魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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新年を記念して連続投稿
ここからニ・五章、本当の菊名夏音と早島の舞台裏が始まります。
この章では新キャラ登場及び、同作者が投稿しているこゆマギのネタバレも含みます。ご注意下さい。


ニ・五章 無貌の少女
裏舞台・始


 これは“菊名夏音”という少女の物語だ。

 何処までも何処までも――愚かで哀れな物語。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 何もかもがフィクションのように。チート主人公のように。

 苦労も、努力も。

 そんなのなくても、すべてが私のためのご都合主義であれば良いのに。

 

 ――私は、誰よりも特別になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 私は兄が好きだったけど、同時に兄が嫌いだった。

 ずっとずっと大嫌いだった。

 だって私が欲しかったものを、全部持っているから。

 

 能力。称賛。期待。

 父さんと母さんからの愛情。

 

 ずるいって思ってた。

 何で何で? 私はこんなに頑張ってるのに。

 何処がいけないんだろう……。

 

 誰かに教えて欲しかったけど。皆、何も言わなかった。

 私のことなんて、それくらいどうでも良い存在なのだと思った。

 だから、皆にとって私なんていらない子だって気付くことが出来た……皆にとって私なんて兄のおまけみたいなものなんだ。

 そう考えると、途端自分のことが塵芥みたいに思えてくる。

 

 じゃあ良いや……。

 何もかもどうでも良い……いつの間にか私は逃避していた。

 程の良い妄想に逃げ込んだ。

 

 ――そう……それは都合の良い妄想。

 そこでの私はカッコよくて特別で、何でも出来て何にでもなれて、皆からチヤホヤされる。

 まるでチート主人公のように。

 

 所詮、中二病的な妄想だったが。それでも異能人と戦い、悪の親玉をぶっ倒し、英雄になれば、周囲は必ず私を誉めてくれる。こんなつまらない私から、私は解放される。

 現実離れしているからこそ、私はその妄想が楽しくて楽しくて仕方なかった。

 

 けど――実際の私は、透明な存在だ。

 兄のように人を助けるが、そのせいで良いように使われたり、陰口を叩かれたりする。やることはいつもいつも、誰かの真似ばかり。

 自分から何かをやりたくてやったことなんて一度もない。

 ただ褒めて欲しい。それだけ。

 

 その自分がないという現実と理想とのギャップ――寂しさを埋めるものが、私には何もなかった。

 妄想する度、段々と虚しさが募っていった。本当の私がどこにあるのか。何も分からない。

 

 だから世界から消えてしまいたいと強く思う程、私は追い詰められてしまったのだ。

 そしてどんどん苦しくなって、何故だが意識が朦朧となっている時に、その声は聞こえてきた。

 

「随分と苦しんでいるようだね、菊名夏音」

「……?」

 

 それは幻聴のようだった。

 頭に響く幼い子供の声。ぼんやりと視界に映る、白い獣。

 

「……誰……なの?」

 

 反射的に私は尋ねていた。

 すると彼は答えた。

 

「ボクの名前はキュゥべえ」

「キュゥべえ……?」

「ああ。早速だけど、ボクと契約して魔法少女になって欲しいんだ」

「魔法少女……?」

 

 現実じゃまず聞かないような言葉に、私はいつもの妄想かと考えた。

 しかし……こんなことを妄想したことは一度もないのに、変なの。ノートに書き綴ったことすらないのに。

 だからこの時点で何かがおかしかったのだ。

 でも。

 

「キミは今、自殺しようとしているのかい? たった一人、こんな廃墟で」

「……」

「このままだとキミの体は危ないだろう。最悪命を落とすかもしれない。それで本当に良いのかい?」

 

 そう言われて。

 

 ――お前に何が分かるの。

 

 そう叫びたくなった。

 そのため、耳を傾けてしまったのだ。更にその次のタイミングで、キュゥべえは悪魔のように誘惑してきた。

 

「契約の対価に、君の望みを何でも一つ叶えてあげるよ。さあ、君の願いを言ってご覧」

「願い……」

 

 私は無意識に呟く。

 

 私の願い。

 願い。

 願い――?

 

 ……願いって何だっけ。

 

 私はただ、寂しいだけなの。

 

「……」

 

 思えばこの時、私は冷静ではなかった。

 そもそも死にかけで余裕はなかったし、メンタルだってやられていた。

 普通だったら。成長していたら。こんなものは馬鹿馬鹿しいことだとすぐに気づけたはずだ。

 

 本当に特別になりたいのなら、もっと努力すれば良いだけの話だった。

 自分を認められないのなら、自分を認められるよう、行動すれば良いだけの話だった。

 

 具体像もないくせに、私はポロリと、夢ならいっかなって、言ってしまった。

 

「じゃあ、特別な存在になりたいです。……誰よりも、何よりも特別な……大きな力が欲しいです」

 

 そうすればアニメや漫画、妄想の通り、私を誰かが褒めてくれるかもしれない。そんな愚かしい願いにキュゥべえは、

 

「ふむ……つまりは、神様のような存在ってことかい?」

 

 と返した。

 私は思わず首を傾げる。

 

「神様?」

「過去にそう願った子がいたんだよ」

「……じゃあその子を超えるような存在になりたいです」

 

 私は適当に言ってのけた。

 勿論冗談だ。叶うはずがないと心の底から思っていて。

 だけど、それが契約の言葉になってしまった。

 

「良いだろう、菊名夏音。契約は成立だ」

 

 その刹那――一瞬の苦しみと共に、何かが明るく光ったと思うと……私は見慣れない黒い衣装を身に付けていた。

 何だかちょっとだけ息も軽くなった気がする。

 

「――ゴホッ! ゴホッ! 私……」

 

 それに、私はどうしてかうつ伏せの状態になっていた。困惑しつつ、咳をしながら辺りを見渡した。

 確かにそこはキュゥべえの言う通り廃墟のようだった。

 狭い室内で、目の前にあるバケツには洗剤みたいなのが入ってて……否、本当に洗剤なのだろう。

 すぐ側に空の洗剤容器が二つ転がっていた。絶対混ぜちゃいけないやつだ。

 

 それで何となく思い出してきた。

 私、本当に死んじゃおうとしていたんだ。いっそ寂しい場所で、悲惨な最後を迎えれば、皆私のことずっと覚えてくれるかもって。

 だけど、怖くて実行できなかったはずだ。

 何でこんなことになってるんだろう。

 

「ッ!」

 

 だからゾッとなって、私は即座に起き上がると、バケツごと窓に向けて放った。

 窓が割れて、バリーンとガラス音が響き渡る。

 

「ハアッ、ハアッ、ハア……」

 

 激しい息と共にへたり込んだ。

 生きた心地がしない。

 

「一体何があったの……」

「夏音、キミは使い魔の口付けを受けていたんだよ」

「口付けですか?」

 

 キュゥべえが説明してくれたけど意味が分からなかった。

 口付けってキスマークのこと?

 

「ていうか待って。この動物……喋ってる?」

「動物じゃなくてキュゥべえだよ」

「!? やっぱり喋った!」

 

 途端に私の頭は混乱状態に陥った。

 思わず白い獣に詰め寄る。

 

「あ、あああ貴方何なんですか!? ちょっとキュゥべえでしたっけ? 今すぐ説明を求めます! 私に何したんですか!?」

 

 すると私の捲し立てた質問にキュゥべえは、

 

「落ち着いて夏音。一気に聞かないでくれ。あまり時間はないんだ」

 

 なーんて腹立つ返事をくれた。

 

「それより警戒した方が良いよ。魔女の使い魔に気づかれた」

「魔女?」

「そう。この世界に厄災を齎す存在だ。ほら――来るよ」

「へ?」

 

 気の抜けた声を出した途端、それは現れた。

 

「っめlーwーw、んrkぇlーqーー!!」

 

 シュ、シュー!!

 それは全身から蒸気の煙を吹き出した。

 ゼンマイが背中についた、レトロなブリキ人形。錆びた目が私を見ていた。そして周囲を異界が塗り潰していく。昭和映画に登場するような街並み。

 

 あまりの不気味さにさっきとは別の意味で、また生きた心地がしない。

 

「……まさかアレが使い魔?」

「そうさ。さあ夏音――構えるんだ!」

 

 え……ええ? 構えるってどういうこと?

 ――そうやって困惑していると、その使い魔は私に突進してきた。あんな鈍そうな見た目で!

 

「うわわ!!」

 

 私は咄嗟に逃げた。

 その時、ピューンと人間離れした速さで動くことが出来た。

 

 遠くでキキーと止まると、私はびっくりして口を開けてしまう。

 自分が自分でなくなったみたいだ。

 すごい。すごい。何だか状況を忘れてはしゃいでしまう。

 

「夏音!!」

 

 キュゥべえが叫ぶ。

 私は恐怖も忘れてノリノリだった。無駄な決めポーズを挟むと、なんか出ろ!! と念じる。想像では気功法とかビームだったんだけど……代わりに手の中に現れたのはハルバードだった。けど、それはそれで厨二心をくすぐられて良かった。

 ちょっと見かけないのがカッコいい。

 

「こwっpwp!」

 

 再び使い魔が突進してくる。

 私はハルバードを言われた通り、ゆっくりと構えて……振り下ろす。

 

「えい!!」

 

 攻撃はまぐれにも当たった。

 使い魔が吹っ飛ばされた。すぐ起き上がってくるけど、興奮のドキドキは止まらない。

 やっぱり私は、私らしくもない、すごい力を手に入れたみたいだ。

 まるでアニメや漫画の主人公になったようで、妄想の中に入り込んだようで楽しい。――現実離れしてるから、楽しい。

 現実は辛い事だらけだ。

 

「ふっ!!」

 

 その後、頑張って戦い続けて、ついに最後の一撃が決まる。

 嫌な感触と共に使い魔は倒れた。

 異界は消えて元の現実風景に戻ってくる。

 終わったのだ。

 

「初めてにしては上手く行ったね、夏音」

 

 キュゥべえが私を褒めてくれる。

 疲れていたけど、割と嬉しかった。私は素直に笑顔をこぼす。

 

「えへへ……ありがとうございます」

「この調子で、今後の魔女退治もよろしくね」

「……。魔女退治……」

 

 ……魔女退治、か。

 ってことは、私はこれからも、ずっとあの化け物と戦うことになるのか。

 

 そう考えると、もしかしてあんなのがこの世界には沢山いるのだろうか? とふと思う。

 じゃあ、私のように死にそうになった人達も沢山?

 

 それが事実だとしたら恐ろしかった。

 だが反面、禁断の果実に触れたようで、誰も知らないことを私だけが知っているというのは、変な優越感があった。

 

 癖になりそうだった。

 

「……フフ」

 

 気が付けば私は笑っていた。

 試しに頬を引っ張ってみたらとても痛かった。これは夢じゃない。夢みたいだけど夢じゃないんだ。

 

「私の願い、本当に叶うんですよね?」

 

 一応キュゥべえに確認すると、彼は頷いてくれた。

 

「勿論だよ。それが契約の対価だからね」

 

 だが後から考えれば、その戦いの運命と引き換えにするにはあまりに重く。よくよく落ち着いてみれば、胡散草いし、信憑性のカケラもないし、都合が良すぎる気がした。

 

 でもたとえキュゥべえが悪魔だったしても、“魔法少女”になれたワクワクの前では、すべてが些事だった。

 私は本物ヒーローみたいになれたのだ……なんて思ったりもして。

 それに私の願いが叶うなんて言われたら、やっぱり惹かれてしまうのだ。

 

 それくらい、私は特別になりたかった。

 特別になって、皆に必要とされる自分になりたかった。

 

 ――これから、魔法少女を頑張ろう。

 

 そうすれば皆を助けられる。助けた皆は私を褒めてくれる。

 ……私は漫画のように何もかも上手くいくのだと、そんな幻像でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 ――でも、そんなに都合が良い筈がない。

 

 魔法少女の世界は紛れもない現実なのだ。

 私が嫌いな“現実”だった。

 

 だから結果から言うと……私は上手くいかなかった。

 

 楽しいのは数日のうちだけ。

 

 使い魔は倒せても、魔女は恐ろしく、戦いは辛くて苦しくて。

 魔法が使えたり、超人的な身体能力を持てるけど、それは戦闘において有利には働かない。むしろ最低条件みたいなもので、弱いからやられる。

 ワクワクした感覚はすぐに消え失せた。

 

 それに皆、助けたって魔法少女には気付かない。それどころか知ろうともしない。呑気な顔をしている。

 よく考えてみたら当たり前で、私だって魔女や使い魔のことは知らなかった。

 

 それでも私は……自分が他の奴らとは違うんだと、変な自尊心と優越感で自身の心を守り続けた。

 私は特別なんだと。そう願ったし、魔法少女なんだから。

 

 だけど、一週間もしたある日、私は自分以外の魔法少女と出会うことになる。

 それは結界での出来事。

 いつものように数時間もかけて魔女を見つけたけど、私は良いようにやられていた。

 

 吹っ飛ばされて、殴られて、切り裂かれて。

 嬲られ放題だ。いっそ殺してほしいとさえ思った。

 

 しかしその時。二人の魔法少女が現れたかと思うと、あっさりと魔女をやっつけてしまった。結界が消えて、後に落ちたのはグリーフシード。

 魔女の卵を初めて見たのも、この時だった。

 

「あ……っ、っ……」

 

 私は呻きながら、それに手を伸ばした。

 本能的だった。

 怪我と魔力を回復させるには、この卵しか無い。

 

 だけど、そんなの二人の魔法少女が許してくれる筈がなく。

 

「ちょっと近寄らないでよ!」

 

 蹴られた。ボロボロなのに、蹴られた。

 

「ギャ!」

 

 と悲鳴を上げて私は倒れる。

 苦悶の表情を浮かべる。

 痛い、痛い。

 

「もー何なの? ボロ雑巾みたいで汚ーい」

 

 更に言葉の刃が私の心を深く傷つける。

 確かに私は汚かっただろう。それぐらいボロボロで、魔法少女でなかったら死んでいたに違いない。

 しかし私は、また手を伸ばせずにはいられなかった。

 

「た、助け……」

「え? ヤダ。何で助けなきゃいけないの? この町の現状分かって言ってる?」

「……?」

「てかコイツ新人じゃね? 見かけない顔してる」

「そうかもね。マジで邪魔だわ〜」

 

 そう訳の分からない会話をすると、二人の魔法少女は私に近付いた。

 助けてくれるのか? と一瞬思ったが、そんなことはない。

 ニヤニヤ笑いながら私を見下ろしていた。

 

「あのさー、ここは私達の縄張りなんだけど。勝手に入らないでくれる?」

「……縄張り?」

「ここは私達のテリトリーってことだよ。アンタみたいな新人が来て良い場所じゃないんだよ!」

「!? ギャ!」

 

 瞬間、脇腹に二回目の蹴りが入れられた。

 それから四回、五回、六回――

 

「ッ!」

 

 二十を超える頃には、悲鳴さえ上げられなくなった。

 私は血反吐を吐く。胃液が逆流する。

 苦しい。

 

「ギャハハハハハハ!」

 

 私が動けなくなったのを見て、二人の魔法少女は笑った。

 

「これに懲りたら二度と近づかないでね!」

 

 そしてもう用は済んだとばかりに去っていった。

 私はポツンと一人になった。

 一人。そこは町外れだったから、誰も来ない場所だった。

 

「うぐ……ぐぅ……」

 

 そんなところで、私の意識はどんどんなくなっていく。

 涙が出た。強い力なんて私には何もなかった。

 特別だと思ってたけど、他の“特別”の前じゃただの……。

 

「ぐす……」

 

 これじゃあ何のために魔法少女になったのか分かりはしない。あの時助かったのに、また死にかけてるんだから。

 

 でも生きたかった。私は死にたくない。

 寂しいからまだ死にたくない。

 

「うう……ヒック……うう……」

 

 涙声を出しながら、私は何とか腕を使って、ずるずるとその場から張った。

 家に帰らなければいけない。

 こんなところにいたくない。それがどれだけ辛いことでも――

 

 だが、私は途中でバタリと倒れたらしい。

 そしてそこから先の記憶はない。

 

 再び気が付けば。

 私は高架線の下にいて、また別の魔法少女に囲まれていた。

 

「ねえ、大丈夫?」

「え? ……?」

 

 当然、初めは何が起こったかまったく分からなかった。

 しかし起き上がれば傷は元通り。ソウルジェムの穢れもなくなっている。

 私は助けられたのか? 

 

「貴女、道端で倒れていたんだよ。もう本当にびっくりしたんだから!」

 

 やはり私の推測は間違っていないらしい。

 何だかホッとして、私は心の底からお礼を言った。

 

「あ、あの……ありがとうございます」

「良いって良いって。気にしないで!」

 

 周りの少女達はにこやかに笑った。優しそうなので、ますます私は気を許した。こんな人達もいるんだなと。

 しかし――

 

「けどさ、こっちもタダで助けてやってる訳じゃあないんだよね?」

「え?」

「貴女新人だよね? この町の状況分かる?」

 

 状況って言われても……。

 

 私は首を振るしかなかった。

 この町のことを知ってはいるが。

 

 名前は牛木草だ。

 都会で、早島の隣にある町だ。私は三年前にそこに引っ越してきた。私にとっては普通の町でしかない。

 そんな町が、どうなっているというのだろうか。

 

「この牛木草には、二年前から魔法少女が急速に増え始めている」

「……」

「他の地域も同様なの。だから魔女の数は足りても、土地の数は足りなくなっている」

 

 謂わば魔法少女の飽和状態。しかも一気に増えたから今でも混乱状態が続いているらしい。そしてその状態のまま、派閥が分かれては消えていく。魔女の取り合いは生まれるし、グリーフシードを融通し合う奴らはあまりいない。

 手を取り合う精神がほとんど根付いていないのだ。

 

「だからね。他のグループとは魔女も取り合いなんだ。こっちとしても人手不足だし、私達のグループに入って欲しいの? 良いよね」

「それは……」

 

 私としても願ったり叶ったりだった。

 まさか縄張りなんて概念があるとは知らなかったし、一人でやっていけるとは思えなかった。

 何より……。

 

「ねえ、良いでしょう? 助けてやったんだから対価は支払うべきだよね?」

 

 あからさまに武器を向けられた。

 文字通り、従わなければ殺される……。

 

「は、はい……」

 

 私は頷くしかなかった。

 それに、集団のリーダーは満足そうに微笑む。

 

「うんうん、良い返事だね。じゃあさ、良い返事ついでに、まずグループへの上納金としてお金持ってくんない? 十万円ね?」

「!?」

 

 私は息を飲んだ。

 そんな大金手に入れられない。私のお小遣いじゃとてもじゃないけど足りない金額だ。

 

「まさか盗めってことですか?」

「魔法少女なんだから出来るよね?」

「……」

「嫌なら代わりに、グリーフシード五個取ってきてよ。それで許してあげる」

 

 拒否出来る空気じゃなかった。

 私は……承諾した。

 

 こうして私は、お金かグリーフシードを集めることになって。だけど、お金を盗む勇気なんて私にはあっただろうか。

 結局、誰かから何かを掏ることは出来なかった。

 ならもう、グリーフシードを取ってくるしかないんだけど、それだって弱いから簡単なことじゃない。

 他の縄張りに入って、追いかけ回されたり、殺されかけたり。

 何とか倒した魔女も、グリーフシードは落とさなかった。そうしているうちに、期限はとっくに過ぎていった。

 手に入れられた魔女の卵は――たったの一つ。

 

「えー、こんだけ!?」

 

 当然、リーダーからはそう怒鳴られて。

 

「信じらんないんですけど! こっちだって困ってるんだよ!? 分かる!?」

「……」

「もーちょっとさあ、誠意を見せてよ! 誰が助けてやったと思ってんの!? ほら!」

 

 リーダーが八つ当たりで攻撃してくる。私は避けきれず、まともに受けてしまった。

 

「グッ!」

「ほんっと……上のグループになんていやあ良いんだよ。私達だってお金とかグリーフシード、払わなきゃいけないの! アンタだってその役割を全うしなきゃいけないのよ? 分かる!?」

「……」

「また黙るの? アンタ、マジでムカつく奴だね」

 

 ……そんな理由でムカつかれても。

 そっちこそ言いがかりじゃないの。私は何も知らないんだよ?

 

 私はそう言ってやりたかったが、どうしても口にすることが出来ない。

 リーダーも、他の人達も、気に食わなさそうだ。

 

 ――それが原因だったのだろう。

 

 私はこのグループを追い出されることはなかったけど。

 次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。

 

 無茶な要求を突きつけられ、それが叶えられないと痛めつけられるようになった。

 

 ……私は魔法少女の社会で、いじめにいじめられていた。

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