という態でお送りするオーバーロード二次創作SS集~王国編~

『カゴノトリ』・『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの厄々たる一日』・『森祭司は苦悩する』の、3本立てでお楽しみ下さい。


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『祝!アニメ2期放送開始記念SS~三光連斬バージョン~』

『カゴノトリ』

 

 

「・・・ひ、待機時間が長いというのもあれね。もっと働きたいわ」

 

溜息まじりに呟きつつ、彼女はソファに深々と全身をもたげ、天井を仰ぐ。

ユリ姉さん辺りに見咎められたら、はしたないと窘められそうな格好。

仮にもナザリック地下大墳墓が最高支配者より命ぜられた任務の最中に取るべき態度ではない。

 

というよりも、単に天井を眺めるだけが目的であるならば、彼女であれば、わざわざ“仰ぎ見る”必要などないはずなのだ。

 

それでも彼女には珍しく、その心情を表すような態度を取ってしまう理由はただ一つ。

ソファの背にだらしなくもたれ掛かったまま天井の模様をぼんやり眺めつつ、戦闘メイド、ソリュシャン・イプシロンは思う――

 

「帝国出身の大商人の我がまま令嬢と老執事」という偽装身分(アンダーカバー)を作り、セバスと共に、ここ、リ・エスティーゼ王国王都に仮の拠点を構えて早一ヶ月。

 

――することがない。と。

 

今現在、絶賛進行形で任務の真っ最中。

厳密には「することがない」わけはないのだが、では、果たして館で待機するしかすることのない現状で、勤めを果たす実感を得られるかといえば、不敬ながら否と答えざるを得ない。

 

到着した当初は、それなりに忙しくはあった。

王国内の主要な施設の下見を兼ねた、目ぼしい商人や組合への挨拶回りがそれだ。

 

セバスを伴う形で、主人として彼らに顔を売る。

 

目的は諜報活動であり、友好関係の構築も、その一環。

これを疎かにしては本来の活動自体に支障を来たしかねない。

慎重に、大胆に。自分達の価値を彼らに認めさせ、目を眩ませる。

 

しかしながら、完璧に過ぎてもいけない。

元来、ぽっと出の大商人というだけでも警戒されるに吝かでない立場。

その上で、非の打ち所が無いというのは、逆に相手に警戒感を抱かせ兼ねないのだ。

 

――"火"の無いところに煙は立たない。

 

逆に言えば、火は必ず煙を伴って起こるもの。

本来、完璧さを身に付けるには、相応の下積みがあってこそ。

その過程で然るべくして得た信頼やコネは、隠そうと思って隠せるものではない。

与り知らない他国の商人だとしても、一角の人物であれば、必然噂は広まって然るべきもの。

 

"噂に聞いた事も無い大商人"――これほど胡散臭い存在があるだろうか?と。

 

完璧であるが故に、逆に相手に警戒感を抱かせ、身辺を探られるなどの事態に発展しかねない。

だからこそ、求められるのは"よくいる"手合いの"そこそこ"の人物像。

しかしながら、見え隠れする財力は莫大なそれ。

 

それなりの利が見込め、何より組し易いと、相手側に思わせられれば上々だ。

 

自分に損がないのならば、警戒心など起こるはずもない。

か弱い子ども相手に警戒する大人などいないのと同じだ。

安心させ、食い付かせる。その甘い香りで獲物を誘引する食虫花の如く。

 

そういう面において、ソリュシャンは非常に長けていた。

「高慢ちきなお嬢様」という「設定」に極めて忠実に、奔放尊大に振舞いつつ、それでいて価値があるとみなした相手には、しなを作り、取り入り、関心を引き出す手管は、傍らに侍るセバスをして驚嘆する程見事なものだった。

 

言うは易いが、これは相当な芸当でもある。

ただでさえこの世界の知識が不足する中、こちらからの情報の提示は、より慎重にならざるを得ない。

無知と侮らせることと、無知が露見するのでは、その意味するところは天と地ほども違う。

 

ほんの些細な綻びが原因で、偽りの仮面が剥がれ落ちれば、そこで任務は失敗。

ナザリック側の切り札にして安牌でもある「暴力」という名のジョーカーも、今任務に限っていえば、その行使はゲームオーバーと同義。

 

ほんの数枚、限られた手札で挑むギャンブル。

そんな綱渡りにも等しい難行を、ソリュシャンは物の見事にこなしてみせたのだ。

 

結果として勝ち得た信頼、その大半は彼女の演技力の賜物といっていい。

その後の調査任務を、セバスが特に障害なく行えているのもそのお陰だ。

それ自体は、まぁ誇らしいことではあるのだけど・・・

 

自らの完璧さが故に、アジトとして借り受けた館での待機・警戒任務が、名ばかりのものになってしまっているのは、本人をして皮肉な結果と苦笑するしかない。

 

無論、探せば仕事はある。

館内の掃除などだが、しかしながらそんなものは、午前いっぱいもかからない。

ナザリック地下大墳墓第九階層のそれと比較する自体が不敬だが、例えば至高の御方の部屋の掃除をしようと思えば軽く半日は潰れることを考えれば、ウォームアップにすらならない。

 

この館とて、それなりには立派な作りであるし、部屋数もセバスと二人で住むには多すぎるほどではあるのだが、如何せん汚れる要素がないのだ。

 

体裁ばかりの生活はしているといっても、借り受けたアイテムのおかげで食事を取る必要はないし睡眠だって要らない。

結果、文字通りに埃を払う程度の仕事量にしかならない。

逆に空き部屋のドアを何度も開閉してみたり、用も無いのに館内をぐるぐる歩き回ってみたりの涙ぐましい設備保護・環境維持作業の数々は、傍から見れば、一体何の儀式かと勘繰られるだろう程に怪しさ全開だ。

 

こうなるとセバスの役回りが羨ましい。

自分の設定上の立場では、単身外に出るわけにも行かない。

 

(鳥かごに閉じ込められた深窓の令嬢・・・か)

 

むしろ鳥かごになってジワジワと嬲り殺しにする方が何ぼか愉快だ。

そういえば挨拶回り時、同席した相手側のご息女と会話する機会もあった。

これで、例えば当人も経営に関わっているとか、仕事絡みの話題であればまだしも、やれ何が趣味の、お茶がどうの、全く無関係で退屈な話を聞かされて辟易したものだ。それでいて、度々しゃしゃり出てくるものだから始末に負えない。

無碍にして本来の獲物の機嫌を損ねてもまずいし、下手に話を振って、こちらの無知が明るみになるのも馬鹿馬鹿しい。

ほぼ聞き役に徹さざるを得なかった事情もあったのだけど・・・・・・

 

まぁ、キャラ作りの一環として、大いに参考にさせて貰った点もあったとはいえ、あの鼻持ちならない高飛車なお嬢様が、そのキレイなお顔を酸で焼かれながら惨めに泣き喚き命乞いをする様を想像し、じゅるりと垂れた涎は、そのまま口元を伝い顎下の辺りで吸収される。

 

ソリュシャン・イプシロン。

その正体は、不定形の捕食型スライム。

物理耐性持ちで職業:暗殺者(アサシン)

好きな食べ物は「無垢な人間」

最近のマイブームはお前のような人間をじわじわと嬲り殺しにすることです!

よろしくお願いします☆

 

――そう言って、あの場にいた全員を食べてしまえたら、どんなにか痛快か。

 

しませんけど。

 

そんな任務の最中にある彼女にとって、最近の数少ない楽しみといえば、同じ戦闘メイドであるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータと<伝言(メッセージ)>で交わす世間話。

 

エントマは、セバスとの定時連絡を任されている為、そのついでにソリュシャンにも伝言を飛ばしてくれることが多い。

任務に差し障りのない程度のほんの短い時間、情報交換の建前で他愛もない世間話をするだけなのだが、館に篭もりきりの身には、有り難い息抜きになっている。

 

案外気を使ってくれてるのかもしれない。

ああ見えて、心優しく気の付く子だから。

それにエントマは、その汎用性の高い能力故に、様々な現場の補佐に八面六臂の・・・蜘蛛人(アラクノイド)である彼女の場合は八臂かも・・・活躍をしているようで、話題も豊富なのだ。

 

最近ではコキュートス様がやらかした話や、その少し前には、アインズ様のご不在を受けて急遽回ってきたゴブリン部族連合の殲滅戦にて、なんと戦闘メイド4人によるチーム戦が実現したなんて話も!

 

彼女の話し振りは普段と変わらず、ゆるゆるとしたものであったが、当日現場の楽しげな様子が目に浮かんできて、内心とても羨ましかった。

 

魔法火力役=ナーベラル

物理火力及び防御役=ユリ

後方支援役=シズ

特殊役=エントマ

 

というパーティー編成。

 

前衛両翼にユリ姉さんとナーベラル、最後衛にシズを置く逆三角を形成。

その中央にエントマが布陣して、全体の状況把握と適宜の戦術指示。

 

確かに数の差は圧倒的だが、そこは戦闘メイドの面目躍如。

本来の地力を発揮すれば、問題なく片付くだろう相手。

問題があるとすれば、情報漏れの観点から確実な殲滅が求められるということだろうか。

 

更に言えば、これはあくまでもアダマンタイト級冒険者、"漆黒"のモモン様に持ち込まれた依頼。

 

"漆黒"のモモン様は二刀を振るう戦士であり、その相方――まったく羨ましい限りだが――"美姫"ナーベは、第三位階の魔法を行使する魔法詠唱者。

その「設定」を余りにも逸脱した痕跡が認められることは、これまた正体を見破られる危険から避けなければならない。

 

全力戦闘が御方より許可されているとはいえ、種々の縛りを勘案すると、決して簡単な仕事ではない。

魔法的な監視による覗き見対策はもちろんのこと、念の為、周辺に隠密能力の高いシモベを配置することで蟻一匹這い出る隙間も無い包囲網を構築してあるとはいえ、万が一にも主人の経歴に泥を塗りかねない事態は避けなければならない。

つまりは、絶対に失敗は許されないという状況は、彼女達をして、寿命の縮まる思いだったという。

 

とりわけひどかったのはユリ姉さん。

すっかり一人称が「ボク」で固定されていたそうな(笑)

アンデッドをして極度の緊張状態に置かせるとは、さすがは至高の御方。

 

舞台は整い、いよいよゴブリンの一団との戦端が幕を開ける。

 

ゴブリン達が大挙して襲い来る。

それなりに統制は取れている辺り、なけなしの知性は伺えたそうだが、如何せん彼我の戦力差を予測できる程では無かったのだろう。

ナーベラルによれば、そもそも彼らは頭数の多寡でしか、それを判断できないらしい。

そして、単純な物量比を一瞥すれば、ゴブリンでなくとも、誰が「ゴブリン側の一方的な蹂躙」以外の予測を導き出せようか。

 

いずれにしても逃げられるのが一番厄介なパターンであり、最も危惧した展開であった彼女達からすれば、正に飛んで火に入る夏の虫。歓迎!ゴブリンご一行様とばかり、諸手を広げて迎え撃つに吝かであろう筈もなく。

 

そして慈悲は下る。

 

ナーベラルの範囲魔法が一発ごとに数十単位で敵軍を吹き飛ばし、消し炭に変えていけば、

裂帛の気合と共に放たれるユリの手刀は、群がるゴブリン達を撫で斬りにしていく。

正面衝突から、ものの数分と持たず壊走を始めたゴブリン達を、シズのスタン弾が案山子に変えていく。

 

吹き上がる黒煙と飛び散る血飛沫が交錯する戦場は、気が付けば掃討戦の様相。

 

終わってみれば地力の差は歴然の、「何もすることがなかった」とはエントマのぼやき。

更には「ユリ姉様。マジ、ユリ姉様」という謎のコメントも頂戴しました。ハッスルしたんだろうなぁ、ユリ姉さん。

 

それでも、繰り返しになるが、そこでの戦果がアインズ様の冒険者としてのお姿である“漆黒”のモモンの評価に直結するのだ。

重圧のかかる一戦だったろうことが、エントマの安堵混じりの声音から十二分に察せられた。

 

「いいなぁ」

 

別に戦闘をしたいわけではない。したくないといえば嘘になるが。

ただナザリックに、引いては至高の主人に、たしかな貢献を果たした彼女達を羨む気持ちは、彼の地に属する者であれば、誰しもが共通して抱く羨望だろう。

 

ソリュシャン自身、今現在就いている任務の重要性は理解している。

右も左も分からない世界で、正確な情報が持つ価値は計り知れない。

どれだけ巨大な力も、無作為に振るっているだけでは、その真価は発揮し得ないからだ。

最適な配置、最適な運用。適材適所も、全ては情勢の分析如何にかかっているといっても過言ではない。

そのための判断材料は幾らあっても困る事はないのだから。

 

(いや・・・)

 

ソリュシャンは頭を振る。本当にそうなのだろうか?

神算鬼謀の絶対主人であれば、その明晰な頭脳により、あらゆる未来を予測し、全ての事象を掌の上で弄ぶなど容易であるはず。それをしないという事は、つまり我々のような愚鈍な部下にも、働きを示す機会を敢えて与えて下さっているのかもしれない。

 

ソリュシャンは、やおら姿勢を正す。その通りだ。

待機時間が長いなどと、私は何と不遜なことを考えていたのだろう。

私の如き愚かなシモベに許されることは、頭を下げ、アインズ様よりご下賜される尊き命令を感謝しながら待つだけなのだ。

そして、その遂行に全霊を捧げるのみ。

 

先程まで抱いていた不満は最早無く、去来するのは、今現在絶賛進行形でその光栄に預る我が身の誉れ。

恍惚の表情で、ブルリとその身体を震わせる。

――その時だった。

 

ヌポン。

 

つい拘束が緩んでしまったのだろう。人間の腕のような物が、胸の谷間から浮かび出た。

 

シュウシュウと煙を立てるそれの、皮膚はすっかり爛れ落ち、ケロイド状に膨れた筋繊維と神経の隙間から骨が露見する。表面に付着した粘液がテラテラとぬめり、蝋人形を思わせる光沢を放っている。とてもそうは見えないが、しかし、微かに脈動する血管が、まだ息が在ることを示していた。

 

当然だろう。表面はひどい有様だが、循環器系を始め、中身は全くの無傷。それどころか、それまでの偏った食生活でボロボロだった内臓は、最低限度の栄養のみを供給される状態にあって、むしろ以前よりも良好な状態を保ってさえいた。

無論、その栄養は、自身の肉体が融解したものを流し込まれているのだが。

 

あれから一ヶ月。新記録である。

とはいえ既に意識はなく、半ば植物状態のそれは、たまに与える刺激に対しても、ピクピクと反射的な反応を示すのみだ。

それでも密やかなストレス解消として生き長らえさせていたが、最早今の彼女には何ら魅力を感じない、ただの肉塊に成り果てた。

 

体内の酸度を強める。

瞬間、筋が強張り、もがくように手足が蠢く様が感じられる。

しかし、それも抵抗ではなく、あくまでも刺激に対する反射でしかなかった。

 

急速に融けて無くなってゆく肉塊。

やがて、完全に溶けてなくなったのを確認すると、ソリュシャンはソファから立ち上がる。締め切っていた窓を開け放つと、爽やかな風が吹き込み、室内に満ちる刺激臭を払っていった。

 

「ご苦労様でした、ザック」

 

窓際で日の光をいっぱいに浴びながら、大きく伸びをする。

塞いでいた先程までと比べ、身体が軽くなった気がする。

気分も新たに、任務の遂行を誓うソリュシャン。

ふと眼下に視線を落とせば、そんな自分を凝視する通行人と目が合った。

 

(おっと、いけない)

 

慌てて姿勢を正すと、笑顔で手を振りながら、さっとカーテンを閉める。

令嬢に相応しくない、はしたない姿を見せてしまったろうか。

まぁあの程度であれば、特に問題はないと思うが。

 

「籠の中の鳥」――。

そんな呼ばれ方で噂の的になっている令嬢がいるらしいと、セバスから冗談混じりの報告を受け、頭を抱える事になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの厄々たる一日』

 

 

エントマ・ヴァシリッタ・ゼータは、思わず頭を抱えてしまう。

裏組織"八本指"の拠点から撤収間際に、シモベから予期せぬ報告を受けた為だ。

 

――地下室を発見したが如何致しましょうか?と。

 

(今日は厄日だ)

 

そもそもが、作戦決行直前に告げられた襲撃先の変更。

これがケチの付き始めだったのかもしれないとエントマは天を仰ぐ。

階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレと共に急遽指定された拠点に赴き、これを制圧。

館全体を植物で完全に覆い尽くし、密閉空間とした館内に殺人蝿の群れを放って一網打尽にする力技。

一日に三度しか使えない自身の切り札<蝿吐き>を使用してまで事を急いだのは、偏に作戦成功の肝が時間との戦いだったが故。

 

①館内の人間を掃討し

②"八本指"各部門の重要人物を捕え

③重要書類や金銭的価値のあるものを回収

 

これらを王国の討伐チームがやって来る前にこなさなければならない。

一分一秒とても無駄には出来ない事情があったのだ。

 

①については、ほぼ瞬殺。

②についても、運良く居合わせた館の主人の捕縛に成功。

良い滑り出しと思われたのも束の間、③の作業に思いのほか手間取ることになる。

仮にも王国の裏側を牛耳る一大組織の一部門が拠点。加えて、エントマ達は知る由もなかったのが、そこが組織の中でも隆盛傾向にある麻薬部門のアジトだったこともあり、保管されている文書や資料の量も相応に夥しいものだったのだ。

 

作戦主導のデミウルゴスからの指示は"可能であれば一切の痕跡を残さず――"。

もちろんその算段で臨んだものの、資料の山を前に甘すぎた見通しを即座に却下。

分類など論外、片っ端から手当たり次第のゴリ押しに思考を切り替えるも、これだけの分量となると持ち出すにも圧倒的に人手が足りない。

 

如何な卓越した戦闘能力を誇るシモベ達をもってしても、畑違いの単純な運搬作業には、様々な特殊能力も宝の持ち腐れ。

精鋭ともいえる彼らが大量の荷物を抱え、働きアリの如く館内と外とをせっせと行き来する様は傍から見れば実に滑稽なものだが、当人達の心境たるや余裕など一切無い、死に物狂いのそれであった。

 

この作戦の重要性。作戦指導のデミウルゴスの意気込みの程。何より今後のナザリックの世界征服の為の足掛かりになる重大な計画ということは、それ即ち絶対支配者アインズ・ウール・ゴウンその人へ貢献できる絶好の機会でもあるのだ。

エントマ含め、この場にいるシモベの誰一人として、手を抜こうなどという不届き者はいるはずもない。

 

とはいえ意気込みとは裏腹に、時間は刻々と経過していく。誰もが焦りの色を隠せない。

 

マーレの後を受け、現場の責任者を務めるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータに到っては、普段ののんびりとした雰囲気は既に無く、必死になってシモベ達を鼓舞し、それでも予定の時間内に、ようやくゴールが見えてきた段になっての「隠し部屋」発見の報。

 

"希望が大きくなれば絶望もまた大きくなるもの"・・・・・・、ブリーフィングの最中にデミウルゴスやシャルティアが笑いながら口にしていた、その時こそ特に思うところは無かったものの、いざ自分がその立場に立たされてみると、なるほど、えげつないが効果のほどは覿面だと感心してしまう。

 

片手に持ったままの、食いかけの骨付き肉を叩きつけなかった自分を褒めてあげたい心境ですらあった。

 

これで時間の制約さえなければ、よくぞ発見してくれたとお気に入りのグリーンビスケットの一枚も振舞うところだし、時間の制約さえなければ、ウェルカムサビ残とばかりに追加のお仕事に嬉々として励んだところだったろう。

――時間の制約さえなければ!

 

しかしながら、言ってどうなるものでもない。失った時間は戻っては来ないのだから。

かと言って見過ごすわけにもいかない。そこにどんな重要な物が隠されているか知れないのだから。

 

(ともかく確認だけはしておこう)

 

フタを開けてみれば、単に緊急避難目的の地下シェルターのような施設という可能性もある。

そんな淡い期待を胸にエントマが目にした光景は、果たしてマーフィーの法則も斯くや、何部屋にも細かく分けられたそこには、密輸品や違法らしき薬物が山のように詰め込まれていたのだった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

グラリとよろめき、半ば思考を放棄しかけたエントマに、シモベの一人が恐る恐るといった態で問い掛ける。

 

「・・・い、如何致しますか?」

 

 

 

「ドウシタライイカ分カンネェンダヨ少シハ黙レヨ!」

 

 

 

――なんて喚き散らせればどんなにか良かったか。

だが、エントマは誇りあるナザリック戦闘メイドが一人。至高の御方により創造されしNPCなのだ。

シモベに当り散らす不様を晒すなどと、ナザリックに属するNPCにそんなアホはいない。

何より現場の責任者たる自分が取り乱しては、作戦遂行どころではなくなるではないか。

 

深呼吸をし、冷静に考える。

 

とにかく問題は時間なのだ。

一番あってはならないのは討伐隊とのバッティング。

ここでナザリックが裏で動いている事実が露見してしまえば、何の為に王国の八本指討伐作戦を隠れ蓑に行動しているか分からなくなる。

安全か利益か――ナザリックの為に、どちらを優先すべきなのか?

 

一方で、まだ時間はある。ギリギリではあるが、まだあるのだ。

ならば最後まで諦めてはいけない。

諦めたらそこで作戦終了なのだ。

 

そうと決まれば行動は早かった。

先ずはデミウルゴスに連絡を取り、指示を仰ぐ。

現状の報告と、そして今後の行動方針について。

予定時刻をオーバーする可能性もあるが、問題はないか。

更に、各隊へ向けて同様の隠し部屋の存否について再度の確認を要請。

 

許可を取り付けると、エントマは改めて各部屋を検分する。

木を隠すならば森といおうか、どの部屋もごみごみとした荷物に紛れさせて、高額そうな物品を置くという姑息な隠蔽工作が行われていた。

ある程度は覚悟していたが、事ここに到って嫌がらせの如き徹底振りに、舌はないものの舌打ちをするエントマ。

しかしながら、先程と同様に根こそぎ運び出すには時間がかかり過ぎるように思えた。

この場合、多少回り道になっても選別をする方が総合的に効率がいいのではないか。

 

マーレが連れ去った館の主人と思しき人間がいれば簡単だったろうが、無いものをねだっても仕方ない。

とにかく手際よく行かなければ。

 

そこでエントマは思考を切り替える。

 

これは掃除だ。

人間の住み処と思えば業腹だが、今からするのは部屋の整理整頓。

 

整理整頓――その言葉に、胸の内に温かいものがこみ上げてくるのを感じた。

以前、宝物殿に行った妹――シズが、アインズから聞いたという話を思い出したからだ。

 

かの指輪を持たぬ者でなければ入ることさえ適わない聖域――宝物殿。

そこは貴重なマジックアイテムの数々が用途別に整然と並べられた、それはそれは荘厳な場所であったと、興奮気味に話してくれた。

そして、それを主に担当していたのがエントマの創造主である源次郎、その人だという。

 

エントマは嬉しかった。

 

彼女は、部屋をコーディネートしたりするのが好きだ。

といって、割り当てられた九階層の寝室は、ソリュシャンやシズとの相部屋だ。そうそう好き勝手には弄くれない。

理想は、地表部のログハウスだ。あそこであれば、餌を捕える為の巣も張り放題だし、もし許されるのであれば色々と手を加えたいと画策している。

しかし、あの場所もまた、自分以外の姉妹達も使う場所なので、今のところ、どちらも計画に留まっている。

 

それでも、いつかはそんな、自分好みに誂えた理想の部屋を持ちたいと願っている彼女からすれば、自らの創造主が同じ趣味を持っていたという事実は、何物にも代えがたい喜びだったのだ。

今はお姿を拝することは適わない、自分を創造してくださった至高の御方と繋がっているような気がして・・・・・・

 

懐かしい感情に浸り、落ち着きを取り戻したエントマは、改めて頭の中で段取りを巡らせる。

 

先ず小型の蟲を大量に喚び寄せ、それらを二つの班に分ける。

 

一つは廃棄班。

いくつかある部屋の一室を空け、明らかにゴミと思しき物は全てその部屋へ詰め込む係。

 

もう一つは配送班。

目ぼしい品を片っ端から表に運び出す係。

 

要/不要の別については自らが、あるいは、シモベたちに一任する。

ある程度は大雑把で構わない。細かい選別は、向こうに届けてからゆっくりと行えば良いのだから。

 

そうしてエントマ指揮下、シモベ達が、蟲達が、一斉に行動を開始する。

 

壮観だった。

通路を埋め尽くす小さな蟲達が整然と蠢く様は、床自体がスライドしているような、ともすれば、ベルトコンベアそのもので、まるで巨大な物流倉庫を思わせた。

 

各部屋から通路へ向けて無造作に放られた雑多な荷物が、動く床の上を転がり、振り分けられ、廃棄スペースへ、あるいは隠し扉の方へ送られて行く。

 

扉の外には別のシモベたちが控えており、受け取った物資を持ち運びのし易いようにまとめ、一括りに梱包する。

各部屋の検分を終えた者は、持てるだけのそれらを持って、速やかに集合地点へ撤収。

 

先程来から同様の作業をこなしていたこともあってか、慣れた手つきで、手際よく処理していくシモベたち。

結果、想定よりも短時間で、地下スペースはあらかた片付いたのだった。

 

 

 

大量の荷物を抱えた巨大昆虫たちが、重低音を響かせながら予定地に向けて飛び立つのを見送るエントマ。

 

すっかり意識の外だった、握り締めていた骨付き肉をゆっくりと頬張る。

仕事後の一杯よろしく、じんわりと口いっぱいに広がる芳醇な味わいは得も言われない。

骨以外を食べ尽くすと、それを建物に向かって放り、そしてペコリと一礼する。

 

人間の住居に頭を垂れるなど、ナザリックのNPCとして相応しい行動ではなかったかもしれない。

ただ、そういう気分だったのだ。

 

何しろ、食いかけのそれを忘れてしまうくらい、かつてない程に、エントマは精神的に追い詰められていたということなのだろう。

 

爽やかな開放感、仕事を終えた達成感、久し振りの満腹感。

そして何より、自らを創造した至高の御方――源次郎への感謝。

そんな万感の思いを込めた一礼だった。

 

色々と想定外のトラブルがあったが、無事に切り抜けられたのも、偏に源次郎のお陰だとエントマは確信していた。あの時、かの御方のことを思い出さなければ、きっとここまで冷静に事を運ぶことはできなかったかもしれない。

 

見上げる夜空に、彼女にとって最も尊き創造主の姿が浮かぶ。

今日の自分の成果を、源次郎様は褒めて下さるだろうか?

そうだといいけれど。

 

充実した気分のまま、鼻歌交じりに意気揚々、命令された場所へ移動しようと数歩ほど進んだタイミングで、エントマの感慨をぶち壊しにする声がかけられた。

 

「よぉ、良い夜じゃねぇか?」

 

 

今日は厄日だ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

『森祭司は苦悩する』

 

さて、とマーレ・ベロ・フィオーレは考える。

"ゲヘナ"の計画第一段階として、指示通りに一番偉い人間を連れてきたのはいいけれど、これから「アインズ様のご尊顔に唾を吐きかけた」ことに対する罰と、同時にナザリックへの忠誠心を植え付けなければならない。

王国を裏から支配するに当たって、彼らを手足として使うのが安全且つ効率的という理由からなのだが、どうしたものか。

罰は簡単だけど、忠誠心・・・

 

自分に置き換えてみる。

アインズ様を始め、至高の御方々に対する忠誠心を、例えば別の、人間の主人等へのそれに入れ替える。

 

「うーん・・・」

 

安請け合いしたつもりはないが、これは思ったよりも難題だ。

何しろ至高の御方の意に背くという発想自体が、彼にとってあり得ない前提。

あり得なさ過ぎて、そんなことを考えること自体が不快極まる。

いっそ目の前で、べそべそとすすり泣く人間に軽い苛立ちすら覚えるほどだ。

 

というよりも、至高の御方に尽くすことは極々当たり前のことだ。

それは自然の理に等しく、それが理解できないことが先ず理解できない。

これが知能の低いモンスターの類ならば納得もするし、調教も容易だ。

何であれば姉に助力を乞うことも。

 

しかし、この人間は組織の長という。つまりは、それなりの知識や教養は身に付けていて然るべき。

意思の疎通は可能で、理解できる頭があるのにそれをしないということは、要するに根っこから作りが違うということだ。

如何な森祭司として超級の域にあるマーレとて、植物の成長を促すことは出来ても、それを全くの別種に変化させることはできない。

言葉が通じることで深くは考えなかったけれど、それが即ち相互理解を意味するとは限らないのだ。

一見同じ言葉を話していても、ひょっとしたら全く違う意図として解釈されている可能性だってある。

似たような見た目で片や食用、片や毒物などという例は、自然界において珍しくない。

 

「許して欲しい」「何でも言う事をきく」「だから命だけは」・・・

さっきからこの人間が嗚咽交じりに訴える言葉の意味する所は、マーレにも理解は出来る。

但し、それが言葉通りの意味であるならば、だ。

 

この人間の言う「何でも言う事をきく」が、マーレの理解する「何でも言う事をきく」という意味ではないのかもしれないのだ。

マーレのそれと全然違う意味の、言葉尻だけは同じだけだとしたら・・・・・・

 

(困ったなぁ)

 

デミウルゴスが、この計画に並々ならぬ決意を持って臨んでいることは、彼の言動の端々からも、ひしひしと伝わってきた。

絶対に失敗は許されない。当然だろう。元より失敗などする気は毛頭ないが、だからこそ微々たる瑕疵すらも許容するわけにはいかない。

たった一個の菌が入り込んだことで森全体が侵食され、全てを枯らし尽くしてしまうなどということはあってはならないのだ。

 

最悪、これが森であれば土壌を洗浄し、木を植え直せば済むが、忠誠心となると、同じにはいかないだろう。

 

至高の主人であれば記憶操作を行える。

いとも容易く、この人間の中身を書き換えることも、絶対忠実な奴隷に仕立て上げることも可能だろう。しかしながら、この計画の完璧なる遂行をもって、失態続きの守護者の信頼を回復するというデミウルゴスの方針に照らせば、ここで主人の助力を仰ぐなど本末転倒も甚だしい。

 

(やっぱり、なるべく自分で考えないとダメだよね。でも誰かに相談するくらいならいいかなぁ・・・。でも計画の事は、余り他の人には話しちゃいけないんだっけ?)

 

いっそ皮だけ残して中身総取替えでも出来れば楽なのに・・・・・・

だったらドッペルゲンガーを使えば・・・・・・

でも、それだとナザリックの戦力を無駄に消費することに・・・・・・

 

(・・・・・・ん?中身?)

 

そこではたと手を打つ。

 

そういえば回復実験において、切り取られた手足は再生時に消失すると聞いたことがある。

これを"中身"に置き換えて考えれば、がらんどうになった身体に回復魔法をかければ、取り出した"中身"は消失――即ち、理屈の上では中身を入れ替えることと同義ではないだろうか?

 

(でもその過程で死んじゃったら元も子もないんじゃ?)

 

ニューロニストにでも相談しようか?

五大最悪の一人にして特別拷問官である彼――彼女であれば・・・・・・でも話が長いのがちょっと・・・・・・

 

その時、ふと、マーレの頭にある人物?の姿が過ぎる。

 

何故、その人物?が浮かんだのか。

五大最悪というフレーズからの連想、あるいはつい先程まで一緒だったエントマの印象が残っていた為かもしれない。

 

加えて、この人間の性別はたしか女性であり、その人物?こそは、姉を始め、ナザリックに属する女性NPC達が、ほぼ全会一致で「NO!」を採択する存在。

そんな理由もあったろうか。

 

いずれにしても悪くない。

まるで輝かしい光が空から降り注いだようだった。

これであれば罰にもなるし一石二鳥。最高のアイデアだ。

 

それに、その人物?は同じ森祭司(ドルイド)同士で親近感もあり、マーレにとっては話し易い相手だ。

計画の全貌を根掘り葉掘り聞いてくるタイプとも思えないし、その上で、こちらの意を汲んでくれそうな人格者でもある。

これ以上の適任者はいない。

 

そうと決まれば善は急げとばかりにマーレは人間、ヒルマの髪を掴むと、そのままナザリック地表部玄室の階段を下りる。

 

目指すは第二階層"黒棺(ブラックカプセル)"。

 




どうも肝油です。
週一のアニメが唯一の清涼剤となりつつある今日この頃ですが、オバロファンの皆様におかれましては、如何お過ごしですか?

今回はそんな二期合わせの掌編、とりわけ王都編絡みの三本立てでお送りさせて頂きましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか?
若干無理矢理なオチ揃いですが、本編では描かれない過程を好き勝手妄想するのも二次創作の楽しみということで、ご容赦下さい。




『カゴノトリ』
心象表現って難しいですね。
原作3巻末のエピローグが、ホニョペニョコ討伐から約一ヶ月後とのことで、大体それくらいの時系列の王都組のお話でした。
ゴブリン討伐云々は、4巻特装版のドラマCDの会話を参考に。
ルプーはカルネ村での仕事があったので不参加です。

『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの厄々たる一日』
エントマと源次郎の心の交流を描いた心温まるお話でした。
そういえばゲヘナの時に、不安要素の多いシャルティアが何故に選抜されたのか不思議だったのですが、それは建前の、実態は単なるゲート要員だったんすね・・・・・・(今更)

何しろ出来ない子と思われているからね!仕方ないね!!
そうとは知らず、張り切って駆け付けたであろうシャルティア可愛い!!

『森祭司は苦悩する』
マーレの子供らしい発想には、デミウルゴスもさぞやドン引k・・・感心したことでしょう。
あの時、誘惑するべく懸命にしなを作ったヒルマのそれを、マーレはどんな気持ちで見ていたのか考えると、心に来るものがあります。
とはいえ素直に命乞いをしたところで、というかどのルートを選んでも結果は同じだった気もする辺り、相手が悪過ぎたとしか。

でも彼女は優秀なんですよ!
マーレの性別を見抜いた、作中唯一の人間なんですからね!なぁ、ヒルマ!!


それにしてもアニメ面白いですね。
リザードマン編自体が面白いってのもあるんでしょうが。
見所多いですからね。ザリュースのヒーローっぷりだとか、ロロロの特攻だとか、クルシュは可愛いし。

あとエンディングのラナーが恐過ぎる。
ツアレおっぱい過ぎる。
謎の美女、美女過ぎる。



それでは、また次回作にてお会いしましょう。
肝油でした。

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