東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─   作:百合好きなmerrick

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もう誰の視点かはバレるでしょうが、あえて何も書きません。ただ、生き物であるならば成長する日は来ます。知性があるなら精神的にも。これは本来とは違う軸での成長をした誰かのお話。死を見て感じて、絶望しながらも生きる者のお話です。


並行の番外編2「死を乗り越え、生を見る」

 ──あの時私はどうして何もしなかったのだろう──

 

 今でも心に思う、その言葉。いわば後悔といういつの時代、どこの世界の誰にでもあるであろう感情。しかし今の時代、この世界では数えるほどしか見ない。そして私以上に長い間後悔している者にはもう会えないだろう。

 

 小さいものはあったが、大きな前触れはなく、数百年前に未曾有の大災害が世界を襲う。それは地表を氷で覆い、地上の生きる者全てを殺した。そもそも知っていたところで変えようのないことだった。姉に言わせれば、それが地球上に住む生命の運命だったのだろう。

 地上には、そして地続きで繋がる幻想郷すら何も残らなかった。植物は凍り、人間も死に絶え、妖怪すらも消えていった。予測していたであろう賢者も、不老不死である蓬莱人すらも行方不明となった。

 私が知っている限り、生きている者は妖怪ですらなくなった私と私の娘だけだ。百年も前ならまだ10人ほどいたが、もはや見ることはなくなった。

 

 どうやってこうなったのか、過程は分からない。だが原因は曖昧ながらも理解している。おそらくは私が彼に目をつけられたからこうなったのだろう。この世界、この宇宙からも外れた誰にでも成りうる誰でもない者に。全ての元凶は私だ。地球が凍ったのも、生命がいなくなったのも、そして⋯⋯家族が死んだのも。だからこそ後悔している。悔やんでも悔やみきれない。

 

 

 

 未曾有の大災害とともに幻想郷を襲った謎の地震。それは地を浮かせ、ありとあらゆる建物を破壊した。その際、私を庇った吸血鬼の姉はいとも簡単に死んでしまった。幻想郷の結界がどういうわけか曖昧になり、神秘を失っていたことが原因らしい。運悪く姉が死んで数分後には外の世界がなくなり、神秘も戻った。もう少し早ければ姉が死ぬこともなかったはずだ。⋯⋯もちろん偶然でないことは知っている。証拠はないがあいつのせいで間違いない。

 

 だが私があの本を読み、感知されなければこうはなっていなかった。

 だから私のせいだ。だから今もあの夢を見るんだ。

 

「■■、貴方は生きなさい⋯⋯」

 

 涙が溢れる私の目を見て、涙が溢れる私の頬を撫でてくれた姉の最後。

 

「私よりもずっと⋯⋯長く生きるのよ⋯⋯?

 みんなを守ってあげて。今日から貴方がここの当主なんだから」

 

 その時私は、瓦礫に埋もれ徐々に冷たくなる姉の手を握りしめていた。

 名前を呼び続けても話し続ける姉を見ていた。

 

「⋯⋯はあ、そんな顔しないの。⋯⋯もう自由よ。いつの間にか、私よりも大きくなっちゃって⋯⋯。ほんと、妹のくせに生意気よ⋯⋯?

 こら、こら⋯⋯。ここは、泣くんじゃなくて、笑う⋯⋯ところで、しょう?」

 

 必死に叫ぶも声は届かず、姉の瞼を閉じていった。

 死を実感できず、周りのことも気にせずに一心不乱だった。

 

「⋯⋯ああ、なん、て⋯⋯。嬉しいわ。貴方が、立派に⋯⋯。私の愛する、■■■■⋯⋯」

 

 姉は最後に私の名前を呼んで息を引き取った。何故か嬉しそうに笑顔で消えた。

 私の夢もそこで目覚める。起きた時は、いつも枕が濡れている。

 

 

 

 まだ他にも夢を見る。抗えない寿命で死んだ従者の夢。未曾有の大災害に巻き込まれた私の半身の夢。病気が悪化した頼れる者のいなくなる夢。契約主がいなくなり、どこかへ消えた者の夢。食料が尽きる中も最後まで家を守ってくれた者の夢。

 

「お姉さまなんて大嫌い!」

 

 そして一生後悔することとなった、些細なことで喧嘩し、そのままいなくなった妹の夢。

 もう1人の妹も彼女の後を追い、同じように殺された。

 

「助けて⋯⋯」

 

 私が着いた時、もう1人の妹が無残に殺される瞬間だった。

 助けを求めて手を伸ばすも届かず、力なく地に落ちる瞬間だった。

 

「────!」

 

 声にもならない叫び声を上げながら、殺した相手を同じように殺してやった。

 反撃する間も与えず、それは数秒足らずでいとも簡単に殺せた。

 

「⋯⋯ごめん、なさい」

 

 まだ息のあった妹へ駆け寄ると、彼女は小さく呟いた。

 治療できないくらい負傷している妹は、死を悟ったのか私にそう言った。

 

「私が、悪いの⋯⋯。私のせいで⋯⋯」

 

 そんなことはない、と答えるも彼女は首を振る。

 自分だけ責任を負って逃げるように死のうとしていた。

 

「もう、なんでそんな顔、するかなぁ⋯⋯。笑ってよ。⋯⋯最後くらい⋯⋯私に笑顔を見せてよ」

 

 大切な妹が死にそうな時に笑えるはずもなく、彼女は悲しそうに顔を歪めた。

 だがその顔も一瞬だけで、次の瞬間には笑顔になっていた。

 

「仕方ない⋯⋯。私が笑ってあげる、ね? ⋯⋯ほんとっ、頼りないお姉さま⋯⋯。

 でも、好きだよ? 私は⋯⋯そんなお姉さまが大好きだからね⋯⋯?」

 

 姉と同じように、彼女も笑顔で息を引き取った。また私の前から消えていった。

 

 この先のことは覚えておらず、また夢にも出ない。

 ただ愛する妹達に墓を作ったことは鮮明に覚えている。

 

 この時からだ。病気や飢えで死なない身体なのに、病死や餓死を恐れるようになったのは。

 家族以外の者を信用できず、娘と2人だけで暮らすことになったのは。

 

 

 

「お母さん、怖い顔している⋯⋯。何かあったの?」

 

 そして、最後に残った唯一無二の家族を守るために生きると心に誓ったのは。

 昔は必要なかった治療魔法に手を出し、不死なのに死を恐れ、逃れようとしたのは。

 

「⋯⋯大丈夫よ。ちょっと、怖い夢を見ちゃっただけだから、心配しないでいいわ」

「⋯⋯そっか。ならよかった!」

 

 今はただ娘のために生きたい。彼女が死なない身体を持つとしても守り抜きたい。

 彼女にただ⋯⋯幸せになってほしい。

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