反省はしない
生き恥を晒し続ける
月に行こう、と約束した。
どこかのビルの屋上で、金色の飲み物を飲んで、箍が外れたように笑って、踊った。
今、わたしたちと月の間には何もない。それこそ本当に、手を伸ばせば届くほどに、月は大きくて近かった。寝転がったわたしたちに落ちてきたら、二人で一緒に死ねるのかな。
「ねぇちーちゃん」
「なに、ユー」
「死んだら何処へ行くんだろうね」
これから分かることじゃないか、と言いかけて、口を噤んだ。ユーが欲しがっているのは、そんな答えじゃない。
「きっと、素晴らしいところだよ」
「素晴らしいところ…」
「ああ、素晴らしいところ」
人は死ぬのが怖いから神を作った。あがき続けて縋り付いたこの世界の終末が、暗くて寂しいところだと思いたくないから石像に祈った。今になるとよくわかる。
「レーションもあるかな」
「いっぱいあるよ」
「さかなも」
「泳いでる」
こんな時でもユーは食い意地か。なんというか、ぶれないというか。
「ねぇちーちゃん」
「なに」
「手、握ってよ」
ぎゅう、とユーの手を握る。温かい。
「ちーちゃんの手冷たいね」
「ユーの手は暖かいよ」
「…んふふ」
ユーが手を強く握り返してくる。負けじと握り返そうと思ったけど、力が入らなかった。
「ちーちゃん?」
「大丈夫、起きてる」
「よかった」
いつ終わるんだろう。いつまでこうしていれば良いんだろう。死ぬのが怖い。生きたい。
「ちーちゃん」
「…」
「ちーちゃん?」
「…」
「ちーちゃんってば!」
「へぶっ!?」
いきなり頭を打たれた。
「ヘルメットがあれば即死だった」
「何言ってるんだよユー…」
「いきなり返事しなくなっちゃうから、私ちーちゃんが先に…」
「…ずっと一緒だから、安心しろ」
「そう、だよね」
ユーの方を向いて、笑おうとするけど、うまくいかない。あれ、ユーはどっちにいたっけ。
「ユー?」
右を見る。
「ユー?」
左を見る。
分からない。もう何が明るくて何が暗いのかもわからなくなっていた。
手を握っても何も感じない。ユーがわたしからすり抜けていく。
「ユー! ユー!!」
半狂乱で叫ぶ。いや、叫んでいるのかも分からない。
「ここにいるよ」
と、急に身体の自由が効かなくなった。抱きしめられていると気づくのに少しかかるほどに、わたしは疲弊していた。
「ユー」
「なに」
「わたし、怖いよ。死ぬのが怖い」
「誰だってそうだよ、たぶん」
感覚が鈍くなってきたけど、ユーが頭を撫でてくれているのはなんとか感じることが出来た。
わたしを安心させんとするその手は、しかし微かに震えている。
そろそろ、時間が来たのかもしれない。
「ごめん、もうだめかも」
「…ちーちゃん」
「…今までありがとね。わたし独りだったら、多分ここには来れなかった」
「わたしも、おんなじこと言おうとしてた」
「…ユーのくせに」
ユーの声が遠い。でもそこにいる。私の目の前に、ユーは居る。
身体が軽くなる。何も感じない、何も聞こえない。
最後に一瞬だけ見えた、風にたなびくユーの髪が、まるで月から零れた光みたいだった。
「さらば」