東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
まあ、落ち着くまではおそらくこれが最高速度になると思います。落ち着いたらいつもの速さに戻ると思いますが、それまでご了承くださいませ。
15話「春の訪れ。動くモノ」
side ???
──王の玉座
「僕は最後にいつ夢を見ただろう」
■■■■■が帰ってからというもの、その者は退屈をより強く感じていた。
だからこそ暇つぶしとしてそんなことばかり考えていた。その行為に意味はなく、また必要もない。その者にとっても、その者の成し得ることからも、無意味、無価値でしかなかった。
その者は神からこの世全てのありとあらゆる叡智を授かった。それは世界をも支配できる力なのだが、それ故に神はその者の運命を縛った。叡智を司る力を与えながら、神はヒトとしての生き方を与えず、ただ職務に全うすべきだと、神の思う相応しい生き方を与えたのだ。その者が望んで知恵を手に入れたと後の世では語り継がれるも、本当は神が決めた運命だった。国の王として、魔術の祖として、神の人形として、その者は生きてきた。
だが1人の女性がその者の運命を変えた。叡智、知識ではなく、女性には知性を与えられた。その女性にとって知性は与えたわけでなくとも、その者からしてみれば与えたのだ。それからというもの、その者が見ていた景色は何もかもが変わった。
「おや? 悪魔の1人消えた? 一体どこへ?」
だが神はそれを許しはしなかった。悲劇を求む神はそれを嫌った。
有るもの無いもの全てを使って、その者の運命を変えた。
「ん? なんだろう、この黒い──あっ」
その者の玉座が、黒い渦のような何かに覆われる。
それはその者を飲み込むとともに、痕形もなく消え去った────
side ◼■◼□
──どこかの森
木々に囲まれた場所で、黒いローブを身に付けたその者は、見えない何かに手を触れていた。
その先にある場所へ入ろうと、様々な手を試しているようだった。
「ソロモン様、どうですか? 繋げれそうでしょうか?」
「こらこら。急かしてはダメですよ。我が王よ、慌てず、ゆっくりでいいですよ」
「おいおい! もうすぐ春になる頃だぜ!? いくら何でも時間かかり過ぎだろ!?」
その者──ソロモンと呼ばれた者の近くには、ドラゴンの身体と三つの頭を持つ悪魔がいた。
一つ目の頭は犬。忠実で、丁寧な物言いをしている。二つ目の頭は鷲。優しく、王を思いやる気持ちが篭った口調だ。三つ目の頭は人間。傲慢で、王を見下すような言葉遣いだ。
それぞれ意思を持っているらしく、それぞれの首が話している。
「⋯⋯うん、そうだね。もうすぐ春だ。このままではダメだね」
「あ? ようやく認めるのか?」
「こら、ビメ。我が王にその口の利き方はどうなのです。⋯⋯ですが我が王よ。
ここで諦めると、貴方の狙う者は一生捕まえることができないと思いますよ?」
鷲の頭にそう言われるも、ソロモンは首を大きく横に振る。
どうやら「そうではない」と否定する意思を動作で示したらしい。
「大丈夫。他に策はいくらでもあるからね。だから君達以外にも、元の世界から数人、特異な人達を引き寄せたし、この世界からも幻想郷に恨みがありそうな者を引き寄せたんだから」
「そ、それは⋯⋯。ですが、あの方達は貴方の命令を聞くような者ではないと言えます。
逆に貴方を殺そうとする者も多いでしょう。特に、あのやさぐれた青年は⋯⋯」
「ソロモン七十二柱、序列26位の龍公ビム。僕はソロモン、全ての叡智を授かった者だよ。どんな武器だろうと、能力だろうと、僕に適うことはない。遍くモノに対しての弱点が分かり、対策を講じ、核を突けるのだからね」
ソロモンと呼ばれる男の口は笑みで歪んでいる。
それを見たビムと呼ばれた鷲頭は、つられて微笑み、表情から心配という感情が消えた。
「ええ、はい。それもそうですね。我が王よ、少しでも疑った私を許してください」
「おいおい! こんな奴に許しを請わなくてもいいだろ!?」
「ビメ、ソロモン様に失礼だよ。僕達は彼に召喚された悪魔なんだよ?」
「まあまあ。喧嘩はそこまでにして。みんな一つの身体を共有する仲なんだからさ」
言い争う頭達の会話に割って入り、気味悪いほど無感情な笑顔で彼らをたしなめる。
反抗的な人間頭のビメもその言葉に静かになり、風の吹く音だけが広がる。
「それと僕は一つも怒ってないよ。だって僕達は仲間だからね。少し疑ったくらいで罰とか与えていたらキリがないし、敵対心を芽生えさせるだけだからね」
「お、おう⋯⋯そうか。だってよ。良かったな、ビム」
「ええ。ありがとうございます、我が王」
「さて⋯⋯じゃあ、そろそろ別の方面から試してみるとしようかな。
あっちも結界を通れる程度の弱い悪魔達じゃ飽きるだろうしね」
そう言って結界に背を向け、ソロモンは歩き出す。
そして黒い宝石が付いた指輪の付いた方の手を天に掲げ、何かを小さく呟いた。
「⋯⋯よし。これで完了だよ。無いはずの僕の力と気配をここに有ることにした。
これで僕達はここにいると幻想郷の賢者は思うだろうね」
「流石です、我が王。我が王はありとあらゆることをできますね」
「そうかい? まあ、確かに何でもできるかな。全ての叡智を司っているからね。さて、これで春には中に入れるかな。いや、きっと僕達なら入れるね」
再びソロモンの表情が緩み笑顔になり、空を撫でて奇妙な裂け目を作り出す。
それへ足を踏み入れると、ビム達龍公もそれに続き、ソロモン達は姿を消した────
side Frandre Scarlet
──霧の湖
「⋯⋯⋯⋯」
霧の湖近くにある静かな森。不安要素など一つもない平和で静かな場所なのに、何故か不気味な風を感じた。
心当たりはないけど、私はその理由を知っている気がする。
──なんでだろう、どうしてだろう。
疑問を頭に思い浮かべても答えは返ってこない。
それもそうだ。だって私の中には
元々一つの身体を共有していた別人格としての
本当の意味での自立はまだだけど、きっと彼女もいつかは私の元から離れて独り立ちするんだと思う。その時は精一杯応援するつもり。もちろん姉として、家族として、私の半身として。
「フラン、どうしたの? 一緒に遊ぼ?」
ただ眺めているのを心配してか、ルナが声をかけてきた。
ルナはフィオナやその友人である妖精メイドのシュヴァハ、マルバー、パンサーの3人に加え、ここに来る途中出会った妖精のチルノ、大妖精の計5人と遊んでいた。私はフィオナを守るとお姉様に誓って出てきたし、妹や従者、友だちを守るために見張り役のように辺りを警戒していた。
ちなみにお姉様は久しぶりにレミリアお姉様と2人だけで遊ぶらしく、嬉しそうに喜んでいた。
妬ましくて少し腹が立ったけど、本当に嬉しそうだったから何も言いはしなかった。
「⋯⋯フラン?」
「ん、そうだね。遊ぼっか」
あまり気を張りすぎるのもダメだよね。
そう思って誘いを受け、ルナに連れられみんなのところへ向かった。
「あ、フラン! 何してたんだよ、来るの遅いぞ!」
最初に出迎えてくれたのはチルノだった。その後ろには大妖精が付いてきている。
いつも思うけど本当に仲のいい友だちだ。こういう関係は少しだけど憧れる。
彼女達の後ろではシュヴァハ達妖精メイドが弾幕を放ち合い、弾幕ごっこをしているようだった。しかしシュヴァハの弾幕が弱くて小さすぎるせいか、戦いが一方的になっている気がする。
「ごめんごめん。それにしてもチルノ、吸血鬼に対してその態度はどうかなあ?」
「あたいはサイキョーの妖精だから問題ないぞ!」
「ち、チルノちゃん、フランちゃんを怒らせちゃ⋯⋯」
冗談だと言うのに、大妖精は大慌てでチルノをたしなめる。
お姉様に似て少し面白いけど、友だちだからやり過ぎはよくないよね。
「ふふふ、冗談だから落ち着いて、大ちゃん。チルノがこういう性格だって知ってるし、嫌いじゃないからね。ま、度が過ぎるなら怒るかもしれないけど。それよりもさ、今どういう状況?」
「え、えっと。さっきまで普通に弾幕ごっこで遊んでたんですけど⋯⋯途中でパンサーちゃんがシュヴァハを鍛える、って言って⋯⋯」
うん、なるほど。大体察した。
要は面倒見のいいパンサーが戦闘面だとかなり弱いシュヴァハを見かねて強くするために遊んでいるらしい。ついでに真面目なマルバーが一緒に遊んで手伝っている辺り、妖精メイドの中でもシュヴァハはかなり弱い方なのかな。
「ひぇぇ! も、もう無理です! 死んじゃいますぅ!」
「大丈夫、まだやれるって!」
「⋯⋯パンサー、体力の低い者に強要してはいけません。彼女にはメイドという本職がありますから。それも私や貴女より優秀です。仕事に支障の出ないよう、ここまでにしましょう」
「んー⋯⋯それもそうか。シュヴァハー、休憩だー!」
パンサーの声に、シュヴァハは息を荒くしながら地面に降り立つ。
そして体を他の妖精メイド達に支えられながら、私達の方へと戻ってきた。
「つ、疲れました⋯⋯」
「大丈夫? 疲労を回復することできるよ?」
どこからともなく私達とは別の場所で見ていたらしいフィオナがシュヴァハに駆け寄ってきた。
しかしシュヴァハはその申し出を断るように首を横に振る。
「も、申し訳ありませんが、回復されるとまた遊ぶ羽目になりそうですぅ⋯⋯」
「大変だね。でも戦う力はあって損しないと思うよ」
「いえ、私は家事さえできれば充分ですから⋯⋯」
遠慮気味にそう言って、シュヴァハはその場に倒れ込んだ。
絶対に疲労回復の魔法を使ってもらった方がいいと思うんだけどなあ。
「シュヴァハは体が弱いから、下手に強くなって妖精の枠から外れるよりはいいだろうね」
「ルナの言う通りだけど、私は少しくらいは強くなってほしいかなあ。紅魔館の住人だし?」
「ってことらしいな。じゃあ、回復してまた修行だなー!」
「ひ、ひぇぇぇぇ!」
半ば無理矢理回復され、そして引き摺られ、シュヴァハは断末魔の叫びを上げながら修行へと戻っていった。
今度はマルバーが残り、パンサー1人だけのようだけど誰か止めてあげれるのかな。
「⋯⋯ところでマルバー。シュヴァハって何か能力ないか知らない?
能力の応用次第では強くなることも⋯⋯」
「いえ、ルナ様。彼女は何も能力を持っていません。
本人曰く、強いて言うなら『家事をする程度の能力』とか」
「⋯⋯え? そうなの?」
「ええ、そうなのです」
それを聞いたルナは面白いほど目を丸くしていた。
周りに能力を持っている者が多いせいか、彼女にとって無能力は珍しい存在らしい。
「⋯⋯ちなみにマルバーやパンサーは?」
「私は『小さな病気を治す程度の能力』です。パンサーは詳しくは聞いていませんが、他人の姿をその者に気づかせずに変えるとか。とにかく戦闘面に活かせるものではありません」
「ふーん⋯⋯。やっぱりそんなものなのかな? 私やフランは戦闘にしか役に立たない能力だけど、オネー様やレミリアオネー様みたいにどっちでも使える能力って珍しいんだね」
意外と応用のきく能力を持つ者は多いと思うし、咲夜やパチュリーはその良い例だと思う。
逆に美鈴のような戦闘面か生活面、片方にしか役に立たない能力の方が少ない気もする。美鈴も全く役に立たないってわけじゃないし、私はそういう人にまだ会ったことないと思う。
「⋯⋯能力、か。ボクにもあるのかな。能力」
「能力って言っても、他の人にできない事のことだしね。それに厳密にはみんな自己申告制のものだしね。だから『程度の能力』って言うらしいよ。自分はこの程度しかできないです、って能力によっては相手をバカにしてる気しかしないけどさ」
「ふむ⋯⋯。その基準から言うと、ボクは魔法を使える程度の能力、ってことになる?」
フィオナの真っ直ぐな問いに、少しだけ考えさせられる。
確かに魔理沙やパチュリーみたいに細かい魔法は置いといて、一括りにしていいかもしれない。だけど魔力で感情が分かる方が能力としても相応しい気がする。⋯⋯ま、結局何を考えても最終的に決めるのはフィオナになるんだけど。
「フィオナちゃん、魔力で感情読めるでしょ? それを能力って言ってもいいんじゃない?」
「でもフラン、それだとさとりと被るよ?」
「⋯⋯今は、魔法を使える程度の能力でいい。いずれボクだけの特別な能力を見つけるね」
意外にも能力というものが好きになったらしく、子どものように目が輝いている。
稀に無気力というか、無感情な時があるけれど、やっぱり心配し過ぎだったみたい。
「タースーケーテー!」
「おっ、楽しそうだな! あたいも行ってくる!」
「ち、チルノちゃん!?」
楽しそうな気配につられてかチルノが修行中のシュヴァハの方へと近づいていった。
止めるつもりはないけど、流石の私も少し心配になってくる。
「⋯⋯何かありましたら、私が止めるので妹様達がご心配なさる必要はありません」
「あ、うん。ありがとうね、マルバー。⋯⋯じゃあ、ちょっと見物しとこっかなぁ」
「そうだね。⋯⋯フィオナも一緒にね?」
「うん、分かった」
本当にこの2人も仲良くなったなぁ。
妹の成長に喜びを感じながらも、次は従者の成長に目を向けた────
ちなみに途中で出てきた「やさぐれた青年」達は分かる人には分かると思います。
まあぶっちゃけ募集の(ry