東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─   作:百合好きなmerrick

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お久しぶりです。私用で遅れてしまいました。
そして疲れが溜まっていたのか風邪をひいてしまい、しばらく投稿できそうにありません。
楽しみにしていた方には申し訳ないです。


4話 「名も無き霧が覆うとき」

 side Renata Scarlet

 

 ──博麗神社への道

 

 フィオナと出会った次の日。

 私達は博麗神社を目指して空を飛び、向かっている。

 

 空を飛んでいるのは私の意向で、フィオナを自由に飛ばせたい、という想いからだった。それは今日別れるであろう少女への、私の名残惜しい気持ちも入っているかもしれない。しかし寂しいとは思うが、悲しいとは思わない。人間であるフィオナにとって、吸血鬼と暮らすよりは人間と暮らす方がいいに決まってる。

 

「レナお姉ちゃん! 空を飛んでる!」

 

 フランの紅い服を身にまとうフィオナは、まるで蝶のように鮮やかに舞っている。

 昨日着ていたフィオナの服は綺麗に洗ってもらって、今はフィオナ自身が持っている。

 

「ボク、空を飛んでいるよ!」

「飛んでいますね。とってもお上手に⋯⋯」

 

 私の気持ちを知る由もないフィオナは、嬉しそうに空を散歩している。

 それを見ていると私も嬉しく感じる。だがそれと同時に、離れ難い気持ちも生まれてしまう。その気持ちは神社に近付くにつれて徐々に大きくなっている。フィオナとは初めて出会ってからまだ1日しか経っていないのに、まるでずっと昔から一緒にいる人のように。

 

「レナお姉ちゃん、どうしたの? 元気ない。疲れている?」

「い、いえ。大丈夫ですよ? ほら、もうすぐ神社です。そろそろ家に帰れますね」

「うん。ね、帰ってもまた魔法を教えて。遠くても、絶対に行くから」

「フィオナ⋯⋯はい。もちろんいいですよ」

 

 私の考えていることは杞憂だ。一生会えないわけではなく、彼女の意思次第ではいつでも会えるのだから。もちろん彼女の親族が反対するだろう。しかし、それでも彼女が魔法を教えてほしいと、会いたいと願うのなら私もそれに応えよう。願わなければ、彼女の幸せを壊さないためにも会うことは無くなるだろうが、それはそれでいい。私がそこまで介入する権利はないのだから。

 

「そうだ、フィオナ」

「レナお姉ちゃん? なに?」

「昨日プレゼントした指輪、今も付けていますか?」

「うん。プレゼントとは違うと思うけど、付けてる。

 レナお姉ちゃんに貰った大切な物だから」

 

 フィオナは左手の中指に付けた指輪を見せてくれた。

 相変わらずの派手さで、私が作ったとは到底思えないほど紅く染まっている。

 

「では、その手を私の方へ伸ばしてください。これは、私からのプレゼントです」

「うん。どうぞ、レナお姉ちゃん」

 

 フィオナは素直に手を差し出した。

 その手で輝く紅の指輪に、私はそっと手を触れる。

 

「──我が血、我が叡智を集めし魔の加護は汝の下に。汝、言霊を発すれば力にならん。魔は形となって汝を護る盾となり、汝に仇なす者への矛となろう。⋯⋯はい、完了ですね」

「魔法の詠唱? また安全装置?」

 

 詠唱が終わるとともに、フィオナは呆れた顔を見せてそう言った。

 会って初めてその顔を見せられたが、あまり嬉しくはない。

 

「近いですが少し違います。あくまでもプレゼントですから。今、貴女の紅の指輪に私の力を模す武器の召喚陣を与えました。これでいつでも魔力を消費することで、武器を召喚できます。それは私の唯一のオリジナル武器です。神話を模さず、歴史を組み込まず、私の力を概念として加えた武器です」

「レナお姉ちゃんの力? 吸血鬼の力?」

「そうではないですね。自己申告ですが、幻想郷の妖怪や人間は特殊な能力を持っている人が多いのです。同じように私も『ありとあらゆるものを有耶無耶にする程度の能力』を持っています」

「有耶無耶⋯⋯? 弱そう」

「うっ⋯⋯」

 

 純粋無垢な真っ直ぐな目を向けられ、精神的に傷付く。

 我ながら豆腐メンタルだとは思うが、その目は子ども特有の正直な目なので、フランのような冗談ではないと分かるから辛いのだ。

 

「つ、強いですよ? 不意打ちできますし⋯⋯」

「有耶無耶は分からないだけ。それは問題の答えが分からないようなもの。だから有るのも無いのも変わらない。有るものは有るし、無いものは無い。不意打ちだって広範囲の攻撃だと近付けず、全方位の防御だと意味がない。一対一とかで自分の存在が強すぎても、バレやすいと思う」

「し、正直に言いますね⋯⋯」

「でも、嬉しい。どうしてだろう。弱くても使い道があるから? お姉ちゃんから貰ったから?

 どうしてかは口では上手に説明できないけど⋯⋯ありがとう。レナお姉ちゃん」

 

 フィオナは気恥ずかしそうに言った。

 もしや、正直に言ったことも照れ隠しなのだろうか。いや、ただ思っていることを口に出しただけかもしれない。俗に言う嘘をつけない子の可能性もある。

 

「いいのですよ。ちなみに願えばその者の望む武器を召喚できますが、どれも能力は同じです。

 強い者には敵わないですが、触れるなどで技や能力を有耶無耶にして無力化が可能ですよ」

「なるほど⋯⋯。ありがとう」

「いえいえ。もうすぐ神社に着きますし、着いたら⋯⋯へ?」

「霧⋯⋯?」

 

 突然、真っ白で薄い霧が私達の周りに現れた。

 それ自体に悪意は感じなくとも、その中にいる何かからとても凶悪な殺気を感じる。

 

「占星術によると今日は最大の幸が訪れる日。しかし同時に最大の不幸も。何が来るかと思えば、魔力が強いだけの小童が釣れようとは⋯⋯。外れる日もあるということか」

 

 霧の中から青ざめた馬に乗った背の高い老人が出てくる。

 手には赤黒く濁った鋭い槍を持ち、白髪で長いあごひげが付いている。

 

「魔力と⋯⋯妖力? 妖怪でしょうか⋯⋯」

「悪意を感じる魔力。⋯⋯誰?」

「名乗る必要はないでしょう」

「え⋯⋯?」

 

 目の前にいたはずの老人が消えた。

 

「何せ、今から死ぬのですから」

 

 そして気が付くとすでにフィオナを背後を取り、槍を構えていた。

 

「──フィオナ!」

 

 フィオナを救うために私は彼女に飛び込み、共に地面へと伏せる。

 その刹那、真上で空を切る音が聞こえた。

 

「わふっ。あ、ありがとう⋯⋯」

「なんと! 間に合わなかったじゃと!? いや、まさか⋯⋯」

「フィオナ、私から離れないでください。そして武器の詠唱を。召喚したい武器を想像し、創造するイメージです」

「う、うん。邪魔にならないようなもの⋯⋯盾!」

 

 フィオナの紅い指輪が白く発光しながら形を変えていく。

 瞬く間にその指輪は、小さいとはいえフィオナの体を覆うほど大きな盾となっていた。

 

「軽い⋯⋯不思議」

「必ずしも武器の見た目と質量が一致するかは⋯⋯と、後ろを守っていてください」

「⋯⋯そちらのお二人方。お名前は?」

 

 考え込んでいたのか無言だった老人が、再びこちらへ向き直る。

 

「え? レナータです」

「⋯⋯ボクはフィオナ。でも、どうして名前を聞くの?」

「魔力は低いが、儂が探しているお方にそっくりな気がしてのぉ。

 どうやら気のせいだったようじゃ」

 

 老人は肩をすくめ、頭を振る。

 しかし警戒を解くつもりは無いらしく、武器はこちらへ向けたままだ。

 

「では帰ってもいいです? 急ぎの用事がありますので」

「いやはや。儂の姿を見られたからには返すわけにはいかないのぉ。

 だがぁ、言いふらさないことを条件に返してやらんこともないが⋯⋯」

「もちろん言いふらしませんよ。約束します。私は悪魔ですから、約束は破れませんよ」

「なんと。貴方は悪魔でしたか。でしたら話は早い。ここは平和的に──」

「君、嘘つき。返すつもりないね?」

 

 近付いてくる老人に対し、フィオナがそう言った。

 その顔はいつも通りだが、真っ直ぐと瞳を老人に向けている。

 

「⋯⋯ほう? どうしてそう思うのでしょうか?」

「君の魔力、悪意を感じる。とても強い悪意」

「⋯⋯どうやら感受性の高い小童だったようで。

 いや、流石に騙されるとは思っておらんかったがのぉ」

 

 老人は困ったようにあごひげを撫でる。

 しかしその目は獲物を見るような鋭い目だ。

 

「フィオナ。盾をしっかり持っていてくださいね。

 今からあの人を無力化し、神社への道を開けます」

「小悪魔風情が、舐めた口を利くものではございませんぞ?

 我が主のめいに従って、小童よ。貴様を排除するとしよう!」

 

 槍をゆっくりと引き、構えたかと思うと再び老人の姿が消える。

 透明になっているのか、恐ろしく速いのかは分からない。だが先ほどのように、攻撃するときは姿を現すはずだ。そのときを狙っても攻撃が当たらなければ私に勝ち目はない。

 

「レナお姉ちゃん、こっち!」

「はいっ!」

 

 フィオナの声に反応し、背後へ振り返る。

 しかし老人は今まさに鋭い一撃を放とうと、槍を放っていた。

 

「遅いわ! そのような盾で儂の攻撃を──なっ!?」

「いぅっ。手が、痺れる⋯⋯」

 

 フィオナは槍の突きを盾で受け流し、攻撃を逸らした。

 小柄な体だった為、後ずさりはしたが攻撃は全て受け切っていた。

 

「ど、どうして儂の攻撃が⋯⋯!?」

「っ、干将・莫耶!」

 

 油断した隙を狙い、召喚した双剣の一振りを相手へ投げつける。

 

「むっ! 避けろ!」

 

 器用に馬を動かし、老人はすんでのところで剣を避けた。

 しかし掠ったようで、その頬には赤い筋が生まれる。

 

「よく避けれましたね。⋯⋯その馬が邪魔でしょうか?」

「ほっほっほ。貴様如き、馬がなくとも勝てるわ。小童めが。

 だが確実に仕留め、あのお方を捕まえる為。そして契約故になぁ⋯⋯」

「そうですかー⋯⋯。では、戻れ! 干将!」

 

 互いに引き寄せ合う力を持つ双剣の一振りが、私の持つもう一振りの剣に引っ張られる。

 

「ぬっ? なァっ!?」

 

 剣は馬の腹部へ当たり、老人は落馬、転倒する。

 

「私も、この娘も殺させません! 行け、莫耶!」

 

 そしてトドメの一撃と言わんばかりに、私の持つ剣を傷つく馬へ向かって投げた。

 

「ヒヒィィン!」

 

 そして2本の深く刺さった剣は馬の動きを止め、老人の機動性を弱めた。

 

「き、貴様ァ⋯⋯! 我が馬をぉぉぉ!」

「フィオナ、自分の身だけを守っていてください。下手すると⋯⋯」

 

 老人は怒りをあらわにし、力強く槍を持っている。

 その怒りが離れていても伝わってくる。

 

「何人たりとも私や私の親しい方に手を出すことは許しません。

 吸血鬼という悪魔を本格的に敵に回す前に、退きなさい!」

「それはこちらの台詞だ、小童めが! 現世の悪魔が地獄の者に適うと思うな!」

「くっ、神をも裂く槍、ブリューナク!」

 

 急いで槍を召喚し、フィオナを下がらせる。

 

「地に伏せろ!」

「い──はぁっ!」

 

 息をつく暇もなく、相手の槍が私の頬の横を過ぎ去った。

 二発目がくる前に槍で弾くと、矛先を相手に向け──

 

「せいっ! やぁっ!」

 

 立ち続けに槍を突き、攻撃を繰り出す。

 

「弱い。弱い弱い!」

 

 が、腕の差が大きく、全て受け流される。

 こうなる前に槍術を鍛えればよかった、と思うも時すでに遅し。

 

「うぅ、はぁっ!」

 

 吸血鬼の反射神経だけを使い、攻撃を放ち受けるを繰り返す。

 

「死ねぇ!」

「きゃっ!? あ、槍が!」

 

 持つ手が甘かったのか、槍を飛ばされてしまった。

 持っていた手は痺れ、動きが鈍る。後ろにいるフィオナを守るために必死に手を動かそうとするも全く動かず、とっさに武器を召喚して持つことも不可能だった。

 

「終わりだよ」

 

 もちろん老人はその隙を見逃さず、槍を放つ。

 矛先は私の顔を向いており、その切っ先が目と鼻の先まできたその瞬間だった。

 

「ぬぁっ!? またしても流しただと!?」

 

 フィオナが前へと入り、老人の槍を再度受け流した。

 今度は完全に防ぎきっており、フィオナの顔に苦痛らしいものは見受けられなかった。

 

「レナお姉ちゃん! 後ろにっ!」

 

 否。彼女の信念が強く、苦痛が表に出なかったのだ。

 フィオナの顔には、力強い覚悟が現れている。私を守ろうとする覚悟が。

 

「フィ⋯⋯ありがとうございます! でも大丈夫ですよ。

 私は吸血鬼ですから、約束も、貴女も守ります! ⋯⋯あ、姉の面目の為にも!」

 

 私が死んで、お姉さまに迷惑をかけるわけにはいかない。

 だから私は勝つ。そして約束も、この娘も守り抜く。

 

「レナお姉ちゃん、無理しないで!」

「ご心配なく。私はそう簡単には死にません! 神剣『クラウ・ソラス』!」

 

 両手に魔力と光を集めて握り締め、剣へと象らせる。

 それは私の得意でもない武器だが、この状況を覆すには効果的と考えたのだ。

 

「たった一本の剣で何ができる! 槍の腕前でも負けていた貴様に! 儂を甘く見るでない!」

「甘く見ていません。正直に言うと私よりも強そうで怖いです。一体何者か? それは後で考えます。今はただ約束を守るだけ。しかし殺しはしません。まだ未遂ですから⋯⋯」

 

 剣を引きずるように素早く進み、老人の一歩手前で振り上げる。

 

「瀕死で済ませます。できなかったらごめんなさい」

「戯け! 儂の槍の前では貴様の剣なぞ無力なのだ!」

 

 金属のぶつがる音が響く。

 

 私の剣はいとも簡単に弾かれ、老人は二激目を放つ為に槍を構えると──

 

「これで貴様は──!? な、貴様、何を⋯⋯!?」

 

 突然槍を落とし、動きを止めた。

 老人は強ばった表情を浮かべ、私を憎々しげに見つめる。

 

「魔剣秘術『震剣(しんけん)』です。武器を通じて麻痺性の高い魔力を送り込む技。

 あまり長くは持ちませんが、念のために滅多斬りにする前に視界も奪っておきますね」

 

 老人の目の前まで近づけた剣を光らせ、視界を奪った。

 

「ぐぁ!」

「私とフィオナを襲い、そして私を、吸血鬼を小悪魔風情と罵った罰です。

 殺しはしません。ただ物凄く⋯⋯痛いですけど」

「──レナお姉ちゃん!」

「え──っ」

 

 何の前触れもなくフィオナの叫び声が聞こえ、後頭部に激痛が走る。

 そして気が付くと訳も分からずに地に伏していた。

 

「え⋯⋯?」

「ほ、ほっほっほ! 油断しましたな、小悪魔風情がァァァァ!」

 

 倒れたところで私は何度も蹴られ、身体中が痛む。

 頭が朦朧とする中、私が目にしたのは私を蹴りつける青ざめた馬だった。

 

「痛っ、つぅ! ど、どうして⋯⋯」

「儂とこの馬は二つで一つの悪魔! 儂が生きておる限りこの馬も死なんのじゃ!

 さて⋯⋯先ほどのお礼を返さねばなりませんなァ!」

「ダメ! レナお姉ちゃんに手は出させない!」

 

 目の前にフィオナが立ち塞がると、馬の攻撃が止む。

 しかし肝心の老人は麻痺の効果もなくなったようで落ちた槍を手に取った。

 

「邪魔な小娘じゃ。だがどういうわけか小娘に攻撃が当たらんようじゃ⋯⋯。

 吹き飛ばすのが手っ取り早いかのぉ」

 

 老人がそう話すと同時にフィオナの小さな体が浮き上がり、すぐ近くの木に衝突する。

 

「あっ、あぁ⋯⋯。お姉、ちゃん⋯⋯」

「フィオナっ!」

 

 苦しそうに喋るフィオナは、盾を持つ力もなくなり離れた場所で落としてしまった。

 離れた位置からでも、フィオナが悲痛な表情を浮かべているのが分かる。

 

「た、助け、ないと⋯⋯。私がみんなを⋯⋯!」

「無力、哀れ、惨め。どれも貴様にピッタリな言葉だろうて。

 安心せい。すぐには殺さん。ゆっくり、じわじわと⋯⋯切り刻んで殺してやろう」

 

 不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと私に槍を近づける。

 そして槍が私の右足に突き刺さり、抉るように槍を動かし始めた。

 

「あ──あぁぁぁっ! がっ、あ⋯⋯」

「苦しめ苦しめ。儂は貴様らの苦痛に歪んだその顔が好物なのだ。

 地獄の悪魔に歯向かうとこうなると覚えておけ、小悪魔風情が」

「陰湿ないじめねぇ。悪魔同士ってやっぱ仲悪いものなの?」

「なっ、誰──グァァァァ!」

 

 突然、目の前に色とりどりの光弾が現れ、老人と青ざめた馬を包み込む。

 

「霊符『夢想封印』。この手の敵にはよく効くわー」

「おのれ、おのれおのれ! 儂を舐めるでは──」

「追加を希望するのね。はっ!」

 

 たくさんの御札が老人達を囲み、そこに陰陽玉らしき大玉が当たると御札の中で爆発する。

 しかし爆発は御札に囲まれる範囲のみで、私やフィオナに被害はいかなかった。

 

 そして爆発が起きた数秒後、辺りに立ち込めていた霧は消え去り、元の森へと戻っていた。

 

「⋯⋯ようやく消えたみたいね。夢想封印と陰陽鬼神玉(おんみょうきしんぎょく)を受けて立ってたらやばかったわ。

 さてと。あんたレナよね? それと⋯⋯人間の子どもかしら?」

 

 奇跡に近いタイミングで飛び込んできた紅白の巫女。

 博麗霊夢が私に手を差し伸べるようにして立っていた。

 

「ど、どうして霊夢が⋯⋯?」

「悪い予感がして、様子を見にきたら不自然な霧があった。破壊できなかったから飛び込んだらあんた達が倒れていた、ってわけ。分かった?」

「わ、分かりましたけど、どうして私を助けたのです? 私は妖怪ですよ?」

「⋯⋯そう言えばどうしてでしょうね。まあ、ただの気まぐれよ。それよりあの娘を⋯⋯」

「ふ、フィオナ! 大丈夫です!?」

 

 霊夢に指摘され、慌ててフィオナに近づく。

 頭を強く打ったようだが、それ以外に傷はなく生きてはいるようだ。

 

「よ、よかった。今すぐ治しますから、安心して眠ってください⋯⋯」

「吸血鬼って人間を世話するのが好きなの?

 というかどこから連れてきたのよ。外来人でしょ? その娘」

「⋯⋯え?」

 

 霊夢の言葉に、私は呆気にとられるしかなかった。

 

 外来人、ということは外の世界の人間ということだ。もしもそれが本当なら⋯⋯。

 

「う、嘘ですよね? 確かに記憶喪失で幻想郷についての記憶もないみたいですが、魔力はありますし、魔法も覚えれましたし⋯⋯」

 

 彼女とはもう二度と会えない。私が外の世界に行く方法を知らないというだけでなく、彼女から会うこともないだろう。それがお互いの為になるのだから。

 

「魔法を教えた? 面倒なことをしてくれたわね、全く⋯⋯。1人くらいはいいわ。外の世界でも魔法を使えるやつは稀にいるから。あとでちゃんと調べるけど、人里でいなくなった少女がいる、なんて報告は聞いていないわ。それに⋯⋯」

 

 霊夢がフィオナに近づき、改めて顔を確認するようにのぞき込む。

 

「やっぱり昨日見た人間ね。この娘が昨日、ここと外を繋ぐ結界を通るところを偶然見たのよ。幻想郷に偶然迷い込んだか、何か目的があって入ってきたか。どちらにせよ見つかってよかったわ。昨日、一日中探しても見つからなかったから」

「⋯⋯えっと、もしかして帰すのです? 外の世界に?」

「本人次第よ。本当に記憶喪失って言うなら戻るまでは見てもいいし、今すぐ帰りたいって言うなら紫辺りに頼んで彼女の家まで送ってもらうから。でも本人に⋯⋯人間にとってどちらがいいかは分かるでしょう?」

 

 霊夢の言葉が重くのしかかる。

 

 彼女にとって一番いい選択とは、元の世界に戻すこと。

 私達妖怪と一緒に住むことは人間の彼女からしてみれば、その本心は不安でしかないはずだ。

 

「わ、私は⋯⋯」

「貴女じゃなくて、この娘のことよ。まずは神社へ行って、傷を治して、それから決めなさい。

 この娘の将来を、貴女が決めることになるのよ」

 

 霊夢は神妙な顔つきで、宣言するようにそう話した────

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