東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─   作:百合好きなmerrick

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大変お待たせしました。では、5話の始まりです。


5話 「幻想を見据える」

 side Renata Scarlet

 

 ──博麗神社

 

「さ、魔法で回復でもして、ゆっくり話しなさい。

 私は今すぐにでも紫を呼べるように頑張ってくるわ」

 

 神社に着き、眠るフィオナを寝かせると、間髪入れずに霊夢はそう言った。

 そして1人、神社の外へと歩いていった。

 

「せっかちなのでしょうか? いえ、それよりも⋯⋯」

 

 すぐ側で眠るフィオナの顔を改めて見つめる。

 安らかな顔をしている。しかし寝息をし、その肌の温もりは生きていると実感できる。

 

 あの時怪我を負ってから、フィオナはまだ目覚めていない。

 体力は回復はしているし、魔力などに支障は見られない。心配することは何も無いはずだ。

 

「⋯⋯なのに、心配するのは迷惑でしょうか。長い時を生きてきましたが、他人の気持ちはよく分かりません。有耶無耶な存在故、でしょうか? ⋯⋯いえ、能力のせいにしてはいけませんね」

 

 そっとフィオナの髪を撫でる。

 何故そうしたのかは私にも分からないが、今しておかないと勿体ない気がした。

 もう、会うことはないのだから。

 

「レナお姉ちゃん?」

「あ、フィオナ⋯⋯」

 

 彼女はキョトンとした表情を浮かべて、上半身を起こした。

 何も知らないその表情は、嬉しくも悲しくもある。

 

「おっと、起こしてしまったようで⋯⋯申し訳ないです」

「いいえ、問題ない。心身ともに疲れはない。だから起こしてくれてもいい。

 それよりも魔力の揺れが激しくて静か。悲しいことでもあったでしょ?」

 

 確信を持った表情を見せてフィオナが聞いてくる。

 魔力の探知や感知に関しては、私よりも優れていそうだ。

 

「べ、別に何もないですよ? ⋯⋯それよりも、そろそろお別れのようです」

「お別れ⋯⋯? ああ、なるほど」

 

 何故かフィオナのその顔は悲しげに見えた。

 何を思っているのか私には分からない。しかし、もしも少しでも私と離れることを寂しく思ってくれているのなら、素直に嬉しく思う。

 

「レナお姉ちゃん、お別れなんだね。でもまた会いに行くからね」

「⋯⋯はい、そうですね。いつでも家に来てください。待ってますよ」

 

 フィオナへ嘘をつくことに罪悪感を覚えないわけではない。

 だが、彼女は人間なのだから、吸血鬼の私とは少しでも一緒にいるべきではないのだ。

 

「レナお姉ちゃん、声が震えてる。嘘? 嘘つけない悪魔さん?

 面白いほど分かりやすい。悪魔さんなのに悪魔さんに向いていない」

「えっ? う、嘘じゃないですよ? というか地味に傷つきます⋯⋯」

「本当に分かりやすい。どうしたの? もう一生会えない、みたいな顔してる」

「的確に当ててきますね⋯⋯。はぁー、貴女に嘘はつけませんね」

「誰にも嘘はつけないと思う。下手だから」

 

 真っ直ぐと曇りなき瞳を向けられ、悪意はないとは分かる。しかしそれでも多少は傷つく。

 このとき私は、フィオナこそ嘘をつけないのではないか、と密かに思った。

 

「むぅー。貴女が知っているのか知りませんがここは幻想郷です。結界に遮断され、隔離され、外に出ることも中に入ることも難しい土地なのです。そして貴女は外の世界の住人らしいです」

「外の⋯⋯。要するに、帰ったらもう二度とレナお姉ちゃんと会えない、ってこと?」

「そうなりますね。ですが、人間の貴女にとってはそれがいいと思います。

 もちろん無理にとは言いません。⋯⋯記憶が戻るまで一緒にいてもいいですからね?」

「ふーん⋯⋯」

 

 私がそう話すと、彼女は考え込むようにして頭を伏せる。

 その顔は真剣そのもので、しっかりと考えてくれているようで嬉しく思う。

 

「──レナお姉ちゃんはどっちがいい?」

 

 フィオナは唐突に顔を上げると、私に問いかけてきた。

 その顔は無表情だが、その瞳は真っ直ぐと私の目を見ている。どうしてかその瞳を見ていると怖く、目を逸らすことができなくなる。

 

「私は⋯⋯貴女のためにも外の世界で暮らしてほしいです。吸血鬼と暮らすことは人間にとってダメだと思います。生活も、風習も、食べ物さえも、何もかも違います。それに紫さんなら、貴女の家族もきっと見つけてくれるはずです」

「⋯⋯何を言ってるの?」

 

 何か気に障るようなことでも言ってしまったのか、フィオナは冷たい目を見せる。

 しかし怒りの感情は感じても、拒絶や蔑みといった感情は見られなかった。

 

「ど、どうしました? 顔が怖いですよ⋯⋯?」

「レナお姉ちゃんがしっかり質問に答えてくれないからだよ。ボクのことはどうでもいい。レナお姉ちゃんはどう思ってる? 悪魔さんなら、わがままでいいと思うよ。自己中心的で、子どもみたいにわがままで、自分勝手でいいと思う」

「悪魔に対するイメージが酷いのですが!? ⋯⋯でも、えぇ。そうですね。お姉さまみたいに独占欲が強くて、多少わがままでも⋯⋯いいのです? 本当に?」

 

 長年吸血鬼として生きてはきたが、人間の心が残っているのか、悪魔になり切れることはなかった。だからこそ、みんなとの間に壁を作っていたのだろう。それが今の私なのだから、今更変える気はない。

 だが、多少は本音を言ってもいいのかもしれない。私は吸血鬼で、まだ子どもなのだから。無理に強がるよりはそっちの方がずっと⋯⋯。

 

「いいよ。だって──僕は慣れているから。⋯⋯え、何に?」

「って、聞かれても知らないですよ。もしかして記憶が戻ってきたのでしょうか? いえ、今はそれは置いておきましょう。

 ⋯⋯正直に言うと一緒にいてほしいです。確かにまだ会って1日しか経っていません。ですが、せっかく仲良くなれそうな人と一生会えないのは嫌です。

 それに⋯⋯やっぱり姉と呼ばれたからには、一生守りたいですから」

「やっぱり独占欲強い? でもそう言ってくれて嬉しい。レナお姉ちゃんは本当にボクのことを思ってくれている、って伝わるから⋯⋯。そうだ、ボクもレナお姉ちゃんと一緒がいい。少なくとも、記憶が戻るまではずっと⋯⋯」

 

 何処か遠くを見るような目で彼女は話す。

 彼女が何処を見ているのか、私には全く想像もつかない。

 

「⋯⋯ふふっ、そうと決まれば早速霊夢に相談しましょうか」

「霊夢?」

「まだ会っていませんでしたね。今いる神社の巫女さんです。

 あっ。言い忘れてましたが、ここは神社ですよ」

「なるほど。だから景色が違ったんだ」

 

 改めて周りの景色を眺めながら、フィオナは小さなため息を漏らす。

 

「こういう自然豊かな場所は好き。幸せな気分になれる」

「そうです? では紅魔館の部屋もそういう感じに⋯⋯」

「霊夢! 貴女も博麗の巫女なら結界を緩め──!」

 

 なんの前触れもなく、女性の怒鳴り声が響いてきた。

 声は途切れ途切れで聞き辛いが、おそらくは紫を呼ぶために、霊夢が何かをやらかしてしまったらしい。⋯⋯私達のためにしてくれたことなんだから、あとで謝ろう。

 

「フィオナ、行きましょうか。霊夢にお礼を言って、謝罪しましょう」

「うん、分かった」

 

 フィオナを連れ、私は怒鳴り声のする方向へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 境内にある鳥居の前まで行くと、すでに怒鳴り声は止み、静かな声だけが聞こえていた。

 それでも怒っているのは変わらないのだと、内容を聞けばすぐに分かった。

 

「あの、霊夢⋯⋯? 今、大丈夫です?」

「全然いいわよ。試しにやってみたら本当に来ちゃっただけだしね。

 それに紫が説教の真似事してるだけだから」

「説教の真似事ではなく説教ですわ。⋯⋯そんなことより私に外まで面倒を見てくれ、という人間はその方でしょうか?」

 

 紫は扇子で口を覆い、フィオナのことをまじまじと見ながら尋ねる。

 

「ええ、そうよ」

「そうですか⋯⋯」

 

 霊夢が頷くと、しばらくの間黙り込んでしまった。

 大妖怪の考えることなど想像つかないが、今になって家まで送ってくれるのか心配になる。それは紫の力を蔑視(べっし)しているわけではなく、胡散臭さからくる警戒と信頼の無さだろう。

 

「確かに外の世界の方のようですが⋯⋯外に出ることはできないようです」

「⋯⋯え?」

「そ、外に出れない? どうしてです? それにどうして見ただけで⋯⋯」

「その娘には見えない因果の鎖が何かに繋がっています。それは外に出すことを拒み、原因となる欠片を全て集めるまでは何もかもを拒み続ける結果となる⋯⋯」

「えーっと⋯⋯つまりどういうことです?」

 

 私が質問すると、呆れたようにため息をつき、言葉を繋ぎ始める。

 

「分かりやすく言えば運命です。それも生まれ持ったもののように強固なもの。

 原因は分からずとも結果が決まっている運命。しかし必ず原因はあります」

「言い回しや比喩が多いけど、原因となる何かがあるから出れないってこと?」

「その考えでいいでしょう。その原因は私にも分かりませんので、あなた方が探してください」

 

 紫は扇子を閉じ、妖しさを感じさせる笑みを見せる。

 真実を見極めれるほど彼女のことを知らないが、明らかに嘘をついているか、何かを隠しているように見える。しかしあえてそう見せているだけかもしれないので、本当のところは分からない。

 

「ということは⋯⋯しばらくは一緒にいてもいいと?」

「お好きにどうぞ。私もその方の因果の鎖を、原因を突き止めるよう努力すると約束します。全てが終わるまでは、貴女が面倒を見てあげてくださいませ」

「元々記憶が戻るまではそのつもりだったから、ちょうどよかった?」

「⋯⋯そうですね。では紫さん、お願いします」

「えぇ。お任せください」

 

 始終笑みを絶やさない紫は、不気味にも思えた。

 しかし協力してくれるのは有り難い。何たって賢者と呼ばれるほど強力な妖怪なのだから。

 

「原因を探すのもいいけど、まずは帰ろう。今日から泊まる家のことを知りたい」

「そうなのです? ではそうしましょうか。

 霊夢、紫さん。またこの娘が⋯⋯フィオナが外へ出るときはよろしくお願いします」

「えぇ、そのときはまた⋯⋯」

 

 前世からの紫に対するイメージからなのか、それとも紫自身がわざとそうしているのか。どちらか分からないが本当に胡散臭い妖怪だ。だが、幻想郷に害を与えなければ無害なのは間違いない。

 

「レナお姉ちゃん、帰ろう?」

「そ、そうですね。帰りましょうか。あっ、霊夢。私達のために色々と手伝ってくださりありがとうございます。そしてごめんなさい。紫さんに怒られたのは私が原因ですから」

「いいのよ、それくらい。っていうか怒られてないからね? あれ説教もどき──」

「じゃないですわ。⋯⋯お気を付けてお帰りください」

 

 紫と霊夢に見送られながら、私達は家へと帰っていった。

 もちろん、内心嬉々としながら────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

「で? 目的は一体何?」

 

 レナータとフィオナが去ったあと、霊夢は紫に問う。

 その真意を知るために。

 

「⋯⋯害をなす者を封じ込める手は幾つかあります。

 安全になるように変換させる。それを隔離する。その存在を消す等々⋯⋯」

「あの子どもが幻想郷に害をなす者とでも? だからあいつに面倒を見させて⋯⋯」

「いいえ。そうとは言っていません。あの方は幻想郷に害をなす者ではないでしょう。

 しかし⋯⋯あの方を狙う者は幻想郷に害をなす者。それこそ⋯⋯いえ。霊夢に話しても仕方のないことね。忘れてちょうだい」

 

 紫は何かを話しかけるも、すぐに元通りの笑顔になって話を切る。

 その顔に胡散臭さはなく、どこにでもいるような少女に見える。

 

「途中まで話してそれはないんじゃない?」

「そうかしら? ⋯⋯では、一つだけ。最近、この幻想郷で霧が多発しています。そして霧はまだ人間に危害を加えることはない。そして私が手を出すことはできない。⋯⋯じゃあ、頑張ってね」

「ちょっと、それどういう──」

 

 霊夢の話も聞かず、紫は颯爽とスキマを開いて消えてしまった。

 あとには何も残らず、その場には霊夢が1人取り残される。

 

「もうっ、あの妖怪⋯⋯。まあいいでしょう。あの娘⋯⋯ふぃおな。だったかしら?

 あの娘を狙う何か、ねぇ⋯⋯。警戒だけはしておきましょうか」

 

 誰に言うわけでもなく、霊夢は静かに呟いた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side ◼■◼□

 

 ──???

 

 その場は一歩先が見えないほど真っ暗闇で、眩しすぎるほど明るい。

 そして遥か先まで見通せるほど何もなく、全ての光を遮るほど物が散乱している空間。

 

「⋯⋯入っていいよ。死者の伯爵。何か用?」

 

 その奇妙な空間の中で、1人の男性が玉座に腰掛けていた。

 その者は黒いローブを身にまとい、手には黒い宝石がついた指輪を付けている。

 

「■■■■よ。刈除公(かいじょこう)の火が付いた。おそらく死んだのだろう。

 詳しい場所は不明だが、貴様が目を付けていた土地で間違いない」

「⋯⋯そうか。ご苦労だったね、死者の伯爵。もう下がっていいよ」

「御意。また何かあればここへ来る」

 

 フードを被った人型の何かに言葉を返すと、元の場所へと下がらせる。

 その者は再び1人になると、虚空を見据える。

 

「1人で倒せるものだろうか、力無きものに。⋯⋯やはり協力者? 本当に運がいいね」

 

 手を伸ばし、空中で撫でるようにして上下する。

 すると、何もないはずの空間に小さな歪みが現れ、それは次第に大きな裂け目となる。

 

「■■■■の名のもとに集まった悪魔は60を超える。しかしそれでも全員ではない。

 協力者はその中の何者か、あるいは⋯⋯。何れにせよ、すぐに分かるか」

 

 その者は人1人が入れるほど大きくなった裂け目に足を踏み入れる。

 中は暗く明るく、黒く白い。この空間と同様、何もかもが混ざりあっている空間だ。

 

「ああ、早く君に会いたいな⋯⋯」

 

 最後にそう呟き、その者は裂け目の中へと這入り込む────

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