東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
ということでお待たせしました。16話ですね。しかし次回も遅れそう()
side Renata Scarlet
──紅魔館(レナータの部屋)
妹達が遊びに行って久しぶりにお姉さまと2人だけで遊べる静かで幸せな日。
妹達と遊ぶのが嫌いなわけではないが、あの娘達と遊ぶには少し体力が必要なので、こうした息抜きという名の遊びも私には大切なのだ。もし無ければ私は疲労し切ってしまう。
──なんてことは建前で、本当はただ単にお姉さまと遊びたいだけなのだけど。
「お姉ちゃんとレナ! みすちーの店に行こー!」
だがしかし、久しぶりに遊べるという時にミアが私の部屋へと入ってきた。
そう言えば忘れていたが、ミアは捕らえたアミーの世話をするために家に居たのだった。いつも放浪していたから少し忘れかけていた。⋯⋯本人にそれがバレたら怒られるかもしれない。バレる気はしないのだが。
「ちょっとレナー。そんな嫌そうな顔しないでよー」
「え? そ、そんな顔してます? ⋯⋯すいません。ただ──」
「言い訳はいいから。謝ってくれたしそれだけでいいよ。で、どうするの?」
「その前に少しいいかしら?」
早く行きたいのか急かすミアに、お姉さまが不思議そうな顔をして質問した。
私も疑問に思っていたことなのだが、何故かミアの後ろにアミーがいる。アミーは懐いているのかミアの服の裾を握って、私達から隠れるようにミアの後ろにいた。
「ああ、アミーのことね。一緒に行くつもりだけど、悪いかな?」
「悪いかどうかは分からないけど、大丈夫なの? 危険とか⋯⋯」
「もう、お姉ちゃんまで疑うの? 仕方ないことだけどさー。制約のイヤリングがあるから大丈夫だし、本人も戦う気なんてないから大丈夫だよ!」
どこからくる自信なのか、ミアは強い口調でそう言い放つ。
こういう時はどっちに転ぶか分からないが、警戒するに越したことはないと思う。
だから連れて行きたくないのだが、頑固なミアにそう言うのも無駄だろう。
「大丈夫という根拠が小さいわよ。残念だけど連れていけないわ」
だがこういう時でも言えるのがお姉さまらしい。
稀に見る険しく怒っているような顔でそう話す。もちろん本当に怒っているわけではない。
「ええー! いいじゃん! お姉ちゃんのケチ!」
それと1つだけ思っているのだが、どうしてミアはお姉さまの前だと甘えん坊になるのだろう。
猫を被っているのか、それとも逆に私の前だけあんな態度なのだろうか。⋯⋯それだとなんだか嬉しいような、悲しいような。
「ケチで結構。危険は冒せないし、本当にその娘が私達に危害を加えれないかは分からないでしょう? 実は効いていないかもしれないわよ?」
「うー⋯⋯それもそうだけど⋯⋯。たまにはアミーも外に出してあげないと、絶対退屈すると思うんだよね。お姉ちゃんもずーっと家にいたら退屈するでしょう?」
同感するようにミアの後ろでアミーが首を縦に振る。
どうやら外に出たいと最初に言い出したのはアミーかもしれない。その考えに辿り着いた私は、より一層不安が募る。
「気持ちは分かるけど、ダメなものは──」
「じゃあ分かった。今度アミーと2人だけで行ってくるね」
「⋯⋯はあ。分かったわよ。一緒に行きましょうか。貴方だけでは行かせないわよ」
しかし妹への心配の方が高かったお姉さまは、簡単に折れてしまった。
私自身もお姉さまが許可したのなら、と思ってしまい、何も言うことはなかった。
「やったー! よかったね、アミー」
「う、うん。そうだね!」
嬉しそうな顔を見せ、はしゃぐ2人にお姉さまは呆れた表情を浮かべていた。
私はどんな顔をしているか自分では分からないが、少しだけ嬉しいと思っているのは間違いないと思う。だって久しぶりに見る妹の歳相応のはしゃぎようなのだから、嬉しい以外に何か思うわけがない。歳相応というのは吸血鬼基準の話で、人間なら嬉しいを通り越して感動してしまいそうだ。
「それでみすちーの店、っていうのはどこにあるの? というかみすちーって誰?」
「宴会の時とかたまに見ると思うけど⋯⋯妖怪で夜雀の少女だよ」
「妖怪じゃない夜雀なんていないわよ。とりあえず誰かは何となく分かったわ」
意外にもみすちーことミスティアと交流があったのか、お姉さまは思い出したと言わんばかりに頷いて見せる。これがお姉さまの勘違いで実際は会ったことすらない可能性もあるが、ここは黙っていた方がいいだろう。言って当たった場合、お姉さまのプライドを傷つける。
「外に出るつもりはなかったから部屋着なのよね。着替えるから少し待ってなさい」
そう言って人前だと言うのに、クローゼットに近付いて服を探し始める。
服を見つけ、着ていた服を脱ぎ捨てようとした辺りでミアに止められた。
「お、お姉ちゃん? ここで着替えるつもり?」
「別にいいじゃない。誰も困らないわよ。それよりレナも早く着替えて来なさいよ」
「いやいやいや! 良くないから! っていうか、レナも止めてよ!」
「え? 私達は家族なわけですし、そんな慌てるようなこと──」
なんて思っていたが、よく考えるとアミーがいるし、人前で着替え始めるのはどうだろうか。
そう考えるとなんだか恥ずかしくなってきた。
「言いたい事分かった?」
「⋯⋯分かりました。とりあえずお姉さまは私達以外の前で服を着替えたりしないでくださいよ。それと着替えてきますので、ミア達は先に門の前で待っていてください」
「うん、分かった。あ、お姉ちゃん、本当に恥ずかしいから止めてよね! 行くよ、アミー」
「う、うん!」
最後にそう言い残し、ミアはアミーを連れて入り口方面へと走っていった。
落ち着きのない妹だが、それもまた可愛さの1つなのだろう。
「⋯⋯思春期か何かかしら?」
「ただ単に恥ずかしいだけだと思いますよ」
「ふーん⋯⋯今更な気がするわ。変な子ね」
そう言って着替え続けるお姉さまと別れると、私は1人自分の部屋へと戻った。
霧の湖を超え、人里を通り過ぎ、見えた先はミスティアが居るという竹林。
そこは迷いの森ならぬ迷いの竹林と呼ばれる場所。その名の通り迷いやすく、また妖怪化した獣の類いが棲んでいるため人間が近づくことはなかなかない。例外として中にある病院のような役割を果たしている永遠亭に行く者は多いとか。
「で? なんで吸血鬼なんかが私に頼むんだ?」
「まあまあ。私達だけじゃ帰りが心配だからね。それに奢ってあげるから、ね?」
ミアが道に迷いやすいからという理由で、案内人として不老不死の人間、藤原妹紅を呼んでいた。
当の本人は面倒くさそうにしながらも付き合ってくれている、いわば良い人らしい。
「上から目線なのは気になるが、有り難くいただくよ。最近まともな食事をとってなかったからな。食事にあり付けるのは嬉しい限りだ」
「私達の家に来てもいいんだよ? 食事くらい、用意できると思うから」
「妖怪にこれ以上恩なんて売るもんか。だけど気持ちは受け取っとくよ」
「ふふふ。いいよいいよ。いつでも来てくれていいからね!」
「だから気持ちだけで絶対行かないからな。一応、私は人間なんだから」
気のせいか、懐かしいことでも思い出したかのように遠い目でそう語る。
彼女の過去については何も知らないが、不老不死になった経緯は相当なものだろう。
私にはそれを聞けるほどの勇気も仲もない。⋯⋯なんて言ってたら一生仲良くなることなんてないかな。でもやっぱり私には⋯⋯ちょっと難しい。
「そろそろ言われてた場所だぞ。なんたってこんな場所に店なんか⋯⋯」
「移動屋台だからね。色々な場所を回ってるらしいよ。まあ、ここで店を開いた理由は私にも分からないけど⋯⋯。さて、それはそうとして⋯⋯みすちー! 久し⋯⋯あら?」
「ミア? どうかしましたか?」
先に暖簾をくぐり抜けたミアが突如として立ち止まった。
どうやら中で何かを目撃したらしい。
「中に何か⋯⋯あらあら。魔理沙じゃない。ああ、そしてこの娘がみすちーね」
「おっ、いつもの吸血鬼姉妹と妹紅か。それと⋯⋯誰だ?」
中にいたのは珍しくも普通の魔法使いの魔理沙だった。
彼女は八目鰻を片手に、お酒を飲んで1人で楽しんでいるようだ。
「は、初めまして。⋯⋯ミアのお姉さんですね。いつもお世話になっています」
「礼儀正しいわね。気に入ったわ。よろしくね」
「こちらこそお世話になってるよ。あ、魔理沙も久しぶりー」
「久しぶりだな。で、誰だそいつ。新しい妹か?」
「よく増えるみたいに言うけど、妹じゃないよ。何ていうか⋯⋯友だちだね」
妹がよく増えるのは否定しないが、新しい顔を見る度に妹と聞くのはどうかと思う。
それにアミーは髪の色以外、誰とも似ていないと思うのだが。
「そ、そう。ともだちだよ!」
「友だちかあ⋯⋯」
慌てて話しながらも否定はしない。
少しだけでも打ち解けたのかな、と思う私に対し、魔理沙は怪しむように観察していた。
「そっか。じゃあそいつらと仲良くしてやってくれ。ミアはともかく、後の2人は人見知りの部類に入るからな」
「わかった。仲良くするよ!」
「誰が人見知りよ。自分から格下の者に話しに行くなんて有り得ないわ」
「私的には、どう話したらいいか分からなくて⋯⋯」
「ああ納得した。2人とも性格面に問題があるんだな。レナはゆっくりでいいから頑張れよ。レミリアは知らん。手に負えないからな」
その言葉をきっかけに言い争いになる魔理沙とお姉さまを見て、少し微笑ましくなる。
今更ながら、私は紅魔館にいる家族を守ることだけを考えて、友人を作ったことがあまりない。あるとすればさとりくらいだろうか。ともかくかなり少ないことだけは確かだ。全てが終わったら、もっと広く、色々な場所へ旅するとしよう。
「ちょっとー! 喧嘩はやめてよー!」
「あ、ああ。悪い。熱くなってしまったな。それにしてもここには何の用で来たんだ?」
「この娘⋯⋯アミーを連れて外に出たくなってね。その場所としてゆっくり話もできそうなみすちーの屋台にしたの。魔理沙の方はどうしてここに?」
「理由なんかないぜ。強いて言うなら暇つぶしで放浪してたら偶然ここに着いた」
皆が大雑把で大胆過ぎる理由に呆れてしまうも、魔理沙らしいとどこかで納得していた。
この性格こそが、魔理沙の強さや優しさにも繋がっているのかもしれない。
「ははっ、何それ? 魔理沙ってホント、面白いよねー」
「なんだか馬鹿にされてる気がするぞ?」
「悪い意味なんかこれっぽっちもないからね。純粋に凄いなあ、って」
「そうかぁ? ならいいか」
魔理沙は意外とあっさり信用し、再びお酒を手に取り口へ運ぶ。
いつもと変わりないが、もしかしたら少しくらい酔っ払っているのかもしれない。
「さあさあ。ミアさん達も遠慮しないで座ってください。お食事のご用意は済んでますので」
「ありがとう、みすちー。アミーも妹紅も遠慮しないで食べていいからね。全部私が出すから」
「元をたどれば私のお金なのだけどねぇ」
ミアの言葉にお姉さまが冗談交じりの口調で返す。
そしてそのままお小遣いの話になったかと思えば別の話題に入っていった。
「ところでレナ。最近フィオナは大丈夫か? 襲われた、って聞いたが⋯⋯」
お姉さま達との話に入る前に、魔理沙から質問を受ける。
酒に酔いながらも心配そうな顔をするなんて、借りパクするような人とは思えない。
「大丈夫ですよ。誰が来ても、私が守り抜きますから」
「あんま気を張りすぎるなよ。困った事があれば、私や霊夢、アリスとかに頼れよ。自分が妖怪なんてことは気にするな。私が気にしてないからな」
「⋯⋯ありがとうございます、魔理沙」
私がそう言うと、魔理沙は「いいってことよ」と笑って返す。
優しい言葉に、少しくらい気を許してもいいのかもしれない、と思ってしまう。
だがこれは私達の問題なのだから、彼女達を巻き込むわけにはいかない。それにソロモン七十二柱はどういう訳かフィオナにだけ狙いを定めているようだし、関わらせるのも悪い気がする。
「ああ、そう言えば春頃に宴会があるんだが、お前達も来ないか?」
「も、もちろん良ければ⋯⋯。でもいいのです? 霊夢とか怒りそうで⋯⋯」
「大丈夫大丈夫! どうせ妖怪以外集まらないからな!」
その通りだが、それを口に出して言うのはどうなのだろうか。
と、密かにそう思う私だった。
「ああそれと。宴会に呼びたいやつがいれば、遠慮なく呼んでくれてもいいぞ。
多い方が賑やかで楽しいだろうしな」
「呼びたい人⋯⋯?」
「私が知らないやつでも、お前が知らないやつでも全然構わないぜ」
「流石に後者の方は遠慮します。魔理沙にではなく、その人に。でも⋯⋯そうですね」
八目鰻を頬張りながら、呼びたいと思う人を頭に思い浮かべる。
それで真っ先に思い浮かんだのはさとり達だった。
さとり達地霊殿の妖怪達は来るだろうか。呼ばれているか分からないが誘っておいた方がいいだろうか。遊びに行くついでに誘ってみるとしよう。
「誰か思い付いたか? ま、宴会まで楽しみにしてるよ。
話は変わるが、アミーって奴、
魔理沙は突拍子もなく妹紅を指差し、目をアミーに向けながらそう尋ねる。
質問の意図は分からない私だったが、急な質問だったためとっさに頷いて肯定を示した。
「なるほどなあ⋯⋯」
「ん、私がどうかしたか?」
アミーと違いご飯中でも気を緩めていなかったのか、妹紅は私達の会話に自分の名前が出ていることに気づき、話に入ってきた。
「いや、何もないぜ。気にするな」
「おかしなやつだな」
不思議な反応を見せる魔理沙に妹紅が首を傾げる。
気づけば私も同じように首を傾げていた。同じように不思議に思っていたのだ。
「ははは。まあそう気にするなって。じゃあ、私はそろそろ行くな。
明日アリスと会うから早めに帰ることにするよ」
「そうなのですね。分かりました。お気を付けて」
「あら魔理沙。もう行くの?」
「ああ、悪いな。また宴会の時にでも会おうぜー!」
魔理沙は最後にそう言い残し、箒にまたがって空へと飛んでいった。
その姿は正しく想像通りの魔法使いそのもので、少しばかり綺麗に思えた。
筋力、耐久、俊敏、魔力、幸運て飛ぶのもたまには悪くないかもねぇ」
「だねー。って、みすちー? どうかした?」
「そ、それが⋯⋯」
友人の小さな異変を気づいたらしいミアがそう尋ねる。
それに対してミスティアは言い難そうに切り出した。
「魔理沙さん、お金払ってない⋯⋯」
「⋯⋯え? ごめんワンモア」
「ですから、魔理沙さん、無銭飲食を⋯⋯」
「マジかよ。はぁー。仕方ないなぁ。魔理沙の分も奢りってことにしといて。あの人、ホント上手なんだから⋯⋯」
そうして魔理沙が帰った後、しばらくの間ため息が聞こえるようになった────
side Fiona
──霧の湖
時間は遡り、霧の湖近くにある森。フィオナがフラン達と遊びに来た際、弾幕ごっこが繰り広げられ、フランが1人で悩んでいる時のこと。
「
フィオナはある者に呼び出されていた。
本人でさえ知覚していないものの、彼女は見様見真似でレナータの能力を模範し、自身の気配を遮断して誰にも悟らせずにその者の元へと行っていた。
「分身体だと思ってください。多少の魔法は加えていますが」
「幻影とは違う?」
「はい、違います」
「なるほど、理解した。呼び出した理由は?」
その者は数秒ほど周りを確認する素振りを見せ、すぐまたフィオナへ向き直る。
どうやら辺りを警戒しているようだ。
「それよりも先に、1つだけ伺いたいのですが、どうして来てくださったのですか?」
「敵かもしれないのに、ということ? なら大丈夫。みんな近くにいる。それに警戒もしている。何かあったとしても、レナお姉ちゃんの魔法もある」
「⋯⋯敵が死を望んでいる場合、それは意味を成しません。殺される方が早いでしょう」
「それならそれでいい。レナお姉ちゃん達が無駄な配慮や心配をする必要がなくなるから」
「お変わりありませんね、記憶を失っても。やはり人の気持ちは理解しませんか」
その者はどこか悲しそうにも見える表情をしたかと思えば、フィオナが瞬きする間もなく元の表情へと戻る。その変化はフィオナも気のせいかと頭を傾げるほど早かった。
「そうですね⋯⋯敵が来ます。敵はいつでも近くにいます」
「それを伝えるためだけにボクに姿を見せたの?」
「はい、それだけのためにです。ですが何よりも重要です」
「敵が来ることが? 意味が分からないよ」
頭を悩ますフィオナ見て、少しばかりその者の表情が緩んだように見えた。
しかしフィオナはその変化に気づく様子はなかった。
「⋯⋯そう言えばボクの過去を知っているの?」
「はい、もちろんです。ですが教えたところで意味はありません。言わば一種の呪い。思い出すにはあの者を⋯⋯と、これ以上話しても無意味ですね。申し訳ございません」
「⋯⋯昔のボクは意味の無いことを嫌っていた?」
「どちらかと問われましたら、効率を重視していたので嫌っていたでしょう。あまり話す機会はなかったですので、おそらくですが」
自信のない答えにフィオナはより一層疑問を持つようになる。
そして話す機会がない仲だったのに、何故助けるようなことを言うのかも分からない様子だ。
「そろそろ行かなければ怪しまれる時間ですね。最後に1つ。地底に行くことがあれば、青眼紫髪の女性を探してください。普段は黒いレインコートのような服を着ています。名前はバティンといいます」
「ルシファーの使い魔の二番手? ⋯⋯ということは君も?」
「私のことはお気になさらず。私は貴方の傍に仕え、守り続ける者です」
その者はそう言い残したかと思えば、姿を消した。
フィオナはそれを見送った後、すぐにフラン達の元へと戻る────