魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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本編の更新が何年ぶりか分からない。しかも短いという。順那ちゃんの短編も終わったし、ここからラストスパートまで頑張ります。


“菊名夏音”という少女 3

 ――次の場面に移った。

 

 結は辺りを見渡した。

 外だ。見覚えがあるような、ないような。広い道を、沢山の学生が歩いている。

 

 つまり、ここは通学路なのだろう。結は別の中学校だったためあまり来たことはないが、早島中学の生徒はこの道を毎日通っているらしい。

 事実、目を凝らせば、遠くには校舎が見えた。アレが早島中学なのだろうか。

 

 と、そんなことを思っていると、ふと後ろで話し声が聞こえてきた。

 

「あ、貴女はあの時の……」

「……げえっ」

 

 振り返れば、夏音とサチが鉢合わせたらしく、両者共にびっくりした顔をしている。特にサチは、嘘だろうと言わんばかりの表情だった。

 

「やっぱり。見覚えがあると思ってたんです。同じ学校の生徒だったんですね。貴女」

 

 夏音が妙に納得して言えば、サチは文字通り頭を抱えた。

 

「ちくしょう。こんな展開ありかよ。マジで頭が痛いんですけど」

「むっ」

 

 夏音はその様子が嫌だったのか、頬を膨らませ、「相変わらず失礼な方ですね」とちょっと怒った。

 

「とは言え、先日はどうもありがとうございました。貴女のおかげで助かりました」

「……ふん。ま、船花様にかかれば当然のことだし」

 

 そうお礼を言われて、満更でもなさそうなサチである。

 本人は隠しているつもりかもしれないが、得意げに鼻の穴がぷくっと広がっていた。

 

「それで、キュゥべえにも伝えておいたんですが、改めてお礼をさせて欲しいんです。魔法少女のこととか、色々ありますし」

 

 最後の方、やけにコソコソ言って、夏音はサチに対して耳打ちする。

 サチは思いっきり渋面を作っていた。

 

「その話は奴から聞いてる。ったく、マジであの白狸は余計なことしかしねえ」

 

 小声で返しなら、しかし怒り心頭と言った感じで悪態をつく。それに関して言えば、結も大いに同意する。

 

「ていうか、テメエ、本気かよ。死にかけたくせに、まだ魔法少女になるつもり?」

 

 だが、どちらかと言えば夏音の方に激怒しているようだ。サチはぐっと眉間に皺を寄せて、夏音を睨みつける。でも、彼女も引かなかった。

 

「確かにまだ怖いんですけど、願いが叶うと言われて、無視は出来ません。私にも思い描く夢があります」

「……お前が思う以上に大変なんだけど?」

「はい。しかしそれを承知の上で、魔法少女のことを知りたいんです」

「……」

 

 すると、こいつマジで正気で言ってんの? と驚いたようにショートカットの少女は目を瞬かせた。

 

「はぁ……。そこまで言うならしょうがねえなあ。分かったよ、テメエの話は聞いてやる」

 

 もう一度ため息を吐いて、サチはうんざりした風に頷いた。

 夏音はパァっと擬音がつきそうな程、明るい笑顔を作ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は流れて放課後である。

 

 場所は早島でも有名な喫茶店。そこで夏音とサチは、二人で紅茶のお茶っぱを選んでいた。

 

「こんなことで良いんですか?」

 

 とは、夏音の疑問である。

 彼女としてはもっとキチンとしたものを……と考えていたのだろうが、サチとしてはこちらの方が良いようで、実に満足気に鼻歌を歌っている。

 

「お茶の方が長く持つし、入理乃と一緒に楽しめるから最高なんだよ。丁度切らしてたしある意味助かったわ」

「それは良かったですが……ていうか入理乃!? 入理乃って、あの阿岡入理乃ですか!?」

 

 夏音がびっくりすれば、サチは何処か誇らし気に微笑み、

 

「そうだよ。有名人だもんな、アイツ。後で紹介すっからちょっと待ってなよ」

 

 そう言って、お茶っ葉の袋を一つ手に取る。気に入ったもののようで、カウンターに直行して購入(夏音のお金で)。結構お高いせいか、一瞬夏音が物凄く死んだ目をしていた。

 財布の中身が空になったんだろうなと、結はなんとなく察した。

 

「さて、連絡すっか」

 

 二人はそのまま外に出ると、適当な公園に入り、ベンチに座った。

 サチが携帯を出してから電話をかけ始める。

 

「もしもし? うん、私、船花サチ。実はさ――」

 

 それから数分ぐらいやり取りが続いた。どうやら入理乃がごねているらしく、サチはちょっと困った顔をしていた。最終的には「とりあえず来たほうが良いって!! じゃあな!!」と、サチが一方的に電話を切った。

 

「クソッタレめ。臆病なところは相変わらずじゃんか。直せば良いものをさあ」

 

 愚痴るサチに対し、夏音はバツが悪そうだ。

 

「やっぱりご迷惑だったんでしょうか。話をしたいだなんて、そんな……」

「ああ、何言ってんだ?」

 

 だが正反対に、サチはイライラし始めた。

 

「何で今更そんなことを気にしてんだよ。そもそもどうしてお前が気を使う必要があるんだ?」

「いや、だってどう考えても、阿岡さんとって私って邪魔な存在じゃないですか。唐突に押しかけてきたもんですし」

「そりゃそうだ」

 

 サチは力強く同意する。

 本当のことだったが、それはそれであまり良い気分ではなかったらしく、夏音はちょっとムッとしていた。

 

「ま、魔法少女になりたいって時点でめちゃくちゃ目障りだけどね。本当はやめて欲しいから、ガチで」

 

 しかし、次に言ったその言葉は、彼女らしからぬ真剣なものだった。皮肉混じりでも、本気で夏音のことを考え、普通に生きて欲しいと思っているようだ。

 でも、サチは夏音のすべてを否定した訳ではなかった。

 

「けれどさ、何かを叶えたい気持ちって止められないんだよね。私だって身勝手な願いで、身勝手な望みを叶えたし。結局、本人がどうしたいかなんだよな」

「……船花さん」

「だから、どうしてもってんなら無理に止めない。アイツのために遠慮なんかすんなよ。テメエには魔法少女のことを知る権利がある」

「……」

「その代わり、よく考えて選びなよ。後悔することになるからね」

 

 実際に魔法少女が言うからこそ、そこには重みがあった。

 夏音はごくりと唾を飲み込んだ。

 改めて魔女のことを考えて、緊張しているのかもしれない。

 

「……船花さんは後悔なさっているんですか? 魔法少女になって」

 

 そのためか、夏音は結構踏み込んだことを聞いた。

 サチはみるみる内に、複雑な表情となっていった。

 

「そりゃあ……なんつーか、いくら何でも遠慮のない質問だな」

「すみません」

「謝らないでよ。むしろそのくらいのが付き合いやすいわ」

 

 本当に気にしてなさそうな雰囲気で、彼女は話し始めた。

 

「――そうだな。確かに一言で言えば、後悔してるよ。まさかあんな結果になるだなんて。でも同じくらい、お義父さんや入理乃に会えたのは良かったんだ。二人に会えて自由になれたんだよ」

 

 それでも船花サチの顔は、普段からは想像がつかない程、弱ったような、悲しんでるような、そんなどっち付かずの微笑だった。

 少なくとも結は、初めて見る。

 そう言えば、サチのことは何も知らないな、と実感したくらいだ。

 

(今までは同じ地域に住む、魔女を奪い合うライバルという認識が強かったしね……)

 

 あるいは、自分の都合で勝手に迷惑をかけたという子供か。

 とにかく、結にとって、船花サチとはその程度の存在だった。

 

 しかし、思っている以上に、サチは多くのものを抱えているらしい。

 だが、よく考えてみれば、彼女も魔法少女なのだ。

 過去に一つや二つ、辛い経験があってもおかしくない。それこそキュゥべえに縋る程の何かが――

 

「……」

 

 そこまで思考を走らせ、でもサチのことを知って何になるのだろうと、結は思った。

 だって何処までも行ってもサチは他人でしかないからだ。それに他人だからこそ、勝手にその心に踏み込みたくはなかった。人様の家を物色したくないのと同じだ。

 

 でも、そうやって思っている間にも、会話はどんどん進んで行く。

 サチは良い機会だと言わんばかり、入理乃の凄さを語って聞かせている。夏音は真剣に頷きつつ、「やっぱり阿岡さんは別格なんですねえ」と時折褒めていた。機嫌を取るためのようだが、サチには分からないようで、褒められる度に笑顔になっていった。

 

「テメエ、分かってんじゃん、見直したよ! ウハハハハハハ!」

「そうですか――って、痛いです、叩かないで下さい! 痛い!」

 

 しかしサチのテンションが高くなっていくごとに、夏音は背中をバシバシ叩かれて痛がっているのもあって、面倒くさそうだ。結が自然と苦笑いを浮かべるのも無理はないだろう。

 

「もう……本当に貴女は阿岡さんのことが好きなんですね」

 

 やがて呆れ気味に夏音は言った。

 

「最初てっきり不仲なのかなって思ってたんですけど、全然違うじゃないですか」

「あったりめえだろ! 船花様と入理乃はな、三年間もコンビを組んでるんだぞ! テメエに疑われるような関係じゃねえよ」

「いや、何だか対して彼女に怒っていたので。喧嘩をしょっちゅうなさるのかなと思ってしまっただけです」

 

 それは先程の電話のやり取りから想像したことだろう。

 確かその部分だけ切り取れば、サチが一方的にイジメているように見える。

 だからか、サチも一瞬、ぐっと喉を詰まらせた。

 

「別にアレはその……アイツを一方的に詰りたかった訳じゃねえよ。単に、いつものように自信なさげにしてるからムカついただけ。アイツ、テメエのことも怖がってるからさ。そんなで良いって言えねえだろ」

「しかし、そうは言っても、あまり話したこともありませんし、人見知りな方ですから、それはそれで――」

「そんな問題じゃねえよ!」

 

 サチが怒鳴る。夏音が驚いたように目を見開いた。

 

「私は――船花サチ様は! アイツにもっと広い世界を知ってほしいんだよ! こんな世界にも良いところは沢山あるって! もっと優しい人もいるはずなんだって。それをアイツは避けてる!! 私はそのことが許せないんだよ!」

 

 その叫びは、何処までも入理乃を思う、強い強い気持ちだった。

 結は切なさでいっぱいになった。

 何故ならサチの思いはすれ違っているからだ。

 入理乃だって、サチが大切だろう。けれど、入理乃は多分、真逆のことを考えている。彼女は二人だけの世界で完結したい。故にサチの気持ちとは相入れず、入理乃の思いとは反発する。

 どう足掻いても、伝わるはずがない。

 

 だけど、肝心のサチは、そのことを知らず、入理乃を変えていきたいようだ。だが彼女自身、あまり人と仲良くするタイプには見えなかった。

 そのため、次には落ち込んでいた。

 

「私だって頑張ったけど、こんな弱い自分じゃ入理乃は何も変わらない。どうしたら良いか……」

「そうですか。色々と考えていらっしゃってたんですね」

 

 だが、夏音はサチの気持ちを察したようだ。

 励ますように微笑んだ。

 

「分かりました。ならば協力します」

「え?」

「この先どうなるか分かりませんが、この瞬間、この時は、阿岡さんと友達になろうと思います。どれだけ嫌われても、私が貴女と一緒に、彼女を引っ張っていきますよ」

「お前……そんなこと本当に良いのか?」

「当たり前です。船花さんは命の恩人ですから。これぐらい構いません。むしろ、船花さんとも友達になりたいくらいです。折角出会ったんですからね」

「……」

 

 今度はサチが目を見開く番だった。

 そして、しばらくすると、おかしそうに口の端を釣り上げた。

 

「テメエ、変な奴だよ」

「何ですか。変な奴って」

「良い意味でだよ」

 

 釈然としない夏音に、サチはスッと手を差し出す。

 

「仕方ねえな。そういう事なら友達になってやるよ。えーと――」

「菊名夏音です」

「夏音」

 

 夏音が手を握り返したら、サチは心の底から嬉しそうにしていた。

 年相応の、幼い笑顔だった。

 

 と――その時であった。

 

「――船花ちゃん?」

 

 見ると、そこにいたのは、中学生くらいの女の子だった。

 パーカーのフードを深く被り、茶髪を二つ結びにしている。おどおどした態度が特徴のこの少女は、サチのパートナー、阿岡入理乃。

 すぐにサチが気がつき、喜色満面に立ち上がった。

 

「入理乃!」

 

 だがその腕の中には、白い動物が抱き抱えられていた。

 

「ボクもいるよ、サチ」

「アー……お前まで来てたのかよ」

「その反応はないだろう? 相変わらずだね、キミも」

 

 すると横から夏音が挨拶をした。勿論、サチ同様立ち上がって。

 

「こんにちは、キュゥべえ。お久しぶりです」

「うん。久しぶり。と言ってもそこまで日数は立ってないけどね」

 

 キュゥべえは夏音の方を向いて答える。

 入理乃もまた、夏音に向き直り、ボソボソと話しかける。

 

「えーと。貴女が……菊名夏音さん?」

「はい。阿岡さんもお久しぶりですね。小学生以来ですか?」

「――ええ」

「これも何かの縁です。よろしくお願いします」

 

 サチにしてもらったのと同じように、夏音は入理乃に手を差し出した。

 だが、入理乃はそれをじっと見るばかりで……心なしか、表情も引き攣っているように見えて……そんな調子なので、夏音がいくら待っても、その手を握り返しはしなかった。

 ただ、こくんと、小さく頷き返しはしたが。

 

(――けど、どう見ても、夏音ちゃんを警戒しているように見える)

 

 何故か彼女は、異様に夏音を凝視していた。

 魔法少女になりたいという以外にも理由がありそうだ。

 

 過去に何かあったのだろうか……と思っていると、キュゥべえが「さて」、と切り出した。

 

「まずは改めて確認させてもらおうか。夏音、キミは魔法少女のことを色々知りたい。それで合ってるね?」

「はい」

「続けて入理乃、サチ。ボクがお願いした通り、夏音に魔法少女のことを教えてあげることは出来るかな? キミ達だって、色々思うところはあるだろうし」

「まあな。けど話してみて分かった。夏音は悪い奴じゃねえ。船花様に断る理由はないな」

 

 サチは思ったより柔らかい口調で言った。

 入理乃がピクリと眉を動かしたことには気付いていなかった。

 

「入理乃、お前はどう思う?」

 

 そのせいか、相棒に無遠慮とも言える態度で聞いていた。

 勿論、電話で入理乃と揉めたせいか、強制する気はないようで、

 

「お前が嫌なら、この話はなかったことにするぞ」

 

 と、付け加えた。

 夏音も一瞬、話が違うくないか? と言った顔をしたが、「そうです、そうです」と便乗した。

 

 しかし、入理乃はここでノーと言える性格でもないだろう。

 サチをチラリと見ると、

 

「船花ちゃんが良いなら……」

「本当にそれで良いのかい?」

 

 キュゥべえが驚いたように口を挟む。

 

「アレだけ嫌だって言ってたじゃないか。何か心変わりでもしたのかい?」

「まあ…船花ちゃんが認めた相手だから……」

 

 サチが受け入れれば、文句はないと言ったところか。

 それにしては不満がありそうだが、ここでグッと我慢することにしたのだろう。

 

「そうかい。なら決まりだね」

 

 なので、最後にキュゥべえが話をまとめた。

 今後の方針が決定した瞬間だった。

 そして、彼は一つの提案をする。

 

「じゃあ、話が終わったところで、ボクから良いアイディアがあるんだけど、どうかな?」

「アイディア?」

「魔法少女体験コースだよ」

 

 その後の詳しい説明によると、どうやらサチと入理乃、二人の魔法少女の活動に、夏音を同行させて欲しいとのことだった。

 そうしたら、実感も湧くし、分かりやすいだろうとキュゥべえは言う。

 

「元々は見滝原で、巴マミが後輩にやっていたものなんだ。効果もあったし、丁度良い機会だと思うよ」

「見滝原ねえ……」

 

 サチが腕を組んで考え込む。

 まあ、見滝原は隣町だし、巴マミも有名だ。複雑な気持ちになるのもおかしくない。

 が、彼女は首を傾げて、不思議なことを呟いた。

 

「見滝原って何処ら辺だよ?」

 

(え……?)

 

 結は思わずびっくりする。

 入理乃も変なことをキュゥべえに質問していた。

 

「えと……その巴マミさん? って人がやってたの……? 具体的にはどんな感じ……?」

 

 まるで巴マミを知らない口ぶりだ。

 こんなのあり得ない、と結は再び驚く。

 巴マミは強すぎるから警戒対象だったはずだ。それにそもそも、見滝原なんて誰もが知っている町ではないか。

 それこそ、結だって遊びに行ったり、ゲームを買ったり、何度も何度も――

 

「……?」

 

(いや、本当にそうだったっけ?)

 

 そこで何故か、そんな疑問が浮かんだ。

 何かがおかしくないかと。

 

 ――そうだ。

 何かが変なのだ。

 

 本当は巴マミも見滝原も知らない。きっと遠くにある町で、早島の隣と言えば、それこそ飛雄角か“牛木草”……、

 

「牛木草?」

 

 自分で言ってて違和感が薄れる。

 聞いたことのある名前だ。

 牛木草。

 早島の経済圏と深く繋がり、働き口や若者の遊び場となっている町。この町があるからこそ、早島が成り立っていると言っても過言ではないくらい、大きくて人がたくさん集まる都会だ。

 

 だから、結も頻繁に通っていた。

 時には魔女狩りなんかもして……そこに住む強力な魔法少女の名前も把握していた。

 確か名前は色梨こゆり。

 

「……。それがいつの間にか巴マミに変換されている? じゃあ僕達が見滝原と思い込んでいたところは――牛木草?」

 

 ……どうしてそうなったのだろう。

 誰かに記憶を改竄された?

 何が目的で。

 

 しかし、そう思った直後、キュゥべえがポツっとため息吐いた。本当に本当に小さな、結にだけ聞こえるような声で。

 

「うーむ、やはり魔法陣の問題か、魔法少女への効果は甘いな」

「は……?」

()としたことが、とんだ失態だな」

 

 キュゥべえがそう吐き捨てた瞬間、彼の瞳がギラリと光った。

 

「“何を言っているんだい? 見滝原は隣町で、巴マミは皆もよく知っているベテラン魔法少女だろう?”」

 

 その途端である。

 夏音、サチ、入理乃が、棒人形のように固まった。

 やがて、意識を取り戻したようにハッとなるも、それぞれぼんやりしたように目を瞬かせた。

 

「あれ? 何だったっけ?」

「……えーと、確か。隣町が見滝原……で?」

「そうだよ。隣町と言えば見滝原! 見滝原と言えば巴マミ! 何でこんな情報を忘れてたんだよ! ああ、もう!!」

 

 サチが嫌そうに顔をしかめる。

 だが全員、自分達の異常さに気付いているのだろうか。

 

 皆、さっきと言っていることが逆転している。

 結は鳥肌が止まらない。

 

(何だ今の。まさか記憶がおかしいのはコイツが原因!? 本当にキュゥべえなのか!?)

 

 口調も一瞬違ったし、何らかの力を行使していた。

 絶対あの白い動物じゃない。

 得体の知れない何かが化けているとしか思えない……!!

 

「夏音ちゃん! 皆!!! コイツ何かがおかしいよ!」

 

 結は堪らなくなって叫んでいた。

 しかし、目の前の光景はただの映像。声は届かない。手を伸ばしても触れることは出来ない。

 

「……ッ」

 

 もしこの場に本当にいたのなら、と思わずにはいられなかった。

 そしたら、どうにか出来たはずなのに。

 

「くそ……」

 

 結はそのまま黙ってことの成り行きを見守るしかなかった。

 三人は魔法少女体験コースをやることに決めようで、さっきからその会議で盛り上がっている。

 

 夢中になり過ぎて放置されてしまった白い獣は――ただ結を見て、笑っていた。

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