魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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菊名夏音

年齢 十四

身長 166センチ

好きなもの 兄 アニメ カッコいいもの

嫌いなもの 虫 カッコ悪いもの

早島中学校に通う十四歳の少女。真面目で常識人かつしっかりもので、家族思いで優しい性格。ズバッとはっきりと物事を言う。だが、中二病でイケメン好きであり、秘密のノートを日々量産している。頭はそこそこよく、現実的に色々考えられるが慌てたりすると、混乱しやすい。背が高いことと、ネーミングセンスがないことがコンプレックス。


生意気な魔法少女と気弱な魔法少女

唖然とした。一体、何でこんなところにこの少女がいるのか、わからなかった。どうしてベランダから入ろうなどと考えたのか、まったく理解できなくて夏音は直接少女の頭の中を見たくなった。

 

「開けてー!!」

 

小柄な少女が、肩までの髪を揺らしながら、再びいう。まさか、彼女はここというか、どうやってこのベランまで上がってきたのだろうか。

 

「開けてよ~。可愛い後輩の頼みだよ~」

 

後輩とは、何を言っているんだろうかと思ったが、よくよく見れば、彼女には見覚えがあった。確かこの少女は、毎日同じ通学路で早島中学校に通っている子ではないだろうか。時間の目安になるほどだから間違いない。

 

夏音はにわかに信じられない思いだった。少女の制服のリボンは一年生の赤。青いリボンの二年の夏音とは学年の差があって会話はしたことなどない。しかし少女は視線が合えば、必ずにこりと会釈をしてくれていた。だから明るそうな印象の子だなと、個人的に夏音は少女を好いていたのだ。

 

「ほら、早くしてよ。この私が頼んでるんだよ?」

 

しかし、それが百八十度ひっくり返った。もはや良い子ちゃんのイメージはガラガラと崩れ去ってしまった。どうやら今まで見せていたのは外面で中身はこの有様らしい。その差がひどい分、夏音はショックを隠しきれなかった。

 

「開けろっつてんだろ!聞いてんのかよ!? ぶち殺すぞ!?」

 

少女は、勝手に入ってきたというのに、一分もしないうちに、勝手に逆ギレし始めた。心配になるくらい気が短いようだ。こちらとしては怒られる正当性は皆無だ。逆に怒る立場は夏音であるというのに、一方的に怒鳴られて、思わず眉をひそめた。

 

これは、関わったら駄目なやつだろう。関わったら、絶対めんどくさいことになるのが、目に見えている。そんなのお断りだ。

 

「すみません。お帰りください」

「お帰りくださいだと?ざけんな!この船花サチ(超可愛い魔法少女)様の言うことが聞けないのか?このデカ女!!」

「で、デカ女…」

 

罵声がコンプレックスにクリティカルヒットした。おまけに中指もたてられた。胸をえぐられるような心の痛みに思わず涙腺が暖かくなる感触がした。夏音は白い小動物の方を見る。

 

「ねえ、アンタの知り合いですよね。何とかなりませんか、この子?デカ女って、あんまりです!ひどすぎません!?好きで身長高いわけじゃないのに!!」

「残念だけど、どうにもならないね。それよりも、早く窓を開けた方が良い。見てわかる通り、彼女は短期だからね、このままだと窓を割って入ってくるよ?」

「マジですか」

「早く入れろ!突っ立てるのもキツイんですけど!」

 

少女の怒りは限界らしい。その苛立ちは沸点を越えそうで、確かに窓を割って入ってきそうな気がした。仕方がないので、夏音は自室の窓を開けた。瞬間サチは、先程まで怒っていたにも関わらず、パッと笑顔を咲かせ、ありがとうございまーすと明るく言う。手すりから降りて、靴を脱いで部屋にあがり窓を閉めた。

 

「キュゥべい、おじゃまするよ」

「いや、私の部屋なんですけど。そこの小動物ではなく、この私に、わ、た、し、に、それを言ってください」

「え~、こんな、趣味の悪い部屋の人に、この船花(せんか)サチ様が言うわけないじゃん」

 

そう言いながら、サチはぐるりと赤い壁紙の部屋を見渡し、最後に押し入れを見た。

 

ところで、中二病患者に関わらず、誰でも隠したいものが一つや二つ、あるのではないだろうか。夏音にも当然あり、決して見つからないようにそれらを一箇所に集めて隠している。それが、秘蔵の禁断の書庫だ。

 

そこには、ギリシャ神話だとか、自作の魔導書(税込百五十円のノート)だとか、マイナーロックバンドのCDとかがあって、ギュウギュウになっている。壁には中二病的な発言や格好に定評のあるイケメンの歌手、通称血の失墜した使者のポスターがはってあったりしている。

 

こうした最大級の秘密は両親は知らず、この世で知っているのは自分のほかに兄しかいない。だがそんな恥辱の塊は今、目の前で晒された。サチが襖を開けたことによって。

 

「い、いやああああああああああ!!」

 

夏音は、顔を真っ赤にして悲鳴をあげた。幸い、両親はまだ帰ってきていないため、その悲鳴を聞かれることはなかった。声の大きさに不快感を覚えたのか、サチは思わずと言った風に耳を塞ぎ抗議した。

 

「うるさいな、勘弁してよ」

「アンタがうるさくしてるんですよ!!つか、何で人の勝手に見てるんです!?」

「いいだろ、別にさ!! 船花サチ様は、何をしても許されるの。船花様は自由なんだから」

 

サチはそういって、馬鹿にするように笑った。それに、内心ぶちギレる。

 

この後輩生意気すぎるしうざい。いちいち、わざとらしい口調がムカつくし、何よりも偉そうなのが気にくはない。こちらは先輩だというのに、後輩の彼女は、自分に対して敬意が足りなさすぎだ。サチへの好意はいまや泡となって消えてしまった。

 

見ているだけのキュゥべぇが、やれやれとため息をついた。ため息をつくぐらいなら、助けてほしいと夏音は思う。しかしあの諦めている様子からするに、本人でもどうしようもないのだろう。

 

しかし、何から何まで幻覚だと思っていたのに、どうもこの現状、幻覚じゃないらしい。なぜなら目の前のサチが小動物と普通に会話してるのだ。自分だけの幻覚だったら、そんなこと起きないはずだ。

 

もしかしたら、この少女も幻覚である可能性もなくはないが、間違いなくこの状況は現実のようにも思える。通学路が同じなだけの後輩が、こんな魔法少女とかいう、ファンシーな幻覚にいきなり出てくるなんておかしい。出てくる理由がない。つまり目の前の状況は逆に幻覚ではないということだ。いや、これが現実だとしても、そうとうおかしなことになっているのだが、もう混乱しすぎて夏音としても、この現状を本当のことだと受け入れ始めていた。もはや、頭を抱えるしかない。

 

それにしても、と目の前の少女はニヤニヤしながら、また馬鹿にするような目でこちらを見た。なんだろうか、果てしなく嫌な予感がする。

 

「あれなのかな、こんなのがカッコいいって思ってたの? めちゃめちゃ笑える。フフフ」

「は?船花? 何言ってーー」

「これ、ばらしちゃおうかな、何てね」

 

驚きのあまり、目を見開いた。夏音は当然ながら、こんな趣味があるだなんて、他人に一言も喋っていない。流石にかっこいいと思ってやっているとはいえ年頃的にも恥ずかしい。もし、知られたらなんて想像しただけで、死んでしまいたくなるのだ。それなのに、ばらす、だって……?

 

サチは、押し入れを指さし、キュゥべえに向かって問いかけた。

 

「ねえ、キュゥべい。これどう思う?」

「すざましい本の数だね。こういう趣向の持ち主は、キミたちの年代でたまに見かけるけど、彼女はそのなかでも、そういう系統のものを所持しているという点においては、飛び抜けているんじゃないかな?でも、何故そんなものを好きになるんだい?訳がわからないよ」

「私も訳がわからないよ。だからね、皆に言ったら、さいっこうにおもしろそう」

「まって、まって、ばらさないでください!!何でもしますから!!」

 

必死に言う夏音。ここでばらされたら、一生笑い者になってしまうから、それは断固阻止しなくてはならない。だからつい、何でもする、と言ってしまった。その言葉の意味を深く考えず。

 

「やった!!その言葉を待ってたよ」

「待ってた……ちょ、まさかそのためにわざとばらすなんて言ったんですか?」

「は、はあ!? 何それ!? 私は、そ、そんなことを考えてなんかいないよ。第一、この私がそんなことを考えるわけないじゃん」

 

ギクリと、分かりやすく肩を揺らすサチ。彼女は必死にとぼけたが、もはやバレバレであった。夏音がジト目で見ると、サチはなんだよという風に若干の弱気になった。

 

「それよりも、サチ。夏音に魔法少女の体験コースをしてくれるっていう件に関しては、承諾してくれたかい?」

「例の巴マミがやったっていうあれかでしょ。良いよ、別に。そのために私はここにきたんだし」

 

笑顔を咲かせると、サチは拒否権何てねえぞ、と脅すような口調で言う。

 

「じゃねえと、テメエの秘密をばらすからな。最悪の場合は、色んなことしてでもーー」

 

と、そこでサチははっとなったかのように、真顔になった。キュゥべえも、何かに気づいたかのように立ち上がる。一方の夏音は、何が何だかわからず、困惑した表情を浮かべた。

 

「この、魔力反応……。すでに、近くにいる」

 

独り言を呟き、サチは数秒を目を閉じた。誰かと話をしているかのように、数度頷いたりすると、途端にニィと口角をあげる。夏音は先程同様嫌な予感がした。

 

「どうやら、こっちに魔女が向かって来ているみたいだよ。ちょうど良かった」

「良くなんかないですよ。え、何なんですか、これかなり不味いんじゃないんですか?」

「不味くなんかないよ?」

「でも……」

「不味くなんかねえつってんだろ!!あいつとこの船花サチ様さえいれば、テメエは大丈夫なんだよ。心配すんな、このクソゴミのボケが!!」

 

そう怒鳴ると同時に彼女の姿が、一瞬光に包まれる。制服が全く違う服装へと変化していく。身を覆う露出の多いセーラー服。素肌や服の上に、幾太にも巻かれたリボンや包帯。下はプリーツスカートにブーツ。帽子には錨の形をした水色の宝石が輝いている。最後に、巨大な錨を召喚した時には、すでに周りの光景は、グニャリと変わっていた。

 

「え……!?嘘ですよね…!?いきなり何なんですか!?」

 

夏音が叫ぶ。辺り一体のその空間に、驚きと恐怖を隠せない。その空間は、今までに見たことのないものであった。

 

夕暮れの空に浮かぶ、大量の雲。そこから伸びる白い鉄塔。下には、地面を支える鉄の構造と雲が見える。空中にある目玉が生えたランプのような物体が、空間を明るく照らしている。明らかに異常な場所だった。しかしさらに異常なものがある。自分等を取り囲んでいる、五体の何かである。

 

それらは、鉄屑でできた、猫と犬の両方の頭を持つ、二足歩行の動物。雲や綿あめが付着した体からは、鉄と甘い匂いが混じって、なんともいえない耐え難い匂いがしている。彼らは汚ならしく長い舌を揺らしながら、鋭い爪を光らせた。その目は、完全に捕食者の目であり、二人と一匹を確実に食い殺そうと、じわりじわりと接近していた。

 

「何ここ、それに、こいつら一体何ですか!!」

「ここは、魔女の結界。そして、あいつらは魔女の手下の使い魔。今はそれだけでいいよ」

 

と、サチが言った瞬間、敵の集団の一匹が夏音たちに襲いかかった。思わず、身を固くする夏音。だがサチはめんどくさそうに、しかし、慌てず冷静にその手にある武器を、上から振るった。

 

ズドンっと、重たい一撃。たったそれだけの動作で、恐るべき敵はペシャンコになって淡い光を発しながら消えた。そして、続けて襲いかかってきた三体を、掛け声一つで振り払う。鉄の動物は錨による襲撃でバラバラに粉砕し、飛んでいく。

 

あと一体ーーと、サチが顔をあげた瞬間、夏音が悲鳴をあげた。残った個体が彼女に襲いかかろうと、牙をあけて飛びかかっていたのだ。しかし、ここでサチは焦った様子を見せなかった。何故なら、相方の魔力反応があったからだ。

 

「危ない!!」

 

瞬間、夏音達がいる反対側から、何かが軽い音と共に飛んでくる。それは敵の死角、すなわち使い魔にとって、背後からの攻撃であった。反応するまもなくそれは頭に深々と刺さる。犬猫の合成獣は苦しみの声を上げながら、そのまま重力の法則に従う前に、夏音の目の前で消滅した。夏音はその場で、ぺたりと座り込んでしまった。

 

「船花ちゃん!!」

 

鋭い声が聞こえてきた。思わず夏音たちは、その声の方ーー先程の攻撃が飛来した方を向く。すると、少女が遠くにいるのが見えた。赤い宝石を中央に展開する花飾りを頭につけ、手には金属の籠手をしている。大きな身の丈ほどの筆を手にしている彼女は、着物の袖を激しく振らして高い下駄を鳴り響かせ、二人のもとまで、走ってきている。

 

夏音は目を見開く。その少女もまた、見覚えがあったからだ。今度は名前もきちんと知っている。彼女の名前はたしかーー

 

阿岡入理乃(あおかいりの)……?」




鉄塔の魔女の手下。その役割は補食。
魔女が大事に思っている鉄塔の、その前の姿。この使い魔が人を食べると、空に浮かぶ鉄塔となる。そのため、魔女によって、人をとにかく見たら食べるよう、プログラムされているが、頭が悪く、でき損ない故に、人をよく食べ損ね、鉄塔になることは滅多にない。噛みつくことしか脳がないので、鉄塔の魔女にはあまり好かれていない。
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