闇夜の中、家の屋根を伝いながら、キュゥべえは全速力で駆ける。
結も同じように、音もなく屋根から屋根へ軽く飛び移りながら追いかける。
その動きはかなり身軽で、サーカス団も真っ青だ。その気になれば、空中で体を三回転捻ることも造作ではない。
しかし今している格好は、そんな動きをしている自分とは、とても合っていないだろう。にも関わらず、この姿だからこそ、ここまで超人的な身体能力を獲得しているのだ。
(まるで魔法少女みたいだね)
いや、本当に魔法少女か、と今更のように思う。だがよりよって、どうしてこんな服なのか疑問だ。
結の魔法少女としての服装は、スリットの入った、いわゆるメイド服だ。
つまり、結の服は奉仕者の服装なのだ。それが結にとって何を意味するかなんて明白だ。
ああ、笑えてくる。愉快になってくる。
衝動が疼いて、結は夜空に向かって一気に飛躍した。そして一瞬だけ心地よい浮遊感を感じながら、暗い街並みへ落ちていく。
でも恐怖心はない。今の結は魔法少女だ。このくらい、なんてことはない。
すとりと先のビルの屋上へ降り立つと、そこに既に辿り着いていたキュゥべえを素早く片手で鷲掴みにした。
「捕まえたぁ」
鉈を呼び出し、空いている方の手で握ると、キュゥべえに突き刺す。ぶあっ、と血が白い体から出て、全身に浴びる。口元を舌で舐めれば、鉄の味がした。
それが愛おしくて、キュゥべえをめちゃくちゃに解体する。そうして遊び終えると、魔法をかけてそれ以上の腐敗を防ぐ。腐らないように保管して、また遊ぶためだ。
結は契約して以来、キュゥべえを壊して壊して遊びまくった。そしてその中で、死んだキュゥべえを魔法で腐らせるのを送らせれば、その死体でも遊べることに気がついたのだ。
ちなみに結の魔法は動物の細胞の操作だが、しかしそれはどうやらキュゥべえにも使えるらしい。他の拾った生物の死骸で研究した結果と比べると魔法の効果は効かず、数日で腐ってしまうが、それでも保管するには十分だ。
結はキュゥべえを抱えると、何の躊躇もなくビルから地上へ飛び降りる。路地裏を歩いて廃屋へ行くと、その前に置いてある、事前に家から持ってきた木箱を開ける。
その中には、幾重にも重なったキュゥべえの死骸が詰まっている。結は乱雑に、手に持っていた死体を箱へ押し込めて蓋を閉めた。
『……何度も言っているけれど、いい加減これ以上殺さないでくれるかな?僕の体も無限ではないんだよ』
そのタイミングで、頭に直接声が響いた。だが辺りを見渡しても、あの動物は何処にもいない。恐らく結から離れたところからテレパシーを送ってきているのだろう。
結はため息をついて、こっちもテレパシーを送り返す。
『どうして?別に死なないから良いじゃん。体の一つや二つ、僕に壊させてよ。……ああ、それとももったないっていうの?大丈夫だよ、ちゃんと再利用してるし、遊べなくなったら近所の神社に埋めてるからさ』
『そういうことを言っているわけじゃないんだけど……。それにしてもどうして僕ばかりを狙うんだい?他にも色々壊したいんじゃないのかい?』
最もな疑問だった。確かに自分ばかり標的にされたらたまったものではない。キュゥべえからしてみれば、何とも傍迷惑な話だろう。
結はそのことに思考を巡らしてみる。しかし馬鹿馬鹿しくなって、彼女は笑い声を立てた。
『ハハハ、ハハハハハハハハ。だってさぁ、しょうがないもん。色々壊したいのに壊したらいけないもん』
『そういうことか……。君はその衝動を持ちながらも、周囲のものを壊すべきではないと考えているのか』
『そうそう、アハハ、だからさぁ、壊せるキュゥべえを壊してんのぉ、アハハハハハハハハハ』
そうしなければ、衝動を抑えられない。もしも身を任せてしまえば、周りをミアのように無残に殺すのが目に見えている。
流石にそんなのは駄目だ。壊したくても腹が立っても、幸せそうで許せなくても、他の人の日常を壊したくない。殺すのなんて嫌だ。
それに多分他の人を壊したら、結もそのまま壊れてしまう。最後の理性が飛んだら、この心は衝動に食われるだろう。
自分は、元々おかしい。でもだからって、もっとおかしくなりたいわけじゃない。こんなの、当然嫌に決まっている。
狂っていくのは、とても恐ろしい。自分が消えていくのも恐ろしい。それに悦楽を感じている自分が一番恐ろしい。
壊れたくなくて、でも壊れたくて。矛盾した気持ち。本能と理性がぶつかり合って、もうぐちゃぐちゃのどろどろだ。
「アハ、アハハハハハハハハハハ……」
結はまたおかしくなって、笑うことにした。笑わなきゃ、やっていられなかった。
そしてひとしきり笑った後で、結は一瞬だけ真顔になる。何だか無性にむしゃくしゃして、があん、と力いっぱい木の箱を蹴った。
すると箱は木っ端微塵の木屑となって崩壊し、中のキュゥべえの死骸はぐちゃりと醜い肉塊になって辺りに飛びちった。
結はそれにも少しぞくぞくして、けれども満たされない渇きに嘆き、そんな自分がますます嫌いになった。
『……結、少し落ち着いた方が良い。君のソウルジェムを見てごらん』
『……ソウルジェム?それって確か……』
言われて、太ももに付いている宝石を見る。そこで、少しだけ違和感を覚えた。
ソウルジェムの光に、黒く淀んだものが混じっていたのだ。しかもそれは、宝石の半分を埋め尽くしている。
こんなものは契約時にはなかったので、結は酷く驚いた。いつの間にこんなものが、と思わずにはいられなかった。
『ソウルジェムは魔法を使う度に少しずつ穢れ、魔力を失っていく。そして絶望したり、怒ったりといったマイナスの感情でも、ソウルジェムは穢れるんだ。今のままでは、穢れきってしまうよ』
つまりこのままイラつけば、魔法が使えなくなると言いたいらしい。
正直、少し余計なお世話だと思った。だが、結も魔法が使えなくなるのは非常に困ることだ。
深呼吸をし、心を落ち着ける。イライラは治りそうになかったが、先ほどよりかはましになった。
『でもこれってさ、どうやって魔力を回復させれば良いの?』
『魔女を倒すと出るグリーフシードを使うんだよ。……君は契約してから一度も魔女を狩っていないだろう?これを機会にぜひ魔女を狩ってくれないかな』
『……魔女って、壊しても良いの?』
『もちろんさ。むしろ狩ってくれないと困る』
口の端が釣り上がる。
興奮が全身を駆け巡って、結の恐怖を吹き飛ばす。
壊せるなら、壊したい。めちゃくちゃにして良いなら、めちゃくちゃにしたい。
『それはどこにいるの?』
『ちょうど一匹、倒して欲しい個体がいてね。そこまで僕が案内するよ』
『分かった』
結はキュゥべえの言葉に従い、迷路のような路地裏の奥へと進む。いくつか曲がり、真っ直ぐ歩くに連れて禍々しい気配を結は感じ取る。それが魔女の気配なのだと、結はキュゥべえに説明されてないにも関わらず、自然とそう理解した。
やがて行き止まりに行き着くと、より一層気配は強まった。間違いなくここに、魔女がいる。
キュゥべえに言われ、結は魔女の世界への入り口を抉じ開ける。すると見たこともない紋章が壁一面に現れた。それはかなり不気味で、まるでそういったコンセプトで作られたアート作品のように見えた。
口のニヤつきが止まらない。
結界を前に、結は歓喜している。壊せる玩具を思うだけで、もうそれ以上何もいらないとさえ感じた。
足を踏み出し、結界へと入る。ずぶり、といとも容易く結は飲み込まれた。
◆◇◆◇
そこは、広大な世界だった。
地平線を、何処までも何処までも稲の群が埋め尽くしている。それは最早、大海と表現しても良いだろう。
結はその海の中にいた。結界に入った途端、稲穂の上に放り込まれたのだ。
なんとなく上を見上げてみれば。眩い光が謎の透明の球体から発せられている。そのせいで、この結界は昼間のように明るい。外はまだ夜なので、かなり違和感がある。
あまりにも外と違うので、結は驚いた。異様な空間だと聞かされてはいたが、それでも現実離れしすぎだ。
だが、結はすぐに驚きを笑い飛ばした。魔法少女になった時点で、もう今更すぎる。
ふぅと息を吐くと、腰のホルスターから鉈を出して、ゆっくり構える。
その瞬間、結界を満たす禍々しい魔力が高ぶった。それと同時に、ぶわぁと風が強く吹き、凪いでいた大海の湖面を一斉に揺らす。きっと、自分の存在に魔女が気づいたのだろう。
結は楽しそうに笑った。
「さぁ、魔女。出てきてごらん。どうせ、気づいているんでしょう?僕、君を壊したいんだ。君も、僕を壊したいんじゃないの?」
すると、その言葉が聞こえたのか。周りの景色がぐにゃりと回り始める。
そして一段と強く歪んだ後、稲穂だけはそのままに、空だけが重たい灰色の雲に覆い尽くされた。
それと同時に、薄っぺらい案山子が結を丸く囲むようににょきりと草むらから生えた。恐らく魔女の手下、使い魔だろう。
結は体を低くする。
無意識に魔力を溜め、高めていく。ぎん、とその魔力は足元に魔法陣を浮かび上がらせた。
それが一際光輝いた刹那、稲穂の海を切り裂きながら、結は自身を囲っている使い魔の一部へ突撃する。
その速さは、一瞬ではあったが音速に達していた。結の身体能力と魔法陣が組み合わさった結果だ。
当然案山子が動く前に、結はもう彼らの前に辿り着いていた。
その勢いを乗せたまま、鉈を広範囲に薙ぐ。狙うは下半身。確かな手応えと共に、案山子達ががすぱりと綺麗に両断される。一瞬にして使い魔のうち、ちょうど半分が崩れ落ちた。
「ハハハハ」
気分が高まっていく。
呆気なく壊れてくれて、晴れ晴れとした気持ちになる。
攻撃されなかった案山子達が両腕を曲げ、バネのようにぐぐっと縮めると、一斉に結へ伸ばす。それは空中で絡み合いながら一つの大きな腕を作り、結を押しつぶさんと上から振り下ろされた。
だが問題ないとばかりに、結は不敵に笑う。彼女の手が目まぐるしい速度で動き、鉈は縦横無尽に、めちゃくちゃな軌道を描く。巨人の手は、それだけで細切れになった。
魔法少女はその隙をついて敵に一気に近づき、体全体を使って鉈を振るう。その攻撃の軌道は、最初の攻撃と同じ水平。しかし狙うは上半身だ。
剣鉈が、確かに胴体を横一文字に通過する。そしてすべての案山子達を切断した。
「……!?」
思わず、結は目を見開いた。
どうしたことか、瞬きした次には、何事もなかったように綺麗な案山子がいる。まるで攻撃したのが嘘のようだ。
動揺し、もう一度斬撃を放って両断する。これで今度こそは──そう思った瞬間、結は信じられないものを見た。
切断面から藁が伸びて、案山子がみるみるうちに再生していったのだ。
かなり異常な再生速度だ。その速さは、魔法少女の動体視力では決して捉えることができない。
こんなものあり得ない、と結は呟いた。明らかに出鱈目だ。
驚くまもなく、近くにいた使い魔の腕が湾曲しながら伸び、鉈が叩き落とされる。
結はまた振るわれた腕を、とっさに体を逸らして逃れる。だが完全には避けきれず、左腕の一部が切り裂かれた。
「く……!!」
暇も与えず、別の使い魔達も腕を伸ばす。結はしゃがみこむことで回避し、そのまま茶色の海に身を隠す。
幸い稲穂の高さはそれなりにある。こうしてしまえば、完全に使い魔の視界から隠れることができるだろう。
蹲り、左腕を抑える。それでも鮮血は傷口から流れ、腕を伝いながら地面に垂れた。
今になって痛みが広がっていく。あまりにも痛すぎて、涙が出た。多分、今まで生きてきた中で一番の大怪我だ。手を離せば、肉が少し露出しているのが見えた。
頭がくらくらする。血が出血したせいか、ぼぉっとしてふわふわする。上手く、思考できない。
(ああ、この感覚……。僕、今壊れようとしているのかな?………だとしたら……、最高だ)
結は笑った。望んでいた感覚に、興奮する。
そうだ、もっとだ。
自分が大嫌いだ。
自分なんて、壊れてしまえ。壊れてしまえ。壊れてしまえ。もっと、もっと、もっと、壊れてしまえ。
世界も壊れてしまえ。大嫌いで、何も見たくないから。
だから壊して壊して壊して壊しまくってめちゃくちゃにしたい。
自然と笑い声が漏れる。きっと脳みそではアドレナリンが大量に出ているかもしれない。
結は鉈を生み出して掴む。腕は一応治癒する。流石にこの怪我では戦闘に支障が生じる。
そのまま身を潜め、使い魔の一体へ近づく。そおっと背後に回ると、結ははっとしてそれを見つめた。
案山子に、バッタの足が生えていたのだ。しかもその片方には麻紐が付いていて、その先端は他の案山子に生えているバッタの足に結び付けられていた。
よく観察すれば、結びつけられいるのは一個体だけではない。どの案山子にもバッタの足があって、片足に他のバッタ足の紐を結び、片足からは紐を伸ばしている。
それらは稲穂に隠れていたので、しゃがみこまなければ気づくことさえ出来なかっただろう。
この紐は、間違いなくこの使い魔の秘密を握っている。結はこの紐と使い魔の関係性を考えた。
紐は、バッタの足すべてに繋がれている。つまり、使い魔はすべてこの紐で連結されている。
だが気になるのは、どうして足に繋がれているのかだ。他の部位に繋がっていない理由でもあるのだろうか。それこそ、頭や肩などの場所にも繋がっていても良さそうに思える。
こんな下に紐があるのも、何か訳があるのだろうか。そうだとしたら、そこにはどんな意味があるのか。
(……下、か。……そういえば、なんか下を攻撃した時だけ使い魔は倒れたような……。…………そっか、そういうことなんだね)
上半身を攻撃して倒れなかった理由が、やっと分かった。
恐らく、あの下半身部分に本体が収まっているのだ。だから足に紐が繋がれているし、本体ではななかった故に、あんなにも容易く元どうりになれたのだ。
でも、この紐が結局何か分からない。紐が足につながれている“理由”は分かったが、この“正体”が判明しなければどうにもならない。
「正体……?」
結は自分の言葉に固まった。ある予想が、結の頭の中で閃く。
そもそも、この紐が使い魔に繋がっているのは何故なのか。それは恐らく、魔力の供給や動きの操作だろう。じゃなきゃ、繋がっている理由が考えられない。
そして使い魔の魔力の供給や動きの操作を行う者は、一つしかいない。
麻紐を掴む。見た目はただの紐なのに、よくよく見れば紐は僅かに胎動していた。やはり、この紐は生きている。
結は鉈を振り下ろす。紐が切り裂かれ、化け物の悲鳴が辺りに轟いた。
ごごご、と地が揺れる。二十メートル先の稲穂の海が一瞬膨らんだからと思うと、地中から出てきたものによって、大量の土ごとぼこりと掘り返された。
それはそのまま、ずしんとその場に現れる。
その姿は、麻紐で構成されたウンカだった。大きさは、役六メートルといったところか。鉄塔の魔女には敵わないが、それでも十分に大きい。
唖然として、ウンカの魔女を見つめる。
思っていたよりも遥かに異様で、かなり禍々しい。端的に言えば、気持ち悪い。こんなのが普通に生活している裏に潜んでいたなんて、考えただけで吐き気が込み上げてくる。
でも、だからこそ衝動が疼く。この手で、今すぐにでも壊したい。
麻紐が触手のように蠢き、ウンカの魔女の体から発射される。それは、あの案山子達の腕とは比較にならない速度を誇り、しかもその数も尋常じゃない程多い。あっという間に結界全体が紐によって埋め尽くされ、体が貫かれる。
「ガァ!!?」
鮮血が自分の体から溢れる。あり得ないくらい、とても痛かった。
しかし、それが堪らないくらい心地良い。自分もまた、壊れてしまえばいいと思っているから。
「クフフフフフフ、」
紐は結を貫いても、まったく止まらない。だから、まるで暴風の中にでもいるかのような錯覚をしてしまう。
嵐は結の体を絶えず傷つけ、その体に穴を開けていく。だが、結は微笑む。これくらい、なんてことないからだ。
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」
魔法を発動させる。すると、体の傷が瞬時に癒えていく。それは紐の射出速度に勝るとも劣らない再生速度だった。当然、治った端から攻撃を受けて血は流れるが、それでもまた治っていくから、全く動けない訳ではない。
紐の風に切り裂かれながら、結は姿勢を低くする。そして、一瞬麻紐の嵐が緩んだ途端、走り出した。
メイド服の少女は、ウンカの魔女へ突っ込んでいく。
傷つきながらも再生し、再生しながらも傷つく彼女は、もう正気ではない。まさに、その様は狂人だ。
こちらに向かってくるのが分かったのか、嵐が突然激しさを増す。暗かった視界が、完全に闇に閉ざされた。
再生の速度が追いつかず、結の歩みが遅くなる。これでは、先に進む前に倒れてしまう。
結は鉈で紐を素早く切りつけていく。こうなったら、邪魔な紐を排除しながら進むしかない。
しかし、いくら速い結の攻撃でも、紐の猛攻を防げない。せいぜい傷の量を多少少なくする程度だ。
「アハハハ、だったら……」
武器を握っていない片手に、もう一本鉈を生み出して握る。そして、まったく同じ速度で両腕を振るった。
紐の嵐がずたずたに切り裂かれ、初めて道を開く。一本から二本に鉈が増えたことで、その攻撃量も純粋に増したのだ。
「gyis、どpqんzhそあmjsぱかbくぉwーzんw!!!!???」
歩みが速まり、急速に自分に近く結に魔女は悲鳴を上げる。その声があまりにも耳障りが良かったから、気分が良くなった。
強く踏み込むと、結は音速の速さを超えて魔女へ突っ込んでいく。二本の鉈が、魔女を深く深く貫いた。
「嗚呼嗚呼ああああああえんそqlんdそあーpsぁぁlまま!!!!!!!!!??!!!!??!」
埋め尽くしていた紐が、急速に解けて縮んでいく。魔女の奏でる悲鳴に合わせ、萎んでいく。
やはり醜いものが壊れていくのは綺麗だ。壊れたものこそ──
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アッハハハ、ヒャァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
結は狂った笑い声を立てた。
鉈を引き抜き、また切りつける。絶叫が響き、結は調子に乗って更に切って、切って、切りまくった。
ウンカがビクビクと体を痙攣させ、弱まっていく。それを結は回復魔法で回復させる。それは固有魔法の細胞操作とは違うただの回復魔法だが、結の最も得意とする魔法だった。
ウンカの魔女は望むまもなく再生し、傷を癒していく。しかしその最中に、結は鉈を魔女の体に突き刺し、痛みを与えた。
当然その間、いくつも傷を負ったが……、そういうのを含めて、とても面白かった。
何故か、と問われれば、多分命のやり取りが楽しかったのだろう。
なにもかも壊したいというのが、結の衝動だ。そしてそれは自分も例外じゃない。互いに壊れあって、そして互いに傷つけ合うのは、最高の悦楽だった。
……それに、魔女は壊しての良いものだとキュゥべえに言われた。だから、壊しても何も悪くない。殺しても、罪なんてない。
「だから、我慢する必要なんてないんだ」
ぽつりと呟くと、魔力を込めた鉈の二連撃を魔女へ振るう。それだけで、ウンカは真っ二つに裂かれた。
魔女が霧散し、結界が壊れる。世界が歪み、夜の暗闇が辺りに戻ってきた。
『お疲れ、結』
キュゥべえのテレパシーが頭に響く。その声は、相変わらず無機質だった。
結はそれに何も返さず、ただ己の武器を見つめた。周りの音が、一切聞こえなくなった。
『……結?』
異変に気がついたのか、疑問の声を上げるキュゥべえ。それはいっそ、不気味がるようにも結は聞こえた。
口の端が歪んでいく。衝動の正体を自覚してから、何度も何度も笑ってきたけど、それらは誤魔化しが含まれていた。
けど、この笑みは違う。これは、心からの笑顔だ。
『……魔女を壊すのって、こんなに楽しいんだね。しかも、我慢しなくて良い』
うっとりとする。魔女はなんと素晴らしいんだろう。キュゥべえ以上の、最高の玩具ではないか。
……魔女を壊せば、それだけでこの心は満ち足りる。だから、他のものなんて壊そうという気にならなかった。
それはつまり、魔女を壊してる限り、自分はおかしくならないということだ。一人の人間として、真っ当でいられる。
「アハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
それが、とても嬉しくて嬉しくて仕方がない。
もっと、もっと、魔女を殺したい。そうすればきっと、壊れなくて済む。