東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
絵のクオリティはいつも通りなので苦手な方はご注意ください。
side Renata Scarlet
──人里
本格的に冬を迎え、妖怪の私達ですら羽織るものが欲しくなる時期。
紅魔館の備蓄も厳しくなり、私とフィオナ、そして美鈴と一緒に、忙しい咲夜達の代わりに人里へと買い物に来ていた。どうして美鈴がいるかと言えば、暇そうにしていたから連れてきた。詳しく言えば寝ていたところを咲夜に見つかり、罰という名目上、私達の警護をすることになった。
本来は正体不明の敵に襲われ、狙いがフィオナだと分かっているのに外へ連れ出すのは愚策だろう。しかし彼女には不安を感じさせず、自由にしてほしいのだ。だからこそ敵に恐れず外へと出てている。
「いやぁー、初めてですね、こうしてレナ様やフィオナ様とおつかいに行くなんて!」
しかし当の警護役は相変わらず楽観的だ。もちろん私達からすれば堅苦しいよりは嬉しいが、また咲夜に怒られるのではないかと心配になる。私達が言わなければバレないとは思うけど。
「そうね」
「ですが買う物は薪や食料だけですよ。
他に何も買ってはいけませんからね。後でお姉さまに怒られます」
「レナ様から言えばきっと許してくれますよ!」
「何故買うこと前提なのです⋯⋯。本当に何も買いませんからね」
再度念を押し、店を探しながら歩みを進める。
いつも通り私はフード付きのコートを着用し、フードを被って陽から身を隠している。
フィオナと美鈴も同じような服を着ているから、傍から見れば家族に見えるだろうか。悪くは思わないが、美鈴よりも年下に見られるのは⋯⋯。
「あっ、レナ様、前!」
「え──きゃっ!? す、すいません!」
考え事をしていたこともあり、誰かとぶつかってしまった。
どちらも転ぶことはなかったものの、私は慌てて頭を下げる。
「⋯⋯いえ。
「いえいえ⋯⋯え、妖怪さんです?」
ぶつかった人は幻想郷では珍しい褐色肌で銀髪と赤い目を持つ少女だった。少女と言っても私よりは背が高く、着物を身に纏っているせいか大人っぽい。そして頭には人ではないことを表すように、2本の黒く小さな角が生えている。
「お前達と一緒にしないでください。
「えっ、すいません⋯⋯」
「む⋯⋯レナお姉ちゃん達を馬鹿にしないで」
上から話す態度に腹を立てたのか、私と少女の前にフィオナが出る。
身長差が大きく、子どもが大人に怒っているようにも見える。
「人間が何を⋯⋯え、人間ですよね?」
「人間だよ?」
「⋯⋯よく見れば貴方達はこっち側の者ですか。変な人達ですね。
次に会うときはよろしくお願いします」
突然態度を和らげたかと思うと、微笑ましい笑みを浮かべる。
まるで懐かしむように私やフィオナを見つめ、別れを告げるとそのままどこかへ去っていった。
「レナ様、私だけスルーされました⋯⋯」
「よしよし。私達家族は無視しませんから大丈夫ですよ」
「変なお姉さんだったね。ボクは嫌いだな。レナお姉ちゃん達を馬鹿にしてたから」
去っていった方向を見つめながら、フィオナは子どもらしく口を膨らませて話す。
私のために怒るのは懐いてくれた証拠だが、会って間もない人に対して好き嫌いを決めるのはいかがなものか。確かに変な人だったけど、もしかしたら本当はいい人かもしれない。
「⋯⋯って、早く買い物を済ませましょうか。早く帰らないとフラン達が怒ります」
「そうですねー。フラン様やルナ様は怒ると大変ですからね」
「そうなの? 怒るところは見たことない。一度見てみたいな」
「後が大変ですので本当に怒らせないでくださいね⋯⋯」
フィオナに釘をさし、お店を探して再び人里を回り始めた。
必要な物は買い揃え、家へ帰ろうと人里の出口へ向かっていた。
里の中で飛んだり空間転移を使うわけにもいかず、必ず外へ出る必要があるのだ。
「人里には色んな物がありますねー」
「ですね。⋯⋯それにしてもミアの人脈広すぎません?」
買い物中、何度かミアと間違えられて声をかけられた。
人違いだと話して自分の名前を言うと、ミアの妹という認識で見られ、
「私も仕事中に妖精と遊んだり、手合わせしたりしてますから負けてませんよー」
「仕事力では負けそうですけどね。⋯⋯彼女も仕事してませんけど」
「──大変だぁぁぁ! 火事だぁぁぁ!」
美鈴と談笑していると、突然大きな声が上がった。
その数秒後にはどこからか爆発音も響き渡った。
「か、火事? ⋯⋯美鈴、フィオナ。少しいいです?」
「うん、いいよ」
「はい、もちろんいいですよ。西方向、40m先に煙が上がり、謎の霧が広がっていますね。⋯⋯その付近に邪悪な気を感じます。レナ様、おそらくは人為的な火事かと」
「なるほど。⋯⋯でもまずは鎮火ですね。急ぎますよ!」
急いで美鈴の言った場所向かうと、いつの間にか薄い霧が辺りに広がっており、さらには火の手が上がる建物が見えてくる。その燃え方は明らかに自然ではなく、炎はまるで生きているように動き、近くの建物をも燃やそうと火の手を伸ばす。
「燃えろ燃えろ! アインの炎は地獄の炎だい!」
そしてあからさまに炎を操っている者が燃える建物の上で元気よくはしゃいでいる。
霧の中でも見える炎のような赤い髪目を持ち、自分に燃え移らないようにか胸などを隠すだけの面積の小さな鎧を着ている。手には火がついた松明を持ち、右肩には猫の頭が三つ付いた奇妙な装飾品を飾って、大きな蛇にまたがっている。
「町火消と巫女を呼べ! 火事だ! 妖怪の襲撃だ!」
その妖怪や燃える建物の周りには野次馬が集まり、見世物のようになっている。
この中で私が妖怪という正体をバラして倒すのもいいが、そうすればミアに迷惑がかかる。
「⋯⋯雲よ集まれ」
ひとまずソロモンの指輪を使って天候を操り、雨を降らす準備はできた。だが降らせば私自身の動きが鈍るし、例え炎を消せても、出火原因である妖怪をどうにかしなければ──
「⋯⋯奇遇ですね。二度会うことになるとは思いませんでした」
「えっ?」
「あっ、さっきの人ですよ、この方!」
背後から声をかけられ振り返ると、そこには先ほど出会った褐色少女がいた。
何故か手には花のような和菓子を持ち、美味しそうに食べている。
「名前を言ってませんでしたね。ヒメとお呼びください。ここでの名前です。
⋯⋯大変そうですね、人間達は」
「そうですね。って、気軽ですね。⋯⋯饅頭です?」
「ねりきりです。美味しいですよ。
でも景色が悪いですね。火は好きですが、和菓子屋が燃えるのは好きではないです」
と、ヒメが燃える建物を見つめていると、雨も降っていないのに炎が鎮火し始めた。
一分も経たないうちに炎を消え、後には燃え尽きた跡だけが残る。
「あぁん!? なんで消えてんだ!?」
それを見ていた妖怪は驚きを隠せず、原因を探るように辺りを見回し始めた。
そして私達のところで目を止め、睨みつけるような目をする。
「⋯⋯やっぱお前かよ。今のはなんの魔術だァ!?」
「ボクが見られている気がするから言うけど、今のはボクじゃない」
「⋯⋯貴方は正体がバレるのは嫌いますか。分かりますよ、その気持ち。
ですがそうも言ってられません。記憶操作は面倒ですが、人里を失うわけにはいきません」
ヒメの身体が赤く光り始め、形を変え始めた。
どんどん大きくなっていき、2mほどの巨体となる。身体より大きな翼、棘のついた尻尾を持つ、西洋でよく見る四本足の赤黒い竜へと姿を変えたのだ。
『人よ、敬え。妾は幻想郷の最高神、龍であるぞ』
「⋯⋯いや、いやいやいや。龍!? あ、あの⋯⋯龍です!?」
『敬えと言っているだろう。⋯⋯いや、お主はいいか。妾は同族嫌悪をしない』
龍は周りで騒ぐ人間や私達などお構いなしに、敵へと向き直る。
「なんだァ!? 龍公の仲間かァ!?」
『悪魔と一緒にするな。人里を襲ったその罪、痛みで償え!』
ヒメは翼を広げて飛び上がり、その巨体からは想像つかない速さで妖怪の背後をとる。
振り向く暇を与えず、爪で妖怪の身体を切り裂いた。
「あァ⋯⋯!?」
『以水滅火だな。お前如きでは相手にならん』
「ちっ⋯⋯燃えろ燃えろ! アインの炎は⋯⋯なァ!?」
『地獄へ帰れ』
炎を出そうとしているのか松明を振り回すも、炎が出る気配は一向に感じない。
妖怪は動揺する隙をつかれて更に追撃を受け、傷を負った妖怪は地へと落ちていった。
『──燃えろ!』
「あァァァァ!」
追い討ちと言わんばかりに落ち行く妖怪にヒメは炎のブレスを浴びせる。
妖怪は苦しそうに悶え、大きな断末魔の叫びを上げていた。
「⋯⋯っ。ちょ、ちょっと! そこまでやらなくても⋯⋯!」
傍観しかできなかったが、流石に一方的に攻撃していてはどっちが悪者か分からない。
それに見たところ死者は⋯⋯。
『ダメだ。確かにお主が思うように死者は出ていない。
だが幻想郷は人里あってこその世界。バランスを崩すような輩には──』
「レナお姉ちゃんの言う通りだと思う。だからお願い。そこまでにしてあげて。その妖怪もそこまでやられたら、何もできないと思う。それに⋯⋯もう何もできないから」
フィオナの言葉で地に落ちた妖怪に目をやると、黒く焦げた妖怪がそこにいた。
徐々に回復しているのか焦げ跡は消え始めているが、明らかに戦う力は残っていない。
『⋯⋯久しぶりに戻ると力の制限が分からんな。確かに何もできないようだ。
──では楽にさせてやろう』
「えっ、ちょ⋯⋯っ!」
止める間もなくヒメは妖怪の下へ舞い降り、その爪で妖怪の首を切り裂いた。
すると霧は消え、その妖怪も呆気なく砂のように散っていき、姿を消す。それを見ていた野次馬達は神を崇めるように歓声を上げ、頭を下げる。
『案ずるな。死んではおらん。いや、死にはせん。元の世界へ戻っただけだ』
「で、でも⋯⋯!」
『何度か会ったことがあるだろう? 霧とともに現れる悪魔を。
あれらは死なん。殺してもその本元が消えぬ限りは⋯⋯。いかん、忘れておった』
ヒメは辺りを見るように首を回すと、思いついたように口を開く。いや、口を開くとは言ってもそれから声が聞こえているわけではなく、まるで直接脳内に響いているように声は聞こえている。
『お主達、背に乗れ。妾の認識阻害は対象を細かく指定できんのでな』
「は、はぁ⋯⋯?」
「龍に乗れる日が来るとは思いませんでしたね! レナ様、ここは乗りましょう!
こんな機会は一生に二度とないですよ!」
「美鈴は乗り気ですね⋯⋯。分かりました、言う通りにしましょう」
ヒメの指示に従い、自分達を有耶無耶にした上でヒメの背に乗る。
全員乗ったことを確認すると翼を広げ、空へと羽ばたく。
「今の状態で有耶無耶にできるの、その形の何か、までなのですよね⋯⋯」
「なら大丈夫だと思う。騒ぎにはなっているけど」
『心配するな。今から認識阻害を使うから大丈夫だ』
ヒメがそう言った瞬間、先ほどまでいた場所で何かが光った。
あれが何かは分からないが、ヒメの言葉を信じるなら認識阻害の何かだろう。
『だから信じろ。本当は話すつもりがなかったことをお主達に話すと言っておるのだからな』
「⋯⋯何を話すのです? あと私の心を読んでません?」
『同族の心を読むのは容易い。⋯⋯話すのはお主達に関係のあることだ。
特にその白い子にな。まあなに。降りてからのお楽しみだ』
そう言って向かう先は、紅魔館の近い霧の湖だった。
私達の家が見えてくると、ヒメはそこへと降り立つ────