魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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※プロットの書き換えにより、大きく今後の展開が変わったので、後半部分を削除いたしました。勝手なことをして、すみませんでした。


結 4

 それからの日々のことは、過ぎ去るのがあまりに速すぎて、毎日を記憶に留めておくのに必死だった。だってそうしないと別れた後に、思い出が気泡みたいに消えてなくなりそうだった。

 他の従姉妹二人も、結と同じように思っているに違いない。何かと理由をつけては用事を断り、三人で過ごすように努めているようだった。

 

 彼女達の日常は、表面上はいつも通りに見えた。

 それぞれの家に定期的に集まって、アニメを見たり、三人で対戦ゲームしたり。そこでミズハが圧勝して、負けた順那をからかい、順那が拗ねて結がミズハを叱った。

 そんな普段の習慣とお決まりの流れが、毎日毎日繰り返された。

 そうしていると、ずっとずっとこれからも、三人で一緒にいられる気がしてきて、時々別れが訪れることを忘れてしまいそうになる。

 

 そして、その度に後悔する。どうして、もっと上手くやれなかったのか。

 

 本当はもっと上手くやろうと思っていた。

 ユミハを結婚させて、ミズハを守る。その二つを最良の結果で達成したかった。

 だがミズハの方は上手くいかなかった。どうすれば差別をされずに済むのか考えた結論は、ミズハを苦しめるだけだった。

 いや、ミズハだけじゃない。順那も苦しめている。仲の良い二人を、結は引き剥がしてしまった。そんなことしたら、どんな風に思うのか、ちょっと考えれば分かるのに。

 

 結は守りことばかり必死になって考えていた。だからそのことばかりに目がいって、視野が狭くなっていた。結果、簡単なことさえ気がつくことができなかった。その余裕がなかった、とも言えるからもしれない。

 

 よく考えてみたら、広実結は何と無責任だったのだろうか。

 衝動的にユミハを選んで、出来もしないくせに守るなんて言ってしまって。ミズハの心を度外視しして見滝原へ行かせ、順那までも傷つけた。

 そもそもの話、見通しも甘すぎたと言わざる得ないだろう。それは奢りと傲慢の考えだった。

 

 全部全部全部──結の責任。結のエゴ。結のせい。

 

 何もかも、結が悪いのだ。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 その賑やかな声が、まだ耳に残っていた。結はそのせいか、つい昨日のことをぼんやりと思い出す。

 昨日は、約束だったパーティーを前倒しでお祝いした。その日が、三人で一日中いられる、最後の日だったのだ。

 本来ならば親達も参加させる予定だったが、しかしいきなりだったので、三人だけで行った。

 だからそれは、いつもの誕生日パーティーと言えるほど豪華ではなかった。バースデーケーキを買ってきて、ただゲームをするだけだった。毎年三人揃っているパーティーでは、ちゃんとしたお店に行って、それなりに豪華な食事をしていた(もちろん、その分お小遣いは引かれるし、それぞれの親に頼みこまないと無理だが)。今年の誕生日パーティーは驚くほどぱっとしない。

 でも異様なほど楽しかったのは言うまでもない。柄にもなくはしゃいで馬鹿騒ぎしたのは久しぶりだったけれど、昨日は最高の一日だった。

 

(……今日は、まったく逆だな。そしてそうしたのは……)

 

 結はぼんやりと自室で、天井を見上げる。そして俯くと、はあとため息をついた。

 さっきから楽しいことを考えようとしているのに、憂鬱な気持ちがまったくいって晴れなかったのだ。もう少ししたらミズハが見滝原に行くので、その見送りまでに笑顔にならなきゃいけないのに、どうしようもなく暗い気持ちになる。

 

「もうさあ……。ネガティブ思考、やめた方が良いんじゃないかなぁ?」

 

 順那はあまり優れない表情の結に、そう声をかけた。見送る前に、順那は結を心配してやってきてくれたのだ。

 

「……僕ね、今までミズハのお姉ちゃんを上手くやれてるつもりでいたんだ。けどさ、失格だよ。……あの子の姉でいる資格なんて、僕にはなかったのかも。もちろん、順那のお姉ちゃんでいる資格なんて……」

 

 ミズハには言えない心の声を、順那に話す。ここにはミズハはいない。ただ結と順那だけがこの場にいる。

 

「そんなことはない。お姉ちゃんは、あたし達のお姉ちゃんだよ」

 

 ミズハはさも当然のように言う。彼女はこういうことを、躊躇なくさらりと言ってのけてしまうのだ。

 それが前なら嬉しくもあったが、しかし今は違った。

 

「どうして君は、僕をお姉ちゃんなんて呼べるの?」

「だって、あたし達を誰よりも、愛してくれてる。貴女は優しくて最高のお姉ちゃん。それはミズハだって同じことを思ってるはずだよ」

 

 ならばミズハは、そんな風に思っている人から裏切られたということになる。そんなの、結だったら到底耐えきれない。いつまでもいつまでも引きずるだろう。しかしそれを、結はミズハにしてしまったのだ。

 ……自分がますます最低に思えてる。罪の重さが、また増えた気がした。

 

「……僕は、なんてことを……」

「……そうやってまた抱えこんじゃって。……可哀想に」

 

 順那は憐れむような、あるいは呆れるような感じの口調で言った。結はそんなことを言われると思っていなかったので、驚いて目を見開いた。

 

(聞き間違い……だよね?)

 

 いや、聞き間違いであって欲しい。そんなことを、順那に言われたくない。“可愛そう”なんて、広実結がかけられるべき言葉じゃない。

 

「……そろそろ時間だね。じゃあ行こっか」

「そ、そうだね」

 

 さっきのは気のせいだということにしておいて、結は順那と共に自室を出ると、家を出た。

 しばらく歩くと、ミズハの家が見えてくる。その駐車場には赤い軽の車が止まっていて、中に伊尾一家が乗っていた。

 ちなみに見送りに結や順那の親達は来ていない。もう既に、挨拶は済ましてあるようだ。

 

「叔父さん、叔母さん」

 

 近づくと、ほぼ同じタイミングで車の窓が開いた。

 

「順那、結様。わざわざありがとうございます」

 

 ミズハの父が礼をする。いえいえと言って、結も頭を下げる。

 

「……すいません。僕が不甲斐ないばかりに……」

「いえ。……僕らが悪いのです。僕ら、伊尾家が」

 

 古臭い価値観に基づいた発言に、結は叔父に少しだけ呆れ返った。この人は、昔からこういうところは変わらない。

 そして同時に、すまなく思う。結は、伊尾家に迷惑をかけたのだから。

 

「元気でね。あたし、見滝原で始めるっていう書道教室も応援しているから」

「ええ。精一杯頑張るわ」

 

 伊尾家はやらない代もあるが、ずっと書道教室を開いていた。ミズハが生まれてからは諸事情により止めてしまったが、これを機会にまた始めることを決意したという。

 新天地で何かやらねば、虚無感に襲われるからだろう。早島から離れることが、よっぽどショックなのだ。

 

「結……、順那……」

 

 ミズハが潤んだ目で、従姉妹達を見た。

 もう、別れの時だ。一応、電話番号やラインなどのコミニケーションツールを使えば、会話もできるし顔も合わせられる。しかしそれらを媒介としなければ、こうやって面と向かって話す機会は少なくなる。

 やはり機械越しと直接会うのとは、まったく違う。それが彼女にとって一番辛いかもしれない。

 

「……これも、姉さんのせいよ」

 

 ミズハはボソリと呟く。そして、嘲るように鼻で笑った。

 

「……」

 

 今、自分の顔に浮かんでいる表情が分からなかった。

 結は唐突に、どうしようもなく声を荒げたくなった。そして、ミズハの顔を引っ張たいて、笑ったことを否定したくなる。

 怒りの感情とユミハを馬鹿にされたくないという思いが、結の中で湧いてきたのだ。

 

(ユミハは立派なんだ。……自分で自由を掴みとった)

 

 ユミハは一族とずっと一人で戦ってきた。そこには当然孤独感もあったし、悩みもあっただろう。だがそれを、ついには乗り越えることに成功した。

 そんな彼女を、結は誇らしく思う。だから、ユミハを罵るのは許せなかった。

 しかし、結はミズハには何も言えない。言うことなんてできない。

 そんなことを……、どの口が言うのだろう。

 

「……見滝原に行っても、二人のこと忘れないよ。ちゃんと、あたし頑張る。二人がいなくても、上手くやれるよう努力する。結に勉強教えてもらってたけど、自分の力でやれるようする。順那をからかって遊んでたけど、それももうやめる。……あたしのこと、何も心配しなくて良いから」

 

 そこまで言うと、ミズハの涙腺が決壊して、瞳から涙を溢れさせた。

 順那はミズハに悲しげな顔を浮かべると、しきりに頷いた。

 

「……あたしも、忘れない。お姉ちゃんもそうでしょう?」

「う、うん……」

 

 答えたものの、胸はとてももやもやしていた。先ほどの怒りが、まだ残っている。

 純粋に悲しめなくて、酷く嫌な気分だ。何故このような時にこんなことを思うのか。薄情に思えて仕方がない。

 

「……というか、忘れることなんてできやしないよ。何年いたと思ってるの?」

 

 順那は少しだけ結の顔を見て、その気持ちを察したのかだろう。場を和ませるために、ウインクまで決めて、ちょっとおどけてみせる。

 ミズハはくすりと笑った。その笑みはとても彼女らしいものだ。

 

(ありがとう、順那)

 

 ちょっと空気が変わったせいか、気持ちが随分楽になる。そのおかげか、まだ完全に消え去ってはいないけれど、怒りが収まった気がした。

 

「……これだけは、ちゃんと伝えるね」

 

 顔はすでにぐしゃぐしゃだったが、ミズハはそれを元に戻すように手で涙をごしごしと拭う。

 そして、普段ではしないような、珍しい真剣な眼差しで従姉妹達に言った。

 

「あたし……、二人のこと大好き!これだけは絶対、何があっても変わらないから!だから、二人ともあたしのこと思ってて」

「……!!」

 

 思わず、はっとなる。ミズハの思いが、強く感じられたのだ。

 気がつけば、視界がぼやけていた。そして、暖かい水滴が頬を伝う。

 ……結は、今更のように自分が泣いていることに気がついた。

 

「当たり前だよ」

 

 小指と小指とを、三人で絡ませる。本来ならば二人同士でやるものだが、この際そんなのは構わない。仲良く、指切りの歌を歌う。そして指切った、のところで、それぞれ器用に指を離した。

 

「バイバイ」

 

 ミズハが手を振って、窓を閉める。

 叔父達は一礼すると、赤い車を発進させた。すぐにそれは道路の車の流れに乗り、あっという間に見えなくなっていった。

 

「行っちゃったね……」

「そうだね」

 

 もう、これでミズハとはさよならだ。三人でいられた日々は、終わった。この手で、終わらせてしまった。

 

「……っ、うっ……」

 

 また、涙腺が熱を帯びる。みるみるうちに、目元に涙がたまっていく。

 結はみっともないような気がして、ぐっと涙をこらえた。順那が泣いていないのに、自分が泣くわけにはいかない。

 でも。

 

「……お姉ちゃん。思い切り泣きなよ。我慢なんかせずに、泣いても良いんだよ」

 

 そんなことを言われたら、もう耐えられなかった。

 

「う、うあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 咆哮するように泣き声を上げる。通行人が見ていても、構わず泣き続ける。

 悲しくて悔しくて寂しくて、自分に怒りが込み上げて、この身に流れる一族の血を呪った。

 

 順那が、頭を撫でてくる。この時ばかりは、それを甘んじて受け入れた。

 まるで、立場が逆転したような気がする。お姉ちゃんなのに、自分が妹みたいで、それが心底おかしかった。

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