東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
さて、6話ですね。短めですが、ごゆるりとどうぞ
side Renata Scarlet
──紅魔館
フィオナを連れ、紅い館へと戻る。
一緒に住めることに喜びと安堵を感じるが、同時に不安と疑問も感じている。彼女と一緒に住み、問題はないだろうか。どうしてフィオナは外の世界から来たのか、どうして記憶喪失なのか。分からないことだらけだが、まずは一緒に暮らせることを嬉しく思おう、そして盛大に彼女を歓迎しよう。そちらの方が彼女にとってもいいだろう。
「空を飛ぶのはいいね。魔法だから自由自在に操作できる浮遊感にスピード感。みんなが空を飛ぶことに憧れるのはよく分かる。高いところから見る景色は綺麗だ。風が気持ちいい。⋯⋯ああ、本当に好きだ。空を飛ぶのは」
フィオナは相変わらず空を飛ぶことに喜びを感じているようだ。
しかし彼女は本当に変な子どもだ。可愛いけど、妙に大人びているというか⋯⋯。
「ねえ。居候するのは決定。だけど家の人に何も言わなくていいの?」
「お姉さまに言いましたし、大丈夫⋯⋯とはいきませんね。美鈴にパチュリー、咲夜達にも紹介した方がいいと思いますし⋯⋯。部屋のことを考える前に、まずは私の家族と会ってみません?」
「うん。レナお姉ちゃんの家族⋯⋯ボクが住ませてもらうことになる家の人達と会いたい。
知りたいから。レナお姉ちゃんの家族のことを⋯⋯」
提案すると嫌な顔一つせず、しかし不思議な貫禄を感じさせ、受け入れてくれた。
私の会わせたい気持ちと同じくらい、彼女も知りたい気持ちが強いのだろうか。
「私の家族はいい人ばかりですよ。まずは美鈴と会うことになるでしょうね。
彼女は優しく頼りがいのある人ですので、何か困ったことがあれば頼ってくださいね。
ちなみに武術家で、中華料理がお上手です」
「中華料理? ⋯⋯食べたことないと思う。作ってくれるかな?」
興味津々に年相応の少女の顔を見せる。
見たことないもの、食べたことないもの、要は自分の知らないものに対して興味が湧くらしい。子どもらしいと言えば子どもらしいのだろう。自覚はないが、私にも同じようなことがあったのかもしれない。
「頼めばきっと作ってくれますよ。⋯⋯と、話している間に到着しましたね。
他の方は会ってからのお楽しみ、ということで」
「うん。⋯⋯あの人がメーリン?」
大きな紅い館、その前にある門には1人の女性が立っていた。
その女性は緑色を基調としたチャイナ服を着て赤い髪を持っている。彼女こそがこの紅魔館に暮らし門番も兼任している、
彼女は私の姿を見つけたらしく、私に向かって手を振っている。
珍しく起きているものだから、内心は驚いていた。
「あの人が美鈴ですね。⋯⋯降りましょうか」
美鈴の近くの地面に降り立つ。
フィオナの姿をすぐに見つけ、不思議そうにしていた。
「レナ様、おかえりなさいませ。あの、そちらの方は?」
「フィオナと言います。詳しいことはあとで話しますが、私の友人と思ってください。
今日からしばらくの間、ここに住むことになったのでご挨拶をと」
「名前はフィオナ。よろしく」
「紅美鈴です。よろしくお願いしますねー」
互いに手を取り、笑顔で挨拶を交わす。
美鈴の人の良さでも溢れているのか、フィオナの表情も緩んでいる。
「君は中華料理が得意と聞いた。ボクにもいつか作ってくれる?」
「もちろん構いませんよ。レナ様のご友人ですし、私の作る料理を食べたい、という人の願いを聞かないわけありませんから。そう言ってもらえて逆に嬉しいくらいですよ」
「優しいのね。ありがとう、メーリン」
「いえいえー。何かありましたら、いつでも頼ってくれていいですよー」
褒められ、また自分の料理を食べたい人も現れて素直に嬉しい。
たまには咲夜を休ませて、美鈴に料理を⋯⋯ダメだ。咲夜のプライドが許しはしない。
「うん。その時はお願い。頼りにしているよ」
「こちらこそよろしくお願いね。ところでレナ様、咲夜さんも紹介したいメイド達がいる、と貴方様を探していました。一応私も顔合わせはしておきましたが、皆さん人の良さそうな方でしたよ」
「メイド⋯⋯? その人達にも会ってみましょうか。では美鈴。仕事頑張ってくださいね」
「メーリン頑張って」
「はーい。いつも通り頑張りますねー」
いつもは寝ているような⋯⋯。
などと思ったことを口には出さず、私達は美鈴と別れて門を後にする。
紅魔館へ入り、エントランスを通り、長い廊下を抜け──。
咲夜を探して館の中を探す。だが厨房など彼女が居そうな場所を探すも一向に見つからない。しかしメイドなら妖精メイドのことだろう、と今は妖精メイド達の部屋へと向かっていた。
「外から見たのよりも広い気がする、この館。何かの魔法?」
「咲夜の能力による空間の拡張。しかし広すぎて掃除をするのも大変らしいです」
いつもは移動に魔法による瞬間移動を使うから気付きにくいが、改めてこの館が広いことを確認させられる。咲夜が来る前も充分広かったが、咲夜が来てからはもっと広くなった。嫌ではないが、咲夜も大変なら元に戻してもいいと思うのだけど⋯⋯。
「ここですね。咲夜ー、いますかー?」
考えている間にメイド達の部屋に着いた。
複数あるのだが、全て近い場所に配置している。
「はい、こちらにいますよ」
「ふぇっ!? ⋯⋯と、突然現れた。魔力は感じられないのに⋯⋯」
「それが彼女の能力です。慣れって怖いとつくづく思いますね、えぇ」
最初の頃は驚くのが当たり前だったが、最近は慣れてしまって驚くことはなくなった。
しかし咲夜以外に対する驚嘆耐性は付いていないのだが。
「ところでレナ様。そちらの方は⋯⋯?」
「あっ、こちらは私の友だちのフィオナ。今日からしばらくの間、ここに住むことになりました。正直、お姉さまに許可は得てませんが、多分大丈夫だと思います。フィオナ、こちらはメイド長の咲夜です」
「お嬢様なら⋯⋯確かに許可するでしょうね。よろしくお願いします、フィオナ様」
「こちらこそよろしく、咲夜」
「わざわざこちらへお出向かれたということは、美鈴からお聞きになりましたか?」
まるで心でも見透かしているように咲夜は答える。
いつも思うが、彼女を敵に回すと大変な目に遭いそうだ。
「はい、紹介したいメイドですよね。咲夜が紹介したいとは珍しいです」
「私自身、こうして紹介したいと思える日が来るとは思っていませんでした。いえ、正確にはもっと後の話だと思っていました。簡潔に話しますと、優秀な私の後継ぎ候補を3名紹介したいと思いまして」
「⋯⋯縁起悪いです。もっと後でいいと思います」
「善は急げ、と言いますから。あら? 途中で置いてきちゃ⋯⋯。少しお待ちを」
と、一瞬だけ咲夜の姿が消える。
そして再び姿を現した時には、3人の妖精メイドを手で掴み、引き連れていた。
「わぁっ! 咲夜さん!? あっ。れ、レナ様⋯⋯?」
1人はオドオドとした様子で、白黒のメイド服を身に纏った妖精の少女。
銀色の長い髪と赤目に、右目の下に小さな涙ボクロがある。何よりも印象的なのはその背に生える、片側2枚ずつの白い天使のような翼だろう。
「まーた悪戯か何か⋯⋯って、お嬢様の妹じゃん。あっ、妹様ですよ、ね?」
2人目は妖精の名に相応しく、わんぱくそうで元気な子。赤を基調としたメイド服を身に纏う。
黄色い短髪と目に、口に薄らと見える白く鋭い牙。1人目よりも奇妙な妖精で、その背には煙のように不安定で不規則に揺れる翼。そして頭から生える猫の耳と尻尾。妖精というよりは、妖怪に近いように見える。
「⋯⋯レナ様ですね。お初にお目にかかります」
そして最後、3人目は大人しく、真面目そうな少女。咲夜と同じ色のメイド服を着ている。
オレンジ色のサイドテール、真っ直ぐと私を見つめる真っ黒な目。彼女の背にはトンボみたいな透明な翼が片方に3枚ずつ付いている。
他の2人が私と同じ程度の背丈だというのに、彼女は10センチメートルほど私よりも高そうだ。
「彼女達が私の後継ぎ候補の優秀なメイド達です。
銀髪の子がシュヴァハ。黄色い髪の子がパンサー。橙色の髪の子がマルバーです。皆、新人なのですが他の妖精メイドと違って家事を積極性に手伝い、それぞれ私に勝るとも劣らないほど家事が上手です」
「さ、咲夜がそこまで言うとは⋯⋯。知っているようですが、レナータです。
皆さん、よろしくお願いしますね。それと、こちらはフィオナ。私の友人です」
「なんだか⋯⋯。ううん、ボクはフィオナ。よろしくね」
不思議な顔をするフィオナだったが、彼女達と微笑んで握手を交わす。
私が心配する必要もないほど、彼女は意外と人と仲良くなるのが早いようだ。
「いい奴そうだな、お前。友だちになれそうだー」
「パンサー、レナ様のご友人よ?」
「あっと。⋯⋯友だちになれ、なれそうですね」
「気軽にでいい。ボクに対して無理する必要はない」
無理して話すパンサーに呆れたのか、不憫に思ったのか、フィオナは優しく語りかける。
実は私以上にお人好しだったりするのかもしれない。
「ホントか? じゃあ、遠慮なく⋯⋯。いいですよ、ね? 咲夜さん」
「⋯⋯まあ、フィオナ様がそう言うならいいんじゃないかしら」
「私もいいと思いますよ。シュヴァハ、マルバーも良ければでいいので、フィオナの友だちになってくださいね」
「わ、分かりました⋯⋯」
「レナ様のご命令ならば、もちろん構いません」
「⋯⋯もう少し軽くでいいですからね?」
パンサーという子と違い、他の2人は友だちになるのは難しそうだ。
だが、フィオナなら、時間をかければ友だちになることもできる、と私は思っている。
「⋯⋯っと、まだ仕事の途中でしたので、申し訳ございませんが、また後でお会いしましょう。
さあ、早く仕事に戻りなさい」
「は、はい⋯⋯!」
「はい、仰せのままに」
「ちぇ、咲夜さんってホント⋯⋯。じゃあな、フィオナー」
「またね、パンサー」
彼女達は別れを告げると、そそくさと仕事へ戻っていった。
相変わらず、メイドは忙しいのだなと思える。
「⋯⋯では、次へ行きましょうか。最後は魔法使い、パチュリーの場所です」
「魔法使い? 楽しみ」
妖精達が仕事を戻るのを見届けた私達は、次の場所へと向かった。
多くの本棚に囲まれ、大図書館と呼ばれるに相応しい大きな部屋。
私達はそこにいる大図書館の主。七曜の魔法使いパチュリーに会いにきた。
「パチュリー。少しよろしいでしょうか?」
「大丈夫よ。⋯⋯こあ、3人分の紅茶を入れてちょうだい」
「いえいえ。もう少しすればご飯の時間ですし、いいですよ。
それよりもこちらはフィオナ。私の友人で、今日からしばらくここに住みます」
「よろしく、魔法使いさん」
「パチュリーよ。よろしくね」
2人は握手を交わすと、互いに興味深そうに観察している。
どちらも魔力の感知に優れているからこそ、そうしているのだろう。
「凄い魔力ね。レナを超える魔力の高さ⋯⋯。長く生きていると面白い発見ができるのね」
「君も凄い魔力。色が多く。多種多様な魔法を使えそう」
「⋯⋯感受性が高いのかしら。人の意識を読み取るように魔力を読み取る⋯⋯。興味深いわ。
暇な時間があれば、一緒に魔法の研究でもしましょうね」
「いいの? 嬉しい。⋯⋯レナお姉ちゃんも、一緒にね?」
天使のような笑みでそう言われ、私の心が少しだけ揺らぐ。
もしも娘がいれば、このような気持ちになるのだろうか。
「あ、はい。もちろんです」
「⋯⋯レミィが見たら嫉妬しそうねぇ。いえ、そこまで子どもじゃないかしら。
まあ、もちろんいつでも来ていいからね」
「その時はお願い。パチュリー」
「では、後はお部屋、そしてお姉さまの許可⋯⋯。まあ、考えるだけ無駄ですよ。
すぐに会って、すぐに終わらせましょうか」
「そうね。きっと大丈夫よ。行ってらっしゃい」
パチュリーに後押しされるように、私達はお姉さまの部屋へと向かう────