東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─   作:百合好きなmerrick

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2話「進行を開始する」☆

 side Renata Scarlet

 

 ──博麗神社

 

「霊夢ー? 何処にいますー?」

 

 神社に着くとすぐに少女を降ろした。そして、霊夢を探して神社の境内を彷徨(うろつ)く。

 

「⋯⋯とても静か。まるで誰も居ないみたい」

 

 しかし、降り立ったその瞬間から分かっていたことなのだが、神社はとても静かで、人の気配を感じない。

 寝ている可能性もあると思い声を出して呼ぶが、全く反応は無かった。

 

 誰もいない。霊夢が危険な目に遭うとは思えない。だから、何処かへ出かけているのだろう。買い物や異変解決。霊夢が行きそうな場所は分からないが、あの人がピンチになる状況は全く想像できない。

 

「⋯⋯みたい、ではなく本当に居ないようです。留守のようですね。はぁー⋯⋯霊夢に相談すれば解決すると思っていたのですが⋯⋯」

「留守? そうすると⋯⋯どうするの?」

 

 少女は騒いだ様子も見せず、キョトンとした顔を見せる。

 騒がれるのは苦手だが、こうして感情を感じない方は心配してしまう。でも、空を飛んだ時は喜んでいたのだ。感情が全く無いわけではないのだろう。

 

「⋯⋯神社(ここ)で待つか、私の家で安全を確保して明日ここへ戻ってくるか。貴女の家をすぐに見つけるために、神社の方が良いとは思うのですが⋯⋯。霊夢がいつ帰ってくるかは分かりませんからね⋯⋯」

 

 しかし、人間を助けて、泊めるなんてお姉さまが知ればどうなる事か。きっと気に入らなければ食料にするだろう。私は姉に逆らうなんてことも、それを止めることもできない。だからこそ、家に泊めるのは誰にも知られないようにするしかないだろう。

 

「⋯⋯空を飛べる魔術を教えてくれるなら、君の家に行きたい」

「それはいいですけど、すぐに家を探しますから時間は多くても数日。

 1つの魔法だけとはいえ、1日や2日で覚えれるとは⋯⋯」

「それでも教えてほしい。あの空を切る感覚、またもう一度⋯⋯体験したい」

 

 その言葉を語るとともに、少女の口元が緩む。

 それほど彼女にとって初めての空は、愉快な思い出となったのだろう。

 

 その顔を見て断れるはずがない。況してや、自分よりも年下の子の願いなら。

 

「⋯⋯途中で止めないでくださいよ? 記憶が戻れば話は別ですが」

「うん。止めないよ。記憶が戻っても絶対に。だから、お願い」

 

 表情は変えずどこか空虚に。しかし、その空虚の中に強い思いを感じる。

 その姿は、いつの日か見た友達のようだった。

 

「お願い、悪魔さん。⋯⋯いえ、レナお姉ちゃん」

 

 少女の言葉が頭の中でこだました。

 そして、どうしてか無性に嬉しくなり、少女が可愛く見えてくる。

 

「も、もちろんです! 姉として、精一杯教えますね!」

「えっ、うん⋯⋯」

 

 最近はフラン達に頼られることも少ない。もう私を頼る必要のない大人になったのであって、それ自体は私にも喜ばしいことだ。だが、姉として頼られることが無くなったのは素直に寂しかった。もっと頼ってほしい、そう思うこともあった。

 だからこそ、姉として頼られることがとても嬉しい。それが姉妹での姉という意味でなくても。

 

「では、早速戻りましょうか。善は急げ、思い立ったが吉日、です!」

「⋯⋯? 急いだら良いとは分かった。じゃあ、君のお家へ行くんだね」

「はい! ⋯⋯って、今気付きましたが抜け穴を使えばすぐ家に帰れましたね。これで他の妖怪に会う心配も無かったのに⋯⋯。いえ、空を飛ぶには使ってはいけませんでしたけど」

 

 今日は本当にうっかりすることが多い日だ。これで何度目の失敗か分からない。

 

 実は風邪でも引いているのかもしれない。仕事が終わっていたら、お姉さまに見てもらおう。

 

「空を飛ばず、安全を優先するということでいいです?」

「うん。それでいい。お願いするね、レナお姉ちゃん」

「はい! では、すぐに作るので少しお待ちを。あ、その前に⋯⋯」

 

 家へ続く『抜け穴』を作る前に、簡単な呪文を唱える。

 魔力が手の上に集中していき、小さな丸い物を形作っていく。

 

「できました。これを付けてください」

 

 そう言って、魔力で作り出した、指輪を少女に手渡す。

 その指輪は意図せず作った物なのに血の色に染まっている。

 

「⋯⋯これは?」

「家族に気付かれないように作った魔力遮断機です。貴女の魔力を完璧に抑えるのは難しいですが、そこは部屋に簡易結界を張るのでご心配なく」

「部屋から出たらダメ? 空を飛ぶ練習できる?」

「大丈夫ですよ。私の部屋、無駄に広いですから。妹の部屋よりは小さいですけどね」

 

 流石に弾幕ごっこができるほど広くはないが、宙に浮く程度の天井の高さはある。

 屋内で自由に飛び回るとなれば、それこそ私の家ではフラン達の部屋か大図書館しかない。

 

「っと。話が逸れましたね。では、この指輪を⋯⋯ん?」

「どうしたの?」

「⋯⋯これ、指輪⋯⋯」

 

 私の作った指輪を付ける前に、すでに少女の右手の中指には指輪がはめられていた。

 鉄か何かで出来ているのか銀色で、少女の手には似つかわしくない大きさだ。

 

「あ。本当だ。⋯⋯ボクのなのかな?」

「多分、そうだと思います。

 記憶の手がかりになりそうですね。少しお借りしていいです? 少し魔法で⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯嫌。どうしてか分からないけど付けていたい。離したくない」

「で、でも、手がかりになるかもしれませんよ?」

「それでも嫌」

 

 少女は頑なに渡そうとはしなかった。

 記憶が無くとも、何か感じることがあるのかもしれない。

 

 だがしかし、少女の記憶の手がかりとなる物なら──

 

「⋯⋯ごめんなさい、レナお姉ちゃん。理由も分からないのに付けていたいと言って」

「もう、仕方ないですねー。それならいいですよ。あ、謝る必要はないですから」

 

 シュンとした表情になった少女を見てすぐに諦める。

 決して可愛いから許したとかそういうのではない。

 

「でも、この指輪は付けてくださいね。周りにバレたら大変ですから。主に説明が」

「うん。分かった」

 

 改めて少女の左手の中指に指輪をはめる。

 銀の指輪は目立たないが、紅の指輪はとても目立つ。だが少女に気にしている様子はない。

 

 逆に私が気にしてしまう。

 あまりにも指輪の色と、白く薄汚れてはいるも綺麗な容姿と服は似合わない。

 

 後でお風呂に入れ、新しく紅い服を用意しよう。その方が似つかわしい。

 

「レナお姉ちゃん。行こう。また襲われる前に。⋯⋯特に、虫系の妖怪に襲われる前に」

「ふふっ。そうですね。今度こそすぐに作りますので、しばらくお待ちを」

 

 再度、頭の中で呪文を唱えながら地面に手を触れる。すると、私の手を中心に黒い穴が現れた。それはみるみるうちに、私達の大きさなら余裕で入れるほど大きな穴へと広がっていった。

 

「私の部屋に直接繋げました。先に入ります? それとも私が先の方が?」

「先に入る。すぐに来て。⋯⋯信用しているから」

 

 少女は呟くように話すと、穴の中へと消えた。

 

「え? あっ⋯⋯。分かりましたー!」

 

 それを追いかけるように、私は少女の後を追い、穴へと落ちていく。

 

 

 

 

 

 部屋に到着すると、少女は興味深そうに部屋の中を見つめていた。

 ベッドや机、本棚くらいしかない質素な部屋だと言うのに。

 

「どうしました? 何か気になる物でも?」

「⋯⋯いいえ。ただ、興味深くて。飾り物が無いのに綺麗な部屋だから」

「ふふん。毎日のように掃除していますからね」

 

 少女の言葉は褒められたように聞こえて悪い気はしない。

 しかし何がどうして興味深いのか、それだけは分からなかった。

 

「そうじゃなくて⋯⋯いいえ。そうなの?」

「きっとそうですよ。では、しばらく待ってくださいね。すぐに結界を張ります」

 

 部屋の四方の壁に六芒星の魔法陣を描いていく。

 これは部屋の中でしか使えないが、強固な結界を張れる魔法。しかし今は結界を張っていないため、もしかしたらパチュリー辺りに気付かれているかもしれない。

 誰かにバレると、そこから全員に伝わる可能性は高い。

 明日までとは言え、誰かにバレて大変なこと⋯⋯特に少女が殺されるなどあってはならないのだ。

 

「⋯⋯ふぅー。作り終わりました。

 後は、貴女に危険が迫った時に、私がすぐにでも駆けつけるような魔法を⋯⋯」

「そこまでしなくていいよ。迷惑をかけたくない」

「ダメです。貴女の安全のためにも魔法をかけます」

「⋯⋯うん。分かった」

 

 少女は渋々了承してくれる。

 はるか昔にフランに教えた魔法。その強化版。

 

 対象に命の危機が迫ると自動で私がそこへとテレポートされる1度きりの安全装置。

 

「動かないでくださいね。貴女の安全は保証します。『ライフセーフティ』」

 

 少女の心臓の辺り、胸部に触れると、少女と私に一瞬だけ紅い糸が結ばれる。

 その糸はすぐに見えなくなり、それが繋がっているという感覚も無い。

 

「⋯⋯? これでいいの?」

「はい。もう終わりましたよ。私の魔法の利点は詠唱速度ですからね。これくらいなら頭の中で唱えると、すぐに発動可能です」

「魔法⋯⋯何故だろう。不思議な魅力を感じる。空を飛ぶ魔法があるから?」

「記憶があった時に魔法を使っていた可能性はありますね。魔力が凄く高いですから。しかし詠唱や呪文を忘れていたら、本当に使っていたとしても今は使えないでしょうけど⋯⋯あ、でも! 記憶が戻ればまた使えますよ!」

 

 少女の落胆する顔を見て、元気づけようと言葉を改める。

 この少女、意外と感情豊からしい。しかし、どの感情にも虚無は感じる。何かが足りていないと思う。

 おそらくは記憶が無いせいだろうと、あまり深くには考えなかった。

 

「⋯⋯ありがとう。レナお姉ちゃん。それじゃあ、空を飛ぶ魔法を教えてくれるの?」

「もちろんですよ。では⋯⋯と言っても、私の場合は翼で空を⋯⋯」

 

 生まれて間もない頃、空を飛ぶ練習をした時の教えを曖昧な記憶を頼りに思い出す。が、吸血鬼の教え方だったため、翼の無い人間に教えるにはどうすればいいのかいまいち分からない。

 翼を具現化させ、それで飛ぶのもいいが回りくどい。となれば、翼を人間の体に見立てて教えるのが1番手っ取り早いかもしれない。

 

「⋯⋯よし、決めました。まずは魔力集中の方法から説明しましょう。

 それが出来れば空を飛ぶのも簡単なはずです」

「魔力集中? 魔法の力を一部分に集中させる、ということ?」

「はい。難しいことでは無いですよ。拳に力を込めるのと同じように、拳に魔力を集中させることを思い描けばいいだけですから」

「ふーん⋯⋯」

「まずは右手に魔力を集中させ、それが成功すれば次は左手、その次はまた別の部位、を繰り返してみましょう。右手に魔力が集まるのを思い描いてくださいね」

 

 少女は言われた通り、集中するように目を閉じる。

 私はその少女の魔力を注意深く観察する。

 

「うわぉ⋯⋯」

 

 と、2、3秒も経たないうちに少女の魔力が右手に集まり、指輪を付けていても、その部位だけは私以上の魔力を感じるようになる。

 しかし膨大な魔力を制御しているはずが、少女の顔に疲労は一切感じない。

 

 普通、初めてこの量の魔力を操作すれば、少しくらい疲れたりするはずなのだが⋯⋯。

 

「できてるの?」

「出来てますよ! というか初めてですよね? 私の説明ですぐに理解するとは⋯⋯」

「左手に移してもいいの?」

「あ。そうですね。では次の部位に魔力を集中させてください」

 

 少女は左手、次に右足や左足と魔力を集中させていく。

 いずれの箇所も簡単に操作し、私には魔力の操作が手馴れてるようにも見えた。もしかしたら、記憶を失う前は魔法の類を使えていたのかもしれない。

 

「⋯⋯私より才能ありそうです⋯⋯」

「そうなの?」

「そうみたいです⋯⋯。いえ、別に妬ましいとか悲しいとかは思いませんけどね。ただ、私なんかが教えて、悪い方向に行かないか心配で⋯⋯」

 

 吸血鬼が師匠とあれば、自ずと少女の使う魔法も「人としては悪」の魔法へと転換されやすい。それは吸血鬼という種族が人間の敵であるからであり、その法則は吸血鬼をやめないことには変えることはできない。

 

 もちろん私に吸血鬼をやめることは不可能で、それをする気もさらさら無い。

 

「ボクはレナお姉ちゃんに教えてほしい。悪い方向には絶対にならないと思う。レナお姉ちゃんは優しいから。初めて会って数時間程度のボクにもそれは分かるよ」

「そ、そうですか? ⋯⋯ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいです」

「うん。ボクも元気を取り戻したみたいで嬉しい」

 

 少女は愛らしい笑みを浮かべる。

 それにつられて、私も嬉しく感じる。

 

「ふふっ。では、続きを再開しましょうか。

  まずは、空を飛ぶために身体全てに魔力を──」

 

 私は今日、初めて人間に魔法を教える。

 今の私は、弟子のような存在が出来て、誇らしく、嬉しく思っていた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ???

 

 ──ある神社近くの森

 

 森の一部が霧に覆われる。白く、濃い霧に。

 それは新たな異変の幕開けとも言えるものだった。

 

「いないのぉ⋯⋯」

 

 その霧の中、白髪で長いあごひげを付けた老人が何かを探していた。

 霧で視界が悪いというのに、そのようなことはまるで気にしていない様子だ。

 

「この辺りで魔力が途切れたと思ったが⋯⋯どうやら当てが外れたようだわい」

 

 その老人は青ざめた馬に乗り、手には鋭い槍を持つ。

 いかにも騎士のような老人だったが、その霧は老人を中心として広がっている。まるで、この老人がその霧の原因であるかのように、霧は老人が動くのと同じように動いていく。

 

「他の者に取られる前に見つけ⋯⋯おやおや」

 

 老人は何を思ったのか、ある草むらをじっと見つめ始める。

 そして、まるで狩人のように鋭い眼差しをそこから離さず、老人は手に持つ槍を静かに構える。

 

「アァァァ!」

 

 次の瞬間。頭が牛、体は蜘蛛のような妖怪が、老人の見ていた草むらから飛び出した。妖怪は複数の鋭い爪を持つ足を老人へ向けて逃げ場を失くすように追い込み、本命であろう鋭い爪を老人へと突き刺す──

 

「いささか遅すぎやしませんか?」

 

 ──が、老人は無傷だった。

 逆に攻撃したはずの妖怪の頭、額の中心には、1本の槍が突き刺さっていた。

 

 老人は先手を取ったはずの妖怪よりも、早く正確にその頭を突き刺したのだ。

 

「ァ、アァァァ⋯⋯」

 

 頭に槍が刺さりながらも、妖怪は何とか生きているらしく、小さく唸り声をあげる。

 だが、いくら生命力が高くとも頭に刺さった影響か、反撃する力も失っているようだった。

 

「まだ動くか、小童めが⋯⋯。仕方あるまい。

 

 醜いその姿を細切れにし、焼いてやろう」

 

 老人はそう宣言したと同時に槍を引き抜くと、瞬く間に妖怪を切り刻む。そしてある程度小さくなると、ソレは黒い炎によって燃やされ、断末魔の叫びをあげることなく、灰も残さず消えていく。

 

「小童にはちと厳しい炎だったようだのぉ。

 さてさて。まずは潜み、誰にもバレないよう、あの方を⋯⋯」

 

 老人は小さく呟くと、ゆっくりと進行を開始する────





2018/03/22追記 自分で描いたものなので分かりにくいかもしれませんが、少しでもイメージしやすいように白い子のイラストです。あまり近くで見ると粗い部分があると思いますがご了承くださいお願いします()


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