方が良いに決まっているのだ。

 

「キュゥべえ、そういえば、魔女がおかしくなったことはサチちゃんは当然として、入理乃ちゃんは知ってるの?」

 

 ふと思い出したかのように、結が問う。

 それは夏音もずっと疑問に思っていていて、後で聞こうと思っていたことだったので、キュゥべえにどうなんだと視線を向ける。するとキュゥべえは、困ったような口調で言った。

 

「もちろん伝えたから彼女も知っているよ。だけどサチとは今揉めているみたいだね。そのことなんてどうでもいいって感じで無視されたよ」

 

 やっぱり、二人の間に何かあったのは間違いないらしい。よく考えれば今の状況は、下手したら対立どころではない非常事態なのだが、入理乃にとってはそれは二の次のようだ。

 しかし“揉めている内容”が何かは分からないが、そのことの方を重要視しているのは、些かどうかと夏音は思わずにはいられなかった。そんなことあって良いのか、と入理乃に対して不満のようなものが湧いて、何だか納得がいかない。

 

「そう……。何だか向こうも向こうでややこしいことになってるんだね」

 

 僅かに結が顔をしかめる。少し面倒くさい、という風な感じだった。

 

「サチちゃんはどうしているの?」

「入理乃にどうやって和解をしようか、色々と考えているみたいだよ」

「……」

 

 若干思案するように、結は手を顎に持ってくる。それから、迷うようにしばらく間を置くと、質問した。

 

「……ねえ、僕の従姉妹に順那って子がいるんだけど、彼女について何か知らない?あの子どうやらサチちゃんと会ったみたいなんだけど」

 

 すると、キュゥべえはすぐに、知らないと答えた。

 

「そんなこと、僕は初耳だよ。それにどうして君の従姉妹とはいえ、サチとは無関係な順那が会う理由も分からない」

「そっか」

 

 ちょっと残念そうに、結は笑う。夏音は何だか胸が苦しくなって、眉を下げた。

 

「結さん……」

「気にしなくていいよ。キュゥべえが知らないって分かっただけでも良かったから」

 

 明るくそう振る舞うので、夏音はそれ以上何も言えなくなった。本当は色々何か励ましたかったのだが、それは不要で無粋なもので、逆に相手にとって不愉快になるだろう。

 それを感じ取ったのか、感謝の意を返す意味で彼女は笑顔を向ける。そして、ふっと次には真剣な表情になった。

 

「……夏音ちゃん。一応さ、他にも龍神信仰関連の土地を回って、この魔力が残存魔力に混じっているか、確認したいんだ。特訓の時間はどうにか作るから。良いかな?」

 

 その口ぶりから、心当たりを巡り、出所が何処かを結は調べたいらしい事が夏音にも伝わってくる。それはむしろ夏音も思っていた頃だったので、力強く返答する。

 

「はい。私も、こうなったらとことん調査したいと思ってところなんです。だから、ぜひ協力させてください」

「ありがとう。ごめん、夏音ちゃん!!」

 

 大げさなくらい、ぱんっと両手の平を合わせて謝る。夏音はそれを、いえいえとやんわりと止めるように促した。

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