ぶれない台風と共に歩く   作:テフロン

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不安の芽生え、マヨイガへの帰宅

 藍と妖精による戦いがあった後、少年と藍は人里に来た時と同じように飛行して帰宅の途についていた。

 飛ぶことのできない少年は、妖精が死んでも特に表情を変えることなく、変わった仕草や様子も見せずに藍の背中に乗っている。変わらないというのは文字通りで、来たときと同じように楽しそうに周りの景色を見つめていた。

 

 

「やっぱり飛ぶのは慣れないなぁ。どうしても落ちるときのこと考えちゃうよ。この高さから落ちたら死んじゃうもんね」

 

 

 少年は、楽しそうな顔とは裏腹に不安を口にする。

 藍は、少年の表情に出ているものが本当なのか口から出ている言葉が本音なのか分からなかったが、口から出ている言葉が本心から出た言葉だろうと思った。

 

 

「絶対落ちないから心配するな。それに、例え落ちても地面に落ちる前に拾うからな」

 

「藍がそう言うのなら安心だね」

 

 

 藍の言葉を聞いた少年は、安心したように笑顔のまま目を輝かせて再び緑の生い茂った幻想郷を見つめる。いつもと変わらない様子で、いつも通りに楽しそうに、いつも通りの笑顔で、笑みを浮かべている。

 そんないつもと変わらない少年を乗せた藍は、いつもとは違った様子だった。

 

 

「死にたくない、か……」

 

 

 藍は、頭を悩ませていた。少年に聞いても分からないし、少年に聞かれたくない内容だったので決して口には出さず、頭の中だけで疑問を抱えて思考していた。

 もちろん悩んでいる中身は、先ほどの妖精のことである。

 

 

「嫌、嫌! 死にたくない! 死にたくない!」

 

「妖精は死を恐れない。死という概念がない妖精には、死に対する恐怖などありはしない。だが、あの妖精は確かに死にたくないと言った」

 

 

 妖精は、確かに死にたくないと言った。それは、藍の聞き間違えではないはずである。

 妖精は、本来であれば死を恐れることはなく、生きていたいと、死にたくないと主張をすることはない。

 生きていたいと主張しない理由は非常に簡単なもので、妖精には死という概念が存在しないからだ。

 

 

「妖精にあるのはあるがままの自我だけ……自然へと還る流れだけ……」

 

 

 妖精は自然の権化であり、死んでもすぐに生き返るという特性を持っている。生き返るというより、生まれ変わるというほうが正しい表現になるだろうか。自然から生まれた妖精は、死んで自然に還り、再び自然から生まれるのである。

 

 

「なぜだ……どうしてこんなことが起こっているのだ……?」

 

 

 藍が気になっていたのは、妖精が死を恐れたことに関してだけではない。妖精が戦う姿勢を示したことに対しても疑問に思っていた。

 

 

「妖精は私に対して戦う姿勢を示した。圧倒的な相手に対して、高圧的な威圧に対して足を前へと踏み出した。普通ならば絶対にありえないことだ……」

 

 

 力の強い妖精は別にして(例外に氷の妖精であるチルノのような存在がいる)、力の弱い妖精は圧倒的な力の差がある相手に対して立ち向かうような勇気を持っていない。

 この場合は、勇気というよりも蛮勇や猪突猛進という言葉の方が似合うかもしれないが、本質は変わらないだろう。知識がなかろうが、無鉄砲だろうが、この場合は関係ない。

 これらの気質は、死の恐怖には決して敵わないからである。生き物としての本能が死ぬということを許さないからである。だから、妖力を少しばかり解放した藍に対して妖精が立ち向かってくるということは基本的にありえないことだった。本質的に、本能的に、その選択肢が選ばれることはないはずだった。

 しかし、あの妖精は―――そのありえないことをやってみせた。

 

 

「妖精の思考は、いつだって悪戯をすることに向いている。誰かを困らせてやろうという意識が前面に出ている。もしや……私の勝負を受けることが、悪戯の一部だったということか……?」

 

 

 一般に妖精が持ち合わせている意志として挙げられるのは、人間に悪戯するというものだ。はっきり言ってしまえば、人間に悪戯しようという意志だけしか持っていないと言ってもいい。それほどに妖精の思考回路は単純である。

 そのような妖精が、‘生きるために’圧倒的に力の差がある藍に対して戦いを挑んでくるというのは、どう考えても起こりえない現象だった。悪戯のために藍の勝負を受けたという可能性を除けば―――という前提条件を入れれば、であるが可能性はゼロに近いだろう。

 だが、消去法的に悪戯心から立ち向かってきたと考えると、妖精の表情や雰囲気が釣り合わない。妖精は真剣に、真面目に、正面から向き合って、相対して、戦って、死んだ。

 あれが―――悪戯だというのだろうか。

 

 

「いや、分からないことを考えても仕方がない。分からないことは推測の域から出ないのだから。今、分かっていることを考えるんだ……」

 

 

 藍は、首を横に振り、停滞する思考を振り払う。

 こういう場合は、分かっていないところからよりも、分かっているところから考えていくべきだ。

 分からないことを考える場合には、確実に推測の類になってしまい、本質が見えなくなる。推測とは、確かな事実から導き出された予測でなければ、信じるに値しない物となる。今考えるべきは、今分かっていることである。

 

 

「原因は考えるまでもない。原因は……和友に決まっている。他にはありえない」

 

 

 妖精が強い自我を持って戦いに応戦した原因についてはすでに予測がついている。原因など分かりきっているのだ。

 原因は―――少年以外に存在しない。

 

 

「問題は、なぜ今なのかということだな……」

 

 

 藍が悩んでいる部分は事が起こった原因ではなく、なぜそのようなことが急に起こったのかについてである。

 妖精の精神を根本から変えるような影響力が少年から溢れ出ているということなのだろうか。

 

 

「紫様と話をしなければ……」

 

 

 藍は、答えを導き出すことができず、疑問と少しの不安を抱えながらマヨヒガへと向かっていった。

 

 

「あっという間についちゃったね」

 

「なんだ? もっとゆっくりの方がよかったか?」

 

「もう少しゆっくりだと色々見られたかもしれないけど、時間がかかっちゃうからこれで十分だよ。また今度連れてきてね」

 

「もちろんだ」

 

 

 マヨヒガは、もう目と鼻の先にある。

 藍は、マヨヒガの前で高度を下げて地面との距離をゼロにした。

 

 

「さぁ、着いたぞ」

 

「うん」

 

 

 少年は、乗った時と同じようにして藍の尻尾から降り、藍の前を率先して歩き出した。

 藍は、少年の後ろについていくような形で足を前に進める。少年は、マヨヒガの玄関へとたどり着き、両腕がふさがっている藍の代わりにマヨヒガの家の玄関を開けた。

 玄関の扉は音を立てて開き、二人を出迎える体勢を整える。

 

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

 藍は気を遣ってくれる少年にお礼を述べ、少年は嬉しそうに返事を返した。

 少年と藍の視線が家の中へと向けられる。

 玄関の扉の向こうには、紫が笑顔で立っていた。どうやら紫は、二人の帰りを待っていたようである。

 

 

「紫様!?」

 

「二人ともおかえりなさい。いい買い物はできたかしら?」

 

「紫、ただいま。人里での買い物はものすごく楽しかったよ。やっぱり人がにぎわっている場所は楽しいね」

 

「楽しかったのなら何よりだわ」

 

 

 藍は、玄関で待ち構える紫を見て驚いた表情を隠せずに硬直する。紫を見つめる藍の瞳は信じられないものを見るような眼をしている。紫の普段の生活を知っている藍にとっては、目の前に広がる光景は妖精が自身に立ち向かってくるのと同様に異様な光景だった。

 

 

「紫は、僕たちが買い物に行っている間何をしていたの?」

 

「何もしていなかったわ。しいていえば……貴方たちが帰って来るのを待っていたということになるかしら」

 

「ふーん。だったら紫も一緒に来てくれてもよかったのに。二人より三人の方がきっともっと楽しくなったはずだよ」

 

「ふふっ、また今度の機会にでも誘ってくれればいいわ」

 

 

 少年は、気を動転させている藍を置き去りにしていつも通りの対応をする。

 少年は、幻想郷で生活して2日目なので、紫がどのような生活を送っているのかはっきりとは知っていない。藍の言っていた無秩序な、怠惰を具現したような紫の生活を見たことがない。

 藍と少年の両者の対応の違いを生み出していたのは、紫のことをどれほど知っているかの知識量の差だった。

 藍は、ここまで会話が進むと意識を取り戻したように慌てて紫に言葉を返した。

 

 

「紫様、ただいま戻りました。有意義な時間を過ごしてまいりました」

 

「そうみたいね。表情から何となく分かったわ」

 

 

 紫は、楽しそうにしている少年の表情を見て充実した時間を過ごしたのだろうと思った。少年の表情や言葉からは、人里へ行ったことに対して後悔するような印象を受けなかったからである。

 しかし、そんな少年とは対照的に藍の表情は微妙に固い。藍は、先ほどから心に沸き立つような疑問に堪え切れなかった。

 

 

「紫様、今日は起きるのが随分(ずいぶん)と早いですね」

 

 

 藍は、紫が昼前に起きてきていることに対しての驚きでいっぱいだった。通常の場合では、ありえないということができる程度に可能性が低い現象が起きている。

 

 

「いつもは、もっと後に起きていらっしゃるのに……どうかされたのですか?」

 

 

 藍は、紫が基本的に夕方に起きてくるような夜型の生活を送っていること知っている。紫が、寝ることが大好きなことも知っている。今の時間帯は、普段であればまだまだ寝ているような時間である。

 藍は、そんな夜型の生活を送っている紫が昼前に起きて買い物から帰ってくるのを出迎えてくれていることが信じられなかった。

 紫が早く起きているのは、少年が初めて外に出たからなのだろうか。藍は、そのように想像する。人里へ買い物をする状態において、普段と違うところなど少年しかない。その違いが主である紫を動かしたのだと、考えがそれ意外に思いつかなかった。

 

 

「もしや、和友が心配で起きてこられたのでしょうか?」

 

「まさか、藍に任せているのに心配なんてするわけないわ」

 

 

 紫は、笑みを崩さずに心配などしていないと告げた。

 藍は、紫の信頼を表す言葉に思わず嬉しくなった。信頼されているということが分かる紫の一言に心臓が鼓動し、微笑みが作り出される。

 けれども、藍の疑問に答える形には残念ながらなっていない。肝心の早く起きてきている理由が分からない。

 藍は、笑顔を隠すことなく尋ねた。

 

 

「ではなぜ、こんなに早くから?」

 

「今日からこの子の練習を始めるのよ」

 

「それは、別に夜からでも構わなかったのではないですか?」

 

 

 紫は、少年と能力の練習をするために早く起きてきたようだった。

 朝早くと言ってはいるが、時刻はすでに昼前である。それでも紫が起きるには、早い時間であることに変わりはない。紫にとっては、この時間帯は朝早くという時間である。

 

 

「私が無理に能力の練習をさせようというのに、私の時間に合わせるというわけにはいかないでしょう?」

 

 

 紫は、少年が嫌々幻想郷に来ていることを知っている。病室でのやり取りから、幻想郷に来たくないことも理解している。

 紫は、少年の心的状況を把握していて自分の生活スタイルに合わせろと言うほど自分本位ではない。嫌がる少年に無理やり能力の練習をさせるのに自分が少年の時間に合わせないというのはどうなのだろうと、疑問を覚える程度には良心があった。

 だから、こうやって起きる時間を早めて少年に時間を合わせる形をとろうとしている。

 しかし、それを考えても紫の起きる時間にしてはかなり早い。少年の能力の練習に何時間必要とするのかは分からないが、妖怪のような体力を持っている化け物ではない少年の体力も考えれば長時間行うことはないだろう。やはり、どう考えても昼前に起きてくる必要はないはずである。

 藍は、歯切れの悪い様子で告げた。

 

 

「それはそうかもしれませんが……ちょっと早すぎるのではないでしょうか? 後2時間ぐらいは寝ていてもらっても問題ないように思われますが……」

 

「早く起きてきたのは、何もこの子の能力の制御の練習をするためだけじゃないわ。昨日できなかったことがあったからよ」

 

「そういえば昨日は、能力について話すための時間が取れませんでしたからね」

 

「そうそう、能力の話は色々あってできなかったのよね」

 

 

 藍は、紫の言葉を聞いて確かに昨日は色々あったためにすると言っていた能力の練習についての話を一切していなかったことを思い出した。

 少年の幻想郷に来た第一目的は―――能力の制御である。それは、何よりも優先すべき事項である。

 しかし、肝心の能力の練習の仕方や、前もって必要な知識を得る準備をしていない。能力の性質を考えると練習の方法を知らなければ、能力の練習をすることは不可能だった。

 

 

「ごめん。僕のせいかな。昨日は結構迷惑かけたもんね……」

 

 

 少年は、紫が言葉を発した後、深々と頭を下げた。紫が早く起きた理由を聞くとどうしても紫に対して悪いと思ってしまうようで、(うつむ)く少年の顔は、非常に申し訳なさそうな表情になっていた。

 

 

「別にいいのよ。昨日は私達も悪かったんだから」

 

「そうだぞ。和友は気にするな」

 

 

 紫は、頭を下げる少年を気遣い、気にしないでと少年の頭を優しく撫でる。藍も紫と同様に少年に対して気を遣った。

 昨日のことに関しては、どちらかというと少年よりも紫の過失によるものが大きい。昨日あれほどにお互い疲れてしまう結果になったのは、紫が何も考えずに藍を少年の心の中に入れてしまったためなのだ。紫と藍は、少年が謝るのはお門違いだと思った。

 

 

「……二人がそういうのなら気にしないようにする」

 

 

 少年は、二人の言葉に(うつむ)く顔をあげて笑顔になった。紫と藍は、少年の笑顔につられるように笑顔を作る。

 

 

「それじゃあ、何時から能力の練習を始めるの?」

 

「そうねぇ……」

 

 

 紫は、少しばかり悩むそぶりを見せながら僅かにしゃがみ、少年の顔の高さに合わせる。

 少年の能力に関する所見が足りない現状を考えれば、少年から能力の話を聞いたり、これまで起こってきた事例を尋ねたりして知識を蓄える必要があるだろう。少年の能力の実態が何なのか分からないまま能力の練習をしても、効率が上がらないことは目に見えている。情報が少ない現状では、能力の練習の内容についても決められないのだ。

 ただ、紫は能力の練習をするところまで今日中にたどり着きたかった。能力の練習まで行うことを前提とすると早めに話し合いを行って情報を集めた方が良いだろう。話し合いの時間は、おおよそ1時間あれば大丈夫だろうか。

 紫は、悩んだ末に少年に対して答えを出そうとする。

 しかし、紫の声がのどから出る前に、藍の声が紫に向かって投げかけられた。

 

 

「紫様、申し訳ありません。少し話したいことがあるのですが……」

 

「…………」

 

 

 紫は、少年の高さに合わせた(ひざ)を伸ばし、藍の顔を見つめる。藍の表情は非常に真剣なものであり、事の重要性がうかがわせるものだった。

 紫は暫くの間藍を見つめ、一度頷くとその場で手元にスキマを開き、中を覗き込むように視線を向ける。そして、再び少年に顔を向けて口を開いた。

 

 

「藍が話したいことがあるそうだから、能力の練習は午後2時からでいいかしら?」

 

「午後2時からだね、分かったよ」

 

 

 紫は、現在の時刻をスキマを覗いて確認し、藍の話し合いの件を考慮して少年の能力の練習を午後2時から行おうと提案した。現在の時刻は大体11時頃であるため、お昼ごはんを食べてしばらくしたら能力の練習をするということになるだろう。

 

 

「藍、話し合いは昼ご飯を食べた後にしましょう。2時までには、話し合いも終わるでしょう?」

 

「はい、それだけあれば大丈夫だと思います。ですが、昼ごはん前でも……」

 

 

 藍は、紫の提案にすぐさま肯定の意志を示すと、同時に疑問を抱えた。

 どうして紫は、昼ご飯を食べた後に話し合いをしようと提案したのだろうか。藍は、頭の中ですぐに答えを導き出すと表情を綻ばせた。

 

 

「ふふっ、そういうことですか」

 

 

 大事と言っている話よりも先に食事を取ろうとする紫の姿勢は、明らかにお腹が減っていることを指し示すもの。きっと、主である紫はお腹を減らしている状態なのだ。話し合いをする前に空腹を解消したいのだろう。

 お腹が減るという感覚は、妖怪に本来備わっていない感覚である。お腹が減っているというよりは、習慣になってしまっているから勝手にそういう気持ちになるだけである。

 妖怪は、人間の食糧を食べなくても十分に生活できる。空腹を感じるのは、恐怖や畏怖が少なくなってきているか、勘違いにも似た習慣から来るまがいものの信号によるものである。

 だったら、二人が帰って来るまでに何か食べていればよかったのではないかと思う人がいるかもしれないが、基本的に紫は料理を作ることはしない。遥か昔はしていたのかもしれないが、最近に関しては紫が料理をしているところを見たことがない。

 なんにせよ、主はお腹を空かせていて食事を待ち望んでいるようにしか藍には見えなくなっていた。

 

 

「紫様も、もう少し和友を見習って素直になったらどうですか?」

 

「なんのことかしら?」

 

「ふふふっ……分からないのならば別にいいです」

 

 

 ここで、紫の提案を断るという選択肢も藍には存在する。話の方が先ですと、ご飯は後回しですと言うこともできた。

 ただ、それをしなかったのは、お腹が減っているからご飯を先に食べるということを素直に言えない紫を微笑ましく思ったからだった。

 

 

「紫様のために、早速作りましょう」

 

 

 藍は、お腹をすかせている紫のためにと息巻いて、さっそく料理を作ることを宣言する。紫は、藍の勢いのいい声に怪訝そうな表情で見つめた。

 

 

「なんだか勘違いされている気がするわ」

 

「大丈夫ですよ。勘違いなんてしていません」

 

 

 紫は、自分と藍との間に誤解が生じていると感じて、質問を重ねる。

 

 

「本当に? 本当の本当に?」

 

「ええ、本当です。私が紫様の意図を読み取れていないわけがありません!」

 

「そ、そう……」

 

 

 紫は、藍の勢い任せの言葉に流されて曖昧な言葉を返すに留まった。

 依然として紫の顔に張り付いている怪訝そうな表情は変わらないが、このまま話しても埒が開かないと察したようである。このまま押し問答をしても、不毛なやりとりをしていても意味が無い、時間の無駄だと悟ったようだった。

 藍は、意外に頑固なところがあり、思いこむと一直線になるところがある。昔からそうだった。九尾として名をはしていたころから、どこか愚直で、気持ちに真っ直ぐで、それでも寂しがり屋な妖怪だった。

 藍は、玄関を上がると後ろについてくる少年に向かって顔を向ける。

 

 

「和友、今からご飯を作るからな」

 

「料理については僕も手伝うよ。僕にも何かできることがあると思うからさ。でも、とりあえずその前に覚える言葉だけノートに書いてから行くから少しだけ遅れるね」

 

「ああ、分かったよ。待っているからな」

 

 

 少年が発言した後、藍、紫、少年の3人はそれぞれの居場所に向かって歩き出す。玄関を上がって、藍と紫は並んで談笑しながら歩いていく。少年は、二人の後ろをくっつくようにして付属した。

 3人で廊下を歩いている間に、一人、また一人と左右の道に()れていく。()れていく時に一言、言葉を残して別れていった。

 

 

「待っているからね」

 

 

 紫は―――食事をする居間へ。

 

 

「荷物だけ置いてきます。すぐに戻りますから」

 

 

 藍は―――荷物を置きに部屋へ。

 

 

「僕もやることを終えたら、すぐに居間に向かうよ」

 

 

 少年は―――ノートに言葉を書くために部屋へと向かった。

 3人は、こうして1人になった。

 

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