魔法少女かのん☆マギカ   作:鐘餅

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少し久しぶりに書いた
※挿絵を追加しました


裏舞台・絶

 ――地獄の日々が続いていた。

 

 魔法少女の活動が長くなればなる程、牛木草という町の異常性がよく分かる。

 まず魔法少女の数がとにかく多い。他の地域も同じで、総数でいくと三百人や四百人いたっておかしくはない。

 

 だから魔女退治に行く度に、魔法少女と出くわす。

 不思議なことに魔女の数は足りてるんだけど、その分争いは頻発して、殺し合いが日常茶飯事。

 新しいグループが乱立しては消えていく。

 更には明確な序列があり、場合によってはグリーフシードやお金といった上納金を上のグループに支払う必要がある。

 

 払えなければ目の敵にされ、縄張りを没収されるのだ。

 それは魔法少女にとっての死活問題。死刑を宣告されるのと同じ。

 だから皆必死になってグリーフシードを取ろうとするし、そこでまた新しい争いが発生する。

 

 ただでさえ魔女との戦いは命懸けなのに、牛木草の状況は過酷そのものだ。魔法少女の心は荒れに荒れ、どんな酷い行いも強ければ許容される。

 

 逆にそれは、弱者は良いように扱われるということ。

 特に私なんかみたいな新人は尚更――

 

「――ギャッ!!」

 

 ――そしてその日もまた、私は痛めつけられた。

 誰に? 同じグループの魔法少女から?

 

 ――違う。

 私は使い魔にやられていた。囮として目の前に放りだされたのだ。

 おかげで散々嬲られて、今こうして酷い目にあっている。

 

 しかしその私の犠牲で、他の魔法少女は魔女へ攻撃出来ていた。

 やがてリーダーがトドメを刺す。

 結界は消えて、使い魔も魔女と一緒に消えた。やっと解放された私は、そのまま地面に倒れ伏す。

 

「ッ、………、…………」

 

 息が乱れている。正直危ないところだった。

 私はギリギリのところで助かったのだ。

 

 だが私の無事を喜ぶものはいない。

 私そっちのけで、仲間は出てきたグリーフシードの戦果に喜んでいる。いや……仲間ですらないか。だって私は良いようにイジメられてるだけ。

 おまけに。

 

「おい、ゴミ」

 

 こんな感じだ。ここでは名前を呼んでくれる人が誰もいない。

 

「さっさと立てよ、行くぞ」

 

 グループの人達は、早足でその場を去っていった。

 私はそれにフラフラとついていくしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 この頃の私の状況は、最悪と言っても良かっただろう。

 私が入ったグループは、牛木草の中でも最低な奴らの集まり。犯罪を犯し、平気で人から何かを盗み、お酒を飲んだり、煙草を吸ったりしている。

 そんな不良集団の下っぱな私は、正しく牛木草の最下層に位置する魔法少女に違いなかった。

 

 正直……どうすれば良いか、分からなかった。

 

 勿論、必死に現状をどうにかしようと足掻いてはいたのだ。

 

 強くなるため、隠れて特訓をした。

 何時間も魔法の研究をしたし、他のグループに入れないか、牛木草のことを調べていた。

 

 しかしそれでも。

 その結果、僅か一週間で、情報をまとめたノートが山のように積み重なったとしても――私はそのグループを抜け出すことが出来なかった。

 

 何故か。

 牛木草で一人で生きていくのは、不可能だったから。

 

 裏切ればどうなるか分からない。

 また縄張り争いをする余力が私にはなく、助けを求めたところで誰もが自分のことで精一杯だ。

 目の前で転がった魔法少女の死体を見て、私は逃げるのを躊躇ってしまった。

 

 それに暴力という名の支配で、服従心を植え付けられていた。

 何度も何度も何度も何度も――殴られ、蹴られ、いじめられる度、逃げてはいけないのだと叩き込まれる。

 

 離れようとすると足がすくむ。

 どうしようもなかった。必死に必死に……グループの人達に従って、そのくせ心の奥底で、実は私はこんな奴らとは違うんだと自分自身を慰めた。

 

 それはいつもの現実逃避だ。

 いつもの弱い私がそこにはいた。

 

 ああでも……そんな私を受け止めてくれる存在が、いれば良かったのに。

 

 ――なんとか家に戻って、扉を開ける。

 電気をつける。ゴミが散乱している。こんな疲れた状態で綺麗にするとか無理だった。

 そしてそのことを咎める人は一人もいない。

 誰もいない、私の自宅。

 

 まるで私の心の中を写しているようだ。

 母さんも、父さんも、兄さんも。いつもいつも全員仕事に行っちゃってて。相談しようにも電話をしたら忙しそうにして、すぐに切られて。

 

 期待したって無駄なんだって、私に突き付けてくる。

 毎日のことだから、もう涙も出てこなくなった。

 

 けど慣れっこな筈なのに、魔法少女になった影響か無性に寂しいなあ……とは思う。

 何故私は誰にも愛されないんだろう。

 

「……兄さん」

 

 私は小さく呟く。

 昔の家はこんなんじゃなかった。

 

 この町に引っ越す前、早島にいた頃。

 あの頃、いつも私の側には兄がいた。母さんも父さんも、時々家に帰ってきていた。

 だから、私は耐えることが出来た。

 

 寂しくても、大丈夫。

 兄がどれだけ憎くても、許すことが出来たし、好きでいられたし。

 

 でも牛木草に来て、中学に上がるようになってから……私が成長したためだろうか。

 いよいよ本格的に母さん達は私に会わなくなった。

 兄さんも仕事漬けの毎日。

 

 ……私は、引き留めることが出来なかった。ただでさえ私のせいで、母さんや父さんは仕事に集中出来なかったのに。私の我儘で兄さんがやりたがっていることを邪魔するなんて無理だった。

 

 私は兄さんの、重しなんだ。

 

 それを自覚しているからこそ、私は一人でいることを選んだ。

 

 いくら悲しい思いをしたって我慢。

 いくら嫌なことがあったって我慢。

 

 耐えられなくなったら、妄想の世界に引き篭もる。

 幸い、夢を見る自由は沢山ある。

 

 私は――

 

「……もう、眠ろう」

 

 今日も、早めに寝ることにした。

 この“現実”から目を逸らすように。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 けれど、そんな理想の夢の世界さえ、最近悪夢が多くなった。

 

 そこで私は嬲られ、焼かれ、殺される。

 使い魔や魔女にやられた記憶が延々とリフレインする。

 

 私はグループにおいてゴミ同然だ。毎回魔女狩りの度に囮として放りされて、肉壁として運用される。

 

 彼女らにとって私なんてどうでも良いから、代わりがいるから、そんなことが出来るのだ。

 私は痛い、痛い、痛いと泣き叫んだ。

 助けてくれる人も、寄り添ってくれる人も、誰もいない。

 

 家に帰っても、何もない。

 

 私が私でいて良い場所は何処にあるんだろう。何処でなら私は逃げられる? そう考えた時、場所が変わっていた。

 

 ――学校。

 

 そうだ。

 私にはまだ、学校という逃げ場所があるんだ!

 

 意気揚々と教室に飛び込んだ。

 私を見るクラスメイト達。

 

 私は思い切って皆に本当のことを話した。いつも隠している怪我だってみせた。私はこんなにも努力しているし、皆を助けてる。そんじゃそこらの奴より特別な存在だ。

 さあ私を褒めて、認めて、抱きしめろ。頑張ったねって言って。

 どうかどうか――そう思っているけれど。

 

「……え、何それ。冗談か何か?」

 

 クラスメイトの一人がそんなことを言った。他にもたくさん、たくさん、耳障りな言葉が聞こえてくる。

 

「お前それ本気か?」

「貴女普通じゃないわ」

「……その怪我、もしかして不良にいじめられてる?」

 

 私は立ち尽くすしかなかった。

 受け入れてもらえない。そもそも、ここでの私の立ち位置を思い出してみろ。

 

 私はすごい人の妹だけど、案外何にも出来ない奴。そんな奴が突然訳の分からないことを言ったとして……信じられるのだろうか?

 肯定されない。否定されるだけ。

 

「あ――」

 

 その瞬間――足元が、崩れ落ちていく感覚がする。

 それなのに私をそっちのけに、皆は兄の話ばかりする。

 

「夏音ちゃんのお兄さんって――」

「早島の――」

「こんなところまで名前が聞こえるなんて凄い――」

 

 ……本当だよ。何で早島じゃないのにこの牛木草でも名前が広まっているんだよ。おかしいだろ。そんな天才だとか何でも出来るとか、普通じゃない。

 私のいるべき居場所を奪って、そのくせ――

 

「……ッ!」

 

 その時後ろに気配を感じ、私は振り返る。

 いたのは私の兄。周囲は学校じゃない真っ暗な世界になっている。

 兄は思わずと言ったように呟いた。

 

「ごめんな」

 

 その謝罪に私の頭はカッとなった。

 いつの間にか手の中にあったハルバードを振り下ろす。

 

「うるさい! 黙ってよ!」

 

 兄は本物じゃないから、切り裂かれたら紙のようにペラペラになって、地面に落ちた。それでも私は、その兄に向かってハルバードを突き立て続けた。

 

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザク――

 

「消えてよ! 私を捨てたくせに!」

 

 叫ぶ。叫ぶ。叫びまくる。

 

 ここは私が自由になれる唯一の世界。どんなことをしても、どんなことを言っても許される。

 現実じゃないから、何をしたって良いんだ!

 

 ほら、例えばこんなことも言える。

 

「私ずっとアンタのことが嫌いだったの! アンタのせいで、父さんと母さんにも愛してもらえない! 皆にも!」

 

 頑張っても褒められない!

 どうせ私は優秀じゃないからガッカリされてる!

 

「お前のせいだぞ!」

 

 お前のせいで特別なんてのに憧れてしまった。

 

「ならせめて私を助けてよ!」

 

 見捨てないで、置いてかないで!

 

「私を一人にしないで!」

 

 そこで私の手は止まる。“兄さん”はもう散りのようになっていた。

 “兄さん”の苦しそうな顔さえよく分からない。涙が溢れて止まらなかった。本当は私にだって分かっていたのだ。

 

 兄は何も悪くない。悪いのは私、甘えているのは私。兄を理由に不満ばかりぶつけている私は悪い子だ。

 

「……ごめん。ごめんね」

 

 惨めに謝るしかなかった。嫌いになりたくないのに、妬みが生まれてしまうから、兄と兄妹であることは苦しかった。

 私は生まれてくるのを間違えたんだ。

 

 ……もしかしたら、今の状況ってその罰だったのかも。

 ――私って……何のために……。

 

「……」

 

 そして、私はそのタイミングで目を覚ます。

 なんて悪趣味な夢。最悪だ。

 

 しかも既に本当の学校にいる。

 お昼休みの時間は終わりそうになっていて、私は机に突っ伏し、まるまる眠っていたようだ。それを見ていたであろう友達達は、私を見て微笑んだ。

 

「あ、夏音ちゃん起きた?」

「ヨダレ垂れちゃってるよ」

「最近ずっと寝てばかりじゃない」

「……」

 

 ……私は一瞬、本当のことを言おうかと考えた。

 でも、私は彼女達に心を許してなんかいなかった。

 

 目が語っている。お前は無価値だ。有名人の妹のくせに、何だか冴えない奴だと見下されている目……嫌いな目だ。

 密かにギリっと歯を軋ませてから、私は顔を上げる。

 

「――何でもないよ?」

 

 ――何でもないフリを続けよう。

 

 誤魔化し続けるのは得意なんだ。なんせ私はずっとあらゆることから目を逸らしてきた。

 

 それにさ。

 

 どうせ現実は変わらないでしょ?

 私は特別になれないみたいだ。

 

 私は愚かにも、選ぶことを放棄し始めていた。

 その結果――何が起きるかなんて想像もせずに……。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 ――いつもと変わり映えのしない日々が、二ヶ月経った頃。

 日常に変化があった。

 

 グループ内に、新しい新人魔法少女が入ってきたのだ。

 ……私より一歳年下で、まだ中学一年生だった。幼い顔をしている子だな、と私は漠然と思った。

 

「こいつの教育をしろよ、ゴミクズ。良いな」

「はい」

 

 先輩に命じられ、私は後輩へと話しかける。

 

「そういう訳ですので……あの……よろしくお願いしますね」

「はあ……」

 

 私のえらく卑屈な態度を見て、その子はすごく面食らった顔をしていた。だが何れ、お前だってこうなるのだ。逃げられはしないんだ。私の胸中は、半ば嘲笑うような暗い気持ちで満たされていた。

 

 そうして私は、後輩へ戦闘訓練を行う。

 その子は筋が良かった。

 

 ――っへん。

 どうせ凡才様は天才様に勝てませんよーと捻くれながら、上辺だけは褒めてあげる。

 

「とても良い動きと魔法ですね」

「えへへ」

 

 後輩はチョロくてすぐに照れた。

 でも本当に良い魔法だ。赤いオーラを纏わせ、実体化させる固有魔法。

 便利そうな魔法で私が欲しいくらいだ。正直良いなあとしか思えない。

 

 しかし後輩は私の心を抉るように聞いてくるのだ。

 

「そう言う先輩こそ、何か魔法とかないんですか? どんな感じで戦うんです?」

「……私ですか?」

 

 私は手の中のハルバードを見つめる。

 果たして何と答えれば良いのか……実はこの時、私は自分の固有魔法を自覚していなかった。

 何もない私は、だからこそまともに戦うことも出来ない魔法少女だったのである。

 

 誤魔化すように笑うしかなかった。

 

「私弱いですからね。私なんかを知ったって何にもなりませんよ」

「……そうですか?」

「それよりさっさと強くなって下さいね。……出来るでしょ?」

「……はい」

 

 私の圧を受けて、後輩は戦闘訓練を再開する。

 私は心の中でニヤつく。それで良いのだ。お前が強くならないと私が困る。そしていざという時にはこいつを肉壁にするか、守ってもらうのだ。

 

 そんな最低の思いを膨らませ、私は密かに八つ当たりをしている。

 どうせグループの序列がある以上、こいつは私に付くしかない……こいつは私より下なんだ。

 罪悪感に目を向けないまま。密かに、密かに。

 

 ……その間にまた時間は過ぎた。

 やがて後輩も私と同じようになっていった。

 むしろ私より少し強いから最前線で戦わされている。思惑通りと言っても良い。こっちの負担も減って、私は満足だった。代わりに誰かが痛めつけられるのは、すごい愉悦だった。

 

 だけど……。

 

「先輩、先輩、先輩!!」

 

 何かあると、後輩は私に泣きつくようになっていった。私以外、側にいてくれる人がいなかったからだろうか? それとも私が年上だから?

 

 これって私は必要とされているのかな?

 

「はい、何ですか?」

 

 私は仕方なく話を聞いてあげていた。

 他にやることもなかったし、暇だったし。正直……嬉しかったんだろうな……とは、後から気付いたが、この時ばかりはただただ煩わしいだけとしか思えず。さりとて拒否も出来ないので、形ばかり慰さめていたように思う。

 それでも最後には必ず、後輩は救われたように笑うのだ。

 

「先輩だけですね。私のこと分かってくれるの」

「え……?」

「……先輩、私のためにありがとう」

 

 そんな感謝に溢れた笑みを向けられると、逆に私の心は沈んでしまった。

 違うからだ。私は何もしていない。やめて欲しかった……。

 

 やめて――

 

 だが結局本心を何も告げられず、その後輩との関係は続いた。

 そんなある日……呆気なくその関係は終わりを告げることになる。

 

 ――いつものように魔女狩りをしようと結界に入り……私達のグループは苦戦を強いられたのだ。

 

「ぐッ!!」

 

 当然私は早々に倒れて、戦闘不能状態だった。グループのメンバーも次々にやられていった。

 無理だった。この魔女は私達の手に負えない。

 

「あ――ああ……」

 

 今まで魔女にやられた記憶がフラッシュバックし、明確な恐怖が浮かび上がる。

 やっぱり私がこの時思ったのはただ一つのこと。

 死にたくない。これ以上痛い思いはしたくない。

 

 もうガムシャラだった。

 誰も私を見ていない今、簡単に物陰に隠れることが出来た。幸いにも、起き上がる体力だけはあって、逃げ出しても何も言われなかった。皆戦いに夢中で、私はこのまま――そう思ってこっそり外の様子を伺った時、後輩と目が合った。

 

「ッ――!?」

 

 後輩は私を凝視していた。

 先輩、私を見捨てるんですか、と言ったような気がする。

 

 私は否定出来なかった。だって私がやっていることってつまり、“そういうこと”だ。

 

 だがどうすれば良いという。

 どう選択すれば良い?

 

 ……今ならまだ間に合うかもしれない。いっそのこと後輩だけ連れ出して、他の奴らなんて見捨てれば良いんだ。少なくとも二人でいたら、この先も生き延びれる確率はグッと増す。

 

 でも――

 

「でもっ……」

 

 私はとっくの昔に諦めている。

 現実は変わらない。

 

 動いても変わってくれない。変われない。

 褒められなかった。愛されなかった。強くなれなかった。助けてもらえなかった。

 

 じゃあ、私が他人を無理に助ける道理なんて……ない筈だ。

 

 ……そうに決まっていて……。

 

 ………………。

 

 ………………………………。

 

 ………………………………………………いや。

 

 本当はそうじゃなくて……つまるところ……その怖くて……ていうか体が固まって動けなくて……あの……。

 

「――ッ、――ッ、――ッ、――ッ」

 

 ……そうやって心の中で言い訳をしている間にも、後輩はどんどん追い詰められていく。呼吸が荒い。手汗が酷くて、ガチガチと歯が鳴る。

 その内、後輩が転んだ。

 

 あっと、呟いた時には遅かった。

 

 パクリ、グチャグチャ。

 

 後輩は使い魔に捕食された。血とか、内臓とかが、飛び散るのが見えた。あの子の先輩って微笑んでくれた可愛い笑顔も、使い魔の腹の中に皆消えてなくなっていった。

 

 ……気が付けば私は、悲鳴を上げていた。

 グループの人達も、これには全員固まっていた。

 

 しかし、私はふらりと飛び出している。

 許さない。許さない。許さない。許さない。

 自分が許せなくてしょうがない。

 

 無謀にも後輩を食った使い魔へ突貫する。ハルバードに赤い魔力が宿る。あの子の固有魔法であるオーラ……何で私が使えているのか分からない。分からないままにオーラを槍の形で射出した。

 ――使い魔が倒れた。

 

 もしかしたら、初めて苦労をせずに倒せたかもしれない。

 だが私の限界はそこまでだった。バタリと倒れて……意識を取り戻した時、そこは元の場所だった。

 

 何が起きているのか分からなかった。

 

「起きたのね」

 

 聞き覚えのない声がした。見ると、高校生くらいの魔法少女。

 長い長い腰までの茶髪に、平凡な顔立ち。簡素なワンピース。情報と顔だけなら調べていて分かっていた。彼女は牛木草最強の魔法少女。

 名前は確か――

 

色梨(しきり)こゆりよ」

「……色梨さん」

「……別に、こゆりで言いわ」

 

 こゆりさんの顔は恐ろしいくらいに真顔だった。なんだか何も感じていないロボット見ているような感覚がした。

 

「貴女は見かけない顔ね。新人なのね」

 

 そうしてこゆりさんはポツリと呟き、しばらく何かを考えるように目を伏せて。

 

「――端的に言うわ。貴女のグループは壊滅した。あたしが来た時には既に、皆やられてしまっていたわ」

「……は?」

「貴女だけ何故か生き残っていたの。他の使い魔や魔女は皆貴女を避けてた。何らかの力が働いたとしか思えないくらいにね」

「……」

 

 何じゃそりゃ、嘘でしょ。

 

 何を言っているのか理解出来なかった。

 え、じゃあ何だ。私……皆を犠牲にして生き延びたのか?

 

 ……それって馬鹿みたいじゃないか……。

 

 私の目に涙が浮かぶ。そこで初めてこゆりさんは一瞬、同情するように瞳を振るわせた。

 

「……辛いだろうけどね。貴女は生きるしかないのよ、このどうしようもない現実を」

「……何で。貴女に何が分かるっていうんです」

「分からないわよ。そして貴女のことなんて分かりたくもないわ……あたし、貴女をこれ以上助けられないもの」

「ッ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 こゆりさんは告げる。私を見捨てるのだと。

 この人もまた、私を置いていくのである。

 余裕がないのだ。いくら強くても、私を救ってなんか……。

 

「……じゃあね。せいぜい、頑張りなさい」

 

 グリーフシードだけ置いて、こゆりさんはさっさと去っていった。

 まるで逃げるようだ。自己満足に助けて。

 

「くそ……」

 

 私は逆に惨めな気持ちになった。

 そして後悔の渦に飲み込まれた。

 

 私は……あの時何で後輩を助けなかったんだろう。

 あの子はもしかしたら、私と同じ気持ちだったかもしれない。

 助けて欲しい。認めて欲しい。寂しくて仕方がない。私が一番その感覚を分かっていた筈だろう? 私はあの子の居場所になってあげなかった。

 

 何でなんだ?

 

 私が全部諦めて選択しなかったばかりに――!!

 

「うう、ううううううううううううううううううう!」

 

 みっともなく泣き叫んだ。

 私は見方を変えれば、解放されたのかもしれなかった。

 でも大海に放りだれたような気分だった。

 

 私はこの罪を抱えて、どう生きていけば良い。

 教えてよ――誰か……。

 

 そう願っても、自分でどうにしかしないといけないのが“現実”。

 縋るものは何もない“現実”。

 

 私はその残酷な現実の前に、絶望するしかなかった……。




色梨こゆりさんは優しいですけどツンデレでマジ口下手
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