柚希結奈は勇者である   作:松麿

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四話-前半-

9月。

 

 

 

夏休みは過ぎ去り新学期を迎え、各学校は生徒達でいっぱいになっている。

 

 

 

保育園や高校等新設を含めれば20校近くあるのだが、小さな島に地元から県外まで幅広く集められた為に窮屈さはとても否めない。

 

 

 

無論結奈もその中の一人であり、鹿児島市から桜島へ移る際に不安は無かったわけではない。

 

 

 

しかし、三年という時を経てすっかり桜島の環境に馴染んだ結奈はその窮屈さにものともせず、今日も教室の中で休憩中に皆から囲まれた状態で話をしていた。

 

 

 

 

 

「そう言えば結奈って、変わったよねぇ…。」

 

 

 

結奈「え?」

 

 

 

「結奈が勇者様になってから化け物を倒したり、自衛隊と訓練に励んだりで忙しいでしょ?でも、そうしてる内にだんだんと淑やかになってきたというか、大人びてきたなぁって思ってね。」

 

 

 

結奈「そう、かな?いつも通りだと思うけど。」

 

 

 

「自覚は無くても皆からすればそうなのよ。あんなに内気でいざという時しか前に出たがらなかった引っ込み結奈が、すっかり一人前になっちゃって…なんだか寂しいわ~。」

 

 

 

結奈「いやいやいや、なに勝手に巣立ちされちゃったような事言うの…。」

 

 

 

「だってこんなに成長しちゃうなんて誰も予想しないよ。いつでも中卒しちゃって良いくらい頭良いわ体力あるわ、そして勇者として化け物どもを倒すわ。」

 

 

 

結奈「あ、あはは…。」

 

 

 

こうも誉められたら否定しきれず、笑うしかない結奈。

 

 

 

もはや今の結奈は勇者になった事で何もかも成長した為に昔のか弱き面影は無い。

 

 

 

その証拠として…。

 

 

 

「トドメにこんなものまで~!」モミュ

 

 

 

結奈「ひゃあっ!?///」

 

 

 

「チビでぺったんこだったアンタがこんなに大きくなりやがって~!」モミュモミュ

 

 

 

そう、まだ幼さが強く残っていた三年前の姿を払拭する程に結奈のスタイルはずば抜けて良くなっていた。

 

 

 

無論、たわわに聳える二つのマウンテンもあるわけで…。

 

 

 

「でも、これ以上の巨乳は校内にもいるわけだからねぇ。山でいうならローツェぐらいかな?」モミュモミュ

 

 

 

「いやそれ十分高すぎるわよ。」モミュモミュ

 

 

 

結奈「お願いだから止めて~!!////」ジタバタ

 

 

 

ローツェとはヒマラヤ山脈の一つで、その標高は世界第4位という高さを誇る。

 

 

 

その二つのローツェを女どもが無邪気に貪り、クラスの男どもはうらやまけしからんと見るばかりなのだが、この場で晒される立場にある結奈からすれば結構なダメージだ。

 

 

 

そうして教室が賑わう中…。

 

 

 

ウゥーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

 

突然のサイレンが桜島に鳴り響き、賑やかだった雰囲気が一気に凍る。

 

 

 

「えっ、襲撃?こんな時に!?」

 

 

 

結奈「ごめん、変身するね!」

 

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

変身するために二つのローツェを貪るクラスメート達を突き飛ばし、机に掛けている自分のバッグからワイヤレスイヤホンと一枚の半透明な薄紫色マントを取り出す。

 

 

 

「はぁっ…!!」

 

 

 

ワイヤレスイヤホンを左耳に嵌めた後、薄紫色マントに気を入れる。

 

 

 

すると薄紫色マントが生き物の様に動きだして結奈の全身を包み込み、蕾のようになる。

 

 

 

そこから開花するようにマントが開きだし、勇者姿に変わった結奈とその両手には赤いホデリと青いホオリの二丁鉄扇。

 

 

 

開花を魅せた薄紫色マントは結奈の両肩と背中の三つに別れて羽織られ、柚希結奈の勇者変身は完了した。

 

 

 

『おぉ~…。』

 

 

 

結奈「柚希結奈、参ります!」

 

 

 

変身に魅せられて感動の声が上がる中、教室の窓から飛び出すと同時にホデリとホオリを開いて炎と水を溜め込み、空中で互いのエネルギーを結奈の後方で合わせる。

 

 

 

結奈「いけぇっ!!」

 

 

 

すると合わさった事で水蒸気爆発を起こし、その圧力で一気に上空へと急上昇する。

 

 

 

これは空中に飛び回る星屑達の対抗策として炎と水による蒸気圧を利用した飛行方法であり、合わせ続けることでジェット推進として飛び続ける事が可能である。

 

 

 

勿論このエネルギーは莫大の為、移動手段だけでなく攻撃手段としても利用可能である。

 

 

 

「ひゃー、スクランブルになると人が変わるねぇ。」

 

 

 

「存亡を掛けた戦いだからね。歯痒いけど、それでも一人でどうにかしちゃえてるあたり憧れるわ。」

 

 

 

「だよね~。」

 

 

 

飛ばされた人からそれ受け止めた人まで結奈の話で盛り上がりはしたが…。

 

 

 

「…チッ」

 

 

 

憧れとは逆に不愉快に思う一部の連中もいるようだ。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

ある程度の高さまで来た結奈は桜島を基に方角を確認し、神託を受ける。

 

 

 

結奈(北東方向から30km先に星屑の大群がいるけど、今回はなにか違う。動きがやたらと不規則のような…。)

 

 

 

佑哉『こちら佑哉、聞こえるか?』

 

 

 

違和感を感じ取った瞬間にワイヤレスイヤホンから佑哉の声を聞き取る。

 

 

 

結奈の耳に取り付けたワイヤレスイヤホンは市販にあるものから各通信機関に対応できるよう改造されており、受信は勿論送信する際は音声入力で宛先を言うとその人又は施設に通信できる仕様となっている。

 

 

 

精度高い連携を行うのに必要だと佑哉が提案して開発し、今では戦闘に欠かせない通信手段として使っている。

 

 

 

結奈「こちら結奈、通信良好です。ただいま上空にて宮崎方向…北東方向30km先に星屑の大群を感知。同時に、その動きは不規則に飛んでいる模様。」

 

 

 

佑哉『こっちのレーダーでもそんな感じだ。ごちゃ混ぜになってて詳細が確認できないから目視でどうなってるか確認してくれ。俺達も急いでそっちに向かう。』

 

 

 

結奈「了解。」

 

 

 

上空で待機していた結奈は反応先に向かって飛び出す。

 

 

 

今までのとは違い、今回の敵は不規則に動いている為に接近するスピードは遅い。

 

 

 

結奈(でも、何だろう?早く向かわなきゃならない気がする。)

 

 

 

そう察した結奈は急げと言わんばかりに蒸気のパワーを上げて加速していった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

結奈「えっ…?」

 

 

 

星屑の大群を視認したとたん、結奈は目を疑った。

 

 

 

星屑が不規則に動いていた原因は星屑ではなく、他の所にあった。

 

 

 

それは…。

 

 

 

佑哉『何があった?』

 

 

 

結奈「あれは…戦闘機が星屑に追われてる!?」

 

 

 

佑哉『何、戦闘機だぁ!?』

 

 

 

そう、戦闘機と思われる機体が星屑の追撃に追われて、スピードを出しては旋回を繰り返して逃げているようだ。

 

 

 

これには佑哉とその周辺で聞いていた自衛隊達も驚きを隠せない。

 

 

 

佑哉『特徴は分かるか?』

 

 

 

結奈「えっと…エンジンが二つついてる事しか…。」

 

 

 

佑哉『北東の方角で双発戦闘機…まさか、新田原のF-15Jか!?』

 

 

 

F-15J、航空自衛隊の主力となる戦闘機だ。

 

 

 

それを配備する基地7ヶ所の1つに宮崎の新田原基地があり、そこから離陸したものでは無いかと思われる。

 

 

 

佑哉『結奈、すぐに星屑を倒せ。戦闘機の方はこっちから通信を掛けて誘導させるから任せろ!』

 

 

 

結奈「了解!」

 

 

 

結奈はその一言と同時に一気に星屑の大群へ加速して急接近。

 

 

 

挨拶代わりにホデリから高熱の炎を発生させては大量の火花を飛ばし、F-15Jを追う星屑達を焼き尽くす。

 

 

 

その機体に目を向けると、二人のパイロットも結奈を見る。

 

 

 

ヘルメットで表情は見えないが、恐らく何故こんな高度に人間がいるんだと驚いている事だろう。

 

 

 

そちらは兄達の自衛隊に任せるとしてすぐに星屑の方へ振り向き、再び蒸気を発生させて上昇。

 

 

 

迫り来る星屑達にビシッと右手のホデリを前に刺す。

 

 

 

結奈「ここから先は行かせない。貴方達の相手は、私です!」

 

 

 

接近して噛み付こうとする星屑達を結奈はホオリから高圧の水を発生させて振り上げ、星屑達を真っ二つに裂いていく。

 

 

 

ホオリは水を発生させる蒼き鉄扇ではあるが、ただ水を掛けるだけでは星屑にダメージを与えることはできない。

 

 

 

水を発生させるだけでなく操る力をも持っている事から、より高い威力を発揮する為に発生させた水を一旦圧縮させつつ、その一部から細く高圧の鋭い水流を発生させる。

 

 

 

これは、工作関係で使われるウォーターカッターと同じ原理を用いて発生させている。

 

 

 

その為、斬れ味抜群の水刃として星屑をバッサリと斬れる上に、それを用いたかまいたちを飛ばすことも可能としている。

 

 

 

攻撃範囲が広い火花のホデリと接近戦で力を発揮する水刃のホオリ、そして双方を合わせた強力な高圧蒸気。

 

 

 

それらを持つ彼女に死角は無く、ただひたすら噛みつきに迫る星屑の大群に結奈からすれば敵ではなかった。

 

 

 

結奈「はぁっ…!!」

 

 

 

双方の鉄扇を巧みに操り、空中にて次々と星屑達を火花で焼き尽くしては水刃で付近の星屑達を一斉に斬り裂く。

 

 

 

その繰り返しで星屑の大群はみるみるうちに数が減っていき、勝利は見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに見えた。

 

 

 

結奈「…!?」

 

 

 

巫女の力で何かを察した結奈は攻撃を止め、咄嗟に高圧蒸気を発生させて急上昇。

 

 

 

すると彼女がいたであろう場所は大量の弾幕、

 

 

弾幕…

 

 

弾幕!!

 

 

 

結奈「これは…!?」

 

 

 

少し経ってその場を埋め尽くすほどの弾幕は通りすぎたが、結奈は弾幕が来た方向に顔を向ける。

 

 

 

佑哉『気を付けろ結奈、戦闘機のパイロットによれば奴等は親玉がいて、そいつが新田原にまで追い詰めたらしい。名前はバーテックスって言うヤバい奴がらしいぞ!』

 

 

 

結奈「あれが…。」

 

 

 

佑哉の言う通り、ヤバい奴がそこにいた。

 

 

 

彼女の目に写るのは、サジタリウス・バーテックス。

 

 

 

バーテックスの乱入で星屑達を倒しきれずに残りがうようよと飛び回る中、それらよりも大型で二つの口を持つそいつが、結奈にとって初バーテックス戦の相手として立ちはだかる…!

 

 

 

四話-後半-に続く。


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