東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
コラボ後編となります。まあお暇な時にでもごゆっくり。
side Renata Scarlet
「あら、フラン。起きてきたの?
今ちょうどさとりからたこ焼きを貰ったから一緒に食べましょうか」
「⋯⋯⋯⋯」
何も知らないお姉さまは、笑顔でそう話す。
それは今持っている物を食べると酷いことが起きようとは思っていないからだ。
もし知ってしまえば⋯⋯想像に難くない。
「エクレアもあるので口直しが必要でしたらどんどん食べてくださいね」
「わーいエクレアだ」
「⋯⋯怖いなあ、色々と」
全てを知っている私に、これから起きることを想像するなんて簡単過ぎる。
絶対に私が怒られることは目に見えているんだから、このまま逃げよう。
「え? 何か言ったかしら?」
「いえ、何も言ってませんよ。では私はお先に⋯⋯」
「私も行きますね」
部屋を出ていこうとしたら、さとりも後を付いてきた。
確かに犯人はさとりだが、彼女を連れてきた私が責任を負う気がする。
「二人ともどうしたのかしら…」
「そんなことよりお姉さまたこ焼き食べましょう!」
「そうね……」
そうして自分の部屋へ逃げ帰っている途中、お姉さまの部屋から悲鳴が上がった。
それでも振り返らずに部屋へと急いだ。
少女移動中
部屋について間も無く、怒りに顔を真っ赤にしたお姉さまが大きな音を立て扉を開けた。
「げっ、もうバレましたか⋯⋯。
さとり、この場は任せますね。私は罠カード、緊急脱出とかで一足先に失礼──」
「逃げたら後で弾幕ごっこです……」
「さとり!? ちょ、ちょっと、私はまだ逃げれてない⋯⋯あっ」
そう言いながらもさとりはいつの間にか走って逃げ出していた。
逃げる機会を失った私は誰かに肩を掴まれる。
「レーナー?」
もちろんその誰かとはお姉さまだった。
怒りに顔を真っ赤にしている。
「さ、さとり! 元凶はあきゃぁぁぁぁ!」
「逃げる準備に時間がかかってたら本末転倒ですよ…」
そして私がお仕置きを受けている最中、さとりは安全な距離で見ているようだった。
完全に囮にされたようだが、私はどうやって逃げ⋯⋯れないか。流石にね。
「あなたもこれ食べてみなさい?ちなみに私は当たりを引いたけれどフランは辛さで火を吹いてたわよ」
「やっぱり私の魔法、作る時間があることが難点ですね。ええ。
とりあえずおやめくださいお姉さま。死にます。辛いの食べたら死にます。⋯⋯あ、本当にやめ⋯⋯」
無理矢理口を開かされ、赤いたこ焼きを入れられる。
口の中でとてつもない辛さが広がり、自然と涙が出てきた。
「かっ!? あ、ああ⋯⋯わ、ぁあ!?」
「そこまで辛くしたつもりないんだけれど……」
さとりはそう言うが、これは辛いなんて比じゃない。辛いのだけど、もはや辛さを超えている。
助けが来ないと分かっていても、私は叫びを上げ続けるしかなかった。
「むり! ほんほにむり! わひゃひ、からいのむり!」
「ねえレナ…私思うの。少し妹を甘やかしすぎなんじゃないかって。だから後2つ食べれば許してあげるわ」
「ふぁい!? 何をしゅ!? ⋯⋯あ、かんかくがなくなってきた。これならだいじょ⋯⋯ばない! からい!」
そうして結局最後まで辛い物を続けることとなる。
少女休憩中
「口直しでアイスもらってきたんですけど食べます?」
解放されるも、辛さでまだ口の中が痛む。
そんな時にさとりが来て、アイスを差し出してくれた。
「⋯⋯有り難くいただきます。
死ぬかと思いましたよ。⋯⋯あの人になら別に構わいませんが」
「かなりきわどい発言ですね……レミリアが聞いたら勘違いしますよきっと」
「? あ、ああ。確かに死んでほしいとは思ってないでしょうね。また怒られそうです」
お姉さまは私がネガティブになることを嫌っている。
自分まで暗くなるから嫌らしい。
まあ本当は心配してくれていると知っているから、私もしないようにしていた。
「……レミレミのこと好きですよね」
「はい、好きですよ。この世で一番大好きです」
「……あの、一緒に寝たりしましたか?」
「姉妹ですし、何度かありますよ。お姉さまと一緒なら安心して眠れます」
どうしてさとりはこんなことを聞くのだろう。
何か気になることでもあるのだろうか。
「ホッとしました…恋愛的な意味で好きってわけじゃなかったようですね」
「いえ、恋愛的な意味でも好きですよ。だってお姉さまは優しいですから」
「そ…そうですか…」
さとりは珍しく困惑した表情を見せる。
おかしなことでも言っただろうか。いや、別に何もおかしくはないか。
「そう言えばさとりもこいしがいますよね。やっぱり好きなのです?」
「んー…家族として守るべき存在ではありますから好きという感情で括るのであれば当てはまりますね。ですがそこに恋愛感情があるかといえばそれは否定。でもだからといって好きじゃないわけでもないし……言葉にするのが難しいですね……」
「ふーん⋯⋯ちなみに私はどうです? 好きな方です?」
やっぱり仲のいい姉妹だからといって、全くの好きという訳では無いらしい。
それはともかく、自分のことをどう思っているのか少し気になった。
結局は知的好奇心、ただの興味本位なのだけど。
「…え?え…いきなりどうしたんですか?」
「いえ、ただ気になっただけですよ。それで、私のことはどう思っています?」
「あ…えっと……その…あう」
何を動揺しているのか、顔が赤くなって目が泳いでる。
もしや体調でも⋯⋯。
「ちょっといいかしら。さっきはごめんなさいね。少しやり過ぎ⋯⋯えぇ!? な、何してるの!?」
「あ、お姉さま。何もしてませんよ?」
などと考えていると、お姉さまが部屋へと入ってきた。
どうやらさっきのことを悪く思っていたらしい。
「う…レミレミ助けてください…寝とってきそうで怖いです」
「えっ!? ご、誤解ですよ!?」
「ねえ、レナ。やっぱりもう少し話す必要があると思うのだけど」
「ヘルプミー! ヘルプぅぅぅぅぅ⋯⋯」
「助かった……」
そして最終的にお姉さまに叱られながら夜を過ごすことになった。
少女睡眠中
「おはようございます。スッキリ寝れました?」
「⋯⋯うん、あ、はい。
よく眠れました。永眠するかと思いましたけど⋯⋯」
何故あの人達はあんなに怒り慣れているのだろう。
本当に怖かった。あと疲れた⋯⋯。
「それは良かったです。ほら早く準備してくださいよ」
何の目的か、さとりは19世紀によくありそうな世紀の紳士服を着ている。
どこかで見たことあると思えば、シャーロック・ホームズに似ている。
「あ、もしかしてシャーロキアンです? 私もですよー。
って、何処に行くのです?」
「よくこの服で当てましたね。普通なら鹿狩帽の方が連想しやすいですけどね。ちょっと妖怪の山に突撃しようと思いましてね」
「妖怪の山⋯⋯? わ、分かりました。急いで準備しますね」
少女支度中
「それにしてもどうして妖怪の山に? もしかして何か思い出しましたか?」
「いいえ、もしかしたら河童に空間転移装置を作れるかも思いましてね」
服の上から外套を羽織りながらそう答える。
妖怪の山は近付き難い場所ではあるが、確かにその可能性は否定できない。
「ああ、なるほど。確かに河童なら面白い物を作れるかもしれませんしね。よし、そうと決まれば向かいましょうか」
「そうですね。ついでですから、そこを動かない方がいいですよ。今あなたが踏んでいる床、トラップにしてますから」
「⋯⋯え? 何故です!? え、どうやって解除をあわわ!」
突然の告白に、私の頭は様々な情報に支配される。
どうすれば解除できるか、どうしてトラップにしたのか、どうやって逃げれるか⋯⋯。
とにかく色々なことを考え過ぎて、逆にパニックになってしまった。
「落ち着いてください。今床から足を話したら秒速400メートルで銀の球が壁から飛んで来ます。解除しますから余計なところを触らないでくださいね」
「ぶ、物騒にも程がありますからね? というかいつの間にそんな罠を⋯⋯」
「あ…そういえば入り口入って4センチのところの床踏んでますね。あれも罠だったんですよ。後5秒です」
罠を解除しながらも平然と話を続ける。
というかその話からだと⋯⋯ダメだ。もう手遅れな気がしてきた。
「え、ちょ⋯⋯は、早くヘルプです!」
「それじゃあ行きますよ…」
「は、はひ!? ま、まだフード⋯⋯!」
さとりは私を引っ張って窓から飛び出す。
それに対して私は慌ててフードを被り、日光から身を守る。
「はい…時間です」
その言葉と同時に、私の部屋とお姉さまの部屋の中で何かの爆発する音が聞こえた。
それは明らかに危ない音だった。
「ちょ⋯⋯後で直すの大変なのですからね!?」
「大丈夫ですよ。数分で消える粘着魔法です。被害はありませんよ」
「なるほど、それなら良かったです」
被害が無いのなら怒る必要はない。
逆にあれば流石に怒っていたのだが、やっぱりさとりだし別にどっちでもいいか。
「ええ、レミリアさんが激怒するように犯人はあなたに仕立てましたのでね」
「やっぱり良くないです! 後で一緒に謝ってくださいよ。私だけ怒られるのなんて嫌ですから」
「検討しておきます。ああ、そういえばレミレミの部屋にはもう一つ…あなたの転移魔法と似たようなものを仕掛けておきました。もしベッドから起きて右側に降りた場合食堂に転移されるようにしてます」
「それ完全に誤解されるやつですからね?
はあ。帰ったらなんて言い訳しましょうか⋯⋯」
また怒られる未来しか見えない。
まあ昨日よりは酷くないはずだ。⋯⋯全て飛び火がかかっているような気もするけど。
「まあ…大丈夫ですよ。そっちは私がやったと証拠を残しましたから。気付くかどうかは別ですけど」
「それ絶対に気付かないフラグです。
⋯⋯まあいいです。諦めましたから。とりあえず早く向かいましょうか」
「ええ、そうしましょうか。それじゃあ行きますよ」
私の手を掴み、突如速度を上げる。
強い風が私の身体を通り抜け、勢いに飛ばされそうになる。
「想起…射命丸」
「え、速──っ!?」
「到着です」
気が付くと山に到着しており、とてつもない速度で移動してきたのが分かる。
「ふぇ? あ⋯⋯ごほん。
とても速いですね。地味に頭がクラクラします⋯⋯」
「音を超えましたからね…さて、地上に降りましょうか…」
「うぅ。そう言えば勝手に天狗の領地に入って大丈夫なのでしょうか⋯⋯」
「おい、勝手に山に入らないでください!」
話をした途端、その天狗──椛が飛び出してきた。
椛が抜刀して斬りかかってきたが、さとりが足の裏で受け止めてくれた。
「噂をすれば何とやら。本当に現れましたね。天狗さん。⋯⋯そう言えば吸血鬼異変の時に山が襲われたらしいですけど、大丈夫でした?」
「あ…まさか貴方は吸血鬼ですか?じゃあ余計山に入ってはいけませんね」
「えっと…それじゃあ、普通に斬り合いといこうじゃないですか」
さとりが抜刀して椛に斬り掛かる。
もはや止まる気配はしない。
「あ⋯⋯。まあ、うん。多分大丈夫でしょう」
「……うーん…椛さん、死なないでくださいね」
「どうして私の名前を知ってるのか知りませんが…」
刀に短刀。まさに螺旋という名のどこかで見たことのあるような戦闘だ。
「あ…そうそう。レナさん、4秒後に右に頭振ってください」
「うわー。何故か螺旋を思い⋯⋯あ、了解です」
「ほいっと…」
頭を振った瞬間に、先ほどまで頭があった場所に光の線が通り抜ける。
「振り向いちゃダメですよ」
「な…何をし……」
「怖いなあ⋯⋯。というか避けなかったら頭が吹っ飛ん⋯⋯まあ、それなら大丈夫ですね。死ぬほど痛いでしょうが。
あ、眩しっ」
油断している隙に私まで閃光を浴びてしまったが、何とか戦闘は終わったようだ。
「バルス…って言った方が良かったですかね」
そう言いながら私を引っ張っていたのか、足が地面に触れる。
これで一安心できるようだ。
「うー⋯⋯。いつも目眩し系の武器を使ってましたが、今回初めて相手の気持ちが分かりました⋯⋯」
「まあ…たまには自分で食らってみるのも良いものですよ…えっと川はこっちですね」
「あははー、まさかそんなこと一生ありませんよ。自分で使うタイミング決めれるのですからー」
川の音がする方向へ向かいながら話を続ける。
河童に会えるのが楽しみだが、怖がられないか心配だ。
「なるほど。じゃあ想起…「クラウ・ソラス」』!」
「え、眩⋯⋯!? えぇ⋯⋯!?
わ、私のもできるのですね。流石です⋯⋯」
少し複雑な気持ちだが、敵の気持ちは分かったから良かった。
「うーんこれは…記憶から精製したものを妖力で再現したものです」
「できれば消してから話してください。全く見えません」
「おっとごめんなさい」
全く完璧な物ではないかもしれないが、私の剣だと聞いても誰も疑わないだろう。
それほど完成度が高過ぎるのだ。
「ふぅ、これで見えるようになりました。⋯⋯って、私の召喚魔法も使えるのですね。やっぱり結構強いです?」
「私はむしろ弱い方ですよ。今まで勝ったことある人なんて数えるくらいです」
「ふーむ。昔の方が神秘が強いとかはよく聞きますが、強い方が多いのでしょうか?
それはそうとして、こんな川に河童がいるでしょうか? ここまで来たのは初めてで分かりませんが⋯⋯」
そもそも山に来たことすら無かったが、意外と開けた場所に川があるらしい。
「鬼の四天王と玉藻の前と一流陰陽師に封印指定の怪物とか最強クラスの天狗とか…一度もガチの勝負で勝ったことないですけれどね。河童ならきゅうりぶん投げるか貴女の尻子玉あげるといえば来ますよ」
「どれもヤバい人じゃないですかやだー。
あ、きゅうりを投げましょう。後者はお断りします」
「きゅうり持ってきてないのですけれど……」
「やっと見つけましたよ!通行料は安くないんですからね」
刀を手にしながら、私達を睨みつける。
意外と怖いが、可愛くも見える。
「あ、わんわんおです? ごめんなさい、骨も持ってきてないのです。⋯⋯でも狼だから骨よりも肉ですかね?」
「そこの吸血鬼……どうやら斬られたいようですね」
「せっかくですしお手並み拝見」
「嫌です。それに吸血鬼じゃないですよ。⋯⋯あれです、魔女です。ですから魔法以外使えないのです。剣を収めてください」
一応槍を召喚しながらもそう答える。
いや、やっぱり武器を出すのは間違っていたか。せめてもう少しだけ待たないと、椛の目がとても怖くなっている。
「……私の鼻は誤魔化せませんよ。それにその槍は交戦の意思があると判断しました。よって2名とも妖怪の山の規定により処分します」
そう言って横にいたさとりを真っ二つに斬り裂いた。
いとも容易く、何の抵抗もなく、
「え⋯⋯? あ⋯⋯冷静に、冷静に⋯⋯」
大丈夫⋯⋯さとりの再生力ならすぐに回復できるはず。
──もし、できなかったら?
いや、そんなことは有り得ない。だって⋯⋯ああ、無理だ。私じゃない私に支配される。
「ねえ、いくら椛でも、友人を殺したとなれば──殺すよ?」
──つべこべ考えるよりも早く行動に移ればいい。思考するよりも早く、相手を切り裂き喰らって砕けばいい。それだけでいつも通りに勝てるよ。
「神槍『ブリューナク』⋯⋯死んで」
「そのようなもの……」
椛は投げた槍を剣で弾き、そこで一瞬の隙が生まれる。
──これで終わり。その隙に頭を砕くか心臓を潰すか⋯⋯。
「はい、倒したからといって油断禁物」
と、私よりも早く起き上がったさとりによって殴られ気絶した。
どうやらもう歩ける程度にはなったらしい。
「あ、さとり。良かったです。やっぱり生きてたのですね。
流石に殺られはしないと思ってましたし、原作キャラの子を殺すのは気が引けますよー」
「たかだか体をざっくり斬られただけじゃないですか。大袈裟ですねえ……」
そうは言っても血で真っ赤に染まった体に、大きく開いた傷。
見た目だけでは重傷⋯⋯いや重体だが、何とか無事らしい。
「いや怖いですから。普通だと死んでますからね? いや割と真面目に」
「そうですか?今までの傷よりマシだと思いますよ。腕切られたり潰されたり脚を吹き飛ばされたり色々と…」
「私はそこまで酷い傷は負ったこと⋯⋯あ。一度、だけありますね。でもあれは事故なのでノーカンでしょう。
とか話しているうちに傷が無くなりましたね」
「傷は消えても血まみれだし服ボロボロです…着替えようかなあ…」
恥ずかしいという気持ちはないのか、その場で敗れた服を捨て、着替え始めた。
逆にこちらが恥ずかしくなってくる。
「って、誰か見てたらどうするのです。いえ、何か起きる前に対処されそうですが⋯⋯」
「誰か見ていたら…その人の精神壊します」
そう言っている間に着替え終え、何とか誰かに見られるということだけは避けれた。
「おお、普通に怖いです。こわいこわいとか気安く言えないレベルで怖い⋯⋯。
そう言えばどうします? このわんわんお。まあ放っておいても怪我はしなさそうですが。天狗の支配下ですし」
「……裸にして吊るしておきましょうか」
「⋯⋯まあ死ぬよりマシですか。可哀想ですが、お姉さまの言葉を借りるならこれが運命です。
さて、川の近くにいるはずの河童はどこでしょう。怯えて出てこない、なんてことは流石にないと思いますが⋯⋯」
俗に言う醜態を晒すことになっているが、天狗の領地内なのですぐに誰かが見つけてくれるだろう。
それよりも心配なのが紅魔館に突撃してくることだが、それは私が何とかしよう。
「河童さん……出てこないと川を血で染めますよ」
「ひぇぇ。わ、分かったよ。出てこればいいんだろ、出てこれば。何の用だい? 天狗なんて敵に回してろくなことないよ?」
「あ、本当に出てきた」
川からひょっこり出てきたのは河童こと河城にとりだった。
背には大きなカバンを背負っている。
「出てきましたね。実は作って欲しいものがあるのですが……ノーと言ったら頭を潰します……とそこの吸血鬼が」
「やっぱり吸血鬼は怖いわぁ⋯⋯」
「そんなことしませんからね? というかできないですからね?」
「で? ともかく何を作ればいいんだい? 材料と時間さえあればたいていの物は作れるよ」
「空間転移装置、それも任意で空間座標を設定できるやつで」
「訂正するよ……実現可能な範囲で」
さとりの言葉を聞いた瞬間に慌てて河童は訂正する。
どうやら河童でも作れない物はあるらしい。
「実現可能な範囲でなら無理だ! というかそんな物作れるわけないよ!」
「⋯⋯予想はしてましたが、やっぱり無理ですか⋯⋯。河童の技術力は高いと聞いたのですが」
「どれだけ凄い技術力でも限度がある!」
「うーん……戦闘機とか戦車は作るのに」
さらっととんでもない発言が出てきたが、やはり河童は河童らしい。
だが科学に魔法を加えれば、意外と凄いことになったり⋯⋯。
「呼ばれてないけど私よー。
あら、奇遇だわ。こんなところで誰かと出会うことになるなんて」
「げっ⋯⋯八雲紫⋯⋯」
全く前触れはなく、唐突にスキマからその姿を表した。
そう、妖怪の賢者、八雲紫が目の前に出てきたのだ。
「あ、ゆかりんじゃないですか久しぶりですね」
「貴女とは初対面なはずなんだけれど…」
「おっとそうでしたねこっちの私とは接点が壊滅的でしたね」
「って、どうして紫さんは出てきたのです?」
私の素朴な疑問に若干呆れた様子を見せながら話を続ける。
なんだか下に見られている気もするが、実際下だから何も言えない。
「幽々子から連絡があってね。妙なさとり妖怪と吸血鬼が私を嗅ぎ回っているっていうからどんなもんかとみてたのよ。まあ…あなたたちが全くそれっぽいことしてこなかったから確信がつくまで待てたのよ」
「えーっと面倒ごとは嫌いだから私は帰るよ」
「あ、河童が逃げた。⋯⋯まあいいですか。
なるほど。ちなみにさとりが別世界から来たらしいですが、何か心当たりありません?」
「ああ…もしかして結界の歪みが原因かしら…」
どうやら心当たりがあるらしい。
ぶっちゃけ、紫関連ではないかと疑っていたが、それが本当に当たるとは思ってもみなかった。
「もう確信犯じゃないですか。⋯⋯あ、それ、元に戻せたりしますよね?」
「出来なくはないわよ。ただし同じ空間につながるか怪しいけれどね。それにしても異世界のさとりねえ……興味が出来ちゃったわ」
「まあ…紫とは友人関係でしたし断れませんねえ」
「紫さんの目が怖い。まあそれはともかく、戻れるという絶対の確信がないのは怖いですね。もっと安心安全な方法はありませんか?」
友人に今後の生死に関わりそうな賭けをさせる訳にはいかない。
どうしても完璧に、限りなく百パーセントの確率に近い可能性で成功する方法が欲しい。
「そうね……唯一いけるとすればさとりの空間的波長と一致する波長の次元を探し出すのが一番安心よ。って言ってもやったことはないのだけれどね」
そう言いながらも扇子で仰ぎながら目を細める。
本当に胡散臭い妖怪で、信用できるのは彼女しかいないのが残念だ。
「ふーむ⋯⋯。こればっかりは紫さんに任せるしかなさそうですね。
これから先は分野外のようですから。⋯⋯って、そうなるとさとりとはお別れになるのでしょうか?」
「そうねえ…後1時間くらいってところかしらね」
「結構早くないですかゆかりん」
「それとも私の質問に答えてくれるなら……」
「結構です」
さとりの世界でも紫は胡散臭いらしく、即答していた。
本当にどの世界線でも変わらない存在らしい。
「後一時間⋯⋯。長いようでやっぱり短かったですね。色々と⋯⋯」
「そのようですね…」
「あ、帰る前に一言お姉さまに謝りましょうよ。というか謝りなさい」
「そうしましょうか…まあ怒られたら戦うので」
しかしさとりの方はかなり好戦的で少し心配が残る。
主にお姉さまと対立しないかが。
「いやだからやめてください。⋯⋯紫さん、一時間後、また会いましょう。ここに来るのは面倒なので来てくださいね」
「ええやんそうさせていただくわ…」
最後まで多くは語らず、紫はスキマで消えてしまった。
これで私達二人だけとなってしまったが、少し寂しくなってくる。
「それじゃあ帰りましょうか…」
「⋯⋯ですね。帰りましょうか。時間が惜しいですし、魔法で行きますよ」
例の如く転移魔法を使い、紅魔館へと急いで帰る。
少女移動中
「よっと…あ?レミリアさん」
「レナ?それにさとり……言いたいことわかってるわよね」
「分かりますが落ち着いてください、お姉さま。
この通り反省はしていますから」
とりあえず頭だけは下げておこう。
私のせいじゃないからあんまり謝る気にはなれない、というのが本音だけど。
「……反省も後悔もしていません」
「よろしいならば戦争だ」
「甘いですよ…」
お姉さまがグングニルを投げ放ち、それをさとりが受け流す。
また始まってしまったが、止めなくてもすぐに終わるだろう。
「館の中で暴れないでくださいよー。後で掃除するの、私や咲夜なのですからー」
少女戦闘中
「⋯⋯あれ、本気になり過ぎでは⋯⋯?」
そうしてしばらく待っていると、いつの間にか紅魔館が半壊していた。
何を言っているのか分からないと思うが、私自身、何が起きたのか理解してない。おそらくはお姉さまの武器をさとりが防御したりして受け流していたのが原因だが、それにしても一度も当たらないお姉さまは当主としてどうなのだろう。
「降参です」
「はあ、はあ⋯⋯少しはやるじゃない」
無傷なさとりにボロボロなお姉さま。
完全に勝ち負けの構図が逆だが、もはや何も言うまい。というか言えない。
「いやもう⋯⋯。面倒なので何も言いません。というかお姉さま、さとり、もうすぐ帰るかもなのですよ?」
「あ、え? そうなの?」
「ええ、帰れる採算がついたので帰りますね。あ、今度行くわっていうのは無しで。それに『私』はこの事を体験していませんから…そう考えると『私』に悪いことしましたね」
「⋯⋯どういうこと?」
状況を全く理解していないお姉さまは不思議そうで悲しそうな顔をしていた。
そう言えば何もかも言い伝えていなかった。後でゆっくりお話しよう。
「レミレミには言ってませんでしたね…詳細は妹さんからお聞きください」
「そ、そう⋯⋯分かった、後で聞くわ」
「⋯⋯これでお別れなのね。まあ貴方にも大切な人がいるでしょうから、止めはしないわ」
「ええ、守るべき家族がいますからね…あ…そういえば今レミレミが立ってる床…咲夜さんとトラップしかけたんで…気をつけてくださいね」
最後の最後にとんでもない告白でお姉さまはあたふたと慌て始める。
突然のことに対する対応力が遅いのは誰の遺伝なのだろうか。
「ちょっと最後のお別れでそれはないんじゃない!? ってか咲夜ー! 貴方まで何やってるのよー!」
「⋯⋯最後まで相変わらずですね。どっちも」
「罠は…フランの部屋に直行する転移魔法です。さようならレミリア。また会おう」
「⋯⋯ええ、色々とありがとうね、さとり」
「さて私はもうそろそろ行きましょうか…」
「ちょ、壊した物くらい直し⋯⋯まあいいわ。今回くらい、大目に見てあげるわよ。
じゃあ、また会えたらいいわね、バイバイ」
転移する間際、最後にそう言い残し、お姉さまは消えてしまった。
さて、次はフラン達が驚いている番だろう。
「……ふう、それじゃあレナさん…私も行きますね…」
さとりは私の方へ向き直ると名残惜しそうな目線で見つめる。
最後までハチャメチャな人だったが、同時に楽しくもあった。
「⋯⋯ええ。そうですね。もう時間ですものね。
⋯⋯最後まで楽しかったです。本当に、楽しかったですから、また会いたいです。⋯⋯でも贅沢は言いません。いつか会えるといいですね。会いたい、というのが本音ですが」
「ええ、こちらこそありがとうございました。可愛い転生者さん」
その言葉とともに、はかったかのようにスキマが現れた。
どうやら本当に時間らしい。
「はい、バイバイです、さとり」
「ええ、今度は馬車を立ててお迎えに上がりましょうレナータ・スカーレット。それまでしばしの別れです」
「ふふ、ええ。お待ちしてますね」
そうして手を振りながら、スキマへと足を踏み入れるさとりを見送った────
後日談約一年後
さとりが去ってから一年後。紅魔館の扉を誰かが叩く音が聞こえた。
「あ、はーい。
誰ですー?」
「やっほー!お迎えの馬車だよ」
そこで出迎えたくれたのは、馬車に乗ったさとりとこいしのような子だった。
「あ⋯⋯ふふふ。お久しぶりですね、さとり」
「ええ…久しぶりです」
その次の瞬間、意識外であった背後で声がする────