柚希結奈は勇者である   作:松麿

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一話

西暦2015年7月30日夜、鹿児島市桜島。

 

 

当時5年生の柚希結奈は3人の友達とともに桜島の神社の中で避難をしている。

 

 

ここ鹿児島では、旧暦6月にて行われる夏祭り「六月灯」で各神社や寺院で賑わうはずだった。

 

 

県営フェリーで桜島に向かい、そこの六月灯で賑わう最中急に起こった激しい地震で住民達は混乱し、逃げ惑うなかで神社にたどり着いた所だ。

 

 

結奈「ヒッ…!」

 

 

その地震は断続的に続き、ひたすら神社の中で崩れませんようにと祈りながら籠っていた。

 

 

「こんな地震、今までにあった?」

 

 

「多分ないわよ。もしかしたら噴火しちゃうレベルじゃない?」

 

 

「あり得そうで余計怖くなったじゃない!そう言うの話さないで!!」

 

 

友達の声が揺れる神社の中で飛び交う中、結奈はかなり怯えていて声を発するどころじゃなかった。

 

 

ガタリッ!

 

 

結奈「ヒィッ…!!」

 

 

地震の揺れで棚にあった物が落ちる。

 

当たることはなかったが、落下した音で更にビビった結奈は必死に瞼を閉じては耳を手で塞ぎ、この場を凌いでいた。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

しばらくして地震は収まり、崩れずに済んだ神社から友達が出て桜島を見てみる。

 

 

幸い、噴火に影響を与えていないようで安全だと察した友達は安堵する。

 

 

「はぁ~、噴火してないだけラッキーね。」

 

 

「でも、こんな揺れじゃ流石に市内が心配だわ。」

 

 

市内とは鹿児島市を指しており、桜島も鹿児島市にあたるのだが、いかんせんフェリーで渡らなければならないほど離れているために該当されていない。

 

 

「と言っても今のでフェリーは動いてないでしょ?」

 

 

「行ってみないと分からんね。おーい結奈、行くよ~?」

 

 

県営フェリー港へ行く前に神社の中で籠り続けている結奈を呼び出すが、応答はない。

 

 

「結奈…?」

 

 

心配になった友達が再び神社に入る。結奈は棚から落ちた落下物の前で座り込んでいて、何かを見つめているようだ。

 

 

「何見てるの結奈?」

 

 

結奈「これ…。」

 

 

近付いてきた友達に気付くと結奈は約40cm程もある棒状のような物を見せると同時に、それを開いた。

 

 

「赤い扇子?」

 

 

開いたその扇子は、両端の親骨とその間にある中骨を徐々に広くすることで扇面まで成しており、それを複数の布で繋いであるのが特徴となっている。

 

 

「あ、これって鉄扇じゃない?お父さんが趣味で持ってるのと似てる!」

 

 

鉄扇とは、その名の通り鉄でできた扇子の一種。

 

 

暗器・護身用として用いられた過去があり、現在でもコレクションとして持っている人達がいるとか。

 

 

長さ約40cmは鉄扇としては大きすぎるが、この神社へ奉納される為に作られたのだろう。

 

 

「いい物見つけたのは良いけど、それ神社の物でしょ?それは置いといて、今は早いとこフェリーに戻るわよ。」

 

 

結奈「うん、分かっ…ッ!?」

 

 

「結奈?」

 

 

結奈が立ち上がろうとした瞬間、急に頭を抱え込む。

 

 

友達はそれを見て少し困惑するが、スッと結奈は立ち上がった。

 

 

結奈「…なきゃ…。」

 

 

「え?」

 

 

結奈「早く行かなきゃ…市内の人達が危ない!!」

 

 

そう言った瞬間、結奈は急に走り出した。それを見た友達は驚きつつも、結奈を追う。

 

 

「どうしたのよ結奈!市内が危ないってどういう事!?」

 

 

結奈「皆はここで避難して!じゃないと巻き込まれて死んじゃうかもしれない!」

 

 

「だから何でなのって言ってるじゃないの!」

 

 

結奈「言っても冗談としか思わないでしょ!」

 

 

「はぁ??」

 

 

そうこう言ってる内にフェリーターミナルに着く。

 

 

中は騒がしく、あちこちに人が群がっている状態だった。

 

 

結奈「行きの便はどうなっていますか?」

 

 

事務員「ごめんなさい、フェリーは全部向こう側に行っててこちらに避難させてる真っ最中なの。」

 

 

「どういう事ですか?」

 

 

事務員「詳しくは分からないけど、さっきの地震で市内が大変な状況になってて、珍しくこっち側の方が安全だからってことで全便市内へ向かってるの。」

 

 

友達に嫌な予感が走る。

 

 

それだけ市内はかなりの被害が出てしまい、戻れる状況ではなくなった。

 

 

つまり、市内にいる家族の安否が分からなくなったのだ。

 

 

結奈「でも、市内へ行く手は他にあるんですよね?」

 

 

事務員「えっと確か…フェリーだけじゃ足りなくて漁協にも応援要請してたから…」

 

 

結奈「ありがとうございます!」

 

 

それを聞いた結奈は再び走り出す。

 

 

フェリー港の隣には漁港がある。もしかしたらまだ行ってない漁船があるかもしれない。

 

 

彼女は赤い鉄扇を握りしめて漁港へ向かう。

 

 

「ちょっと結奈ぁ~!」

 

 

それを友達が追いかけてくる。

 

 

「急にどうしたのよ、避難してだの死んじゃうだの言って!」

 

 

結奈「誰かが助けに行って欲しいって頭に響いたの。誰かは分からないけど!」

 

 

「だからって私らだけ置いてくなんて…」

 

 

その発言を遮るかのようにエンジンの始動音が鳴り響き、ライトが着く。

 

どうやら一隻の漁船が動き出すようだ。

 

 

結奈「うわぁー!!」

 

 

「早っ!?」

 

 

間に合えと言わんばかりに全力疾走で漁船に走り出す。

 

 

彼女の体力は比較的無い方だが、それを払拭する程に彼女の足が早くなった。

 

 

動き出した漁船が岸から離れる。

 

 

結奈「やぁー!!」

 

 

が、離れた所を結奈が飛び込み、漁船に乗り移った。

 

 

漁師「ちょ、アンタ誰ね!?」

 

 

結奈「ごめんなさいおじさん、私も市内へ行かせてください。時間が無いんです!」

 

 

漁師「あぁも~、アンタもあっちに行くんかい?ほら行っど!!」

 

 

戻すのが面倒だと思ったからかすぐに許してエンジンの回転を上げ、加速した。どうやら間に合ったようだ。

 

 

「結奈ぁ~!!」

 

 

乗り遅れた友達が漁港から叫ぶ。

 

 

しかし、息切れ状態の結奈は叫ばず手を振る形で返事をする。

 

 

漁師「ありゃアンタの友達かい?乗せんで良かったとかい?」

 

 

結奈「良いんです、桜島にいた方が安全ですから。」

 

 

勢いに乗り出して水上を滑るように走る漁船の上で呼吸を整えながら真っ先に鹿児島港を見つめる結奈。

 

 

何かを察したように漁師はそれから問わないようにした。

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

鹿児島港に辿り着くと、港の岸は相当な被害があったと伺える程に人で溢れ返っている状態だった。

 

 

それに対して水上の方はフェリーや漁船だけでなく、停泊していた海上自衛隊の護衛艦や民間の貨物船も、この事態を受け入れる様に人々を乗せていた。

 

 

漁船が接岸した後結奈は漁師に御礼を言い、飛び降りて漁船を後にする。

 

 

結奈(間に合ったかな?今は大丈夫そうだけど、何時襲われてもおかしく…)

 

 

「結奈ぁー!!」

 

 

するとまた結奈を呼び出す声が聞こえてきた。

 

 

それも声の主は男性で、結奈にとって聞き覚えのある声だ。

 

 

結奈「兄さん!?」

 

 

柚希佑哉(ゆすぎゆうや)。

 

 

10も離れた結奈の兄で、陸上自衛隊員の1人。

 

 

国分駐屯地で務めているとは聞いていたが、まさか鹿児島港に来てるとは思ってなかったようだ。

 

 

佑哉「無事か結奈!?六月灯(ろっがっどー)で桜島に行ってたんじゃ…。」

 

 

結奈「あはは…心配だったから戻ってきた。」

 

 

佑哉「心配だったからじゃねぇだろ!!もうこっちは危ねぇから大人しく船に…。」

 

 

「キャーッ!!」

 

 

「マタキタゾォーッ!!」

 

 

二人は声に反応してその方向に向く。

 

 

すると上空から無数とも言える星屑が鹿児島港に襲撃を仕掛けてきた。桜島の方が安全だと言える要因はアレにもあった。

 

 

それに合わせて自衛隊達が弾幕を張って迎え撃つのだが、イマイチ効いてるようには見えなかった。

 

 

佑哉「クソッ、アイツら…!」

 

 

佑哉は肩に掛けていた89式5.56mm小銃を抱える。

 

 

佑哉「いいか、絶対に近寄るな。船に逃げろよ!」

 

 

そう言い残して佑哉は人混みをかき分けながら最前線へ走り出した。

 

 

星屑の襲撃で住民は、死にたくない早く船に乗せろと言わんばかりに辺りはぎゅうぎゅう詰めになり、結奈はそれを脱するように兄の警告を無視して前に前にと掻き分ける。

 

 

結奈「兄さん…。」

 

 

結奈は察していた。

 

 

下手すれば兄まで死ぬと。

 

 

────────────────────────

 

 

一方、佑哉は迎撃に参加してありったけの弾幕を星屑達に浴びせていた。

 

 

しかし、命中は確認するも、ダメージが入った素振りを見せることなく自衛隊に襲いかかる。

 

 

隊員「クソッ、クソッ、クソォーッ!!」

 

 

弾切れになった小銃に銃剣をつけた隊員はヤケクソで星屑に斬りかかるも小銃ごと折られ、喰われた。

 

 

前に出た74式戦車も、星屑から砲塔を噛み砕かれ、その中の隊員達も喰い荒らされた。

 

 

佑哉「何だってんだよコイツらぁ!!」

 

 

あまりにも不利な形勢に後退せざるを得ない。

 

 

しかし、これ以上下がるとなれば住民に余計な犠牲を出すことになる為に、後退は許されない現状にあった。

 

 

喰い終えた星屑達が再び襲いかかる。効かないとは分かっていても小銃を抱え、撃ちまくる。そして、小銃から空回りの音が…弾切れだ。

 

 

佑哉「もう、ダメなのか…。」

 

 

成す術なく、戦意喪失で小銃を下ろす。

 

 

目前に迫る星屑に喰われると確信して下がることなく立ち尽くす。

 

 

佑哉「結奈、こんなバカ兄貴を許してくれ…。」

 

 

星屑が口を開き、佑哉を喰う

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォーッ!!

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいた星屑が何者かによって叩き伏せられ、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

佑哉「え…?」

 

 

 

 

 

 

 

星屑が消えた事にも驚いたのだが、それより

 

 

 

もっと驚いた事が…。

 

 

 

 

 

 

 

結奈「兄さん、ここは私に任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

そう、赤い鉄扇で星屑を叩き潰し、最前線に立つ己の妹結奈がいつもとは違う雰囲気を出して目の前に表れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

佑哉「結奈?おま…」

 

 

結奈「はあぁーっ!!」

 

 

佑哉の声を遮るように赤い鉄扇を振りかぶって開くと、扇面から炎が表れて大きく振り下ろす。

 

 

そこから飛び出した大量の火の粉は星屑達に襲いかかり、焼き尽くしていく。

 

 

炎が揺らぐ赤い鉄扇…その武器の特殊能力なのだろう。

 

 

結奈「貴方達の相手は…私だぁー!!!」

 

 

開いた赤い鉄扇を収束し、結奈は突撃する。

 

 

接近戦で噛みつく星屑に対し、束ねた鉄扇が鈍器となって叩き潰しては離れた星屑には逆に開いて炎を生み出し、火の粉を飛ばして数を減らしていく。

 

 

その光景を見た住民や自衛隊達は驚くのも無理も無い。現代兵器では通用しなかった天敵とも言える化け物をたった一人の少女が赤い鉄扇を持って立ち向かうその姿は、弱き者達を守る女神の様だ。

 

 

しかし、たった一人の少女が立ち向かう相手は無数の星屑。多勢に無勢とも言える状況で、じり貧になるのは目に見えていた。

 

 

隊員「諦めるな!あの女の子を援護しろぉ!!」

 

 

結奈の戦い様に士気を取り戻した自衛隊達が通用しない現代兵器を持って最前線に立つ。

 

 

結奈「自衛隊の皆さん、無理しないでください。もうその武器は…」

 

 

隊員「効かないのは分かっている。だが、お嬢ちゃんの為に敵の隙を作るにはちょうど良いもんだ!全隊員に告ぐ!これより我々は敵勢に牽制を行い、隙を作らせる!希望を見捨てるな、生きて帰るぞぉ!!」

 

 

『ウオォーッ!!』

 

 

柚希結奈という希望の為に自衛隊達は再び動き出し、弾幕を展開。それにつられた星屑達を…。

 

 

結奈「いっけぇー!!」

 

 

結奈が火の粉を飛ばして焼き尽くす。

 

 

自衛隊が敵を牽制しつつ、唯一星屑を倒せる結奈が撃ち落とす。

 

 

理に叶った作戦で星屑を殲滅していった。

 

 

 

───────────────────────────

 

 

 

星屑を殲滅後、自衛隊達は休む間もなくして住民の避難へ向かい、鹿児島港で誘導や支援に回っていた。

 

 

しかし、少し離れた所では街を見る結奈とその背中を見る佑哉という兄妹の姿があった。

 

 

佑哉「結奈…。」

 

 

結奈「もう、敵は来ないよね…?」

 

 

佑哉「あぁ、結奈の力で奴等に勝った。そして、多くの命をも救ってくれた。」

 

 

結奈「…。」

 

 

佑哉「結奈?」

 

 

結奈「…った。」

 

 

佑哉「え?」

 

 

結奈「怖、かった…っ……怖かったぁ……

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!」

 

 

兄に振り向き、涙をぼろぼろに流しながら抱き付いて泣きわめく。戦いが終わった事でようやく普段の内気でか弱き彼女に戻れたのだ。

 

 

自分の胸の中で泣きわめく妹の頭を撫でながら彼は思う。

 

 

佑哉(本来敵を追い払うのは俺達自衛隊の筈なのに、これからは結奈が中心となって戦わなくちゃならないのか…!)

 

 

まだ子どもでか弱き妹の結奈が戦場に出ざるを得ない。そんな現実に表情を曇らせる佑哉だった。

 

 

─────────────────────────

 

 

この日、鹿児島港の戦闘において柚希結奈という勇者が誕生した。

 

 

彼女の戦いは、始まったばかりである。

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