東方紅転録2部 ─NAMELESS MIST─ 作:百合好きなmerrick
まあ、そんなことは置いといて、7話のはじまりはじまり。
side Renata Scarlet
──紅魔館(レナータの部屋)
「拍子抜けでした。あの人はあっさりしすぎです」
お姉さまの部屋へ向かい、フィオナの居候⋯⋯いや住人登録を完了させ、ついでに夕食やお風呂も済ませてきた。お姉さまは簡単に承諾し、快く受けいれてくれた。他のみんなも──まだ帰っていないミア以外──悪くは思っていないようだった。みんなが優しいのは相変わらずなのだが、受け入れるのが早すぎることが些か気持ち悪い。幾ら何でも簡単に終わりすぎだ。
「でもよかったね、レナお姉ちゃん。これから一緒に暮らせれる」
「⋯⋯はい、そうですね。家族が増えて嬉しいです」
しかし⋯⋯こうしてフィオナが一緒に暮らせるようになったのだから悪いとは思わない。むしろ嬉しいくらいだし、これからもみんな仲良く暮らせれば文句はない。簡単に事が進むことは、悪いことではないだろう。
「早速だけど、ボクはどこで寝ればいい? レナお姉ちゃんの部屋? それともフラン達の部屋?」
「私自身、寝る場所は気分次第ですからね⋯⋯。
せっかくですし、部屋を作りましょうか。フィオナ、貴女の部屋を」
「作る? どこかにある部屋を借りるではなく?」
当たり前の質問を、難しい顔で聞いてくる。
きっと彼女の頭の中では様々な思考が繰り返されているのだろう。そして深く考えるあまり、余計に複雑で難しくしてしまっているのだろう。いつかの私と同じように。
「はい、作るのです。もちろん普通の部屋もいいですけど、ここは広いですしね。贅沢に」
「なるほど。作ってみよう」
「では適当な空き部屋を改装して、空間の拡張と魔術的防壁を⋯⋯」
「特別な扱いはしなくていい。ボクは普通の部屋に住みたい」
「遠慮しなくても、簡単なので──」
と言掛けるも、彼女の目は了承していなかった。
本人が嫌ならば強要するつもりはないのだから、ここは素直に諦めよう。
「はあ⋯⋯。分かりました。貴女にかけた魔法は常に発動状態ですし、これ以上の特別扱いはしませんよ。紅魔館にいる間、危険な目に遭うとは思えませんしね」
「うん。じゃあ空いている部屋を探そう。心当たりはある?
できればレナお姉ちゃんの近くがいい」
「私のです? そうですねぇ⋯⋯」
つぶらな瞳で言われるも、それは答えづらい話だった。
私の部屋の隣にはお姉さまの部屋ととある倉庫、近くには食堂などの生活空間がある。それはお姉さまを中心とした生活空間を作っているからであり、私の部屋は元からそこにあったので一緒に組み込まれている。
「⋯⋯お姉さまや咲夜に、私の部屋近くで借りれる部屋を聞きましょうか。
館のことは2人に任せっきりで、私には分かりませんから」
「レナお姉ちゃんは手伝っていない? メイド、姉孝行した方がいいと思う」
あくまでも彼女は思ったことをそのまま口に出しているようだが、少し心に響く。
仕事以外でなら何か手伝うことはあっても、仕事関連でのお手伝いは今まで邪魔しかしていない。⋯⋯もう少し、こちらの世界でも勉強した方がいいのかもね。
「ですねぇ。仕事のお手伝いは迷惑かけちゃいますし、もっと頑張らないとですね。
でも、それは後で考えるとして、まずはお姉さまのところへ行きましょうか」
「うん。分かった。⋯⋯頑張ってね、レナお姉ちゃん」
「え⋯⋯あ、はい!」
どうやら、私は可愛い娘に弱いらしい。彼女の励ましに心が安らぐ。
こうして気分は良くなり、彼女の手を優しく掴んでお姉さまの部屋へと連れて行った。
お姉さまの部屋へ到着し、扉を叩く。
するとひとりでに扉が開き、中からお姉さまの声が聞こえた。
「入ってきなさい。外で話したいわけじゃないでしょう?」
お姉さまは珍しく読書に集中していた。
どちらかというと体を動かすイメージの方が強いお姉さまのそれは、なんだか可愛く見えた。
「珍しく読書です? 何の本でしょうか?」
「咲夜が外の世界の本を持ってきたらしくてね。それを読んでいるんだけど⋯⋯。
私には難しいわ。ついでだから貴女にあげる」
「お姉さまが難しい本を私なんかが⋯⋯」
「大丈夫。気に入ると思うわ。外の世界の魔術書か何かだから」
その言葉に疑問を感じるとともに好奇心が生まれた。
幻想郷に魔法がある前提として、外の世界にはほとんど魔法が存在しないはずだ。ということは、もしお姉さまの言う通りならばそれは今では失われつつある外の世界での魔法が載った魔導書。外の世界を自分の前世と同じような世界だと思っていたが、ここは密かに魔法が存在する世界なのかもしれない。
──とか考えていると、ますます興味が湧いてきた。後でじっくり読むとしよう。
「ありがとうございます、お姉さま!」
「明るい魔力。凄く機嫌がいいのは分かった」
「あら、フィオナがいるとレナの気持ちが手に取るように分かって面白いわ」
「悪用厳禁ですよ、お姉さま」
「悪用なんてしないわよ?」
とは言いつつも、お姉さまは悪魔らしく悪い笑みを見せる。
妹として私が止めるべきなのだろうが、何か起きたら姉を止めれる自信はない。
その時が来れば、諦めて身を流れに任せることにしよう。
「あ、はい。で、本題ですね。本は貰っておきますね。
フィオナの部屋のことなのですが、空いている部屋などありませんか?」
「貴女の部屋で一緒に寝ないの?」
「それもいいのですけど⋯⋯せっかく広い館なのですから、作った方がよくないです?」
「とても贅沢な発想ね。流石私の妹だわ」
お姉さまは何故か嬉しそうに、誇らしげに微笑む。
それは稀に見る上機嫌な顔とよく似ている。
「空いている部屋ならいくつかあると思うわよ。⋯⋯詳しいことは咲夜に聞かないと分からないけどね。で、他に具体的な要望はないかしら?」
「私の部屋に近い場所ですね。後は広くて快適であれば⋯⋯」
「ふーん⋯⋯。って、貴女の隣の部屋を──」
「それ以外でお願いしますね、お姉さま」
「⋯⋯分かったわよ。貴女ってば本当に⋯⋯。とにかく、咲夜と相談しておくわ。
今日は貴女自身の部屋か、フランの部屋とかに寝なさい」
お姉さまは呆れた様子でそう答えた。
「ありがとうございます、お姉さま!」
一方で私はそれを嬉しく思い、お姉さまの手を握って感謝の気持ちを伝えた。
「え、えぇ。姉である私に任せなさい」
「良かったですね、フィオナ。部屋もほぼ決まったことですし、今日はもう休みましょうか」
「う、うん。明日、パチュリーのところで魔法の研究したい。いいかな?」
「もちろんいいですよ。フランのように可愛い妹の頼み事ですから」
「⋯⋯いつの間にか、姉妹が多くなったわ。年齢的には親子の方が近いでしょうに」
何を今更とは思ったが、確かに6人と倍になっているのは多い。
けれど多い方が賑やかで楽しいのだから、悪いとは思っていない。
「多分、明日のこの時間くらいには終わっているわ。その時にまた来なさい」
「分かりました。⋯⋯ではもう行きますね。おやすみなさい、お姉さま」
「おやすみなさい。夜遅くまで起きてちゃダメよ」
「大丈夫、すぐ寝ますよ」
そう言ってフィオナの手を握り、扉を開ける。
そしてお姉さまと別れた私達は、寝室へと向かった。
そうして1日が過ぎた次の日。
目覚めてすぐ、パチュリーのいる図書館へと向かう最中のことだった。
「レナー? あら、誰それ。お客さん?」
廊下で偶然、帰ってきたミアと出会った。
お土産でも見つけたのか、手には大きな袋をぶら下げている。
「レナお姉ちゃんが、2人⋯⋯」
「お帰りです、ミア。今回も長旅でしたね」
「1週間も空けてないよ? 今回は5日と13時間⋯⋯って、質問に答えてよ」
「あっ、こちらはフィオナ。新しい住居人です。で、こちらはミア。簡単に言えば双子の妹です」
「レナの姉、ミアよ。よろしくね、フィオナちゃん」
「よろしく。双子だから姿が似ている、なるほど」
わざわざ訂正する辺り、未だに私が姉だと認めていないのだろうか。
全く、これだから聞き分けの悪い
「それにしても、いつも旅をして飽きないのです? 幻想郷は狭いでしょうに」
「充分広いよ。それに⋯⋯ううん。何でもない。それよりも、今からどこに行くの?」
「大図書館、魔法の研究をしに、パチュリーに会いに行きます。一緒に行きます?」
「ううん。これからお姉ちゃんのところに行くつもりだからね。そんなことより⋯⋯」
ミアはまじまじとフィオナを見つめる。
彼女もパチュリーと同様、フィオナの魔力量の多さにでも気づいたのだろうか。もしミアが、フィオナが魔力遮断の指輪を付けているはずなのに、一箇所に集中すれば私以上だと知れば、畏怖の念を抱かずにはいられないだろう。
「フィオナちゃん、だよね。⋯⋯貴女は何処の国の人?」
ミアはとても奇妙な質問をする。
幻想郷にいるのだから、出身国なんて関係のない質問だろうに。
「⋯⋯分からない。でも今は極東の島国、日本にいることは分かる」
「うーん? レナ、どういうこと?」
「ああ、そう言えば昨日の夕食にいませんでしたね。その時に説明したのですが。
彼女は今、記憶喪失なのです。名前も私が付けたものですよ」
「へぇー⋯⋯って、えぇ!? れ、レナも物好きね⋯⋯」
ミアは悲しげな瞳を私に向ける。
人助けはいいことだというのに、どうしてだろう。
「レナお姉ちゃんは優しい悪魔さん。ミアお姉ちゃんも、優しい悪魔さん?」
「お、お姉ちゃん⋯⋯うん! 優しい悪魔さんだよ! これからもよろしく、フィオナちゃん!」
「うん、よろしく」
何故かあっさりと打ち解けている。
いや、この場合はミアがチョロすぎるのだろう。このチョロさは姉として些か心配だ。
「じゃあね、レナとフィオナちゃん。すぐに旅立つかもしれないけど、また明日ー」
「バイバイ」
「元気ですね、相も変わらず。⋯⋯っと、本題を忘れるところでした。行きましょうか」
「うん。パチュリーのところだね」
そうして、ミアと別れて大図書館へと歩いていく。
そこへは数分もしないうちに到着した。
ミアと出会った場所はパチュリーの居る大図書館までそう遠くない距離だったのだ。
「何度見ても凄い景色。本に囲まれた人生、楽しいかな?」
「人によっては楽しいと思いますよ」
「ボクは外にも出てみたい。レナお姉ちゃんは?」
「私は⋯⋯お姉さまやフラン、家族さえいれば、贅沢は言いません」
「家族、か⋯⋯」
フィオナは遠くを見つめ、そう呟いた。
もしかして、何か思い出したことでもあったのだろうか。
「フィオナは、家族のことを覚えています?」
「⋯⋯あまり覚えていない。だけど、父親は好きではないことを覚えている」
「えっ、あ、あの⋯⋯。何か嫌な思い出を思い出させたようで──」
「違う。ろくでなしだったような気がする。いい人なのは多分、間違いない」
このときのフィオナは見たことのないほど冷たい目をしていた。
もしや父親に恨みでもあるのか。だが、それを聞けるほど私の精神は強くない。
ここはそっとしておこう⋯⋯。
「ここへ来るのは2回目ね。どうしたのかしら?」
と、考えているうちにパチュリーと出会った。
彼女は椅子に座り、いつも通り本を読んでいた。
「一緒に魔法の研究がしたい。ボク、どうしてか説明できないけど、魔法が好きだから」
「あら、そうなの? いいわよ。ちょうど読み終わったところだったから」
明らかに読みかけだった本に
パチュリーも同じ趣味を持つ子どもには意外と甘いのだろう。
「魔法研究をする前に、まずは確認ね。魔法研究と一概に言っても色々あるのよ。新しい魔法を創り出すこと。既存の魔法を研究し、新たなる発見をすること。または既存の魔法を研究して、それに対抗できる魔法を創る⋯⋯等々。他にもあるけれど、貴女はどんな研究をしたいのかしら?」
「うーん⋯⋯」
フィオナは顔を俯かせてしばらく考え込み、チラリと私を見る。
私はあえて何も言わなかったが、本人の中では決まったらしく、彼女は顔を上げた。
「決めた。まずは魔法に慣れる。だから簡単な魔法を知り、いずれは新しい魔法を覚えたい」
「なるほどね、分かったわ。できる限りご期待に応えてみせるわ。
レナ、私は属性魔法が主に使う魔法だから、他の魔法は貴女に任せるわ」
「了解です。⋯⋯と言っても、私は難しい魔法は召喚魔法しか使えませんけどね」
逆に言えば簡単な魔法は色々使えるのだが、多種多様とまではいかない。
ミアも概念付与が主になるので、いつか魔理沙やアリスにも教えてもらいに行こう。
「いやいや。貴女ってば色々使えるじゃない」
「低ランク魔法ですよ。もちろん極めれば強いものもありますが⋯⋯」
「それで充分じゃない。まあ、まずは簡単な魔法からなんだけど。
具体的に何か覚えたい魔法とかあるかしら?」
パチュリーがそう質問すると、再びフィオナは考え込む。
しかし先ほどよりも早く顔を上げて、その質問に答えた。
「空を飛べるようにはなったけど、レナお姉ちゃんみたいに人を守る魔法は知らない。
だからそれを覚えたい。誰かの為に、何かしてみたいから⋯⋯」
「空を⋯⋯? 空を飛べたのなら、基本的な魔法は大丈夫ね。
でも簡単な水や月の属性魔法から教えるわ。回復系はそれが多いから」
「私は光ですね。幸い、簡単な魔法が多いです」
「うん、ありがとう」
フィオナはそれを聞くと、嬉しそうに微笑む。
いつもの虚無感は少なく、心の底から喜んでくれているようだった。
「じゃあ、早速始めましょうか。まずはどれから覚えたい?」
「月がいい。綺麗だから」
「分かったわ。じゃあ⋯⋯こあー。簡易魔術の月と水を持ってきてー」
「はいはーい」
パチュリーは小悪魔──通称こあ──を呼び寄せ、何かを持ってこさせた。
それは微量の魔力を含んだ魔導書らしく、白い本と青い本の合計2冊ある。
「あっ、レナ様とフィオナ様。来ていたのですねー」
「こあは、ずっと居た?」
「居ましたよー。まあ、ごゆっくりー」
こあは早々に話を切り上げると、そのまま早足でどこかへ行ってしまった。
しかし、しっかりと本だけは持ってきたので、パチュリーも何も言わないようだった。
「さて、まずは月⋯⋯の前に、月と水魔法の詳しい説明をするわね。月は受動と防御を意味し、水は静寂と浄化を意味する。だからこれからは人を守ることに適している。まあ、同時に行使することで効果を上げることもできるから、慣れれば他のも覚えましょうね」
「うん、分かった」
「そう言えば、空を飛んだ時はどうやって覚えたのかしら。
それを聞いとけば、普通よりも覚えやすそうだしね」
「確か⋯⋯」
パチュリーの質問に、曖昧な記憶を一つずつ思い出しながら丁寧に説明していく。
初めは魔力操作を教え、しばらくは口で説明していたのだが、難しかったので何度かやって見せたらすぐに飛べたこと。ついでに初めての魔法だったからか、凄く嬉しそうにしていたことも。
「ふーん、なるほどね。要は習うより慣れよ、って感じかしら。
じゃあ始めるわよ。月の魔法は月が出ているときの方が効果が強い。けど通常時でも⋯⋯」
パチュリーは白い本を開き、呪文を詠唱し、手のひらに小さく丸い白色の何かを作り出す。
それは微かに発光しており、ある一面は微妙にでこぼこしている。
「簡単な魔法は行使可能よ。これは擬似的な月。これを持つ者は微力な月の加護によって守られる。まあ、詠唱をいくつか加えて、魔力を圧縮し、浮かばせているだけの簡単な魔法よ」
「質問。月なのにどうして光っているの? 演出?」
「いいえ、この光が持ち主を守るからよ。ついでに暗闇でも分かりやすいようにね」
「なるほど⋯⋯。理解した」
フィオナは思いついたかのように発言し、手に魔力を集中させる。
そしてパチュリーの詠唱を見様見真似で復唱し、パチュリーと同じような月を生成する。
「魔力に意味を持たせて体外に具現化する。そして自分がいなくても、その魔力が続く限り所有者に効果をもたらす。⋯⋯これなら使い道が多そう」
「⋯⋯い、いやいや。ちょっとレナ、何この娘? 言ってないことまで理解しちゃったんだけど」
「私の妹、優秀な人が多いですよね。フランやルナ、ミアにフィオナ。
それにしても、私が教えたときよりも理解力、というのでしょうか。それが上がっていますね」
このとき、私は表では平静を装うとしていたが、本当にできていたかは分からない。
フィオナの理解力は急速に、急激に上がっている。これは人間の成長速度ではない。
昨日まで数時間かかっていたことを数秒足らずでできるなど、有り得ることだろうか。
「まあ、おそらく彼女の才能ですよ」
「そんな簡単に済ませれる話じゃ⋯⋯」
正直なところ、彼女には畏怖の念を抱かずにはいられない。
「大丈夫、心配いりませんよ。ね、フィオナ」
「⋯⋯うん、ありがとうね。レナお姉ちゃん」
だけど、責任を負う覚悟も、彼女を信じ切る覚悟も私にはある。
私が優しいから悪に転じないと言ってくれた彼女を、信じる覚悟がある。
「お礼を言うのは⋯⋯いえ、何でもありません。
パチュリー、続けましょう? 教えがいのある弟子ができましたでしょう?」
「⋯⋯レミィもレミィなら、その妹も妹ねぇ。いいわよ。次は水ね」
パチュリーも渋々了承してくれた。
私の家族は、本当に甘いけど優しい。この家に生まれて良かった。
そう考えているうちにも、今日という1日を消費していく────
ちなみにあくまでも主人公視点なので、考えていること=真実ではなかったり⋯⋯。